51 / 89
第4章 出会いと別れ
10.雨もなく…
しおりを挟む
「そんな…。まさか……。」
夜が更けて虫の鳴き声も無くなる程静まり返った頃、俺はトイレに行きたくなって目が覚めた。
雨が上がって晴れてきた空に、あの化けガエルの脅威ももう去ったと安心しきってぐっすりと眠っていたが、そんな中で目が覚めた俺は近くの草むらで用を済ませた後でテントに戻ろうと振り返った瞬間、背筋が凍った。
雨が降っている時以外は姿を見せないとアンドレアが言っていた化けガエルが今、目の前に居たのだ。
それも唐突に、足音もなく………。
テントを見ていた化けガエルは少し離れた場所にいた俺に気が付くと、ニヤッとこちらに気味悪く笑いかけた様であった。
「み、皆! 起きろ!!」
突然聞こえた俺の大声にリリアや猫たちは一応は目を覚ましたようで慌てふためく声がテントの中から聞こえた。
「フニャッ!?」
「にゃ、にゃんだ? にゃんだ?」
「どうしたの!?」
声はすれども中から出てくる様子はなく、ジリジリと化けガエルはテントに近づいて行っていた。
「早く! 化けガエルだ! 逃げろ!」
まさかそんな筈はないと「冗談はやめてにゃ~。」と気の抜けた声でパウロが返事をしながら外に居た俺の許に来ようと出てきた。
だがテントを出てから真っ直ぐ目線を前にやった瞬間、体中の黒毛が逆立ってボワッと尻尾も膨らんだ。
雨も上がったのだからここに存在するはずはないのに、化けガエルが気味悪く笑って自分に近づいて来ているのだから余程怖かったんだろう…。
「ほ、本当に化けガエルにゃ! 皆、出てくるにゃ!」
恐怖に戦いて声まで震えているパウロの様子にやっと異常事態を感じたのか、皆がバタバタとテントから出てきた。
そこを好機とばかりに、化けガエルは長い舌を伸ばしてイブをヒョイッと拾い上げると口に入れ、ゴクリと丸飲みした。
「「「イブ!」」」
皆で呼びかけたが化けガエルの牛蛙の様な低い鳴き声によってかき消されたのか返事は聞こえなかった。
この中で一番付き合いが古く、一番仲が良かったアダムは大切な相手が奪われたショックに頭がカッとなり、今にも化けガエルに飛び掛かろうとしていた。
「止すんだアダム! こいつとは真面にやり合って勝てる相手じゃない!」
俺が制止してもアダムの耳には届かず、止めるために咄嗟に抱き着いたアダムの体ごと、俺も化けガエルの腹の中へとあっという間に飲み込まれた。
化けガエルの腹の中は見た目の体の大きさよりもずっと広くて饐えた臭いが充満し、足元はグニグニと不安定に波打っていた。
化けガエルの腹の中に入って気を失って倒れているイブの姿を発見したアダムは漸く落ち着き、傍へと駆け寄るとペロペロとイブの顔を舐めて起こそうとしていた。
「月明り程の明るさではあるが、光る首飾りを付けていて良かったな…。」
ついこの間出会ったばかりのピエトロとアンドレア以外の全員に、何かあった時の為にとホレイショーの街で買ったライトになる石の付いた首飾りをつけさせていた。
イブの「うぅ~ん。」という呻きを聞いて生きているのだと少しばかり安心したその時、頭上からバシャリと大量の液体が落ちてきて頭から被った。
「これは……。化けガエルのやつ、俺たちを消化しようとしているな…。」
臭いからも胃酸が流れてきているのだと分かり、ここから早く脱出しなければと思った。
「だがどうやって出るのかが問題だ……。俺の剣で果たして出れるのか否か…。」
俺は剣を鞘から抜くとギュッと握り締め、胃壁へ思いっきり切りかかった。
だが何かに阻まれてしまって刃が刺さることもなく、後ろへ押し返されてしまった。
「何だこれは…?」
「ルカ様。森の主とも言える様なこんな大きくて強い魔物に、ただの剣では到底無理ですにゃ。魔法で攻撃するか、魔力の宿った武器でなければ……。」
魔法の使えない俺は愕然とした。
「じゃあ、一体どうすれば……。」
「私もイブも魔力が弱いので、そう大した魔法も使えにゃいので……。」
一刻の猶予もなかったが為す術もなく、このまま化けガエルに消化されて死んでしまうのかと上を見上げた。
「……! そうだっ! アダム。ここにある物を魔法で持ち上げてあの上にある喉の所のヒダにぶつけれる?」
腹の中からも見える位置に垂れ下がる喉ちんこの様な物を見つめているとハッと閃き、アダムにお願いしてみた。
「それぐらいならできるにゃ……?」
不思議そうな顔をしていたが、化けガエルの胃の中に転がっている色々な物を2人で喉にぶつけた。
すると俺の思惑通りに化けガエルはムズムズと動き出し、アダムとイブを抱きかかえていた俺をウェッと外へと吐き出した。
「お兄ちゃん!」
「アダム! イブ!」
化けガエルの消化液塗れになってはいたが、生きている俺たちが外に出てきたのを見て皆が歓喜の声を上げた。
しかし、ホッとしたのと共にベトベトでボロボロになった俺たちの姿を見たパウロが怒り出した。
「もう、お兄ちゃんもアダムもイブも中に居ないんだから遠慮なく攻撃できるにゃ…。フッフッフッフッフッ……!」
そう言うとピエトロとアンドレアを従えて、俺たちを吐き出した事で消化液塗れになっていた口周りを両手で拭っていた化けガエルに、パウロたちは魔法で作った水の刃を幾つも放った。
体への攻撃はそんなに効いてはいなかったが、煩い蠅を叩き落すという風な感じで再び伸ばしてきた化けガエルの舌に水の刃が当たり、スパンと見事に切れた。
化けガエルの舌の切り口からはボタボタと血が流れ、体内に溜め込んでいた魔力が少しずつ霧散していった。
その内に化けガエルは半分程の大きさにまで徐々に縮んでいき、失血死してしまった。
夜が更けて虫の鳴き声も無くなる程静まり返った頃、俺はトイレに行きたくなって目が覚めた。
雨が上がって晴れてきた空に、あの化けガエルの脅威ももう去ったと安心しきってぐっすりと眠っていたが、そんな中で目が覚めた俺は近くの草むらで用を済ませた後でテントに戻ろうと振り返った瞬間、背筋が凍った。
雨が降っている時以外は姿を見せないとアンドレアが言っていた化けガエルが今、目の前に居たのだ。
それも唐突に、足音もなく………。
テントを見ていた化けガエルは少し離れた場所にいた俺に気が付くと、ニヤッとこちらに気味悪く笑いかけた様であった。
「み、皆! 起きろ!!」
突然聞こえた俺の大声にリリアや猫たちは一応は目を覚ましたようで慌てふためく声がテントの中から聞こえた。
「フニャッ!?」
「にゃ、にゃんだ? にゃんだ?」
「どうしたの!?」
声はすれども中から出てくる様子はなく、ジリジリと化けガエルはテントに近づいて行っていた。
「早く! 化けガエルだ! 逃げろ!」
まさかそんな筈はないと「冗談はやめてにゃ~。」と気の抜けた声でパウロが返事をしながら外に居た俺の許に来ようと出てきた。
だがテントを出てから真っ直ぐ目線を前にやった瞬間、体中の黒毛が逆立ってボワッと尻尾も膨らんだ。
雨も上がったのだからここに存在するはずはないのに、化けガエルが気味悪く笑って自分に近づいて来ているのだから余程怖かったんだろう…。
「ほ、本当に化けガエルにゃ! 皆、出てくるにゃ!」
恐怖に戦いて声まで震えているパウロの様子にやっと異常事態を感じたのか、皆がバタバタとテントから出てきた。
そこを好機とばかりに、化けガエルは長い舌を伸ばしてイブをヒョイッと拾い上げると口に入れ、ゴクリと丸飲みした。
「「「イブ!」」」
皆で呼びかけたが化けガエルの牛蛙の様な低い鳴き声によってかき消されたのか返事は聞こえなかった。
この中で一番付き合いが古く、一番仲が良かったアダムは大切な相手が奪われたショックに頭がカッとなり、今にも化けガエルに飛び掛かろうとしていた。
「止すんだアダム! こいつとは真面にやり合って勝てる相手じゃない!」
俺が制止してもアダムの耳には届かず、止めるために咄嗟に抱き着いたアダムの体ごと、俺も化けガエルの腹の中へとあっという間に飲み込まれた。
化けガエルの腹の中は見た目の体の大きさよりもずっと広くて饐えた臭いが充満し、足元はグニグニと不安定に波打っていた。
化けガエルの腹の中に入って気を失って倒れているイブの姿を発見したアダムは漸く落ち着き、傍へと駆け寄るとペロペロとイブの顔を舐めて起こそうとしていた。
「月明り程の明るさではあるが、光る首飾りを付けていて良かったな…。」
ついこの間出会ったばかりのピエトロとアンドレア以外の全員に、何かあった時の為にとホレイショーの街で買ったライトになる石の付いた首飾りをつけさせていた。
イブの「うぅ~ん。」という呻きを聞いて生きているのだと少しばかり安心したその時、頭上からバシャリと大量の液体が落ちてきて頭から被った。
「これは……。化けガエルのやつ、俺たちを消化しようとしているな…。」
臭いからも胃酸が流れてきているのだと分かり、ここから早く脱出しなければと思った。
「だがどうやって出るのかが問題だ……。俺の剣で果たして出れるのか否か…。」
俺は剣を鞘から抜くとギュッと握り締め、胃壁へ思いっきり切りかかった。
だが何かに阻まれてしまって刃が刺さることもなく、後ろへ押し返されてしまった。
「何だこれは…?」
「ルカ様。森の主とも言える様なこんな大きくて強い魔物に、ただの剣では到底無理ですにゃ。魔法で攻撃するか、魔力の宿った武器でなければ……。」
魔法の使えない俺は愕然とした。
「じゃあ、一体どうすれば……。」
「私もイブも魔力が弱いので、そう大した魔法も使えにゃいので……。」
一刻の猶予もなかったが為す術もなく、このまま化けガエルに消化されて死んでしまうのかと上を見上げた。
「……! そうだっ! アダム。ここにある物を魔法で持ち上げてあの上にある喉の所のヒダにぶつけれる?」
腹の中からも見える位置に垂れ下がる喉ちんこの様な物を見つめているとハッと閃き、アダムにお願いしてみた。
「それぐらいならできるにゃ……?」
不思議そうな顔をしていたが、化けガエルの胃の中に転がっている色々な物を2人で喉にぶつけた。
すると俺の思惑通りに化けガエルはムズムズと動き出し、アダムとイブを抱きかかえていた俺をウェッと外へと吐き出した。
「お兄ちゃん!」
「アダム! イブ!」
化けガエルの消化液塗れになってはいたが、生きている俺たちが外に出てきたのを見て皆が歓喜の声を上げた。
しかし、ホッとしたのと共にベトベトでボロボロになった俺たちの姿を見たパウロが怒り出した。
「もう、お兄ちゃんもアダムもイブも中に居ないんだから遠慮なく攻撃できるにゃ…。フッフッフッフッフッ……!」
そう言うとピエトロとアンドレアを従えて、俺たちを吐き出した事で消化液塗れになっていた口周りを両手で拭っていた化けガエルに、パウロたちは魔法で作った水の刃を幾つも放った。
体への攻撃はそんなに効いてはいなかったが、煩い蠅を叩き落すという風な感じで再び伸ばしてきた化けガエルの舌に水の刃が当たり、スパンと見事に切れた。
化けガエルの舌の切り口からはボタボタと血が流れ、体内に溜め込んでいた魔力が少しずつ霧散していった。
その内に化けガエルは半分程の大きさにまで徐々に縮んでいき、失血死してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる