異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
66 / 89
第6章 仲間と絆

5.空から

しおりを挟む
「もう、大丈夫? お兄ちゃん……。」

「あぁ、ごめんな………。ちょっとウトウトしてたらしくって、なんか悪い夢を見ちゃってたみたいなんだ。……本当にゴメン。」

 俺は涙を袖で拭い、顔を上げて心配してくれるリリアにニコッと笑って見せた。

「さぁっ! 休憩もしたし…、再出発しようか。パウロ! アダム! イブ! アンドレア! そろそろ行くよ。ピエトロも起きて!」

 俺は横でいつの間にか寝ていたピエトロを揺り起こしながら、傍にある木の上で遊んだり寛いだりしていた猫たちを呼んだ。
 焚き火の始末をして皆で精霊の手エレーに乗り込み、ドアを閉めてさぁ出発するぞという時になって突然、乗っている精霊の手エレーを包み込む様にふっと影が落ちた。

「えっ……?」

「どうしたのにゃ?」

 驚いた俺たちは窓から顔を出し、キョロキョロと外を確認した。

「ウッ、ニャッ! ニャアァァァァァァ~~~~ア!!」

 その時、頭上の方から悲鳴とも言える様な猫の叫び声が聞こえてきたので見上げると、大鷲にしがみ付いて乗っている猫が大鷲よりも少し大きな空飛ぶ鹿に襲われていた。

「あれは……、ペリュトンか………。」

 キィキィと甲高い声で鳴きながら、ペリュトンは大鷲の後ろを飛んで付いて行き、何度も猫に噛み付こうとしていた。

「お兄ちゃん……。助けてあげて。」

 俺がどうしたものかとその光景をただジッと見ていると、横に座っていたリリアが期待を込めた目で訴えてきた。

「う、うん……。でも、空の……、あんなに上の方じゃ………。」

 しかし俺もどうにかしてやりたいとは思うのだが、外に出たはいいものの手を伸ばしても届かない上空の方で繰り広げられている出来事に、俺は文字通り手も足も出なかった。

「そこの人! 隠れて!」

「へっ!?」

 オロオロとしているだけの俺にどこかからか向けられた声に驚き、キョロキョロと首を動かして周りを捜し見ていると、再び「いいから隠れて!」と聞こえてきた。
 俺はハッとして、その声が支持するままに精霊の手エレーの中へと隠れた。
 と、その次の瞬間……、何かが弾ける音がした!

「なっ、……なんだ?」

 俺は何が起こったのか訳も分からずに驚き、先程と同じ声で「ハァッ!」という掛け声がした方向を見た。
 するとそこには、キラキラと光る金髪を風に靡かせて弓を構えているエルフが居た。
 そのエルフは俺が自分の事を見ていることに気が付くと、ツカツカと歩いて近寄ってきた。

「あなた……、外国人ね。しかも“黒人くろびと”……。こんなところで高級精霊の手エレーにまで乗って何をしているの?」

 そう言って俺の目を真っ直ぐに見て睨んできた。

「い、いや……。えっと…、ちょっと旅をしていて……。君は黄色エルフかい?」

「そうよ。それが何?」

 俺の目の前にエルフは仁王立ちになり、睨まれたまま強い口調で質問されたことにビクッと体が反応して目が泳いでしまい、ドギマギして返答に窮していると、喰い気味に更に聞いてきた。
 懐古主義の性質の者ばかりだという黄色エルフは余所者に対して多少は警戒心が強いというが、俺に対するこの態度はそれだけではなく、他国の神官であろう疑惑を持たざるを得ない“黒人くろびと”の成りをしていたせいであろう。
 この世界において神官とは戦争を担う者、つまりはエリートの代名詞であり、神官になれる素質を表す黒髪黒目は自国の者であれば尊敬と憧れの念を抱くものだが、それが他国の者となると一変して恐怖と警戒の象徴となる。
 そんな中で美人エルフに睨まれた事で怯んだ俺が取ってしまった態度は、どう見ても怪しかったのだろう……。

「えっと……、こんな成りをしてるけど“黒人くろびと”じゃないから安心してほしいんだ。俺は全く魔法は使えないし、神官でもないし…。俺たちはちょっと事情があって、君たち黄色エルフが統治しているという街に行きたくて目指していたんだ。」

 たどたどしくはなってしまったが、救世主メシアの証である指輪を見せながら説明した。

「ふぅ~ん……。あなた…、五人目の柱なんだ。、異界の者なのね………。」

「柱?」

「この世界には神との契約書である聖書によって世界を支える柱となる者が千年に一度誕生するとエルフでは言われているわ。他の国では救世主メシアだの言われて敬われているけども………まぁ、体の良い生贄ってことよね。だから『柱』よ。」

 それは特別自治区に住まう加護無きエルフにとっては、余程救世主メシアなんてどうでもよい存在なのだろうと見て取れる態度であった。

「グルー、ジョヴァンニ。帰るわよ。」

 俺たちが話をしている間に地上に降りて来た大鷲と猫は、いつの間にか出てきていたアダムとジャレて遊んでいたが、そのエルフに名前を呼ばれて再び飛び立とうとした。

「あっ! ちょっと待って……。君の名前を教えてほしいんだ。俺はルカ。ルカ・遠見。」

「なんであなたに名乗らなくちゃ……。まぁ…、いいわ。私は村長の娘のサマリアよ。うちの村に来るというのなら村長である父に伝えておくわ。まぁ、歓迎する者は誰もいないでしょうけどね。」

 エルフはそう捨て台詞を吐くと、俺たちをフンっと鼻で笑ってから一気に駆けて行った。

「はぁっやっ!」

「ふぇ~……! もう見えなくなっちゃったにゃ……。」

「黄色エルフは大地の民って言われているからなぁ……、それで速いのか………?」

 そんなことを話しながら、エルフの消えた道の先をアダムと一緒に見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...