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第7章 成長と変化
2.思い出と理由
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「さっ、行くか――。」
フェルモとの別れを終えた俺たちはクルリと反転し、旅を再開して更に先へと行くことにした。
「うんっ!」
リリアの返事とハモるようにして猫たちのニャアという可愛らしい返事も重なった。
今来た道ではない茂みの中をまた隠れる様にして戻らねばならず、国境越えはまたドキドキしたが行きも帰りもなんとか誰にも見つかることも無く無事に通り過ぎることができ、安全と言える場所に魔できた瞬間に皆で一斉に安堵の溜め息を吐いた。
「こっ、怖かったにゃ~。」
「これ、見るにゃ。ワタチの手、汗でビショビショにゃの。」
さっきまで強制的に黙るしかなかった状態を脱した反動からか、猫たちは誰もがフニャ~とヒゲを垂れ下げて気の抜けた表情をしており、猫同士でワッと口々に話し出していた。
「う~ん………。こっから先は今度はどの方向へ精霊の手飛ばそうか――。」
ブツブツと独り言を呟きながらこの先の予定を考えていると、服の裾をツンツンと引っ張られる感覚を感じた。
「ん?」
「ねぇ、お兄ちゃん。行き先がすぐに決まらないんならアージェに会いに行っちゃダメかな? ここからなら近くだし……。」
「って事はホレイショ―か………。」
この世界に来てから毎日がゲームのイベント日みたいで刺激的で、定期的に何かしらの事件やらが起こっているので随分と前のように感じられたが―――。
「前に言ってから一ヶ月もまだ経ってないんだよな~。でも、行き先を迷っていて神様とも話をしたいし―――行こっか!」
俺の言葉にリリアの顔がパーァっと明るくなった。
「とは言っても―――。」
チラリと横を見るとあの時よりさらに増えた数の猫。
「少しばかり心配だなぁ……。」
「ワタチ、人間になろうかにゃ?」
「それでもね――。人間にしろ、猫にしろ……あんまり数が多い集団は何かと怪しまれかねないからねぇ……。それに、街に入る時には必ず身分証確認をするだろ? ここは特に国境に近い街だ。だから他の街よりも結構厳しかったのを覚えているけど―――そもそもがパウロには人間としての身分証がない。」
「あぁ~。」
話を聞いてリリアが力なく返事をした。
「ピエトロとアンドレアの二人には絶対にバレないように袋の中にでも隠れてもらって、それで凌ぐか――。前と同じ数なら大丈夫だろうと思うし…。まっ、何とかなるだろう。」
そうして俺たちは少し前まで居たあのホレイショ―の街へと向かう事になった。
ルンルンと楽しそうに鼻歌を歌い、リリアは街に着くまでの道中楽しそうにしていた。
再び門の衛兵に身分証確認をされている時には緊張でまたドキドキと心臓が早鐘を打っていたが、さっき更に緊張感の増す国境越えをしたばかりだったので、それよりはと平静を保っていられた。
エルフではなく人間が――動物を多数連れているというのは、この国では一歩間違えれば動物たちへの強制労働の嫌疑をかけられて罪人として捕縛されかねないので冷や冷やはするものの、それを知っていても俺に後ろめたい事があるわけではないので緊張はしていても結構落ち着いている。
「またお前だったんだな――。行っていいぞ。」
ドアを開けて精霊の手の中まで見られはしたが、予想に反して簡単にサラッと確認するだけで終わった。
俺は中まで入って粗探しでもされるんじゃないかと思っていたのだが……杞憂で終わったのでホッと一安心した。
「家の場所は分かっているけどまだ時間も早い。もしかしたらまだ仕事中かもだし、市場もギリギリ開かれている時間だから少し買い物してから向かおうと思うんだけど……いいかな? って言っても、俺としては買う物は決まっているし、猫たちが外に出るわけにはいかないからリリアと一緒に精霊の手を停車できる空き地で待っていてもらう事になるんだけど………。」
「いいよ。私、お兄ちゃんが帰ってくるまで待ってる。買う物が決まっているってことは、すぐ帰ってくるんでしょ?」
「あぁ、勿論。」
笑顔で了承してくれたリリアに笑みを返し、市場から少しだけ離れた場所にある丁度良い感じに空いているスペースに精霊の手を停車させた。
「行ってらっしゃい。」
リリアに手を振って見送られ、俺は売り物によってはもう閉めて片付けられている屋台もある中で目的の物を探して急いで買い物を済ませた。
「ただいま~。」
「お帰り、お兄ちゃん。窓から見てたら片付けをしてるお店が多かったみたいだけど……欲しかったものは買えたの?」
「あぁ! ほらっ!」
そう言って精霊の手に乗り込んだ後に今買ってきたものを包んでいた風呂敷を広げ、リリアに見せた。
「これって……。」
「なんだか見覚えがあるものばかりですにゃ。」
そこへリリアの脇の辺りからグイッと捻り込ませてこちらに顔を出し、突然アダムが話しに割り込んできた。
「もしかしてまた作るの?」
「あぁ。前のと同じものをな。」
「お兄ちゃん……。もしかして、エルフが食べれる料理はアレしか作れないってこと―――?」
「いやいやいや。母方のおばあちゃんに教えてもらったのもそうだけど、母だったり父だったりにも教えてもらってたから作れるものは他にもあるよ。でもね~、このトマトパスタを作るのには意味があるんだ。」
「………?」
リリアとアダムは互いに顔を見合わせ、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「俺には母が生まれた国と父が生まれた国、2つの故郷があるんだけどね。このトマトパスタは母が生まれた国の料理なんだ。それでね、シンプルなトマトソースのパスタは稼ぎの少ない貧乏人が食べる料理だって言われてて………仕事が成功して稼げるようになると食べなくなる人が多いらしいんだ。だから―――おばあちゃんに作り方を教えてもらう時に言われたんだけど、そこから転じて『初心忘るべからず』とか『調子に乗って慎重さを忘れるな』って意味で、必ず大事な時にはトマトソースのパスタを作って食べるのが我が家に代々続く習わしなんだよ。懐かしい思い出の味が食べたいっていうのも勿論あったけど、俺はアージェとの付き合いはこれがスタートで出会いを忘れてほしくなくって……。思い出っていう具をこの先加えていけたらなって思うんだ~。」
「へ~ぇ。」
フェルモとの別れを終えた俺たちはクルリと反転し、旅を再開して更に先へと行くことにした。
「うんっ!」
リリアの返事とハモるようにして猫たちのニャアという可愛らしい返事も重なった。
今来た道ではない茂みの中をまた隠れる様にして戻らねばならず、国境越えはまたドキドキしたが行きも帰りもなんとか誰にも見つかることも無く無事に通り過ぎることができ、安全と言える場所に魔できた瞬間に皆で一斉に安堵の溜め息を吐いた。
「こっ、怖かったにゃ~。」
「これ、見るにゃ。ワタチの手、汗でビショビショにゃの。」
さっきまで強制的に黙るしかなかった状態を脱した反動からか、猫たちは誰もがフニャ~とヒゲを垂れ下げて気の抜けた表情をしており、猫同士でワッと口々に話し出していた。
「う~ん………。こっから先は今度はどの方向へ精霊の手飛ばそうか――。」
ブツブツと独り言を呟きながらこの先の予定を考えていると、服の裾をツンツンと引っ張られる感覚を感じた。
「ん?」
「ねぇ、お兄ちゃん。行き先がすぐに決まらないんならアージェに会いに行っちゃダメかな? ここからなら近くだし……。」
「って事はホレイショ―か………。」
この世界に来てから毎日がゲームのイベント日みたいで刺激的で、定期的に何かしらの事件やらが起こっているので随分と前のように感じられたが―――。
「前に言ってから一ヶ月もまだ経ってないんだよな~。でも、行き先を迷っていて神様とも話をしたいし―――行こっか!」
俺の言葉にリリアの顔がパーァっと明るくなった。
「とは言っても―――。」
チラリと横を見るとあの時よりさらに増えた数の猫。
「少しばかり心配だなぁ……。」
「ワタチ、人間になろうかにゃ?」
「それでもね――。人間にしろ、猫にしろ……あんまり数が多い集団は何かと怪しまれかねないからねぇ……。それに、街に入る時には必ず身分証確認をするだろ? ここは特に国境に近い街だ。だから他の街よりも結構厳しかったのを覚えているけど―――そもそもがパウロには人間としての身分証がない。」
「あぁ~。」
話を聞いてリリアが力なく返事をした。
「ピエトロとアンドレアの二人には絶対にバレないように袋の中にでも隠れてもらって、それで凌ぐか――。前と同じ数なら大丈夫だろうと思うし…。まっ、何とかなるだろう。」
そうして俺たちは少し前まで居たあのホレイショ―の街へと向かう事になった。
ルンルンと楽しそうに鼻歌を歌い、リリアは街に着くまでの道中楽しそうにしていた。
再び門の衛兵に身分証確認をされている時には緊張でまたドキドキと心臓が早鐘を打っていたが、さっき更に緊張感の増す国境越えをしたばかりだったので、それよりはと平静を保っていられた。
エルフではなく人間が――動物を多数連れているというのは、この国では一歩間違えれば動物たちへの強制労働の嫌疑をかけられて罪人として捕縛されかねないので冷や冷やはするものの、それを知っていても俺に後ろめたい事があるわけではないので緊張はしていても結構落ち着いている。
「またお前だったんだな――。行っていいぞ。」
ドアを開けて精霊の手の中まで見られはしたが、予想に反して簡単にサラッと確認するだけで終わった。
俺は中まで入って粗探しでもされるんじゃないかと思っていたのだが……杞憂で終わったのでホッと一安心した。
「家の場所は分かっているけどまだ時間も早い。もしかしたらまだ仕事中かもだし、市場もギリギリ開かれている時間だから少し買い物してから向かおうと思うんだけど……いいかな? って言っても、俺としては買う物は決まっているし、猫たちが外に出るわけにはいかないからリリアと一緒に精霊の手を停車できる空き地で待っていてもらう事になるんだけど………。」
「いいよ。私、お兄ちゃんが帰ってくるまで待ってる。買う物が決まっているってことは、すぐ帰ってくるんでしょ?」
「あぁ、勿論。」
笑顔で了承してくれたリリアに笑みを返し、市場から少しだけ離れた場所にある丁度良い感じに空いているスペースに精霊の手を停車させた。
「行ってらっしゃい。」
リリアに手を振って見送られ、俺は売り物によってはもう閉めて片付けられている屋台もある中で目的の物を探して急いで買い物を済ませた。
「ただいま~。」
「お帰り、お兄ちゃん。窓から見てたら片付けをしてるお店が多かったみたいだけど……欲しかったものは買えたの?」
「あぁ! ほらっ!」
そう言って精霊の手に乗り込んだ後に今買ってきたものを包んでいた風呂敷を広げ、リリアに見せた。
「これって……。」
「なんだか見覚えがあるものばかりですにゃ。」
そこへリリアの脇の辺りからグイッと捻り込ませてこちらに顔を出し、突然アダムが話しに割り込んできた。
「もしかしてまた作るの?」
「あぁ。前のと同じものをな。」
「お兄ちゃん……。もしかして、エルフが食べれる料理はアレしか作れないってこと―――?」
「いやいやいや。母方のおばあちゃんに教えてもらったのもそうだけど、母だったり父だったりにも教えてもらってたから作れるものは他にもあるよ。でもね~、このトマトパスタを作るのには意味があるんだ。」
「………?」
リリアとアダムは互いに顔を見合わせ、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「俺には母が生まれた国と父が生まれた国、2つの故郷があるんだけどね。このトマトパスタは母が生まれた国の料理なんだ。それでね、シンプルなトマトソースのパスタは稼ぎの少ない貧乏人が食べる料理だって言われてて………仕事が成功して稼げるようになると食べなくなる人が多いらしいんだ。だから―――おばあちゃんに作り方を教えてもらう時に言われたんだけど、そこから転じて『初心忘るべからず』とか『調子に乗って慎重さを忘れるな』って意味で、必ず大事な時にはトマトソースのパスタを作って食べるのが我が家に代々続く習わしなんだよ。懐かしい思い出の味が食べたいっていうのも勿論あったけど、俺はアージェとの付き合いはこれがスタートで出会いを忘れてほしくなくって……。思い出っていう具をこの先加えていけたらなって思うんだ~。」
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