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第7章 成長と変化
4.混乱
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初めての事に戸惑いつつも、俺は何度も何度も自らの魔力を注ごうと「あーでもない、こーでもない」と迷いながら少しずつやり方を変えて挑戦してみた。
この世界における魔力はその人――その生き物が生きてきた時間の記憶そのものであり、器は神様や……誰かや何からとの触れ合いによって形作られていく“自分の本質”そのものである。
他者との交流、周りにある動植物らとの関わりを拒むものは器を大きくすることができず、精霊王との絆を疑って与えられる愛を拒絶してしまい、やがて一度は大きく育っていたとしても小さく脆くなってしまった器には何も受け止めることができなくなり、魔力そのものを失ってしまう―――俺はサクラヴェール国の王城で、そしてフェルモに道中でそう教わった。
「器はキズナ……。」
抱き締めたアージェの体からは依然感じられていた愛ゆえの温かさではなく、澱んで濁った痛みとも言える冷たさが感じられた。
「冷たい……。アージェが―――全然、温かくならない。」
ハラハラとしながらも何もできないリリアは手を組み、猫たちは両手の肉球を合わせてどうか成功するようにと俺たちに祈りを捧げていた。
だが何度挑戦しても一向に上手くはいかず、次第にネガティブな思考になっていく俺が小さな声で息をするように漏らしたその暗い声にリリアはバッと顔を上げ、アージェの右手を両手で包み込む様に握った。
「アージェは……アージェの体は温かいよ!」
「うん――。でも、心がね……。温かな魔力で満たされているはずの器が、前とは違って冷たく感じられるんだ。」
「器………。それが呪いなのかな?」
「うん……なのかな………?」
リリアはポロポロと涙を溢しながら、何の言葉も出なくなった口から「ウゥ……」という静かな唸り声をあげていた。
「リリア……大丈夫だよ。きっと大丈夫。」
パウロが床からトンッとリリアの肩に飛び乗り、頬を伝って流れていく涙を舐め取って慰めていた。
「うん………。」
「アージェ――ーリリアだって待っている。あの後新しく出会ってお前に紹介したいヤツだっているんだ!」
途中何度もアージェの体が闇に飲み込まれそうになり、真っ白な波が足先と頭を行ったり来たりしてゾワゾワとさざめいたり、見た目が完全なサクラヴェール国の人間寄りになったりまた完全なオフィーリア国のエルフ寄りになったりを繰り返していた。
その度に器も変質していき、上手く行きかけたと思ったら失敗し、失敗しかけたかと思えば少し落ち着きを取り戻していくという前進と後退を繰り返すだけでただ時間だけが無常にも過ぎてゆくばかりであったのだった。
そうして何度目、何十度目かに挑戦したときだった。
とある一線を超えて俺の魔力をグッと流し込むことに成功し、それをチャンスとばかりにその一線を超えた辺りから抵抗もだいぶ少なくなったところへと一気に力を込めてありったけの魔力をアージェの器へと押し込んだ。
アージェを支配しようとしている邪神の呪いから受けた冷たい闇を蹴散らしてやろうと―――。
「いっけぇーーー!!」
すると俺の考えた通りにそれは上手くいき、アージェの器からはみ出してしまって溢れてしまった俺の魔力は光でできたシャボン玉の如く辺りに弾け、アージェの器は以前と同じ様な温もりを取り戻して回復したのだと感じ取れた。
呪いの治療中に意識がない中でまるで悪夢にでもうなされてるように低い呻き声をあげたり、うまく息ができずに時折りとても苦しそうに顔を歪ませていたのが嘘のようにアージェは穏やかな寝息を立てて俺の腕に体を委ねていた。
「成功だ―――。」
もう大丈夫だろうと安心して周りが見えてきた俺は辺りがすっかりと日も暮れて家の中は真っ暗となっているのを今更になって知り、一先ずはとアージェをそのまま抱き上げて背後にあるベッドに寝かせた。
「おやすみ……。起きるのを待っているよ。」
寝かせたアージェの上にそっと毛布をかけると、俺は振り返ってリリアや猫たちの方へと近寄った。
今度は「良かった――。良かった――。」と何度もつぶやきながらリリアは喜びで泣いており、その周りを取り囲んでリリアに対してどうしたらいいのかと猫たちは困っていた。
その光景の可愛さに思わずプフッと笑みが零れてしまった俺へと一斉に皆が顔を向けた。
その瞬間、何があったのだろうかと俺は目を細めて皆を注視し、首を傾げて「えっ!?」という素っ頓狂な声をあげた。
俺の方に振り向いた瞬間、リリアが凡そ俺の笑ったことに拗ねてのことなのだろうがプクーとさせた膨れっ面を見せて来たかと思いきや目を点にさせて口をポカンと開けた。
猫たちは猫たちで誰も彼もがアワアワと慌てふためき、パウロだけがリリアの肩をフミフミしながら寂しそうな顔をしていた。
皆の行動に訳も分からず、何故かと思った俺が「どうしたの?」と問いかけた。
「お兄ちゃん……もうお揃いじゃない―――。」
と、パウロは呟く――。
「お兄ちゃん………それ。鏡――鏡、見て。」
何かに驚きすぎてカタコトになってしまっているリリアの話に、アダムもイブもピエトロもアンドレアも首を何度も縦に振って同調した。
「全く―――なんだっていうんだ……。」
俺は何が何だか分からないままこの家に唯一鏡のあるリビングへと移動した。
そして気が付いたのだ―――。
「なんだこりゃーーー!!!!」
この世界における魔力はその人――その生き物が生きてきた時間の記憶そのものであり、器は神様や……誰かや何からとの触れ合いによって形作られていく“自分の本質”そのものである。
他者との交流、周りにある動植物らとの関わりを拒むものは器を大きくすることができず、精霊王との絆を疑って与えられる愛を拒絶してしまい、やがて一度は大きく育っていたとしても小さく脆くなってしまった器には何も受け止めることができなくなり、魔力そのものを失ってしまう―――俺はサクラヴェール国の王城で、そしてフェルモに道中でそう教わった。
「器はキズナ……。」
抱き締めたアージェの体からは依然感じられていた愛ゆえの温かさではなく、澱んで濁った痛みとも言える冷たさが感じられた。
「冷たい……。アージェが―――全然、温かくならない。」
ハラハラとしながらも何もできないリリアは手を組み、猫たちは両手の肉球を合わせてどうか成功するようにと俺たちに祈りを捧げていた。
だが何度挑戦しても一向に上手くはいかず、次第にネガティブな思考になっていく俺が小さな声で息をするように漏らしたその暗い声にリリアはバッと顔を上げ、アージェの右手を両手で包み込む様に握った。
「アージェは……アージェの体は温かいよ!」
「うん――。でも、心がね……。温かな魔力で満たされているはずの器が、前とは違って冷たく感じられるんだ。」
「器………。それが呪いなのかな?」
「うん……なのかな………?」
リリアはポロポロと涙を溢しながら、何の言葉も出なくなった口から「ウゥ……」という静かな唸り声をあげていた。
「リリア……大丈夫だよ。きっと大丈夫。」
パウロが床からトンッとリリアの肩に飛び乗り、頬を伝って流れていく涙を舐め取って慰めていた。
「うん………。」
「アージェ――ーリリアだって待っている。あの後新しく出会ってお前に紹介したいヤツだっているんだ!」
途中何度もアージェの体が闇に飲み込まれそうになり、真っ白な波が足先と頭を行ったり来たりしてゾワゾワとさざめいたり、見た目が完全なサクラヴェール国の人間寄りになったりまた完全なオフィーリア国のエルフ寄りになったりを繰り返していた。
その度に器も変質していき、上手く行きかけたと思ったら失敗し、失敗しかけたかと思えば少し落ち着きを取り戻していくという前進と後退を繰り返すだけでただ時間だけが無常にも過ぎてゆくばかりであったのだった。
そうして何度目、何十度目かに挑戦したときだった。
とある一線を超えて俺の魔力をグッと流し込むことに成功し、それをチャンスとばかりにその一線を超えた辺りから抵抗もだいぶ少なくなったところへと一気に力を込めてありったけの魔力をアージェの器へと押し込んだ。
アージェを支配しようとしている邪神の呪いから受けた冷たい闇を蹴散らしてやろうと―――。
「いっけぇーーー!!」
すると俺の考えた通りにそれは上手くいき、アージェの器からはみ出してしまって溢れてしまった俺の魔力は光でできたシャボン玉の如く辺りに弾け、アージェの器は以前と同じ様な温もりを取り戻して回復したのだと感じ取れた。
呪いの治療中に意識がない中でまるで悪夢にでもうなされてるように低い呻き声をあげたり、うまく息ができずに時折りとても苦しそうに顔を歪ませていたのが嘘のようにアージェは穏やかな寝息を立てて俺の腕に体を委ねていた。
「成功だ―――。」
もう大丈夫だろうと安心して周りが見えてきた俺は辺りがすっかりと日も暮れて家の中は真っ暗となっているのを今更になって知り、一先ずはとアージェをそのまま抱き上げて背後にあるベッドに寝かせた。
「おやすみ……。起きるのを待っているよ。」
寝かせたアージェの上にそっと毛布をかけると、俺は振り返ってリリアや猫たちの方へと近寄った。
今度は「良かった――。良かった――。」と何度もつぶやきながらリリアは喜びで泣いており、その周りを取り囲んでリリアに対してどうしたらいいのかと猫たちは困っていた。
その光景の可愛さに思わずプフッと笑みが零れてしまった俺へと一斉に皆が顔を向けた。
その瞬間、何があったのだろうかと俺は目を細めて皆を注視し、首を傾げて「えっ!?」という素っ頓狂な声をあげた。
俺の方に振り向いた瞬間、リリアが凡そ俺の笑ったことに拗ねてのことなのだろうがプクーとさせた膨れっ面を見せて来たかと思いきや目を点にさせて口をポカンと開けた。
猫たちは猫たちで誰も彼もがアワアワと慌てふためき、パウロだけがリリアの肩をフミフミしながら寂しそうな顔をしていた。
皆の行動に訳も分からず、何故かと思った俺が「どうしたの?」と問いかけた。
「お兄ちゃん……もうお揃いじゃない―――。」
と、パウロは呟く――。
「お兄ちゃん………それ。鏡――鏡、見て。」
何かに驚きすぎてカタコトになってしまっているリリアの話に、アダムもイブもピエトロもアンドレアも首を何度も縦に振って同調した。
「全く―――なんだっていうんだ……。」
俺は何が何だか分からないままこの家に唯一鏡のあるリビングへと移動した。
そして気が付いたのだ―――。
「なんだこりゃーーー!!!!」
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