異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
84 / 89
第8章 愛と哀しみ

3.自己嫌悪と積極性

しおりを挟む
「お兄ちゃん……。」

 リリアが俺の服の袖を掴み、クイックイッと引っ張って俺の頭を自分の目線にまで下がらせようとした。

「ん?」

 なんだろうかとリリアと目線が合うところまで屈んでみると――。

「あのね……。」

 リリアはつま先立ちで少し背伸びをし、エイッと勢いをつけて俺の頬にチュッとキスをした。
 突然の事にビックリした俺がキスをされた側の自分の頬を触ってリリアの方を見ると、照れた様子で顔を紅潮させてプイっと目線を逸らした。
 こんな時に何て言えばいいのか……どう反応したらいいかも分からずにドギマギしていると、少し口篭もりながらリリアの方から話しかけてきた。

「あの、ね……。猫たちと仲良くするのも大事だけど、私ももっとお兄ちゃんと仲良くなりたいな……。少し――少しだけね、寂しくなっちゃったの。」

 言い終わると、恥ずかしさからなのかリリアは自分の顔をバッと両手で覆い隠した。

「ごめんね、リリア。気が付かなくって……。」

 リリアは両手で顔を覆ったまま、無言で首を横に振った。

「えっと………。」

 これ以上の言葉が出てこない俺は何と言えばいいのかと四苦八苦し、「えっと……」と何度か繰り返し漏らすだけだった。

「わっ、私っ! アンドレアたちの所へ行ってくるね。」

 何とも言えない空気に耐えられなくなったのか、そう言ってリリアは逃げ出した。
 会話に困ってしまっていた俺は正直、助かったと思い安堵したが―――。

「あぁ~! もうっ! 情けないっ!! 情けない……。」

 それ以上に年下のリリアに気を使われた自分自身に苛立ち、頭をガシガシと掻きむしった。
 年上として、男として……リリアにとって頼りがいのある存在でありたいとは常に思っているが、俺に恋心を抱いているリリアの女心をどう扱ってい良いのやら分からないのが現状だ。
 年下とは全然思えないぐらいに、こんなヘナチョコの俺よりも数段もリリアの方が大人だと思えることばかりだし………。
 この異世界に来る以前、地球に居た頃には女友達だっていたし、人付き合いという意味では女との付き合いに慣れていないってことはない。
 でもあくまでも『友達』だったし、異性とは言っても同性の男友達と、会話も遊んだりする内容も然程違いはなかった。
 確かにその友達グループの中に好きだった女の子はいたが……同い年なのもあったし、相手が俺のことを何とも思ってはいなかったのは明らかで、会話一つに今ほど悩んだことはほぼ無かったのだった。

「女の子のことを、ただ一方的に好きってだけならこんなにも悩まなくて済むのに……。女の子の方から好かれるって言うのは――俺からも大事にしたいって思っているような関係は、簡単に話しができなくなるほど悩むものなんだなぁ………。」

 情けなくも、今の俺には自分自身を責める以外のことに目を向ける余裕はなかった。
 ――と、モヤモヤして考え事をしていると、向こうの方から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「お兄ちゃ~ん!」

「んにゃ~ん!」

 聞こえてきた声に目を向けると、驚いたような焦った様な様子でパウロとシモーネが俺を目掛けて慌てて駆けてきた。

「ど、どうしたの? 何か……あった?」

 二人の異様な様子に俺はギョッとし、鳩尾みぞおち辺りに二人そろって突撃された痛みも放って尋ねた。

「あの、ね……変な………変な子が居るの……。」

 息も絶え絶えに俺に答えるパウロの耳は警戒からか後ろの方に向けつつも尻尾は3倍ぐらいにボワリと膨らんでおり、シモーネはシモーネで俺の脇の辺りに頭を埋めて体を丸めていた。

「変な子? どこに居るの?」

 パウロは俺の問いかけに腕をピッと伸ばし、さっきまで楽しそうに遊んでいた水際近くの草むらを指し示したのだった。
 こちらに敵意を示すようなものならば排除するなり逃げるなりしなければならないが、どうにもそういう感じではなさそうだと感じた俺はしっかりとしがみ付く二人を抱えたまま確認に行くことにした。

「大丈夫……大丈夫だよ。何かあっても俺が守ってやるからね。」

 両腕で抱きかかえたパウロとシモーネに頬擦りをして少し落ち着かせると、多少は警戒しながらもゆっくりとその場所へと近付いたのだった。
 今は両手とも使えないものだから足で草を踏みつけ、少しずつかき分けながら進むと―――。

「――えっ!?」

 そこにはぐったりと弱り切った“猫っぽい”生き物が転がっていた。
 どうしたものかと思ったが、取りあえずは抱えていた二人を下へと降ろし、ソーッと胴体辺りを触ってみるが反応がなかった。
 だが体が少し冷えているんじゃないかという感じではあったがそれは死体の冷たさではなく、手の平に伝わってきたその温もりと体内より響く鼓動から生きているのは確かだった。
 咄嗟に「助けなければっ!」と思った俺はサッと手を伸ばして抱きかかえ、リリアたちが居る方へと走った。

「リリア~! アンドレア~! ピエトロ~! アダム~! イブ~!」

 走りながら皆の名前を呼ぶとワイワイと楽しく遊んでいたらしき動きも会話もピタリと止め、俺の方に一斉に向いてきた。

「お兄ちゃん?」

「どうなされたのです?」

 リリアとイブはなんだろうかとキョトンとした顔をしている。

「おや?」

 アダムは首を伸ばしてこちらの様子を窺っているようだ。

「あぁ~……。今、もう少しで大物が獲れたのに――。」

 声を掛けたことで俺が邪魔をしてしまっていたようでアンドレはしょんぼりと耳とヒゲを下げ、悔しそうな顔をしている。
 ピエトロは―――顏こそこちらに向けてはいるが、チラチラとアンドレアの方を見ていてそれどころではないらしい………。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...