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【9】初めての悦びと罪

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 体温で蒸発した酒が体臭と混じり、周囲にフルーツの様な甘い匂いを漂わせて樹の思考を鈍らせる。

「あぁ、勿体ない……」

 そう言ってまだ湿った胸をペロリと舐めた。

「ひぃやっ……」

「いや? でも亮の体は喜んでいるようだぜ?」

 樹は胸にそびえる硬くなったいただきをじれったくも指の腹で触れるか触れないかの感覚で転がし始め、身をよじってわずかに抵抗しようとする亮の反応に楽しくなるのだった。

「ぅんっ! それは――あっ」

「なんだ? それはって」

 寂しそうに放置されていたもう片方のいただきが震えて誘う。
 乞われるようにして樹は口を付け、喘ぐだけの亮に更なる刺激を与えて何かを急かすのだった。

「ぁあふっ……ぅんああ。僕を、僕を……」

「ひとりで気持ち良くなってないで答えろよ! 亮」

「いつ……き。…………ごめん」

 亮の口から無意識に出た謝罪の言葉に樹の動きはピタリと止まる。
 ギリリと歯軋りの音。
 それと同時に涙がジワリと滲み、亮の体にポタリと落ちたのだった。

「なんだよ……それ」

 それに亮はギョッとし、まるで自分が樹の親や兄のような気持ちで愛おし気に樹を抱きしめた。
 樹が弱々しく泣いている姿を見たのはこれで二度目。
 あの養親おやじに初めて仕事に連れていかれて帰ってきた時以来だった。

「僕は……ずっと樹に罪悪感を持ってたんだ。僕の代わりにいつも仕事をして食糧を貰ってきてくれて……」

「……うん」

「だから愛されちゃいけないと思ってたんだ。でも、それじゃいけなかった……んだよね」

 体ごとぶつかってきて思いを告白してくる樹に圧倒され、更には涙を見てしまったことで胸の中にしまい込んで無意識にかけていた心のストッパーに亮は気付いた。
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