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【14】キスマーク

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「あぁ……ん、くっ……」

 体中に浴びせられる甘い口づけの嵐。
 その中に時折り混じるほのかな痛みに、亮は体をピクピクと跳ねさせる。

「な、何をしてるの? あっ――」

「文句は受付ねーぜ!」

 そう言われて亮は自分の体を見た。
 まるで小花でも散らすかのようにポツポツとできた赤い印。

「これは俺の愛の印だ」

「――マーキングみたい」

「フッ……そうだな。亮は俺の物だって言う、これはマーキングだな」

「なんだか……恥ずかしい」

 人差し指で1つ1つそっと大事そうに触れながら、自分の体に咲き乱れた小花の数を確認していく。
 それがなんだか心地良い。
 短くも幸せを感じる瞬間だったのだ。

「じゃあ……僕もお返しするね」

 ただ単純に、そう単純に自分がされて嬉しいと思ったことを亮は樹に返したくてした提案だった。

「いや――俺はいい」

「えっ――――?」

 ショックだった。
 目線を横に逸らし、亮の顔を見ずに拒絶の言葉を口にした樹の態度に胸がざわついた。

「嫌……なの? 僕にされるのは……。僕は別に樹の嫌がることをするつもりは――」

 動揺と哀しみが一瞬で見てとれるその表情に樹はハッとし、苦々しい顔をして目を伏せた。
 亮から手をバッと放し、自分の体を自分の両腕で包み込んで抱き締める……。
 言うことの出来ない秘密が漏れぬよう、グッと奥歯を噛みしめて蓋をするように。

「どうし――」

「ごめんっ! 今は……今はダメなんだ。まだ今は――」

 亮が心配してした問いかけに、焦った様子で食い気味に返事をしてきた樹。
 自分自身を抱きしめる両手にギュッと力が入り、気まずい空気が流れていく――。
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