囚われた娘を助け出してから惚れられている。しかし相手は十一歳だ。

松岡夜空

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第一部最終章 いつの日か、君に

エッチなことはいけません

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 ワイワイガヤガヤ。


「お前っさー」


 隣を歩くリンに向けて、ヒョウはジト目を向けた。


「ふふっ。とてもお似合いですよ? 兄様」


 向けられたリンは、くすぐったそうに笑った。


「本気で言ってんだろうなー」


 ヒョウがリンにあてがったのは、リンの服と同色の、白の猫耳と尻尾であった。自分で言うことじゃないが、中々にいいチョイスをしたと、ヒョウは思っていた。


 そして、リンがヒョウにあてがったのは、たぬきのヘアバンドと尻尾であった。タヌキには悪いが、猫や犬に比べると、どうにも間抜けに思えてしまう。


「嘘じゃないですよ。というより兄様なら、何をお付けしてもお似合いになると思いますよ?」


「誉められているのかいないのか」


「誉めています。という言い方は、あたしの立場ではやや失礼かもしれませんが」


「お前の立場だったら何を言っても構わないさ」


「え……」


「そりゃそうだろ? 妹なんだからよ」


「そう――ですよね。そうです」


「……」


「兄様」


「ん~?」


「リンはやはり、子供っぽいのでしょうか?」


 確かに、リンの今日の服装は気合が入っている。


 ただの腰紐ワンピースなのだが、生地が上等だからか、非常に上品に見える。


 それに伴って、リンが大人びて見えるというのも間違いではないが、それにしたって、五歳六歳上乗せされるかって言ったら、そんなはずもない。


 まあせいぜい、十二十三十四ぐらいか。大まけにまけて。


「そりゃそうだろ。お前は子供なんだから」


 リンがシュンとして、目を伏せた。


 まーたこいつは、すぐスネる。


 ヒョウは思った。


「子供っぽいのが嫌なのか?」


 ヒョウが尋ねた。


「そうですね。リンも早く大人になりたいです」


「ふむ」


 指であごを擦る。


「兄様?」


「そう言えば、手っ取り早く大人になる方法があると聞いたことがあるんだが――」


「え」

 
 リンの単音が聞こえて、目を向ける。


 リンは両手で口元を隠し、ヒョウのことを見上げていた。


 違和感を感じ、ヒョウは口を開いた。


「何だよ」


「あ――いえその、精神的にではなく、ちゃんとした意味で大人になりたいです」


「お前っさー。そんな即現実的なこと言うなよなー」


「も、申し訳ありません。答えがわかってしまったので」


「え、マジで?」


「あ、申し訳ありません。答えがわかったのではなく、精神論であることがわかりました」


「あーそういうことね」


 まあそりゃそうっちゃ、そりゃそうだ。


「まあいいか。じゃあこの話は――」


「え!?」


「え? 何だよ」


「あの……お答えをお聞きするわけには、いかないのでしょうか……? リンはとても気になります」


 シュンとしながら、リンが言った。


 なんて我儘な奴だとヒョウは思った。


「今更言ってもなー」


「大丈夫です。考えてくれたお気持ちだけでも嬉しいですから。だから、例えどのようなお答えであっても、リンは必ず喜びます。お約束します」


 無垢な目で見上げながら、リンが言う。


 ほんとかよとヒョウは思った。

 
 まあいずれにせよ、どこかには行かなければならないのだ。


 違う場所にしようとも思ったが、リンがそこまで言うなら、ここでもいいか。


 ヒョウが指さす、その先は――


「朝飯まだだろ? 飯行こうぜ」


 カフェだった。


 コーヒー=大人という、さもしい論理だった。


 簡単に言えばネタで、そんなためてためて言うような内容じゃない。


 下らないだろう。


 だから言いたくなかったのだ。


「ふふ。あはは。あはは」

 
 リンの笑い声が聞こえて、ヒョウは目を向けた。


 リンは珍しく、本当に珍しく、お腹を抱えて笑っていた。


 こんな風にも笑えるんだなと思って、ヒョウはしばし、リンを見つめた。


「あ、申し訳ございません、兄様」


 リンが五指を合わせて、笑った。


 そんなにおかしかったのかと思った。


 腹が立ったわけではない。


 ただ、微妙に噛み合っていないなと思った。


 目を上向けて、ちょっと考えてみる。


 そして。


『あ』と思った。


「はい。リンも行きたいです。お心遣い、とても嬉しく思っています、兄様」


 目を向けた先で、リンが笑っていた。


 頭をガリガリとかいて、目を背ける。


 問いただそうとは思わなかった。


(ったく、無駄にマセてるんだから、こいつはよー)


 カランカラン。


 ふて腐れながらヒョウは、カフェの扉を開けた。

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