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第一部最終章 いつの日か、君に
北翼
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「しかしやはり、やや軽率だったのではないでしょうか?」
街を一望できるほどの天空に立ち、キャスレスカが言った。
黒きフェルナンテの少女は、自分が練獣したカラスに肩をつかませて浮いている。
「決死組と交わったことがか?」
「あの二人の目的は、ファルコ=ルドルフの暗殺か、ファルコ=ルドルフの護衛かのほぼ二択です。後者ならばよいですが、前者であるなら――」
「前者であれば、あたしが依頼したことになる、か?」
持っていたモノクルを、宙に放る。キャスレスカは何も答えない。少女は降ってきたモノクルを、つかんで止めた。
「まあそれならそれで構わぬよ。これは、ポーカーにおけるコールのようなもの。誰が決死組を国内に招き入れたのかは知らぬが――」
少女が表情を歪ませる。
バキリと、つかんでいたモノクルが、少女の魔力に耐え切れず、ひび割れた。
その顔に満ち満ちているものは――
自由。自信。自我。
自身の暗黒を、隠すことなく面に出した。
「あたしは、フォールドする気はないのでな」
フェルナンテの少女、ヘルガ=ルク=マキュベアリは、そう言って、嗤った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あったまいたー。ミーティアちゃんメッチャ頭痛いー。スカイプ~。ジュース持ってきてー、ジュースー」
「は、はい!! ただいまー!!」
スカイプがつかつかと駆けていく。
ミシェイルはミドルストリートから、中央に描かれたミストスクリーン越しに、試合の様子を眺めていた。
決勝戦。走っているのは、ネイファである。ミシェイルは大会を大幅に遅延させた責を負って、二回戦進出を辞退していた。代わりにネイファを推薦し、それを半ば強引に受け入れさせた。ミシェイルの父は大手新聞社の編集長だ。言葉に正統性があれば、相手は退く。敵に回す意味はないからだ。
『ネイファ選手、独走!! 独走だー!!』
実況の声。聞いて、ミシェイルは笑った。
「むーっ。ミーティアちゃんがこんな状況じゃなかったら、あそこを走っていたのはミーティアちゃんだったのにー!! むき―悔しい―!!」
余談だが、ミーティアは風邪を引いたり、死聴を聞いたりなど、とかく身体の調子が悪くなると、名前呼び、我儘など、幼児退行する癖がある。責を負って辞退したと言ったが、どっちみち、この有り様ではどうにもならなかったかもしれない。
そんな時。
「完全に立ち直ったみたいですね、彼女。火のAクラス最優秀魔術師の座も、そろそろ返上しないといけませんかね」
後ろから、とある友人の声が聞こえて、振り返る。
「あ、ルイセさーん!! こんにちわー!!」
「どうも、ミーティアちゃん。その感じから見て、バテバテみたいですね」
「うん。ミーティアちゃんバテバテー。抱っこしてー、抱っこー」
「あはは。うーん、これは困りましたね」
「どうしたルイセ。僕に何か用か?」
「それがね、ちょっといいですか?」
ルイセが、人の手を引いてくる。
人ごみから離れ、ルイセと二人で道を歩く。
「どうした?」
「ファルコ=ルドルフと、彼女の復学日が決まったそうです」
「それは迷惑な話だ」
ルイセは学園長の孫である。故に、自分を素通りして、先にルイセに情報が渡ることがしばしばあった。
副会長のルイセの方が、仕事熱心だから、というのもある。
「ほかにも話したいことはあるのですがね。とりあえずこれを見てください。多分これを見れば、一発で大体のことはわかるかと」
ルイセが鞄から、四枚の紙を出してきた。
ミシェイルはそれを乱暴にひったくり、パラパラとめくった。
一枚。二枚。三枚。四枚。
紙をめくる度、ミシェイルの顔色が変わっていく。口元を押さえた。眉間にはシワが寄っている。
「どう思います? こんなこと言いたくはないのですが――とうとう始まった、としか思えないのですが」
「まあよからぬことが起きようとしてるのは間違いないだろうな。俺も一度学園長に――」
『ゴーーーーーール!! ネイファ選手に続き、マルコ選手がゴール!! よって、優勝は、ネイファチームに決定しましたあああ!!』
実況の声がここまで聞こえてきて、振り返る。
「やったあああああああああああああああああ!!」
ネイファの声。
ゴールが近かったので、聞こえてきた。
ミストスクリーンに映っているネイファは、諸手を上げて、喜んでいる。
それを見て、ミシェイルは我がことのように、笑った。
そして今一度、ヴァルハラ魔術師学園生徒会長の顔を作り、視線を紙に戻した。
四枚の紙。
それらは全て、転入届であった。
つまり、近々四人が、ヴァルハラ学園に転入してくる、ということだ。
その四人の出身地は全て――
北翼。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カコン。
東尾の決死組三番隊本邸では、今日も春起こしの音が響いていた。
三番隊組長、カルロ=惣一郎は、将棋盤の前であぐらをかいている。相手の構えはやはり穴熊。
手順は少しだけ進んでいる。敵陣を抉り抜くように打たれた、五八飛車と、五七歩。二枚とも成ってはいない。
盤面で成っているものは、二枚のみ。
右端に寄せられ、ピクリとも動いていない歩二枚。その下には、同じく動かされていない、香車と桂馬。
カコン。
また音。
カルロが顔を上げる。
パチン。
風が吹いている。カルロは部屋から消えていた。残されているものは、動かされた、盤面のみ――
街を一望できるほどの天空に立ち、キャスレスカが言った。
黒きフェルナンテの少女は、自分が練獣したカラスに肩をつかませて浮いている。
「決死組と交わったことがか?」
「あの二人の目的は、ファルコ=ルドルフの暗殺か、ファルコ=ルドルフの護衛かのほぼ二択です。後者ならばよいですが、前者であるなら――」
「前者であれば、あたしが依頼したことになる、か?」
持っていたモノクルを、宙に放る。キャスレスカは何も答えない。少女は降ってきたモノクルを、つかんで止めた。
「まあそれならそれで構わぬよ。これは、ポーカーにおけるコールのようなもの。誰が決死組を国内に招き入れたのかは知らぬが――」
少女が表情を歪ませる。
バキリと、つかんでいたモノクルが、少女の魔力に耐え切れず、ひび割れた。
その顔に満ち満ちているものは――
自由。自信。自我。
自身の暗黒を、隠すことなく面に出した。
「あたしは、フォールドする気はないのでな」
フェルナンテの少女、ヘルガ=ルク=マキュベアリは、そう言って、嗤った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あったまいたー。ミーティアちゃんメッチャ頭痛いー。スカイプ~。ジュース持ってきてー、ジュースー」
「は、はい!! ただいまー!!」
スカイプがつかつかと駆けていく。
ミシェイルはミドルストリートから、中央に描かれたミストスクリーン越しに、試合の様子を眺めていた。
決勝戦。走っているのは、ネイファである。ミシェイルは大会を大幅に遅延させた責を負って、二回戦進出を辞退していた。代わりにネイファを推薦し、それを半ば強引に受け入れさせた。ミシェイルの父は大手新聞社の編集長だ。言葉に正統性があれば、相手は退く。敵に回す意味はないからだ。
『ネイファ選手、独走!! 独走だー!!』
実況の声。聞いて、ミシェイルは笑った。
「むーっ。ミーティアちゃんがこんな状況じゃなかったら、あそこを走っていたのはミーティアちゃんだったのにー!! むき―悔しい―!!」
余談だが、ミーティアは風邪を引いたり、死聴を聞いたりなど、とかく身体の調子が悪くなると、名前呼び、我儘など、幼児退行する癖がある。責を負って辞退したと言ったが、どっちみち、この有り様ではどうにもならなかったかもしれない。
そんな時。
「完全に立ち直ったみたいですね、彼女。火のAクラス最優秀魔術師の座も、そろそろ返上しないといけませんかね」
後ろから、とある友人の声が聞こえて、振り返る。
「あ、ルイセさーん!! こんにちわー!!」
「どうも、ミーティアちゃん。その感じから見て、バテバテみたいですね」
「うん。ミーティアちゃんバテバテー。抱っこしてー、抱っこー」
「あはは。うーん、これは困りましたね」
「どうしたルイセ。僕に何か用か?」
「それがね、ちょっといいですか?」
ルイセが、人の手を引いてくる。
人ごみから離れ、ルイセと二人で道を歩く。
「どうした?」
「ファルコ=ルドルフと、彼女の復学日が決まったそうです」
「それは迷惑な話だ」
ルイセは学園長の孫である。故に、自分を素通りして、先にルイセに情報が渡ることがしばしばあった。
副会長のルイセの方が、仕事熱心だから、というのもある。
「ほかにも話したいことはあるのですがね。とりあえずこれを見てください。多分これを見れば、一発で大体のことはわかるかと」
ルイセが鞄から、四枚の紙を出してきた。
ミシェイルはそれを乱暴にひったくり、パラパラとめくった。
一枚。二枚。三枚。四枚。
紙をめくる度、ミシェイルの顔色が変わっていく。口元を押さえた。眉間にはシワが寄っている。
「どう思います? こんなこと言いたくはないのですが――とうとう始まった、としか思えないのですが」
「まあよからぬことが起きようとしてるのは間違いないだろうな。俺も一度学園長に――」
『ゴーーーーーール!! ネイファ選手に続き、マルコ選手がゴール!! よって、優勝は、ネイファチームに決定しましたあああ!!』
実況の声がここまで聞こえてきて、振り返る。
「やったあああああああああああああああああ!!」
ネイファの声。
ゴールが近かったので、聞こえてきた。
ミストスクリーンに映っているネイファは、諸手を上げて、喜んでいる。
それを見て、ミシェイルは我がことのように、笑った。
そして今一度、ヴァルハラ魔術師学園生徒会長の顔を作り、視線を紙に戻した。
四枚の紙。
それらは全て、転入届であった。
つまり、近々四人が、ヴァルハラ学園に転入してくる、ということだ。
その四人の出身地は全て――
北翼。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カコン。
東尾の決死組三番隊本邸では、今日も春起こしの音が響いていた。
三番隊組長、カルロ=惣一郎は、将棋盤の前であぐらをかいている。相手の構えはやはり穴熊。
手順は少しだけ進んでいる。敵陣を抉り抜くように打たれた、五八飛車と、五七歩。二枚とも成ってはいない。
盤面で成っているものは、二枚のみ。
右端に寄せられ、ピクリとも動いていない歩二枚。その下には、同じく動かされていない、香車と桂馬。
カコン。
また音。
カルロが顔を上げる。
パチン。
風が吹いている。カルロは部屋から消えていた。残されているものは、動かされた、盤面のみ――
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