八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

文字の大きさ
29 / 83
ティアラナさんの唇を奪え

ピシャスという男

しおりを挟む
「パミュー。パミュー。どこだー。パミュー」
 

 呼びかけながら、街の中を走り回る。
 俺が考えている、最悪の事態だけは避けて――って……。


「あれ? ビュウ?」
 

 俺は胸と地面を擦り付けるようにして、盛大にずっこけていた。
 

 普通におるやんけ!! 
 

 パミュは手に紐を巻き付け、大きな犬の散歩をしていた。
 俺のずっこける様を見て、パミュが口元に手を持っていき、笑う。


「あはは。おっかしいんだー。何してるの? ビュウ。滑り込みセーフの練習?」
「ちゃうわ。俺は――」
 

 ゾワリ。


 瞬間、鳥肌が走った。

 
 殺意という名の衣を、頭から被せられたような、そんな感覚。


 俺は咄嗟に、守るべきパミュをほったらかしにして、後方に飛び退いていた。


 パミュの後ろに、一人の男が立っている。


 氷を思わすイケメンで、全てを見下ろすような目をしているが、背が低かった。童顔であり、二十歳を上回っているようにはとても思えない。
 
 
 黒い執事服に身を包み、頭には黒い帽子を被っている。


「そこまで警戒して下さらなくてもよろしいと思うのですがね、ビュウ=フェナリスさん」
 

 声も若い。高いのではなく若いのだ。明らかに幼かった。やはりガキ。
 ガキで――


「初めましてですね。僕の名はピシャス。姓はございません。無意味なものは纏わない主義でして。お嬢様の護衛兼執事の仕事を承っております。長くこの街に滞在するおつもりなら、以後お見知りおき」
 

 ガキで……この魔装を纏うか。同情を禁じ得ないな。確実に地獄を見てきた人間の魔装だ。
 

 間違いなく、一流の殺し手……。


「はいはいはいはい」
 

 俺とピシャスの間に、パミュが割って入ってくる。


「これだからピシャスと外に出るのは嫌なんだよ。すぐ人と険悪な空気を作る」
「これが仕事なんですよ、お嬢様」  
「人を嫌な気分にさせるのが?」
「手を出したらタダではすまさない。そう思わせることがです。お嬢様」
 

 上目づかいで、見据えてくる。
 俺しかり、ティアラナしかり、マリオンしかり、魔術師は自信家が多いが、こいつもその例に漏れないようだ。


「はいはい。ところでビュウ。どうしたの? あたしのこと探してたみたいだけど」
「そりゃお前が……いきなり消えてっから」
 

 心配したんだよ。
 続く言葉を、俺は呑み込んだ。
 パミュが呆然と口を開けている。
 瞳孔が左右に揺れていた。
 

 何だ、こいつ……。


「お嬢様」
「あ、うん。な、何でもない。あはは。心配――してくれたんだね。ビュウは本当に優しいな。優しくて……うらやましい」
「え……」
 

 うらやましい?
 いや。
 嬉しいの聞き間違い……だよな。


「ところでビュウ」
 

 顔を上げてパミュが言った。
 何事もなかったかのように、表情が戻っている。


 パミュは確かに感情表現豊かな女だ。表情が十秒置きに変わる(言い過ぎ)。
 感情の海に流される様を、良くも悪くも全身で表現する。そんな女。


 ――と、俺は思っていた。


 しかし今のパミュの切り替わり方はどこか、コインの表と裏をひっくり返したような、つまり、感情を統御していたような、そんな印象を受けた。


 まあ俺とパミュの付き合いは、長いようですこぶる短い。
 単純に、俺がパミュのことを知らなかった。それだけの話なのだろうが……。 


「ティアラナさんのところには、まだ戻ってないの?」
「え? あ、ああ。いの一番に来たからな」
「んもーっ。ダメだよ? あたしなんかより、ティアラナさんを優先してあげないと。ビュウがあたしのこと心配してくれたように、ティアラナさんも、ビュウのこと心配してるよ?」
「あいつが俺を狼の群れに突き出したんだけどな」
「本当にそうなのかな?」
「え?」
「だってただ突き出すだけったら、ナギさんでもよかったわけでしょ?」
「いやまあそりゃそうだけど」
「どうしてビュウを選んだんだと思う?」
「どうしてって……」
 

 唇に手を添え、考えた。
 

 どうして?
 

 どうして……。


「お嬢様。そろそろ」
 

 パミュの後ろからピシャスが言った。


「そうだね。サクリファイスも、散歩の続きがしたくてウズウズしてるみたいだし」
 

 でかい犬が舌を出し、はぁはぁ言っている。確かに今にも駆けだしたそうだ。


「あ、ちょっと待った。答えを」
 

 引き止めようとして手を伸ばすと、パミュは、目を糸のように細くして、桜色の唇を、下品じゃない程度に開いて、笑った。
 

『いつも以上に』陽の光が似合う、笑顔だと思った。


「その答えが見つかったら、きっと今より幸せになれるよ。頑張れ頑張れー」
 

 適当な声援を投げかけて、パミュと一匹、そして執事は街の中に消えていった。 
 ティアラナが俺のことをどう思ってるかって?
 

 そんなもん……。
 そんなもん。


「考えたくもねぇよ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...