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魔王
八百歳の魔法使いと、十五歳のお姫様
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言葉だけで足りるかって?
足りるか足りないかと問われても、貰える物があるなら貰っておくとしか、言えないだろ?
信頼してるから、そんなふざけた物は渡してこないとは確信しているし。
パミュは料理が得意だ。少なくとも自信があると、ティアラナの唇を奪え大会で言っていた。それだろうか?
俺は甘党だから、砂糖適当にぶっ込んでくれたお菓子なら、喜んで食うけどな。
パミュはお姫様だ。だから、その特権を活かして――そうだな、代わりの銀具(コート)を取り寄せよう、なんて、考えてくれてたりは、しないだろうか?
お前の国の最高峰錬金術師、金陽の魔術師に頼んでくれたら、すごい助かるのだが。
あるいは――
パミュに握りしめられた俺の手。
いつの間にか、パミュの巨乳の近くにあった。
パミュが自分で、近づけていたのだった。
引き離すつもりでも、押し倒すつもりでも、当たる距離だ。
これでもその意味がわからないほど、俺もバカではない。
俺は――
俺は、八百年魔法使いの童貞野郎だ。
八百年も生きているというのに、十代の女に近づかれただけで、照れてしまうこともしばしばだ。
そんな俺が、今回ばかりは、照れなかった。
目を閉じる。
笑った。
バカだな。
パミュが、じゃない。
俺が、だ。
いや、正確に言えば、お互いが、か?
俺とパミュは短い付き合いだ? だから、パミュは俺のことを知らなかった? だと?
何をしたり顔で語ってんだよ、俺は。
その論調が通じるならよ。
俺だって、パミュのことを、何も知らないってことじゃないのかよ?
お前は良くも悪くも何考えてるのかわからなくて。
一歩先で、俺の度肝を抜くことをしてきやがる。
危なっかしいやつだ。
俺がエルメルリアから出たら、今度は違う奴に同じことをするんじゃあるまいな?
許さんぞ、俺は。
ほんと、危なっかしいよ、お前は。
危なっかしくて――
お前から、目、離せられそうにねぇな。
「そうだな」
俺は、両手で包まれていた自分の手を、もう一方の手で解放してやって、立ち上がった。
「それじゃ、お言葉に甘えるとするか」
俺は、いかにも女好き、と言わんばかりの、だらしない笑顔を作って、両手を広げた。広げた両手の指先を、毛虫の足のように、ワシワシと動かす。
女がこれに、嫌悪感を抱く、ということはわかっていた。わかっていて、やったのだった。
パミュは、そんな俺の顔を見て、あの時のような顔で、ビクリとした。
引っ張ってきた布団で口元を隠す。
ついで目。
最後には、頭まで隠してしまった。
俺は、パミュの視界から消えたことを確信してから、目を逸らした。
本当バカだな。
お互いに。
聴衆がいるなら、問いたいものだ。
ここで手を出さないから、ずっと魔法使いなんだろうか?
それとも、ここで手を出さないのは人として当然で、手を出すに相応しい時が、いつかはやってくるのだろうか?
俺にはわからない。
けどま、俺が今一番欲しいものは何かって言われたらさ、パミュ。
俺はこれを所望するね。
パン。
俺は、腰に手を当てて、腰を曲げ、白い小さな布団の山に、顔を近づけた。
そして。
「じゃあ、いつも通り言ってみろ」
「え?」
パミュが怖ず怖ずと目だけを出した。
化粧も知らない、女の子の顔だった。
「いつも通り、笑って言ってみろと言ったのさ。謝れってんじゃない。助けてやったんだから、その礼を。何か足りないって思ってんだろ? 今この場に足りないのは、誰がどう考えたって、大団円の空気だろ? 助けてよかったと、俺に思わせてみろ。はい、五ー四ー」
掌を向けて、カウントした。出会ったばかりの頃、パミュにされたように。
パミュが丸々とした瞳で俺を見上げてくる。しばらくして、その瞳が細くなった。涙袋がキュッと真上に持ち上がっている。
どうやらまた泣きそうになっていたみたいで、人の布団で、目元をゴシゴシと拭く。ついでに鼻や口元も。
布団を下げて向けてきた顔は、泣き腫らしてこそいたけれど、いつものパミュの顔だった。
「ビュウ」
「おう」
「えと、その……」
パミュがまた、布団で口元を隠す。
なんでそこで恥ずかしがるんだよ、そこで。
俺まで恥ずかしくなってくるじゃぇか、くそ。
「あり……がと」
布団で口元を隠したまま、パミュが言った。照れているみたいで、ほとんど声は聞き取れなかったが、こういうのは気持ちだ。本人に伝われば、それでいいのである。だから俺は――
『どういたしまして』
そう言おうと思ったのだが――
クイクイと、パミュが、俺のコートの裾を引っ張ってきて――
『今のなし』
そういわんばかりの顔で、首を二回振った。
俺は苦笑して、上向いた。
三回目はなしだぜ? パミュ……。
俺は、背筋が痒くなる展開が、苦手だからよ。
「スーハー」
パミュがこれみよがしな深呼吸を始めた。
呼吸する度、豊満な胸が上下していた。
「スーハー、スーハー、スーハー、スー……」
しばらくして。
波の音。
それ以外の音が消えていた。
意を決した顔で、パミュが俺を見上げてくる。
目を細める。
タハハと、困ったような笑い声が、パミュの口から漏れていた。
「ビュウ」
「ん?」
「やっぱり――ダメだった」
「あのなぁ」
呆れ気味な俺の声。
パミュが、布団を横手に置いて、立ち上がった。
俺の手をつかむ。いつでも解けるように、優しく、繊細に。
爪先立ちになった。ゆっくりと顔を近づけてくる。
偶然ではなく、恣意的に――唇が、ほっぺに、当たるように。
「へ……?」
思考が回らなかった。
パミュが、俺から顔を離して、小首を傾げた。
これでもかってぐらい、真っ赤な笑顔で。
「ありがとう。ビュウ」
十五の女が渡せる、一番の物。
そんなものを貰ってしまって、俺は頭をかきながら、視線を上向けた。
心臓が、早鐘のように鳴っている。
「いつも通りって言ったろ?」
足りるか足りないかと問われても、貰える物があるなら貰っておくとしか、言えないだろ?
信頼してるから、そんなふざけた物は渡してこないとは確信しているし。
パミュは料理が得意だ。少なくとも自信があると、ティアラナの唇を奪え大会で言っていた。それだろうか?
俺は甘党だから、砂糖適当にぶっ込んでくれたお菓子なら、喜んで食うけどな。
パミュはお姫様だ。だから、その特権を活かして――そうだな、代わりの銀具(コート)を取り寄せよう、なんて、考えてくれてたりは、しないだろうか?
お前の国の最高峰錬金術師、金陽の魔術師に頼んでくれたら、すごい助かるのだが。
あるいは――
パミュに握りしめられた俺の手。
いつの間にか、パミュの巨乳の近くにあった。
パミュが自分で、近づけていたのだった。
引き離すつもりでも、押し倒すつもりでも、当たる距離だ。
これでもその意味がわからないほど、俺もバカではない。
俺は――
俺は、八百年魔法使いの童貞野郎だ。
八百年も生きているというのに、十代の女に近づかれただけで、照れてしまうこともしばしばだ。
そんな俺が、今回ばかりは、照れなかった。
目を閉じる。
笑った。
バカだな。
パミュが、じゃない。
俺が、だ。
いや、正確に言えば、お互いが、か?
俺とパミュは短い付き合いだ? だから、パミュは俺のことを知らなかった? だと?
何をしたり顔で語ってんだよ、俺は。
その論調が通じるならよ。
俺だって、パミュのことを、何も知らないってことじゃないのかよ?
お前は良くも悪くも何考えてるのかわからなくて。
一歩先で、俺の度肝を抜くことをしてきやがる。
危なっかしいやつだ。
俺がエルメルリアから出たら、今度は違う奴に同じことをするんじゃあるまいな?
許さんぞ、俺は。
ほんと、危なっかしいよ、お前は。
危なっかしくて――
お前から、目、離せられそうにねぇな。
「そうだな」
俺は、両手で包まれていた自分の手を、もう一方の手で解放してやって、立ち上がった。
「それじゃ、お言葉に甘えるとするか」
俺は、いかにも女好き、と言わんばかりの、だらしない笑顔を作って、両手を広げた。広げた両手の指先を、毛虫の足のように、ワシワシと動かす。
女がこれに、嫌悪感を抱く、ということはわかっていた。わかっていて、やったのだった。
パミュは、そんな俺の顔を見て、あの時のような顔で、ビクリとした。
引っ張ってきた布団で口元を隠す。
ついで目。
最後には、頭まで隠してしまった。
俺は、パミュの視界から消えたことを確信してから、目を逸らした。
本当バカだな。
お互いに。
聴衆がいるなら、問いたいものだ。
ここで手を出さないから、ずっと魔法使いなんだろうか?
それとも、ここで手を出さないのは人として当然で、手を出すに相応しい時が、いつかはやってくるのだろうか?
俺にはわからない。
けどま、俺が今一番欲しいものは何かって言われたらさ、パミュ。
俺はこれを所望するね。
パン。
俺は、腰に手を当てて、腰を曲げ、白い小さな布団の山に、顔を近づけた。
そして。
「じゃあ、いつも通り言ってみろ」
「え?」
パミュが怖ず怖ずと目だけを出した。
化粧も知らない、女の子の顔だった。
「いつも通り、笑って言ってみろと言ったのさ。謝れってんじゃない。助けてやったんだから、その礼を。何か足りないって思ってんだろ? 今この場に足りないのは、誰がどう考えたって、大団円の空気だろ? 助けてよかったと、俺に思わせてみろ。はい、五ー四ー」
掌を向けて、カウントした。出会ったばかりの頃、パミュにされたように。
パミュが丸々とした瞳で俺を見上げてくる。しばらくして、その瞳が細くなった。涙袋がキュッと真上に持ち上がっている。
どうやらまた泣きそうになっていたみたいで、人の布団で、目元をゴシゴシと拭く。ついでに鼻や口元も。
布団を下げて向けてきた顔は、泣き腫らしてこそいたけれど、いつものパミュの顔だった。
「ビュウ」
「おう」
「えと、その……」
パミュがまた、布団で口元を隠す。
なんでそこで恥ずかしがるんだよ、そこで。
俺まで恥ずかしくなってくるじゃぇか、くそ。
「あり……がと」
布団で口元を隠したまま、パミュが言った。照れているみたいで、ほとんど声は聞き取れなかったが、こういうのは気持ちだ。本人に伝われば、それでいいのである。だから俺は――
『どういたしまして』
そう言おうと思ったのだが――
クイクイと、パミュが、俺のコートの裾を引っ張ってきて――
『今のなし』
そういわんばかりの顔で、首を二回振った。
俺は苦笑して、上向いた。
三回目はなしだぜ? パミュ……。
俺は、背筋が痒くなる展開が、苦手だからよ。
「スーハー」
パミュがこれみよがしな深呼吸を始めた。
呼吸する度、豊満な胸が上下していた。
「スーハー、スーハー、スーハー、スー……」
しばらくして。
波の音。
それ以外の音が消えていた。
意を決した顔で、パミュが俺を見上げてくる。
目を細める。
タハハと、困ったような笑い声が、パミュの口から漏れていた。
「ビュウ」
「ん?」
「やっぱり――ダメだった」
「あのなぁ」
呆れ気味な俺の声。
パミュが、布団を横手に置いて、立ち上がった。
俺の手をつかむ。いつでも解けるように、優しく、繊細に。
爪先立ちになった。ゆっくりと顔を近づけてくる。
偶然ではなく、恣意的に――唇が、ほっぺに、当たるように。
「へ……?」
思考が回らなかった。
パミュが、俺から顔を離して、小首を傾げた。
これでもかってぐらい、真っ赤な笑顔で。
「ありがとう。ビュウ」
十五の女が渡せる、一番の物。
そんなものを貰ってしまって、俺は頭をかきながら、視線を上向けた。
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