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おもしろ小話番外編
4、深窓の騎士(中編:ニコル視点)
「城の騎士宿舎に一晩泊まりたい? 何でまた……」
家に戻ったニコルは、直ぐさま執務室にいた父親の所へ押しかけ、例の一件を打診していた。ニコルの熱意にランドルフ男爵は怪訝な顔だ。文机に腰掛けたまま、書き付けをしていた手が止まっている。
「騎士としての生活を是非体験してみたいんです! お願いします、父上!」
ニコルはそう言って父親に再度頼み込んだ。肝試しの仲間入りをしたいとは流石に言わない。言えない。ニコルは最もらしい理由をひねり出す。
「うーん……まぁ、管理官に頼んではみるが、期待はするな?」
父親のランドルフ男爵は渋りながらも、そう言ってくれた。父親の返事に喜び、自分の部屋に戻りかけたニコルは、ふと姉の部屋に寄ってみた。
最近はあまり遊んでくれない。将来の伴侶探しに忙しいらしい。今夜もまた夜会に出席するらしく、侍女の手を借りて綺麗に着飾っている最中だった。ピンクパール色のドレスは、可愛らしいセシルによく似合う。
「姉上、出かけるの?」
「ええ、そうよ。どうしたの?」
鏡を覗き込みながらセシルが言う。
「ね、姉上は深窓の騎士って知ってる?」
ニコルがそう問うと、セシルは嬉しそうに笑った。
「あら、もしかして、エルネスト様の事? ええ、もちろん知っているわ。とっても素敵な人よね」
素敵……。セシルのそれは、やはり夢見るような眼差しだ。女性のように化粧をしていても、姉上は気にならないってことかな? ニコルはそう考える。
セシルはストリベリーブロンドの髪の先を指でくるくるまきつつ、
「でも、彼、男色家らしいの。結婚は無理よね」
ため息交じりに、そう付け加えた。
「男色家って?」
「ニコルは知らなくていいことよ」
言いにくいことらしい。セシルに困ったようにそう言われてしまう。後日、兄のフィーリーに、男色の意味を聞くと「こーら、誰からそんな言葉を聞いた」と逆に怒られそうになったので、ニコルは逃げ出すほかない。
そうして、そわそわしながら待つこと十日ばかり。許可が下りたと知らされた時、ニコルは飛び上がりそうになる程喜んでしまった。
「え、本当に来たんだ」
再び訓練場までやってきたニコルを目にして、領民の子供達が目を丸くする。
「凄いね、君」
「そんなに幽霊が見たかったの?」
「う、うん。だって面白そう。で、どう? 解決した?」
ニコルが問うと、一番年長者らしい子供が首を横に振った。
「全然駄目。幽霊どころか不審者すら見つけられない。で、ここ最近ずっと寝不足でさ、まいったよ。このままだと訓練に支障が出て、たるんでるって教官に大目玉食らいそうだ。今夜で最後にしようって話になってる」
「うわあ、ギリギリか。じゃ、今夜、僕もまざっていい?」
ニコルが自分の顔を指差した。
「いいよ」
領民の子供達がそろって頷いた。
やがて、その場に姿を見せたウォレンが、ニコルを見て目を丸くする。
「あれ? ニコルも一緒?」
「うん、来ちゃった」
ニコルは照れ臭げに頬を掻く。
真夜中の城の中なんて初めてである。ニコルはつい、きょろきょろと周囲を見回してしまう。当たり前だけれど、あちこち見張りの兵が立っている。全員見習いじゃない、訓練を終えた本物の兵士だ。
石造りの立派な城内は静まりかえり、空気はひんやりと冷たい。かがり火の明かりの中、武装した兵士がそこここに点在し、周囲に目を光らせていた。
「また、幽霊退治か?」
既に顔見知りになっているのか、兵士の一人がそう言って笑った。
「程ほどにしとけ? 何か問題を起こせば子供でも処分されるぞ?」
「大丈夫です。見回りをして帰るだけですから」
はきはきとウォレンがそう答えると、
「おわ! ウォレン様!」
兵士は驚いたようだ。
「はあ、こりゃ、参ったな……。本当に程ほどにして下さいね? あなた様に何かあると、ローザ王太子殿下から大目玉を食らいますから」
そう口にし、目の前の兵士は胸に右拳を二回当て、敬意を示した。
子供達が早足に離れると、身につけた武器がカチャカチャと鳴る。ニコルは訓練用の剣を持ってきていたが、ウォレンもまた護身用の短剣を身につけている。領地兵志願の領民の子供達は言わずもがなで、こうして全員が武装していると、子供だけど何か任務についているような感じで、興奮してしまう。
「何かの兵団みたいだよね」
ニコルが歩きながらそう言うと、大いに盛り上がった。
「そうだね!」
「ウォレン護衛隊?」
「あはは、それいい!」
そう言い合って子供達がケラケラと笑い合う。
それから、どれくらい歩いたか、
「あ、あれ、見て!」
ある時、ふわりと白いものが柱の陰に消えた。子供達が顔を見合わせる。
「見た?」
「見た見た! 幽霊だ!」
「追いかけよう!」
全員走り出し、白い影が消えた辺りを入念に調べて回る。緑の庭園が望める回廊だ。周囲を見回すと、再びふわりと白い影が木の陰で揺れ、
「あそこだ!」
「捕まえよう!」
「逃がすな!」
ニコルとウォレンが同時に走り出し、残りの者もつられて駆け出した。誰が一番最初に飛びかかったのか分からない。分からないが、ほぼ全員がその後に続いたことは確かだ。子供達にのしかかられて下敷きになった幽霊から、ぐえっ! という呻き声が漏れる。
「どうなった?」
「捕まえた!」
「幽霊?」
「じゃないみたいだよ?」
「何だ、君達は!?」
子供達に飛びかかられ、目を白黒させたのは騎士団員の一人で、見知った相手だった。バターブロンドの美女……もとい美女風美青年である。
「え? 深窓の騎士様?」
ニコルがびっくりして叫べば、
「そう、僕だよ。どうしてくれるんだ? せっかくのドレスが泥だらけだ」
むっとしたように顔をよせる。白いドレスを着込み、化粧までしているので、やっぱり女に見えてしまう。儚げな美女そのものだ。
「どうしてそんな格好で、真夜中の城をうろついているんですか?」
ニコルが困惑気味にそう問うと、
「この格好で昼間、堂々と城内を歩いていいんならそうするけど?」
深窓の騎士ことエルネスト・マルロウがそう答える。ニコルはウォレンと顔を見合わせ、
「……止めた方が良いと思います」
そう言って止めた。すると、他の子供達が続々それに倣う。
「そうですね、止めた方がいいです」
「変態扱いされます」
「とっくに変態だと思いますが」
流石子供は容赦がない。言いたい放題である。
「変態って、失礼な。僕は綺麗だろ?」
エルネストはそう言い切った。
ニコルとウォレン、他の子供達全員の視線が集まる。腰まで伸ばされたバターブロンドは艶やかで、ほくろのある口元には色気があり、化粧を施した繊細な顔は美しい。どこからどう見ても儚げな美女だった。
「うん、綺麗だね」
「気持ち悪いけど綺麗」
「見てるだけなら綺麗だね」
素直な子供達が、またまたそう言った。
「だろだろう」
エルネストが、ふふんと得意げに顎を上げる。
「僕はこうやって着飾るのが大好きなんだ。綺麗なドレスも好き。だから、女性なら同じように着飾ってあげたいし、男でも頼まれれば喜んで化粧しちゃう」
「女性は喜ぶだろうけど……」
「男はちょっと……」
「嫌がるんじゃない?」
「そうでもないよ。探せば結構いる。秘密クラブだってあるくらいだもの」
けろりとエルネストが言う。
家に戻ったニコルは、直ぐさま執務室にいた父親の所へ押しかけ、例の一件を打診していた。ニコルの熱意にランドルフ男爵は怪訝な顔だ。文机に腰掛けたまま、書き付けをしていた手が止まっている。
「騎士としての生活を是非体験してみたいんです! お願いします、父上!」
ニコルはそう言って父親に再度頼み込んだ。肝試しの仲間入りをしたいとは流石に言わない。言えない。ニコルは最もらしい理由をひねり出す。
「うーん……まぁ、管理官に頼んではみるが、期待はするな?」
父親のランドルフ男爵は渋りながらも、そう言ってくれた。父親の返事に喜び、自分の部屋に戻りかけたニコルは、ふと姉の部屋に寄ってみた。
最近はあまり遊んでくれない。将来の伴侶探しに忙しいらしい。今夜もまた夜会に出席するらしく、侍女の手を借りて綺麗に着飾っている最中だった。ピンクパール色のドレスは、可愛らしいセシルによく似合う。
「姉上、出かけるの?」
「ええ、そうよ。どうしたの?」
鏡を覗き込みながらセシルが言う。
「ね、姉上は深窓の騎士って知ってる?」
ニコルがそう問うと、セシルは嬉しそうに笑った。
「あら、もしかして、エルネスト様の事? ええ、もちろん知っているわ。とっても素敵な人よね」
素敵……。セシルのそれは、やはり夢見るような眼差しだ。女性のように化粧をしていても、姉上は気にならないってことかな? ニコルはそう考える。
セシルはストリベリーブロンドの髪の先を指でくるくるまきつつ、
「でも、彼、男色家らしいの。結婚は無理よね」
ため息交じりに、そう付け加えた。
「男色家って?」
「ニコルは知らなくていいことよ」
言いにくいことらしい。セシルに困ったようにそう言われてしまう。後日、兄のフィーリーに、男色の意味を聞くと「こーら、誰からそんな言葉を聞いた」と逆に怒られそうになったので、ニコルは逃げ出すほかない。
そうして、そわそわしながら待つこと十日ばかり。許可が下りたと知らされた時、ニコルは飛び上がりそうになる程喜んでしまった。
「え、本当に来たんだ」
再び訓練場までやってきたニコルを目にして、領民の子供達が目を丸くする。
「凄いね、君」
「そんなに幽霊が見たかったの?」
「う、うん。だって面白そう。で、どう? 解決した?」
ニコルが問うと、一番年長者らしい子供が首を横に振った。
「全然駄目。幽霊どころか不審者すら見つけられない。で、ここ最近ずっと寝不足でさ、まいったよ。このままだと訓練に支障が出て、たるんでるって教官に大目玉食らいそうだ。今夜で最後にしようって話になってる」
「うわあ、ギリギリか。じゃ、今夜、僕もまざっていい?」
ニコルが自分の顔を指差した。
「いいよ」
領民の子供達がそろって頷いた。
やがて、その場に姿を見せたウォレンが、ニコルを見て目を丸くする。
「あれ? ニコルも一緒?」
「うん、来ちゃった」
ニコルは照れ臭げに頬を掻く。
真夜中の城の中なんて初めてである。ニコルはつい、きょろきょろと周囲を見回してしまう。当たり前だけれど、あちこち見張りの兵が立っている。全員見習いじゃない、訓練を終えた本物の兵士だ。
石造りの立派な城内は静まりかえり、空気はひんやりと冷たい。かがり火の明かりの中、武装した兵士がそこここに点在し、周囲に目を光らせていた。
「また、幽霊退治か?」
既に顔見知りになっているのか、兵士の一人がそう言って笑った。
「程ほどにしとけ? 何か問題を起こせば子供でも処分されるぞ?」
「大丈夫です。見回りをして帰るだけですから」
はきはきとウォレンがそう答えると、
「おわ! ウォレン様!」
兵士は驚いたようだ。
「はあ、こりゃ、参ったな……。本当に程ほどにして下さいね? あなた様に何かあると、ローザ王太子殿下から大目玉を食らいますから」
そう口にし、目の前の兵士は胸に右拳を二回当て、敬意を示した。
子供達が早足に離れると、身につけた武器がカチャカチャと鳴る。ニコルは訓練用の剣を持ってきていたが、ウォレンもまた護身用の短剣を身につけている。領地兵志願の領民の子供達は言わずもがなで、こうして全員が武装していると、子供だけど何か任務についているような感じで、興奮してしまう。
「何かの兵団みたいだよね」
ニコルが歩きながらそう言うと、大いに盛り上がった。
「そうだね!」
「ウォレン護衛隊?」
「あはは、それいい!」
そう言い合って子供達がケラケラと笑い合う。
それから、どれくらい歩いたか、
「あ、あれ、見て!」
ある時、ふわりと白いものが柱の陰に消えた。子供達が顔を見合わせる。
「見た?」
「見た見た! 幽霊だ!」
「追いかけよう!」
全員走り出し、白い影が消えた辺りを入念に調べて回る。緑の庭園が望める回廊だ。周囲を見回すと、再びふわりと白い影が木の陰で揺れ、
「あそこだ!」
「捕まえよう!」
「逃がすな!」
ニコルとウォレンが同時に走り出し、残りの者もつられて駆け出した。誰が一番最初に飛びかかったのか分からない。分からないが、ほぼ全員がその後に続いたことは確かだ。子供達にのしかかられて下敷きになった幽霊から、ぐえっ! という呻き声が漏れる。
「どうなった?」
「捕まえた!」
「幽霊?」
「じゃないみたいだよ?」
「何だ、君達は!?」
子供達に飛びかかられ、目を白黒させたのは騎士団員の一人で、見知った相手だった。バターブロンドの美女……もとい美女風美青年である。
「え? 深窓の騎士様?」
ニコルがびっくりして叫べば、
「そう、僕だよ。どうしてくれるんだ? せっかくのドレスが泥だらけだ」
むっとしたように顔をよせる。白いドレスを着込み、化粧までしているので、やっぱり女に見えてしまう。儚げな美女そのものだ。
「どうしてそんな格好で、真夜中の城をうろついているんですか?」
ニコルが困惑気味にそう問うと、
「この格好で昼間、堂々と城内を歩いていいんならそうするけど?」
深窓の騎士ことエルネスト・マルロウがそう答える。ニコルはウォレンと顔を見合わせ、
「……止めた方が良いと思います」
そう言って止めた。すると、他の子供達が続々それに倣う。
「そうですね、止めた方がいいです」
「変態扱いされます」
「とっくに変態だと思いますが」
流石子供は容赦がない。言いたい放題である。
「変態って、失礼な。僕は綺麗だろ?」
エルネストはそう言い切った。
ニコルとウォレン、他の子供達全員の視線が集まる。腰まで伸ばされたバターブロンドは艶やかで、ほくろのある口元には色気があり、化粧を施した繊細な顔は美しい。どこからどう見ても儚げな美女だった。
「うん、綺麗だね」
「気持ち悪いけど綺麗」
「見てるだけなら綺麗だね」
素直な子供達が、またまたそう言った。
「だろだろう」
エルネストが、ふふんと得意げに顎を上げる。
「僕はこうやって着飾るのが大好きなんだ。綺麗なドレスも好き。だから、女性なら同じように着飾ってあげたいし、男でも頼まれれば喜んで化粧しちゃう」
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