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おもしろ小話番外編
4、深窓の騎士(後編:ニコル視点)
「で、こんな趣味してるからさぁ、僕、本当はスタイリストになりたかったんだよね。あ、女性専用のね」
「え? なら、その方がいいんじゃない?」
エルネストの台詞にニコルが驚く。
「だよねー」
「うんうん、そっちの方がいい」
「騎士職似合わない」
「何で騎士になんかなったの?」
子供達が口々にそう言うと、エルネストは繊細な顔をしかめた。
「僕の家、代々騎士職なんだよ。長男だからって、無理矢理父さんに訓練所に放り込まれたんだ。僕は血が苦手だから、絶対向いてないって思うのに強引に……」
「え? 血が苦手なんですか?」
ウォレンが驚く。
「そう、血を見ると失神しちゃうんだ」
「それで騎士って、大丈夫なんですか?」
ウォレンがそう問うと、
「ああ、今んとこは大丈夫。何とか上手くやっているよ」
エルネストがふわりと笑う。
「違法な行為を摘発するのに女装って役に立つし、こう見えて、同僚にも重宝されてるんだ。僕ね、ドレスのアレンジとかも自分でやってたから、裁縫が得意なんだよ。だから、皆の衣服の補修を僕がやってあげてるの。結婚している人は、ほら、奥さんにやってもらえばいいけど、若いとそういう所で苦労するみたい。全部自分でやらないといけないだろ? で、僕の出番ってわけ」
エルネストがウォレンの茶色いふわふわの頭を撫でた。
「でも、心配してくれるんだ? ありがとう。君、優しいね。僕の家族は、てんで駄目。父さんは僕の体質を軟弱の一言ですませるし、姉さん達は大丈夫大丈夫、何とかなるって、まるで根拠のない太鼓判を押してくれるから、全然話が通じないんだ」
「それは大変ですね」
ウォレンが気の毒そうに言う。
「女に生まれた方が良かったんじゃない?」
ニコルがそう口を挟むと、
「んー……それは、どうだろ? これでも僕は女の子が好きだから、それだとレズになっちゃうかも。ま、それはそれで楽しいかもね」
エルネストはあははと笑う。
「今からでも転職したら?」
ニコルがそう勧めると、エルネストが眉根を寄せた。
「そうしたいのは山々だけどね、父さんの目があるうちは無理かな。辞めようものなら、絶対、根性鍛え直してやるって、過酷な修行をやらされるの目に見えてるもの。何としても騎士としてここに居座らないと、絶対地獄を見る羽目になる」
「深窓の騎士のお父さんって……」
「騎士団総団長だよ」
エルネストがそう答え、ニコルを含めた子供達は目を剥いた。
「え? 騎士団総団長?」
「もの凄く強いよね?」
「熊殺しとか言われてない?」
「そうそう、素手で熊も倒すとか言われてるよ」
「あれの息子? 全然似てない。髭もじゃのおっさんだった!」
「僕、母親似だもの」
しれっとエルネストが言う。
「あーあ、早く引退してくれればいいのに……そうしたら騎士なんか速攻止めてやる」
エルネストが愚痴ると、子供達全員がふるふると首を横に振る。
「無理じゃない?」
「もの凄く元気だし」
「殺しても死にそうにないし」
「そもそも、あれの代わりを出来る人っているの?」
「あれより強いのって……」
「あ! いるよ! ローザ王太子殿下!」
ニコルが目をきらきらさせながらそう言い切った。そうだよ! だって、白薔薇の騎士だもん! 毎年、剣術大会で優勝もしてる! 絶対強いと思う!
「え? あの綺麗な王女様が? 総団長より強いの?」
領民の子供達が驚き、ニコルが興奮気味に頷いた。
「強いよ! だって、ほら! 幻の矢切演舞を披露してくれたじゃん! 陛下は聖王リンドルンの再来で、ローザ王太子殿下は聖王リンドルン二世って言われてる!」
エルネストの眼差しが、うっとりとなった。
「ああ、うんうん、ローザ王太子殿下ね。いいよねぇ……もの凄い美女だもんね。着飾ってみたい。綺麗にしてあげたい。艶々の髪は黄金の糸のようで、肌は抜けるように白い。あの神秘的な碧い瞳で見つめられたら、それだけで骨抜きにされそう。まさに女神様だ」
「そうだね」
「うん、分かる分かる」
「綺麗だよねぇ……」
子供達が笑顔でこぞって同意するも、
「そうそう、陛下も綺麗だよなぁ。視線がおっかなくて、どうしても気圧されちゃうけど、化粧してみたい。もの凄い美女に化けると思う」
「それはやめたほうがいいよ」
「うんうん」
「首にされそう」
「首ですむかな?」
「ぼっこぼこにされるかも……」
エルネストの言葉に、今度は真顔で反対する。ふるふる全員が首を横に振った。だって、ほら、あの戦神が陛下にフルボッコにされたって聞いたよ、うんうん、怖いよ、とひそひそ言い合う。きっちり噂になっているらしい。
「だったらさ、エイドリアン王子殿下の方がまだ良くない?」
子供の一人がそんな事を言い出した。
「あ、そうだね」
「王子殿下なら優しそうだから怒られないかも」
「ハンサムだし」
「意外と似合ったりして」
「でも、不敬じゃない?」
「あのおっかない陛下よりはいいと思う」
と、そこへ、
「え? 陛下? 優しいですよ?」
ウォレンが無邪気に笑い、皆の驚きを誘った。
「優しい? 本当?」
「はい。僕と一緒に遊んで下さいます。肩車して下さいました。髪も好きなだけ触らせて下さいますし、一緒にいると楽しいです」
ウォレンがそう断言し、ニコルが目を剥いた。
「うっそ! 怖いよ! 笑わないし!」
陛下の美麗な顔はめったに崩れない。だからこそ近寄りがたくて、怖いという印象を受けてしまう。顔立ちが整っているだけに迫力満点だ。
「普段はそうですね。でも、ちゃんと笑いますよ?」
ウォレンがにぱっと笑った。本当にタンポポのように愛らしい。
あ、そう言えば、一度、助けてもらったことあったっけ。ニコルはそんな事を思い出す。薔薇の花束を買いに行った時、街中で柄の悪い連中に絡まれたんだ。それを助けてくれたのが確か、陛下だったはず……。
でも、傍に立たれると黒い影にのしかかられているみたいで、助けてもらったのに何だかおっかなくて、ろくすっぽお礼も言えなかったっけ……。
「あ、キム、鼻血出てるよ」
子供の一人がそう指摘した。
「あ、ほんと?」
「さっき、派手に転んだもんなぁ……」
子供達がわいわい言い合っていると、ふうっとエルネストが倒れた。ぱったりと倒れたところもまた儚げな美女のように美しい。
「あれ? どうしたの?」
「寝ちゃった?」
「気絶したんじゃない?」
鼻血を出したキムに視線が集まり、
「もしかして僕の鼻血のせい?」
「多分……」
「騎士職、本当、向いてないんじゃ……」
「だね」
「早めに転職した方が絶対いいと思う」
子供達全員の意見がまるっと一致する。
その後、気絶したエルネストをどうしようかと散々悩んだあげく、ニコルとウォレンを含めた子供達全員でずりずり引きずって、彼が所属する騎士宿舎まで運んだのだが、きっちり筋肉が付いているので、これまた重い。女のように見えてもやはり男だと誰もが思った。
で、その翌朝。
どうやら、引きずって運んだ際、鼻の頭をすりむいたらしく、あああああああ! 僕の美しい顔がああああああああ! とエルネストが悲鳴を上げたそうだが、そこまでは知らないと訓練兵の子供達全員、そっぽを向いたそうな。
「え? なら、その方がいいんじゃない?」
エルネストの台詞にニコルが驚く。
「だよねー」
「うんうん、そっちの方がいい」
「騎士職似合わない」
「何で騎士になんかなったの?」
子供達が口々にそう言うと、エルネストは繊細な顔をしかめた。
「僕の家、代々騎士職なんだよ。長男だからって、無理矢理父さんに訓練所に放り込まれたんだ。僕は血が苦手だから、絶対向いてないって思うのに強引に……」
「え? 血が苦手なんですか?」
ウォレンが驚く。
「そう、血を見ると失神しちゃうんだ」
「それで騎士って、大丈夫なんですか?」
ウォレンがそう問うと、
「ああ、今んとこは大丈夫。何とか上手くやっているよ」
エルネストがふわりと笑う。
「違法な行為を摘発するのに女装って役に立つし、こう見えて、同僚にも重宝されてるんだ。僕ね、ドレスのアレンジとかも自分でやってたから、裁縫が得意なんだよ。だから、皆の衣服の補修を僕がやってあげてるの。結婚している人は、ほら、奥さんにやってもらえばいいけど、若いとそういう所で苦労するみたい。全部自分でやらないといけないだろ? で、僕の出番ってわけ」
エルネストがウォレンの茶色いふわふわの頭を撫でた。
「でも、心配してくれるんだ? ありがとう。君、優しいね。僕の家族は、てんで駄目。父さんは僕の体質を軟弱の一言ですませるし、姉さん達は大丈夫大丈夫、何とかなるって、まるで根拠のない太鼓判を押してくれるから、全然話が通じないんだ」
「それは大変ですね」
ウォレンが気の毒そうに言う。
「女に生まれた方が良かったんじゃない?」
ニコルがそう口を挟むと、
「んー……それは、どうだろ? これでも僕は女の子が好きだから、それだとレズになっちゃうかも。ま、それはそれで楽しいかもね」
エルネストはあははと笑う。
「今からでも転職したら?」
ニコルがそう勧めると、エルネストが眉根を寄せた。
「そうしたいのは山々だけどね、父さんの目があるうちは無理かな。辞めようものなら、絶対、根性鍛え直してやるって、過酷な修行をやらされるの目に見えてるもの。何としても騎士としてここに居座らないと、絶対地獄を見る羽目になる」
「深窓の騎士のお父さんって……」
「騎士団総団長だよ」
エルネストがそう答え、ニコルを含めた子供達は目を剥いた。
「え? 騎士団総団長?」
「もの凄く強いよね?」
「熊殺しとか言われてない?」
「そうそう、素手で熊も倒すとか言われてるよ」
「あれの息子? 全然似てない。髭もじゃのおっさんだった!」
「僕、母親似だもの」
しれっとエルネストが言う。
「あーあ、早く引退してくれればいいのに……そうしたら騎士なんか速攻止めてやる」
エルネストが愚痴ると、子供達全員がふるふると首を横に振る。
「無理じゃない?」
「もの凄く元気だし」
「殺しても死にそうにないし」
「そもそも、あれの代わりを出来る人っているの?」
「あれより強いのって……」
「あ! いるよ! ローザ王太子殿下!」
ニコルが目をきらきらさせながらそう言い切った。そうだよ! だって、白薔薇の騎士だもん! 毎年、剣術大会で優勝もしてる! 絶対強いと思う!
「え? あの綺麗な王女様が? 総団長より強いの?」
領民の子供達が驚き、ニコルが興奮気味に頷いた。
「強いよ! だって、ほら! 幻の矢切演舞を披露してくれたじゃん! 陛下は聖王リンドルンの再来で、ローザ王太子殿下は聖王リンドルン二世って言われてる!」
エルネストの眼差しが、うっとりとなった。
「ああ、うんうん、ローザ王太子殿下ね。いいよねぇ……もの凄い美女だもんね。着飾ってみたい。綺麗にしてあげたい。艶々の髪は黄金の糸のようで、肌は抜けるように白い。あの神秘的な碧い瞳で見つめられたら、それだけで骨抜きにされそう。まさに女神様だ」
「そうだね」
「うん、分かる分かる」
「綺麗だよねぇ……」
子供達が笑顔でこぞって同意するも、
「そうそう、陛下も綺麗だよなぁ。視線がおっかなくて、どうしても気圧されちゃうけど、化粧してみたい。もの凄い美女に化けると思う」
「それはやめたほうがいいよ」
「うんうん」
「首にされそう」
「首ですむかな?」
「ぼっこぼこにされるかも……」
エルネストの言葉に、今度は真顔で反対する。ふるふる全員が首を横に振った。だって、ほら、あの戦神が陛下にフルボッコにされたって聞いたよ、うんうん、怖いよ、とひそひそ言い合う。きっちり噂になっているらしい。
「だったらさ、エイドリアン王子殿下の方がまだ良くない?」
子供の一人がそんな事を言い出した。
「あ、そうだね」
「王子殿下なら優しそうだから怒られないかも」
「ハンサムだし」
「意外と似合ったりして」
「でも、不敬じゃない?」
「あのおっかない陛下よりはいいと思う」
と、そこへ、
「え? 陛下? 優しいですよ?」
ウォレンが無邪気に笑い、皆の驚きを誘った。
「優しい? 本当?」
「はい。僕と一緒に遊んで下さいます。肩車して下さいました。髪も好きなだけ触らせて下さいますし、一緒にいると楽しいです」
ウォレンがそう断言し、ニコルが目を剥いた。
「うっそ! 怖いよ! 笑わないし!」
陛下の美麗な顔はめったに崩れない。だからこそ近寄りがたくて、怖いという印象を受けてしまう。顔立ちが整っているだけに迫力満点だ。
「普段はそうですね。でも、ちゃんと笑いますよ?」
ウォレンがにぱっと笑った。本当にタンポポのように愛らしい。
あ、そう言えば、一度、助けてもらったことあったっけ。ニコルはそんな事を思い出す。薔薇の花束を買いに行った時、街中で柄の悪い連中に絡まれたんだ。それを助けてくれたのが確か、陛下だったはず……。
でも、傍に立たれると黒い影にのしかかられているみたいで、助けてもらったのに何だかおっかなくて、ろくすっぽお礼も言えなかったっけ……。
「あ、キム、鼻血出てるよ」
子供の一人がそう指摘した。
「あ、ほんと?」
「さっき、派手に転んだもんなぁ……」
子供達がわいわい言い合っていると、ふうっとエルネストが倒れた。ぱったりと倒れたところもまた儚げな美女のように美しい。
「あれ? どうしたの?」
「寝ちゃった?」
「気絶したんじゃない?」
鼻血を出したキムに視線が集まり、
「もしかして僕の鼻血のせい?」
「多分……」
「騎士職、本当、向いてないんじゃ……」
「だね」
「早めに転職した方が絶対いいと思う」
子供達全員の意見がまるっと一致する。
その後、気絶したエルネストをどうしようかと散々悩んだあげく、ニコルとウォレンを含めた子供達全員でずりずり引きずって、彼が所属する騎士宿舎まで運んだのだが、きっちり筋肉が付いているので、これまた重い。女のように見えてもやはり男だと誰もが思った。
で、その翌朝。
どうやら、引きずって運んだ際、鼻の頭をすりむいたらしく、あああああああ! 僕の美しい顔がああああああああ! とエルネストが悲鳴を上げたそうだが、そこまでは知らないと訓練兵の子供達全員、そっぽを向いたそうな。
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