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呪われた少女とドラゴン
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昔々、世界には、始まりの少女がおりました。
始まりの少女は、神との間に勇者を生む。それだけのために生きるよう、神様に作られました。
少女は神との間に子をなしました――が、その子は、勇者になれないような、ただの、人の子でした。
二人、三人と子を産みましたが、全てただの人の子でした。
神様は怒りました。そして、勇者が産めぬ少女など、必要ないと。
そして神様は少女に呪いをかけました。成長を奪い、言葉を奪い、聴覚を奪い、味覚を奪い、視覚を奪う呪いを。
その後少女は、ドラゴンの住まう山脈に捨てられました。
立ち尽くす少女、彼女にとって、神様の子を産むことこそ存在意義なのです。感覚をほぼ奪われたうえに、存在意義まで失った少女。
――ああ、私はどうすれば。
そう思うも、言葉にはなりません。
そんな少女の外界とのつながり――触覚が、熱を感じました。
どうやら、山脈に住まうドラゴンが来たようです。
死に対して、恐怖は感じませんでした。なぜなら、存在意義の無い自分が、存在しても仕方がないと思ったからです。
「なんだ、命を感じてきてみれば……ただの、少女か」
肌を、ビリビリと衝撃が襲います。聴覚の無い少女に、ドラゴンの声は衝撃波にしかならなかったようです。
「ふむ、俺が見えぬようだな。それに声も聞こえておらぬようだ……しかも、生きる気もないようだ……ふん、殺す価値もないな」
そう言って、ドラゴンは去っていきました。
そしてしばらくして、再びやってきたドラゴンは、立ったままの少女の傍に宝石のような物を置きました。
「これは、ドラゴンの体内でのみ生成される竜宝というものだ」
そして、ドラゴンは歌うように呪文を紡ぎ―—竜宝と言う宝石は砕け、少女の体内へと入っていきます。
すると、どうでしょう。少女の耳に、音が――
「ふん、不思議そうだな。この竜宝は、強力な解呪作用がある。これを飲んでいけば、神の呪いと言えど、いつか消えるだろう」
これが、始まりの少女とドラゴンの出会いでした。
それから、ドラゴンは毎日竜宝を持ってきては、食べるよう言いました。
一週間後、声のもどった少女は聞きました。
――なぜ、私を生かすの?
ドラゴンは、ふんと鼻を鳴らし、言いました。
「ふん、神が嫌いだからだ。神は身勝手に命を作り、俺を討伐できる勇者を作ろうとしている……まったく、腹立たしいことこの上ない」
そして、ドラゴンは少女に、様々な話を聞かせました、自分に挑んできた者達の、勇ましい話。見てきた、様々な世界の話――
少女は、その話を、もっと聞いていたくなりました。そう言うと、ドラゴンは言いました。
「ならば、もっと生きるのだな。その気持ちを忘れるなよ」
それからしばらくして、少女は、ドラゴンに何かできないかと思いました。
自分に様々な物をくれて、生きたいと思えるようにしてくれたドラゴンに。
そこで、子守唄を歌いました。自分が産んだ子供たちに聞かせようと思っていた、子守唄を――
「人というものは、声に旋律を乗せるのだな……悪くない」
そして、さらに時が立ちました。少女は少女のまま成長が止まってはいるものの、様々な物を取り戻していました。
――ドラゴンさん、ありがとう。何か、歌以外にお礼がしたい。
そう少女が言うと、ドラゴンは長い沈黙のあと。こう言いました。
「……少女よ。俺に礼がしたいのなら……俺との間に、子を宿せ」
少女は嬉しそうに言いました。
――そんなことでよければ、いくらでも。
それから、少女に、ドラゴンとの間の命が宿りました。
と、同時に、視覚も戻りました。
それを、少女はドラゴンに報告しに行ったとき――
少女は、ドラゴンが死にかけていることに、初めて気が付きました。
―――ドラゴン、さん?
「……少女よ。そなたに、最後の話をしようか」
そして、ドラゴンはドラゴンと言う種の話を語り始めました。
「ドラゴンとは、同じ種族同士では殺し合いしかできぬ種族だ。殺し、殺し…俺だけが残った。まあ、死にかけだがな。
神がこういう種族に作ったのだ。忌々しい……だから、ドラゴンではない、殺し合わなくてもいい種族に出会えた時、俺は、嬉しかった。そなたと出会えて、嬉しかったのだ」
そう話しながら、ドラゴンの体は、灰になっていきます。どうやら、死が近づいているようです。
そしてドラゴンは、そっと、竜宝を差し出しました。
「竜宝は、ドラゴンが死ぬときにできる宝石だ。いままで、そなたに与えてきたのは、俺が殺したドラゴンのものだ……そして、俺の竜宝で、そなたの呪いは完全にとかれるだろう……さあ、お食べ……」
少女は泣きました。泣きながら、ドラゴンが差し出した竜宝を受け取り――それを、頬張りました。
すると、少女の体を蝕んでいた成長阻害の呪い。それが、消えたではありませんか。
「ドラゴンさん……ありがとう」
そう少女はお礼を言って――ドラゴンの、命の消えた灰を抱きしめました。
これは、昔々のお話し。ドラゴンを食べたという、始まりの少女のお話し。
始まりの少女は、ドラゴンとの間の子を産み――
その子は、勇者として、命を弄ぶ神へと挑んだそうです。
そして、少女から成長した彼女は、竜の旗を掲げた王国をつくり、その女王として今の世界の、基礎を作りましたとさ。
めでたし、めでたし。
始まりの少女は、神との間に勇者を生む。それだけのために生きるよう、神様に作られました。
少女は神との間に子をなしました――が、その子は、勇者になれないような、ただの、人の子でした。
二人、三人と子を産みましたが、全てただの人の子でした。
神様は怒りました。そして、勇者が産めぬ少女など、必要ないと。
そして神様は少女に呪いをかけました。成長を奪い、言葉を奪い、聴覚を奪い、味覚を奪い、視覚を奪う呪いを。
その後少女は、ドラゴンの住まう山脈に捨てられました。
立ち尽くす少女、彼女にとって、神様の子を産むことこそ存在意義なのです。感覚をほぼ奪われたうえに、存在意義まで失った少女。
――ああ、私はどうすれば。
そう思うも、言葉にはなりません。
そんな少女の外界とのつながり――触覚が、熱を感じました。
どうやら、山脈に住まうドラゴンが来たようです。
死に対して、恐怖は感じませんでした。なぜなら、存在意義の無い自分が、存在しても仕方がないと思ったからです。
「なんだ、命を感じてきてみれば……ただの、少女か」
肌を、ビリビリと衝撃が襲います。聴覚の無い少女に、ドラゴンの声は衝撃波にしかならなかったようです。
「ふむ、俺が見えぬようだな。それに声も聞こえておらぬようだ……しかも、生きる気もないようだ……ふん、殺す価値もないな」
そう言って、ドラゴンは去っていきました。
そしてしばらくして、再びやってきたドラゴンは、立ったままの少女の傍に宝石のような物を置きました。
「これは、ドラゴンの体内でのみ生成される竜宝というものだ」
そして、ドラゴンは歌うように呪文を紡ぎ―—竜宝と言う宝石は砕け、少女の体内へと入っていきます。
すると、どうでしょう。少女の耳に、音が――
「ふん、不思議そうだな。この竜宝は、強力な解呪作用がある。これを飲んでいけば、神の呪いと言えど、いつか消えるだろう」
これが、始まりの少女とドラゴンの出会いでした。
それから、ドラゴンは毎日竜宝を持ってきては、食べるよう言いました。
一週間後、声のもどった少女は聞きました。
――なぜ、私を生かすの?
ドラゴンは、ふんと鼻を鳴らし、言いました。
「ふん、神が嫌いだからだ。神は身勝手に命を作り、俺を討伐できる勇者を作ろうとしている……まったく、腹立たしいことこの上ない」
そして、ドラゴンは少女に、様々な話を聞かせました、自分に挑んできた者達の、勇ましい話。見てきた、様々な世界の話――
少女は、その話を、もっと聞いていたくなりました。そう言うと、ドラゴンは言いました。
「ならば、もっと生きるのだな。その気持ちを忘れるなよ」
それからしばらくして、少女は、ドラゴンに何かできないかと思いました。
自分に様々な物をくれて、生きたいと思えるようにしてくれたドラゴンに。
そこで、子守唄を歌いました。自分が産んだ子供たちに聞かせようと思っていた、子守唄を――
「人というものは、声に旋律を乗せるのだな……悪くない」
そして、さらに時が立ちました。少女は少女のまま成長が止まってはいるものの、様々な物を取り戻していました。
――ドラゴンさん、ありがとう。何か、歌以外にお礼がしたい。
そう少女が言うと、ドラゴンは長い沈黙のあと。こう言いました。
「……少女よ。俺に礼がしたいのなら……俺との間に、子を宿せ」
少女は嬉しそうに言いました。
――そんなことでよければ、いくらでも。
それから、少女に、ドラゴンとの間の命が宿りました。
と、同時に、視覚も戻りました。
それを、少女はドラゴンに報告しに行ったとき――
少女は、ドラゴンが死にかけていることに、初めて気が付きました。
―――ドラゴン、さん?
「……少女よ。そなたに、最後の話をしようか」
そして、ドラゴンはドラゴンと言う種の話を語り始めました。
「ドラゴンとは、同じ種族同士では殺し合いしかできぬ種族だ。殺し、殺し…俺だけが残った。まあ、死にかけだがな。
神がこういう種族に作ったのだ。忌々しい……だから、ドラゴンではない、殺し合わなくてもいい種族に出会えた時、俺は、嬉しかった。そなたと出会えて、嬉しかったのだ」
そう話しながら、ドラゴンの体は、灰になっていきます。どうやら、死が近づいているようです。
そしてドラゴンは、そっと、竜宝を差し出しました。
「竜宝は、ドラゴンが死ぬときにできる宝石だ。いままで、そなたに与えてきたのは、俺が殺したドラゴンのものだ……そして、俺の竜宝で、そなたの呪いは完全にとかれるだろう……さあ、お食べ……」
少女は泣きました。泣きながら、ドラゴンが差し出した竜宝を受け取り――それを、頬張りました。
すると、少女の体を蝕んでいた成長阻害の呪い。それが、消えたではありませんか。
「ドラゴンさん……ありがとう」
そう少女はお礼を言って――ドラゴンの、命の消えた灰を抱きしめました。
これは、昔々のお話し。ドラゴンを食べたという、始まりの少女のお話し。
始まりの少女は、ドラゴンとの間の子を産み――
その子は、勇者として、命を弄ぶ神へと挑んだそうです。
そして、少女から成長した彼女は、竜の旗を掲げた王国をつくり、その女王として今の世界の、基礎を作りましたとさ。
めでたし、めでたし。
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