バルジリス短編集

バルジリス

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ヒーロー適正検査

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「お前は、ヒーロー適正……0だ」

 それが、僕が死んだ日に言われた一言。
 そして、俺が生まれた日に言われた一言でもある。

 僕はヒーローに憧れていた。弱気を助け、悪を挫き、正義を実行するための力と技を備えた、素晴らしい存在。それがヒーローだ。
 僕も、そのヒーローに憧れて、色んなことをした。
 自分よりも重いダンベルを、持ちあげようとした……まあ、無理だったけど。
 鉄の板を、叩き割るほどの拳を身に着けようとした……まあ、拳の骨が割れ欠けたけど。
 一日一善を志して、色んな良いことをした……それも、無駄だったと、僕が死んだ日に気が付いた。
 ヒーロー適正診断装置。それは、法的に職業ヒーローになるための、唯一の方法。ぼくは、その装置の前に立ち、固唾をのんで診断をまった。

 そして、ヒーロー適正が0と言う、絶望的な答えを得た。
 僕は、この日死んだも当然だった。ヒーローになるために生き、ヒーローになるために頑張った僕の全ては、この日無駄になったのだ……

 そして、俺が生まれた。
 俺は、多分、僕と自分のことを言っていたやつが作りだした、自己防衛のための人格なのだろう。でも、それでもよかった。
 俺は、「僕」の持っていない物を持っていた。
 それは、悪意。人を傷つけてやろうという悪意の心。それを持った俺は、僕だった時はできなかったことをやるようになった。
 万引き犯をぼっこぼこにした。
 痴漢犯に、男としてこれ以上ない痛みを与えた。
 いじめをしていたやつを、殴り倒した。
 僕の時にはできなかった、人を傷つける心、それをもった俺は、次々とヒーローのような、人を守るために、悪を傷つけることを行った。
 そして、ある日、ヒーロー適正診断装置の前に再び立った、そして、出た適正値は…30。
 まあ、まあまあの値だろう。そう自分の中で結論付け、また街へと繰り出し、軽犯罪をつぶしていった……

―――本当に?これが、ヒーローなの?

 何かが、心の中で呟いた。
 俺は、目をつむり、答えてやった。

「ああ、これがヒーローだ。悪い奴を傷つけて、弱い奴を助ける、何も問題はないだろ?」

―――違う。僕がなりたかったヒーローは……違うんだ。

 俺は、少しイラっとしながらも、こう答えた。

「何が違うんだ。弱い奴は助けられる、悪い奴はいなくなる。ヒーロー適正だって、30もあるんだぜ?」

――――ヒーローは、僕のあこがれた。僕のなりたいヒーローは……少なくとも、人を傷つけて、笑うような奴じゃない……!

 俺は可笑しく思った。何を言ってるんだ、俺の中の弱い僕は。俺は、笑って何て……
 そう思い、ぼっこぼこにした眼鏡犯罪者の怯える瞳に映る、自分の顔を見た。

 その顔は、笑っていた。

―――僕は、ヒーローの適性がなくったって、少なくとも、犯罪者であっても、人を傷つけて笑うような奴にはなりたくない。人を傷つけて、笑うのがヒーローなら、僕はヒーローなんかに、なりたくない。

 その瞬間、俺は、胸の奥に消えるような感覚を覚えて……
 そして、僕が、もう一度生まれた。

 僕は、相変わらずヒーロー適正は0だけど、ボランティアや、ごみ拾いみたいな、ちょっとした善行をやってる。
 僕は、ヒーローに適正は無くても……良いことは、できるんだって。気が付けたから。
 例え、適正審査の結果が何と言おうと…今の自分が、自分のなりたいヒーローみたいな存在だから。
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