地味子ちゃんと恋がしたい―そんなに可愛いなんて気付かなかった!

登夢

文字の大きさ
1 / 27

1.地味子ちゃんから恋の相談!

しおりを挟む
地味子ちゃんが僕に相談したいことがあると内線電話をかけてきた。入社2年目の彼女の本名は米山《よねやま》由紀《ゆき》。入社後半年の研修を終えて隣の研究開発部に配属されていた。

僕は磯村《いそむら》仁《じん》、企画開発部の課長代理、入社12年目。入社後5年間は研究所で新製品の研究開発に携わっていたが、7年前に本社へ異動してきた。今は新製品の企画開発のプロジェクトマネージャーをしている。

地味子ちゃんが研究開発部に配属になった時にプロジェクトの関係で挨拶に来たが、言葉のなまりから同郷で大学も同じ理系の学部の10年後輩だったことが分かった。

それからは、仕事のことや身の回りのことなどを何かと相談されるようになった。こちらはこれでも独身男性だけど10歳以上も歳が離れていると、もうただのオッサンと認識されているようで少し寂しい気もしている。

「先輩、ちょっと大事な相談があるんですけど、聞いてくれますか?」

「いいけど、今日は仕事が早く終わりそうだから、6時にビルの出口で待ち合わせるかい?」

地味子ちゃんはビルの出口から少し離れたところで待っていた。地味子ちゃんと言うのは僕が勝手につけたニックネームで、セクハラになりかねないから、直接、彼女を「地味子ちゃん」と呼んだことは一度もない。彼女は配属された時からすごく地味な娘だった。外で立っていても地味で全く目立たない。

今でもリクルートスタイルをとおしているし、色気より食い気なのか、顔は真ん丸でコロコロに太っている。それに大きめの黒縁のメガネ、太めの眉毛、化粧もほとんどしていないみたいだ。ヘアサロンには時々は行っているみたいだけど、いつも髪を後ろに束ねているだけだ。

趣味や習い事は特にないみたいで、今は仕事に一生懸命のようだ。いつもニコニコしていて、性格もいいし、仕事はまじめに的確にこなしているみたいで、リーダーの受けもいいと聞いている。

ただ、一見して地味で色気がなくて、デートに誘ったり一緒に歩いたりしたくなるようなタイプではない。だからこちらも気楽に付き合えて相談にものってやれる。先輩、先輩と言ってくるので、面倒も見てやっている。

僕には妹はいないが、まあ、不細工な妹を持った兄のような心境だ。不細工な妹は可愛いというか、もう義務感で面倒を見てやっている。

「知っているスナックがあるから、そこで軽く食べて飲みながら話を聞こうか?」

地味子ちゃんは先輩の僕をすっかり信用しているので後ろから黙ってついて来る。ビルのある虎ノ門から地下鉄で表参道へ向かう。表参道の大通りから少し入った行きつけのスナック『凛』へ入る。まだ6時半位だから客が誰もいない。

「ママ、紹介するよ、同じ職場の後輩の米山さんだ」

「初めまして、ママの寺尾《てらお》 凛《りん》です」

名刺を差し出す。ママは地味子ちゃんを見て微笑んでいる。二人の間には疑いもなく何にもないと分かると見える。

「素敵なママですね。私はこんな女性になりたいんですけど」

「ええ? 相談って何? まあ、何か食べよう。軽食のメニューだけど何がいい? 奢るよ」

「じゃあ、オムライスをお願いします」

「じゃあ、ママ、オムライスを2つ、それから二人に水割りを作って下さい」

すぐに水割りを作ってくれた。それから、しばらくしてオムライスが出てきた。一口、口に入れるととてもおいしい。

ここでオムライスは初めて食べたが、ママの料理はどれも味付けが良くておいしい。地味子ちゃんもおいしいと見えて黙って食べている。これでようやくお腹が落ち着いて来た。

「ところで相談って何?」

「思い切って言います。私、先輩の隣のグループのカッコいい新庄さんが好きになってしまいました」

「仕事一筋ではなかったのか?」

「そうなんですが、このごろは仕事にも慣れてきて、週末にショッピングに出かけると、カップルの姿が目について」

「男性に目が向くようになった?」

「はい、少し寂しいこともあって、時々廊下で会うので素敵な人だなと思うようになって。こんな気持ちは初めてなので、どうしていいか分からなくて?」

「そういうことは、同性の先輩か同僚に相談するものじゃないの?」

「周りに相談できる女性の先輩も友達もいなくて」

「直接、新庄君に言えばいいじゃないか」

「それができるくらいなら先輩に相談なんかしません」

「そりゃそうだな」

「以前、誰かの合同送別会があった時に、友人がどんな感じの女性が好きか聞いてみたそうです」

「それでどうだったの?」

「女優の『綾瀬はるか』だそうです。もう無理です!」

「まあ、そうかもしれないけど」

「でもあきらめきれないんです。何とかならないかと思って」

「このままでは何ともならないし、何ともしようがないね」

地味子ちゃんは思いつめると仕事でもなんでも猪突猛進、一途で分かやすい。でもそこが良いところでもある。真剣に僕を見つめて頼んでいる。

でも近くで顔をよく見ると、結構見た目よりも可愛いのかもしれない。色白で、目は二重瞼だし、鼻も低くない、口も小さめで可愛い。

ただ、顔が真ん丸で少し大き過ぎるかな。それに顎の下に肉がついているし、首も太い。健康的と言えば健康的だけどちょっと太めだ。身長は僕が170㎝だから150㎝位か? 小柄だからなおさらコロコロした感じで『綾瀬はるか』から遥に遠い感じがする。

「うーん、僕が協力できるとしたら、ダイエットの指導くらいかな?」

「ダイエットですか。これまであまり気にしていなかったです」

「まず、今は見た目が健康的すぎるから、少しスリムになったらどうかな。今の若い男はスリムな女の子が好きみたいだから」

「先輩はどうなんですか?」

「僕もどちらかというと丸まると太っている娘よりも普通か、少し細目の方が良いかな、でも痩せ過ぎているも好きじゃない」

「私、父親と二人暮らしだったので、あまりそういうことに関心がなくて。高校生の時は大学受験で精いっぱいで、大学でも男子学生が多かったから、あまり気にしませんでした。入社して周りの女性がスマートなので驚いていました」

「そういうことか。今は気にしないで結構好きなものをお腹いっぱい食べているんじゃないのかな」

「会社が生活の中心ですので、余り考えないで食事をしています。今はお金も自由になって食べたいものが買えるので」

「だから少し過食気味になっていると思う」

「どうすればいいんですか?」

「朝、昼、晩の食事を規則正しく摂ること、お腹いっぱいになるまで食べないで腹8分位にすること、炭水化物、脂肪、たんぱく質、ミネラルをバランスよく食事に入れること位かな。それと間食は取るにしても午前10時と午後3時に少量だけにして、夜食は原則なし。これに気を付ければ徐々にスリムになってくるし、楽に続けられると思う」

「そんなには難しくはなさそうですね」

「僕はこれを気にかけているから、入社以来、体重の増加はほんの僅かで、スーツも同じサイズだ」

「分かりました。言われたとおりに今日から早速やってみます」

「今日からと言うところがいいね。毎日の3食と間食など食べたものを書き出すといいと思う。それを見て直すべきところを教えてあげる」

「お願いします」

「それから、衣料とか、化粧とかは同期の野坂さんに教えてくれるように頼んであげる」

「あの広報の野坂さんですか?」

「ああ、同期で時々飲んだりしているので頼んでみてあげる。都合がつくときにショッピングにでも付き合ってもらうといい」

「お願いします。あの野坂さんなら指導者として申し分ないです。是非頼んでみてください」

「じゃあ、ダイエット頑張ってみて、できるだけ力になるから」

「お願いします」

「それに加えて必要なのは運動だ。朝起きたらベッドの中で、すぐに腹筋30回、腕立て伏せ30回以上はすること。出勤時は一駅手前で降りて、徒歩で出社すること。帰りも同じに。それから」

「まだあるんですか?」

「歩くときは腹式呼吸で、お腹が引き締まるから」

「先輩もこれ全てしているんですか?」

「ああ、いつも気にかけて実行している」

「先輩がスマートなのが分かりました、規則正しい食事と運動ですね、絶対にやり抜きます」

「じゃあ、ここらで引き上げるとするか?」

「ママ、お会計をお願いします」

「もう、おかえり?」

「今日は後輩の相談を聞くために場所を借りただけ、また来るから」

「お待ちしています」

まだ、時間が早いし、このまま一人ここに残るわけにもいかないので、日を改めることにして、今日はこのまま帰ることにした。

地味子ちゃんとは帰る方向が同じなのが分かっている。住まいは極近くで2駅向こうの梶ヶ谷だと聞いている。

高津で先に電車を降りたが、地味子ちゃんは意を決したかのように真剣な顔つきで帰って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

春燈に咲く

naomikoryo
恋愛
【♪♪♪ 本編完結です!! 応援・投票よろしくお願いします(^^)】 春の名をもらいながら、寒さを知って育った。 江戸の外れ、貧しい百姓家の次女・うららは、十三の春に奉公へ出される。 向かった先は老舗呉服屋「蓬莱屋」。 そこで出会ったのは、何かとちょっかいをかけてくる、 街の悪ガキのような跡取り息子・慶次郎だった―― 反発しながらも心に灯る、淡く、熱く、切ない想い。 そして十五の春、女として、嫁として、うららの人生は大きく動き出す。 身分の差、家柄の壁、嫉妬と陰謀、 愛されることと、信じること―― それでも「私は、あの人の隣に立ちたい」。 不器用な男と、ひたむきな少女が織りなす、 時代小説として風情あふれる王道“和風身分差ラブロマンス”。 春の灯の下で咲く、たったひとつの恋の物語を、どうぞ。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

処理中です...