殿下、その真実の愛は偽物です

ミズメ

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「では、わたくしはここで失礼いたしますね。手続きはわたくしにお任せくださいませ。誓約通り、婚約破棄に基づく慰謝料請求もさせていただきます」

 扇子を閉じたユーリアは、二人に向けて淑やかな礼をする。

「ま、待て、ユーリア。誓約とは……」

「まあ、ご存知ないのですか? 殿下は少し、文書を隅々まで読むことをおすすめいたします。おそらくその偽物の『真実の愛』にお支払いされた金額と同じくらいにはなりますわ」

「で、でも、これは、本物なんだ……そうだろう?」

「そうですよぉ! ユーリア様がなんと仰っても、これは本物です!」

 王太子が縋るような顔で男爵令嬢を見遣ると、彼女は力強く頷いた。開き直ったのかもしれない。


「……だが、ユーリアは宝石に詳しいからな……そうだ、一応鑑定してもらおう」

「え!? なぜです?」

「こうして難癖をつけられていては、疑念を払拭しない訳にはいかないだろう。君だって疑われてしまったのだから。私も男爵を疑いたくはないし、逆に我々の言い分が正しいとユーリアに見せつけてやろう」

「~~~っ、はい……」

 なんだか最初の仲睦まじい様子とは違って二人とも慌てているようだが、ユーリアには関係のないことだ。

 二人の勢いが風船が萎むように小さくなってゆくと、それに反比例して周囲のざわめきが大きくなってきた。


「ねえ貴方、私のこのルビーは本物なの!? 光の帯ってなぁに!?」

「特価だと言って薦められたが、まさかこれは……?」

 ユーリアたちのことは見ずに、青くなっている人もいる。

 よく見たら、この夜会にはルビーを身につけている人が多い。

(もしかしたら、男爵家による売り込みが広範囲に広がっていたのかしら)

 そんなことを思いながらパーティーを退席しようと踵を返して出入口へと向かう。

 両親と陛下が登壇されるのはもう少し後の予定だったから、ユーリアがこの場にいない事で驚かせてしまうかもしれない。

 それでも、この場に残りたくはなかった。
 積み上げてきたことが無に帰す虚しさで、今は誰とも話したくはない。

 ユーリアが扉に近付いたところで、扉がひとりでに開いた。向こう側からの来客があったようだ。

 
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