突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~

ミズメ

文字の大きさ
51 / 57
第四章 おおきな一歩

しおりを挟む
 運動会前日。
 わたしは大きな荷物を持って、お母さんと並んで志水家の前に立っていた。
「本当に本当にお世話になりました……!」
 わたしは今日からまた家に帰る。
「ひなちゃんとってもいいこだったから全然大丈夫よ~。ヨウちゃんもお疲れ様!」
「アキちゃんのおかげよ。本当にありがとう。
紫音くんと蒼太くんも、本当にありがとうね」
 お母さんがアキさんたちに頭を下げる。
「本当にありがとうございました。おかげでここまで回復しました」
 わたしの横にはお父さんが立っていて、まだ腕にはギプスがあるけれど、だいぶ痛みはないらしい。
 運動会のために来てくれたお父さんは、暫く休暇を消化したらまたあちらに戻るらしい。
 そろそろ骨がくっつくから……と。
「お世話になりました」
 わたしも同じように頭を下げながら、なんともいえない寂しさが込み上げる。
 最初はあんなにお母さんたちに会いたくてたまらなかったのに、この同居生活にすっかり慣れてしまったわたしがいる。
「またね、ひなちゃん!」
「またな」
 二人に「また」と言ってもらえるのが嬉しい。
 でも今までは同じ家に暮らしていたから、気軽に話しかけることが出来ていたけど、これからまた元に戻ってしまったりしないかな。
 そんな漠然とした不安がある。
「は~~ただいま~~」
 家に戻って、お母さんは荷物を置くと心からそんな声を出す。
 お母さんにとってもひと月ぶりの自宅だ。
 お父さんにとっては……ええと、いつぶりだろう?
 ソファーに腰を下ろしたお父さんは、前に見た時よりもふっくらしている気がする。
「お父さん、なんか前と感じが違うような……」
「あっ! 気付いちゃった? ふふ」
 わたしの声に反応したのはお母さんが早かった。嬉しそうに笑っている。
「実はね、ほら一ヶ月間母さんが来てくれただろう? 毎日美味しいごはんが食べられて……三キロ近く太ってしまってね」
「ふふ、なんでも美味しいって言って食べてくれるから、腕の振るいようがあったんだもの」
「やっぱり母さんのごはんはいいなぁ。ひなとも一緒に過ごしたいし……もう単身赴任やめたい」
「まあ、お父さんったら!」
 ふたりのやりとりを、わたしは微笑みながら眺めている。
 元々仲良しだったけど、この期間でますます仲良しになったようだ。
「ひなちゃんに送ってもらったレシピのおかげね。ありがとう、ひなちゃん。本当にがんばったね」
「ひな、ありがとうな」
「ううん。わたしも楽しかったから大丈夫だよ。アキさんたちも優しかったし、紫音くんと蒼太くんにもいっぱい遊んでもらったの」
 わたしも話したいことがたくさんある。
 でも、【ブラスト】のことは内緒。
 なんだかそんな秘密がわたしの中にあるだけで、すごく大人になった気がする。
「昔は蒼太くんたちとも仲良しだったものねぇ。また仲良しに戻れたなら良かったわ」
「うん、仲良くなれたよ」
「あらまあ~。よかったわ! いつでもお嫁にいけるわね」
 ふふ、とお母さんが笑う。
 お嫁さん……。
 全然想像がつかなくてポカンとしていると、お父さんがワナワナとふるえだした。
 腕が痛むのかな!?
「ひ、ひなをお嫁に……だ、だめだだめだ!」
 と思ったら、何やら思いつめていたらしい。
 悲しい顔をしてそんなことを言っている。
「あーはいはい。全くお父さんったら。じゃあひなちゃん、明日は運動会だから早く夜の準備をしてしまいましょうか。ごはんは何がいい?」
「えっと、煮込みハンバーグ……!」
「分かったわ。ふふ」
 おうちのキッチンにお母さんが立って、わたしはお父さんと学校の話をする。
 久しぶりの日常に、わたしはなんだか泣きそうになった。

 みんなでごはんを食べて、お風呂に入って。
 それから本当の自分の部屋に戻る。
「そういえば、蒼太くんのおうちで場所を間違えちゃったんだっけ」
 部屋の扉を開きながら、わたしは同居の最初の頃のことを思い出していた。
 思えば、あれが全ての始まりだった。
 寝ぼけて部屋を間違えて、蒼太くんたちの秘密を知った。
 それからどんどんメンバーとも知り合いになって……身長のことで悩んでいたわたしの世界は大きく広がった。
 今でもやっぱり頭ひとつ分抜け出した自分の視線のことを思うと、「全く身長なんて気にしない!」なんて風には言えないけど。
 それでも、この自分のことを嫌いだとまでは思わなくなった。
  ガチャリと扉を開けば、帰ってきてすぐに置いたままの鞄がある。
「あ、そうだ、タブレットを充電しておかないと」
 今日はずっとお母さんたちと話していて、タブレットを触ることはなかった。
 それでも寝る前には充電しておかないと。
 金曜日だけど、今日のアオくんの配信を見るのはやめておこう。
 明日も朝が早いし、運動会にわたしはこれまでにないくらい高揚している。
――楽しみだなんて、久しぶり。
 それこそ保育園のときは、運動会という特別なイベントが大好きだった。
 きっとその頃から身長は大きかったけど、全く気にしていなかったもん。
 そんなことを考えていると、タブレットに自然に電源が入り、ホーム画面が開く。
 すると前に蒼太くんに教えてもらったSNSアプリに通知が来ていた。
「わっ、みんなだ……!」
 何事かと思ったら、フレンド申請が四件も来ている。それから、蒼太くんからのメッセージも。
《ひなとこれやってるのがみんなにバレて、みんなに教えてって言われた。ごめん》
 蒼太くんからのメッセージには、そんな言葉とあの黒猫スタンプが添えられている。
「ふふ。いいよ、と」
 それぞれのアイコンの特徴と名前で、誰が誰だかわかる。
 この筋肉アイコンはカネちさんで、綺麗な風景は紫音くん。そしてポップなイラストが千明くんで、お花の写真が委員長さんで間違いない。
 ブラストのみんなだ。
 承認ボタンを押すと、みんなからそれぞれにありがとうスタンプが送られてきて、わたしはみんなにうさぎスタンプを返す。
 一斉にやるとなかなか大変だ……!
 またポコンという音がして、蒼太くんの名前が一番上に表示される。
《明日がんばろうな》
《うん、蒼太くんもね》
《おやすみ》
《おやすみなさい》
「あとはスタンプ……と」
 この前のようなおやすみの応酬にならないよう、バイバイのスタンプもつけて送信ボタンを押す。
 同居が終わって直接言葉を交わすことはもうないけれど、こうしてメッセージのやりとりが出来るようになってうれしい。
「へへ……」
 ついつい変な笑い声が出てしまう。
 そういえば、カネちさんからは当日朝用のストレッチ動画が来てたっけ。
 こうして明日を楽しみな気持ちにさせてくれたのは、他でもないみんなのおかげで。
 わたしはぬくもりに身体を預けるように、ゆっくりと瞳を閉じた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。  大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance! (also @ なろう)

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

処理中です...