魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

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第45話 悪の組織おじさんと舎弟

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 「あ゛~」

 平日の夕暮れ時。

 もうそろそろ梅雨の時期に入ろうとしている今は、夏が近づいていることを感じさせるような暑さが続く日々となっていた。

 されど中年に季節など関係無い。

 相も変わらず某公園のベンチにて、大股を開いて座り、天を仰いでいるので季節もへったくれもない。

 年がら年中、今にも死にそうな声が自然と出てしまう中年タイツである。


 「あ、おじさん」

 「お? ピンクか」


 そんな中年タイツと話すことが最近の楽しみになっている哀れな女子中学生が、この世界に居ることも悲しい事実であった。

 桃川 咲良は帰宅している道中で、中年タイツを見つけたことに小さな幸せを感じて声を掛けた。

 そこに幸せを感じるのは人それぞれだが、花の女子中学生がそれでいいのかと言いたくなる。


 「今休憩中ですか? この時間に会うなんて奇遇ですね」

 「ああ、まぁ、そうだな。今日はこれから残業するから、束の間の休憩を取っている感じ」

 「な、なるほど」


 あまり偏見はよくないが、悪の組織でも残業するのかと気になった咲良である。

 が、そんな二人の時間は新たにこの場に現れた二人の男によって呆気なく消え去ってしまった。


 パラリラパラリラ。

 そんな時代錯誤なバイクのホーンの音が咲良の耳に届いた。

 公園の前にバイクを止め、中年タイツたちの下へやってきたのは、二人の男子高校生だ。

 どちらも白か黒か色が違うだけで、短ランにボンタンという時代錯誤な様相をしている。

 なんといっても特徴的なヘアスタイルであるリーゼントは、色が黒か金かの違いだけで、二人が動くたびにゆさゆさと揺れるのである。

 そう、先日のヤンキーなライダーヒーローである。

 そんな二人はイケメンなので、時代錯誤な格好を差し引いてもプラマイゼロといったところ。


 「! コーヒー買ってきやした!」

 「今、お湯沸かしてドリップコーヒー作りますから!」


 ややマイナス寄りかもしれない。


 この時期に外でドリップコーヒーを選ぶとか、正気の沙汰とは思えなかったのだ。


 咲良は理解が追い付かなかった。

 なぜ先日のライダーヒーローがここに居るのか。

 なぜコーヒーを買ってきたのか。

 なぜ中年タイツのことを兄貴と呼ぶのか。

 なぜこの蒸し暑い時期にドリップコーヒーを選んだのか。

 が、そんな疑問も一旦は消えることになる。

 中年タイツがゆらりと立ち上がって、ヤンキー二人の頭に拳骨を叩き込んだからだ。

 「「いッ!!」」

 「馬鹿か、てめぇらは。なんで熱いの飲ませようとしてんだよ。殴るぞ」

 「もう殴ってます......」

 咲良、ようやく口を開くことができた。

 「え、ど、どういうことですか? なんでお二人がここに......」

 「誰すか、このお嬢ちゃん」

 「もしかしてパパ活中でしたか?」

 ゴッ。黒リーゼントの方の頭上に二個目のたんこぶが作られる。

 中年タイツは説明した。

 「よくわからんが、兄貴兄貴ってしつこいから、諦めてこき使ってる」

 「こ、こき使ってるって......」


 「おい、てめぇら。この子は一般人だ。迷惑かけんなよ」

 「「うぃーす」」


 中年タイツが咲良の正体を隠すため、気遣ってヤンキーどもに嘘を吐いた。

 ここだけの話だが、咲良はそんな中年タイツの気遣いに少しだけ嬉しくなってしまった。もはや少女は末期なのかもしれない。

 ヤンキー二人は少女に自己紹介する。

 「俺は黒崎。こう見えてライダーヒーローやってんだ」

 「俺は白谷だ。同じくライダーヒーローやってる」

 自分で“こう見えて”という評価が微妙なところ。

 咲良は適当に自己紹介して、互いの挨拶を終えた。

 黒崎は中年タイツの後ろへ回り込み、肩を揉み始めた。白谷は持参した扇子で扇ぎ始める。

 ライダーヒーロー二人が悪の組織の戦闘員に尽くすという光景に、咲良は戸惑いを隠せなかった。

 故に思ったことを聞いてしまう。

 「あの、なぜお二人はおじさんを兄貴と呼んで慕っているのですか?」

 その言葉に、黒崎と白谷は互いに見合ってから答える。


 「俺らは感動したんだよ、兄貴の器のデカさにな」

 「ああ。敵対してても相手の過ちを許して怒ってくれる......俺らの目指している“漢”が兄貴なんだってな」


 咲良、二人の話を聞いて開いた口が塞がらない状況に陥る。

 そう言われた中年タイツはというと、


 「ふッ。伊達に年食ってねぇってことだよ」


 満更でもなかった。

 白い仮面の鼻の辺りを人差し指で擦って、照れくさそうにしているのが鼻につく。


 「あ、俺、冷たい缶コーヒーを自販機で買ってきます!」

 「おう。あ、金やっから、自分たちの分も買ってこい」

 「「あざーす!」」

 「あとこの子の分も」

 「「うす!」」

 たった一度会って説教を受けただけなのに、両者のこの良好な関係を目の当たりにして、咲良はなんか胸がモヤッとした。

 だからか、近くの自動販売機まで駆け足で向かうヤンキー二人の背を見ながら、咲良は聞いてしまった。

 「いいんですか? 悪の組織に属する方がヒーローと仲良くして」

 「それ、お前が言う?」

 「いや、私は別に仲良くなんて......」

 そう言い欠けるが否や、中年タイツは天を仰ぎながら口にしてしまう。

 「なんだ、お前にそのつもりはなかったのかよ。俺は少なからず、それなりに親しい仲になったと思ってたんだが」

 「っ?!」

 中年の気持ちが咲良に直撃した。

 咲良は相手にそう思われているとは思いもよらず、素直に気持ちを伝えられたかったことを悔いる。

 「ま、所詮俺らは対立関係であることに変わりねぇ。気楽にやってくのも無理な話か」

 「そ、そんなことッ」

 「缶コーヒー買ってきました!」

 咲良の言葉は続かない。

 ヤンキー二人が四人分の飲み物を抱えて戻ってきたからだ。

 「サンキュ」

 「ほら、お嬢ちゃんは四ツ矢サイダーでいいか?」

 「え、あ、はい。ありがとうございます」

 「お礼なら兄貴に言えよ」

 「それはいいが......さっきなんか言い欠けてたか?」

 「......いえ、別に」

 これは善と悪の壮絶な戦いを記す物語。

 時に魔法少女が素直になれない場面もあることを記す物語である。
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