魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

文字の大きさ
85 / 132

第83話 乙女と乙女

しおりを挟む
 「なぁ」

 「? なに」

 「お前は何してるんだ」


 前回のあらすじ。

 中年タイツの家にやってきた咲良とブルードラゴンは女の争いをしていた。本人たちにその自覚は無いが、場は完全にキャットファイトさながら。

 中年の風邪が更に悪化しそうな状況である。

 以上。


 ブルードラゴンは首を傾げて言う。


 「何って......身体を拭いているだけよ? 汗かいているのでしょう?」


 ブルードラゴン、湿らせたタオルでうつ伏せになっている中年の背を拭いていた。

 もちろん、全身黒タイツ姿の下っ端戦闘員の彼は肌を晒していない。ピタッとフィットしているタイツの上からふきふき、ふきふき。

 中年、されるがままだったが、これは絶対におかしいと思って声を荒らげる。


 「いや、絶対おかしいだろ! なんで同僚に背中拭かれてんだよ!」

 「お風呂入ってないのでしょ?」


 「そうだけど! だからって誰かに拭かせるのはおかしいって!」

 「そうかしら? 私は看病されているとき、使用人に身体を拭いて貰ってたわ」

 「お、お嬢様と一緒にするなよ......」


 などと、うつ伏せの状態だからか、面と向かって言ってこない中年タイツ。

 ブルードラゴンは普段通りの様子で中年タイツの背を拭いているが、実は内心穏やかではない。


 だって意中の相手と触れ合っているから。


 (ハァハァ......なんて引き締まった身体つきなの。ずっと拭いていたい......)


 この女、相当アレである。

 思わず涎が垂れそうになったが、どこか諦めたような口調で話題を変える中年タイツにより、意識を切り替える。


 「はぁ。俺なんか放っておけばいいのによ......。なーにが楽しくておっさんの世話してんだか」

 「ふふ。第一怪位の最強さんに倒れられたら困るもの」


 「ばーか。風邪で死んで堪るかってんだ」

 「だったら早く治しなさい。......近々、この辺で不穏な噂が出始めているわ」

 「......また<ギャンギース>の連中か」


 「いいえ。相手は同業者じゃない......ヒーローよ」

 「......。」


 その言葉を聞いて、中年タイツは黙り込む。

 元々、ヒーローと悪の組織は対立している。キッチンで鼻歌混じりでおかゆを作っている奴はさておき、ヒーローの天敵は悪党で、悪党の天敵はヒーローだと相場が決まっている。

 両者の戦力が拮抗しているのならいい。敵が迂闊な行動に出ないからだ。そんな絶妙なバランスの下、この町の平和は保たれている。

 が、そんな町に招かれざる来訪者がやってきたとあっては笑えない。

 先の件、戦隊ヒーロー<チホーレンジャー>やライダーヒーロー<ヤンキーライダー>のようなレベルならまだ見逃せる。

 が、怪人サンゾウボウズのような実力者など御免被りたい。

 正直、タイツゴッドでも危うい戦いだったのだ。

 無論、戦いには相性というものがあるので、場合によってはタイツゴッドじゃなくても対処できたかもしれない。

 中年タイツはブルードラゴンに問う。

 「なぁ。お前ならサンゾウボウズを倒せるか?」

 「......正直に言えば無理ね」

 「......。」

 ブルードラゴンは続けて言った。

 「私は物体を転移させることしかできない。だから相手を殺めるには、道具や環境を利用しないといけないの」

 ブルードラゴンの言う道具とは殺傷能力のある武器のことだ。環境とは、マリアナ海溝や火山地域へ強制転移させて、敵が自然と滅ぶのを待つ手法である。

 サンゾウボウズの強靭な肉体にはそのどれもが通用しないと予想されるため、ブルードラゴンでは倒せないのだ。

 「おそらく他の四天王も無理よ。サンゾウボウズのスキルとの相性が最悪だもの」

 「見てたのか?」

 「ええ、あなたがスキルを使ったところで引き下がったわ」

 「ま、賢明だな」

 平然と語ってみせるブルードラゴン。中年タイツはまさかあの戦いの場にブルードラゴンが居るとは思っておらず、戦いに巻き込まれずに無事で居てくれたことに安堵する。

 中年タイツは怪人スザクファイヤーと同じで、全力を出すには場所を考えなければならない。

 「四天王でも駄目か......。ロリビャッコもだろ?」

 「あの子は戦闘力で言えば群を抜いているけど、たぶん搦手で負ける感じね。単純だもの」

 「あ、ああ、たしかに」

 思い返せば、ロリビャッコは自分が全力を出す前に、相手の攻撃をわざと受けたり、様子見しながら戦闘を続けることが多い。

 自分が全力を出すと相手が死ぬからだ。だから少女は不器用にも手加減できるかどうかを吟味しているのである。

 相手が自身と実力が拮抗していたら、命取りになるかもしれない戦法なので、ロリビャッコもサンゾウボウズに勝つには工夫が必要だろう。

 と、二人が会話していたところで、部屋のドアが開かれた。

 「おじさん、おかゆできましたよ――って! 何しているんですか、ブルードラゴンさん!」

 入ってきたのはエプロン姿の咲良だ。

 自信満々でおかゆをお盆に乗せてやってきた女子中学生は、ブルードラゴンが中年タイツの背に触れている場面を目の当たりにして驚愕する。

 中年タイツは騒がしくなる予感がした。

 ブルードラゴンは湿らせたタオルを見せつけるようにひらひらさせて言った。

 「彼の汗を拭っているだけよ」

 若干、勝ち誇ったようににんまりしながら。

 「なんて羨ま――じゃなくて、お付き合いもしていないのに、異性の身体に触れるのは端ないですよ!!」

 「ふッ。何を今更。大人はこれくらいのこと当然なの。お子様は黙ってなさい」

 「な?!」

 「当然じゃないし、恥ずかしいからもう止めてくれ」

 「あら照れてるの?」

 「照れてるっていうか、なんか

 「「え?」」

 「いや、ブルードラゴンが拭いても拭いても上からなんか垂れてきて、湿ってくのを感じんだよ。なんか塗ってる?」

 ここでブルードラゴン、思い返してハッとする。

 そういえば、意中の相手の背中に触れたことに興奮して、口からなんか涎的な液体を溢れた覚えがあった。

 普通にやべぇ女である。

 ブルードラゴンは明後日の方向を見つめて言う。

 「......気のせいよ」

 「そうか?」

 「背中は拭き終わりましたね! さぁ、おじさん、私が作ったおかゆを食べてください! 私が作った!」

 「え、あ、はい」

 これは善と悪の壮絶な戦いを記す物語。

 時として、やべぇ女は割と身近に居ることを教える物語でもあった。

 「はい、あーん」

 「え゛」

 「ちょ! そこまで許した覚えないわよ!」

 続く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...