魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

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第90話 悪の下っ端おじさんとギャル二人

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 「あ゛~」

 平日の昼過ぎ。

 平和な町の長閑な公園に、中年の死にかけの声が響く。公園の周りの木々、もしくは建物からか、蝉の鳴き声が喧しく聞こえてくるが、そんな声に混じって、公園のベンチから中年ボイスをお届け。

 季節関係なく、365日漏れ出る鳴き声だから、風情もへったくれもない。

 そんな中年は青空を見上げながら、ぼそりと呟く。


 「蝉になりてぇ......」


 どんな人生を歩めば、こんな言葉を吐露してしまうのだろうか。

 すると、この公園に見知った人物がやってきた。


 「あ、、あのおじさん、この前私たちを説教してきたおじさんじゃない?」

 「げ、なんで居んだよ」


 ギャルキュアの二人だ。

 褐色肌の本名は星崎 金恵。今日も今日とて着崩した制服を纏い、あらわになった胸元は汗と日の光で艶っぽかった。

 白色肌の本名は茂上 銀華。金恵と同じく、着崩した制服で、丈の短いスカートを穿いていた。発育の良い二人は女子高生でありながら非常に艶めかしい。

 そのまま公園を通り過ぎようとした二人だが、中年タイツがそんな二人を呼び止めたことで、それは叶わなくなる。


 「挨拶くらいしてけよ」

 「「......。」」


 これが昭和の人間か。そう思う二人は、気乗りしないまま中年の下へ向かう。


 「私たちに何の用?」

 「お、もう元気になったか? この前は泣かせちゃったみたいで悪かったな」

 「っ?! こ、このッ」

 「ま、まぁまぁ。ここで喧嘩するのはやめようよ」


 喧嘩は止めるが、戦いはしちゃいけないと言わないのが痛いところ。


 「てか、お前らまだ学校の時間だろ。なんでここに居るんだよ」

 「は? そんなの私らの勝手じゃん」

 「もしかして仮病か?」

 「熱っぽいから早退した~」

 「かー。ガキは気楽でいいよな~」


 などと、中年が馬鹿にするように言うもんだから、カチンと来た二人は中年タイツが座っているベンチの両隣に座った。

 三人座れるベンチだからか、中年が大股開いて座っていたところにJKが二人。絵図的には完全に事案ものである。通行人も多くは無いが、確かに居る状況だ。


 「え、なに」


 思わず中年タイツがビクッと肩を震わせて身構えた。

 そんな中年の動揺を察してか、銀華が意地の悪い笑みを浮かべながら答える。


 「ふふ、説教おじさん、もう私たちに命握られてるような状況だよ~」

 「は?」


 「私たちがここで叫んだり通報したら、どうなるのかな~?」

 「っ?!」


 「駆けつけてきた警察にはこう言う、『このおじさんがいきなり抱き着いてきた』って」

 「な?! そ、そそそそんなこと鵜呑みにするほど日本の警察は馬鹿じゃねぇ」


 「どうかな~。可愛くてぴちぴちな女子高生と女に飢えた中年男......果たしてどっちの言葉を信じるかな~」

 「だ、誰が女に飢えてんだ」

 「はッ。男なんてそんなもんでしょ」


 と言いながら、黒ギャルがもう一段シャツのボタンを外して、露わになった胸元を中年に見せつける。


 中年は黒の肌に汗ばんだ谷間を思わず凝視――


 「鼻の下伸ばして......あ、あれ?」

 「......。」


 ――していなかった。


 じっと金恵の顔を見つめていた。胸ではなく顔を、だ。そのせいで緊張する様子を見せる黒ギャル。

 「な、なんだよ。も、もしかして我慢して――」

 と、言い掛けたところで、中年タイツがデコピンをお見舞いする。

 「いたッ」

 「金ちゃん?!」

 「はぁ。お前なぁ、もうちょっと自分を大切にしろよな」

 「何を言って......」

 「俺が本当に女に飢えた男だったらどうする。お前ら、この前俺に勝てなかっただろ。力づくで嫌なことされるんだぞ」

 「っ?! そ、それは......」

 「確かに二人は可愛いし、その、なんだ、男好きする容姿だと思うよ。でも自ら襲われることはするな」

 「......。」

 金恵は少し頬を染めてそっぽを向いた。

 シャツのボタンを付け直し、ぼそぼそとなんか呟く。

 「べ、別に私だって色仕掛けするために肌晒しているわけじゃないし。それに誰にだって見せているわけじゃないし......」

 (あ、そういえば金ちゃん、昔から恋人にするなら“正しいことを正しいと言える人”って言ってたっけ)

 「え、なんて?」

 銀華、友人を救おうと別の話題を切り出す。

 「私気になってたんですけど、説教おじさんってなんでそんなに強いのに下っ端戦闘員なんてやっているんですか~」

 「え、ああ、まぁ、昔ちょっとな。どうしても倒したいヒーローが居てな。そいつを倒すために色々と頑張ったらこうなった」

 「説明雑すぎ」

 「結局倒せたの?」

 「......ああ、倒したよ」

 そう言って、どこか遠くを見つめる中年は、何かを思い出して懐かしんでいるようだった。金恵は思ったことを言ってしまう。

 「昔の話とは言え、あんたに勝てるヒーローが居たなんてねー」

 「俺も昔は弱かったぞ。お前らにも勝てないくらいな」

 「それを言われる私たちの身にもなれよ」

 「まぁでも、戦い方は褒められたもんじゃないが、お前らはかなり強い方だと思うぞ」

 「「え?!」」

 中年の素直な感想に、ギャル二人は聞き返した。

 「私たちっておじさんから見ても結構強い感じ?」

 「ああ。あんまこういうこと言うのもアレだが、うちのベテラン怪人のカメアタマダブルを倒せるんじゃないかな。第六怪位の」

 「マジ?! やっぱ私ら強かったのか~」

 「おう。だから自信持っていいぜ。俺が保証してやる」

 「ふ、ふーん? 別に怪人に褒められても嬉しくないわ」

 「そ、それね~」

  そう言われ、二人はどこか照れた様子を見せる。本人たちは悟られまい隠しているつもりだが、褒められて喜ぶ若者の反応など中年にはバレバレだ。

 「それにお前ら、まだ覚醒してないだろ。覚醒したらもっと強くなるんだろうな」

 「は? 覚醒? そんなのできるわけないじゃん」

 「ねー。あれってただの噂話でしょ。覚醒できるヒーローが居るなんて聞いたこと無いよ」

 「......。」

 ここで中年、魔法少女<マジカラーズ>の面々を思い出す。

 (あいつら、三人ともほぼ同時期に覚醒したよな......)

 怪人からどんな理屈でヒーローが覚醒するのか知らないが、ギャル二人の様子を見ると、ヒーローが皆覚醒できるとは限らないらしい。

 しかし中年タイツはある考えに至っていた。


 (おそらく、どのヒーローも化けるはず......)


 マジカルピンクも、マジカルブルーも、マジカルイエローもそれぞれ思いは違えど、覚醒の原点は感情にあった。


 「覚醒......ねぇ」


 そうぼやく中年を他所に、ギャル二人は何やらスマホを取り出した。

 中年はもしや通報されるのかと心配したが、銀華が放った言葉で勘違いだと察する。


 「せっかくだし写真撮ろ~」

 「え、何がせっかくなんだよ」

 「なんとなく? 『この人に負けました~』って投稿しよ」

 「それ投稿して大丈夫なの?!」


 これは善と悪の壮絶な戦いを記す物語。

 時として、ギャル二人に中年が弄ばれることを記す物語でもあった。

 「はい、ギャルピ」

 「ギャルピ~」

 「え、なんで手逆さ」

 続く。
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