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2章 美幼女の秘密
13 ミムルちゃんの母親
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◇
あの女に手をあげられそうになった時、駆け付けてくれたのは近所に住むシュリーさんという女性だった。
「はい、少し甘めに作ったホットミルクよ。ちょっと飲むだけでも落ち着くと思うわ」
「(ペコリ)」
「ふふっ、いいのよミムル。ホントに遠慮してばっかりなんだから……
もっと頼ってくれて良いのよ?」
「……」
近所に住んでいるらしいシュリーさんは、旦那さんとカインズさんが仲良しらしく、今日も二人で日帰りクエストに行っているんだとか。
そして、時々カインズさんが貰ってくる日用品や食料品は、シュリーさんがおすそ分けしてくれていたようだ。
なんともありがたい。
「ふふっ、いつの間にか新しい家族が増えていたのね。
初めまして、私はシュリーよ。よろしくね」
「きゅう!(こちらこそ、よろしくお願いします!)」
「あなたの名前は何て言うのかしら……って言っても、お話できないわね」
「きゅっ、きゅうぅん!(すみません、でも人間の姿に戻れたらちゃんと自己紹介させて下さい!)」
「(クイッ、クイッ)」
「ん?どうしたの、ミムル」
ミムルちゃんがシュリーさんに紙を見せてあたしを指さしている。
きっと名前を書いた紙を見せて教えてくれているんだ。
一生懸命あたしを紹介しようと文字を書いているミムルちゃんの行動が嬉しくて、思わず膝の上に飛び乗って身体をスリスリとくっつけてしまった。
嬉しそうにあたしを撫でてくれるミムルちゃんと、教えてもらった名前を早速呼びながら、シュリーさんはあたしの頭を撫でたりミルクをくれたりした。
しばらく和やかに過ごし、ミムルちゃんの緊張感も溶けてきた頃、シュリーさんはミムルちゃんを怖がらせないよう手を握りながら先ほどの事について確認してきた。
「ミムル……あなた、いつからジュリアにあんなコトを?」
「……っ」
「違うの。責めてるわけじゃないの。
むしろ、今まで気づいてあげられなくてごめんなさい」
「(フルフル)」
”ジュリア”というのは、あの女の名前らしい。
やはり酒場で働いてる女性のようで、以前からカインズさんにしつこくアプローチをしては受け流されていたようだ。
(良かった。カインズさん以外にも、ちゃんとミムルちゃんのことを思ってくれる人が近くにいたんだね)
シュリーさんは、カインズさんがどれだけミムルちゃんを好きか、どれだけ可愛いかを周囲に至る所でアピールしているんだと教えてくれた。
カインズさんは、付き合いでたまに酒場に行くことはあるけど、少し話をしたら「愛娘がいるから帰る!」と言って帰るので、周囲の人からも”溺愛パパ”として有名になっているらしい。
それを聞いたミムルちゃんは、恥ずかしそうに手で顔を覆いながらも、すごく嬉しそうだ。
「ミムル、カインズはあなたのことをお荷物だなんて思ったことは一度もないはずよ。むしろ、ミムルの両親を守れなかったことを申し訳なく思ってるくらいなの」
「!!……(フルフルフルッ)」
「わかってるわ。ミムルもカインズを責める気持ちはないのよね」
「(コクコクッ)」
(ミムルちゃん……なんて良い子……!!!!)
でも、良い子だからこそ“カインズさんに迷惑をかけたくない”って気持ちが強くて、一人で何でも抱え込んだり飲み込んだりしてしまうんだろう……
(……昔の、お父さんとお母さんを立て続けに亡くしたあたしと同じだ……)
ミムルちゃんと共通点があることは嬉しいけど、内容的に素直に喜べることではない。
「ミムル……以前も言ったことあるけど、やっぱりうちの子になる気はない?」
「……(ピクンッ)」
「きゅ…?(え…?)」
「やっぱりミムルには“母親”が必要だと思う。幸い私達の家に子供はいないから、ミムルさえよければ……」
真剣な顔で伝えるシュリーさんは、優しく包み込むようにミムルちゃんの手を握っている。
きっと心から想っている言葉なんだろう。
(…ミムルちゃんがシュリーさんの子供になったら、カインズさんとは近所だけど別々の生活になるってことだよね……)
クエストや狩りを終えて帰宅するカインズさんは、血だらけだろうが、泥だらけであろうが、汗だくであろうが、毎日あたしやミムルちゃんがどんなに嫌がってもまずハグしようとしてくる。
素直に受け入れる時もあるけど、さすがに自分達に被害がありそうなときはミムルちゃんがフライパンを装備するというのが恒例化していた。
(ミムルちゃんがもしシュリーさんの娘として引き取られたら、そんなやりとりもできなくなる……?)
カインズさんが味付けに失敗した料理を嫌な顔しながらも全部食べるミムルちゃんも、お風呂上りにタオル一丁で歩き回るカインズさんを注意するミムルちゃんも、カインズさんがいないときに一生懸命文字を練習するミムルちゃんも、練習した文字を間違えて指摘するカインズさんにぷりぷり怒るミムルちゃんも、当たり前だと思っていたアレコレが全部当たり前じゃなくなるかもしれないと思うとすごく寂しく感じた。
(……いやだ、今の三人の生活がなくなるだなんて……)
でも、言われた通りミムルちゃんには“母親”も必要だと頭では理解している。
(……―――――だけど、一番大事なのはミムルちゃん自身がどうしたいかだよね)
シュリーさんの娘になりたいか
今まで通りカインズさんと一緒に生活したいか……
「きゅぅぅん……(あたしは何があってもミムルちゃんの味方だから、好きに選択して良いんだよ)」
「……(なでなで)」
もしミムルちゃんがシュリーさんの娘になりたいと言ったら、少し寂しいけど受け入れよう。
でも、この家にいることを望むなら、あたしが全力で守ってあげよう。
今はワンコだけど、いつか元の人間の姿になれる日が必ず来るはずだから……
(あたしがワンコじゃなくて人間の姿に戻れたら、母親にでも何でもなってずっとそばにいてあげるのにね……―――――――)
あたしがそう思った瞬間と同時に、急に辺り一面がパァ――――――ッと真っ白な光に包まれた。
あの女に手をあげられそうになった時、駆け付けてくれたのは近所に住むシュリーさんという女性だった。
「はい、少し甘めに作ったホットミルクよ。ちょっと飲むだけでも落ち着くと思うわ」
「(ペコリ)」
「ふふっ、いいのよミムル。ホントに遠慮してばっかりなんだから……
もっと頼ってくれて良いのよ?」
「……」
近所に住んでいるらしいシュリーさんは、旦那さんとカインズさんが仲良しらしく、今日も二人で日帰りクエストに行っているんだとか。
そして、時々カインズさんが貰ってくる日用品や食料品は、シュリーさんがおすそ分けしてくれていたようだ。
なんともありがたい。
「ふふっ、いつの間にか新しい家族が増えていたのね。
初めまして、私はシュリーよ。よろしくね」
「きゅう!(こちらこそ、よろしくお願いします!)」
「あなたの名前は何て言うのかしら……って言っても、お話できないわね」
「きゅっ、きゅうぅん!(すみません、でも人間の姿に戻れたらちゃんと自己紹介させて下さい!)」
「(クイッ、クイッ)」
「ん?どうしたの、ミムル」
ミムルちゃんがシュリーさんに紙を見せてあたしを指さしている。
きっと名前を書いた紙を見せて教えてくれているんだ。
一生懸命あたしを紹介しようと文字を書いているミムルちゃんの行動が嬉しくて、思わず膝の上に飛び乗って身体をスリスリとくっつけてしまった。
嬉しそうにあたしを撫でてくれるミムルちゃんと、教えてもらった名前を早速呼びながら、シュリーさんはあたしの頭を撫でたりミルクをくれたりした。
しばらく和やかに過ごし、ミムルちゃんの緊張感も溶けてきた頃、シュリーさんはミムルちゃんを怖がらせないよう手を握りながら先ほどの事について確認してきた。
「ミムル……あなた、いつからジュリアにあんなコトを?」
「……っ」
「違うの。責めてるわけじゃないの。
むしろ、今まで気づいてあげられなくてごめんなさい」
「(フルフル)」
”ジュリア”というのは、あの女の名前らしい。
やはり酒場で働いてる女性のようで、以前からカインズさんにしつこくアプローチをしては受け流されていたようだ。
(良かった。カインズさん以外にも、ちゃんとミムルちゃんのことを思ってくれる人が近くにいたんだね)
シュリーさんは、カインズさんがどれだけミムルちゃんを好きか、どれだけ可愛いかを周囲に至る所でアピールしているんだと教えてくれた。
カインズさんは、付き合いでたまに酒場に行くことはあるけど、少し話をしたら「愛娘がいるから帰る!」と言って帰るので、周囲の人からも”溺愛パパ”として有名になっているらしい。
それを聞いたミムルちゃんは、恥ずかしそうに手で顔を覆いながらも、すごく嬉しそうだ。
「ミムル、カインズはあなたのことをお荷物だなんて思ったことは一度もないはずよ。むしろ、ミムルの両親を守れなかったことを申し訳なく思ってるくらいなの」
「!!……(フルフルフルッ)」
「わかってるわ。ミムルもカインズを責める気持ちはないのよね」
「(コクコクッ)」
(ミムルちゃん……なんて良い子……!!!!)
でも、良い子だからこそ“カインズさんに迷惑をかけたくない”って気持ちが強くて、一人で何でも抱え込んだり飲み込んだりしてしまうんだろう……
(……昔の、お父さんとお母さんを立て続けに亡くしたあたしと同じだ……)
ミムルちゃんと共通点があることは嬉しいけど、内容的に素直に喜べることではない。
「ミムル……以前も言ったことあるけど、やっぱりうちの子になる気はない?」
「……(ピクンッ)」
「きゅ…?(え…?)」
「やっぱりミムルには“母親”が必要だと思う。幸い私達の家に子供はいないから、ミムルさえよければ……」
真剣な顔で伝えるシュリーさんは、優しく包み込むようにミムルちゃんの手を握っている。
きっと心から想っている言葉なんだろう。
(…ミムルちゃんがシュリーさんの子供になったら、カインズさんとは近所だけど別々の生活になるってことだよね……)
クエストや狩りを終えて帰宅するカインズさんは、血だらけだろうが、泥だらけであろうが、汗だくであろうが、毎日あたしやミムルちゃんがどんなに嫌がってもまずハグしようとしてくる。
素直に受け入れる時もあるけど、さすがに自分達に被害がありそうなときはミムルちゃんがフライパンを装備するというのが恒例化していた。
(ミムルちゃんがもしシュリーさんの娘として引き取られたら、そんなやりとりもできなくなる……?)
カインズさんが味付けに失敗した料理を嫌な顔しながらも全部食べるミムルちゃんも、お風呂上りにタオル一丁で歩き回るカインズさんを注意するミムルちゃんも、カインズさんがいないときに一生懸命文字を練習するミムルちゃんも、練習した文字を間違えて指摘するカインズさんにぷりぷり怒るミムルちゃんも、当たり前だと思っていたアレコレが全部当たり前じゃなくなるかもしれないと思うとすごく寂しく感じた。
(……いやだ、今の三人の生活がなくなるだなんて……)
でも、言われた通りミムルちゃんには“母親”も必要だと頭では理解している。
(……―――――だけど、一番大事なのはミムルちゃん自身がどうしたいかだよね)
シュリーさんの娘になりたいか
今まで通りカインズさんと一緒に生活したいか……
「きゅぅぅん……(あたしは何があってもミムルちゃんの味方だから、好きに選択して良いんだよ)」
「……(なでなで)」
もしミムルちゃんがシュリーさんの娘になりたいと言ったら、少し寂しいけど受け入れよう。
でも、この家にいることを望むなら、あたしが全力で守ってあげよう。
今はワンコだけど、いつか元の人間の姿になれる日が必ず来るはずだから……
(あたしがワンコじゃなくて人間の姿に戻れたら、母親にでも何でもなってずっとそばにいてあげるのにね……―――――――)
あたしがそう思った瞬間と同時に、急に辺り一面がパァ――――――ッと真っ白な光に包まれた。
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