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3章 うれしはずかし新生活

30 攫われた二人2 inカインズside

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日頃からミムル一人で留守番する事が多いので、この家はシュリーの魔法で結界が張られている。

問答無用で近づけないような物騒なモノではなく、あくまで見ず知らずヤツが勝手に入らないようにする最低限の防犯用だ。
そのため、顔見知りが家に来てミムルがドアを開けてしまうと簡単に入る事ができてしまう……というモノでもある。

「ミムル達は誰かが来た事でドアを開けた……そして、連れ去られたんだと思う」
「という事は、犯人は顔見知りの誰か……ってわけか」
「あぁ……この町は俺の故郷でもある。ほとんどが顔見知りだから知らない奴の方が少ないな」
「カインズ、何か心当たりはない?カインズに恨みや妬みを持った男や女っている?」

恨みや妬み……まったくないとは言わないが、それはあくまで昔の話だ。
何度か男友達の彼女が勝手に俺に惚れて別れたりはあったが、そんな頃の友人達はすでに結婚して家庭を持っているし、そいつらはミムルの事も気にかけてくれている。

ミムルが来て間もなくは、溜まった欲を吐き出すためだけにごくたまに娼館に行っていたが、最近は狩りやクエストで発散するようになったからここ数か月は女を抱いていない。
……昔なら考えられない事だな。

「昔だって後腐れのありそうなヤツには手を出してないし、この町に戻って来てから数回娼館には行ったが、ここ数か月は全く行っていないし、女とも会ってない」
「え、嘘!あのカインズが??……あ、だからミカヅキにはすぐに襲いかかっちゃったのね、可哀そうに…ミカヅキ」
「ミカヅキってミムルとも打ち解けて、カインズの家で暮らしてる女だよな?もう手を出したのか?」
「うるさい!今そんな話をしてる場合じゃ……」
「それがね、手は出してるけどミカヅキはまだ”処女”なのよ!だから珍しくカインズってば本気……」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!今はそんな事はなしてる場合じゃねぇって言ってんだろうが!!
 ミカヅキとミムルを早く見つけて助ける事を最優先に考えろ!!!」

……そうだよ、まだミカヅキは”処女”のままだよ。
今後、俺がミカヅキの”処女”を美味しくいただく予定なんだよっ!!

少し前に「もう少し待って」って言ってたのは、間違いなく俺に処女をくれるけど心の準備か何かでもう少し待って欲しいって意味だったんだろう。
さりげなく際どい事までして、少しずつミカヅキに気持ち良い事に慣れさせ、順調に心も身体も開いて来てたのに……

もう少しで”いいよ”ってGoサインがミカヅキから出るだろうトコロまで来てたって言うのにっ!!!!


「ミカヅキに少しでも手を出しやがったら、殺す……」
「……ミカヅキを想う気持ちは間違いないんでしょうけど、よこしまな気持ちが多分に含まれてるわよね、コレ…」
「まぁな。でもそれがカインズこいつだ。本気で怒ってる時のこいつの勘は驚くほどに冴えてるんだからそっとしておこうぜ」
「そうね。でもなぜかしら……ミカヅキの場合、救出された後の方が大変な気がするわ……」
「ははっ、それは違いねぇな」


激しい怒りを覚えながらも、なるべく冷静にシュリーやランスと心当たりや今後の行動について段取りを決めていると、ある一つの可能性に辿り着いた。


「お前が相手をした奴じゃないならアレじゃね?逆に相手にされなくて恨んでる奴が犯人とか?
 そんなヤツもたくさんいそうだよな、お前」
「だとしても、そんな声かけてきたヤツなんかいちいち覚えていられねぇよ……顔すら覚えてないのに…」
「!!!!!……ちょっと待って!!それだわ!!!」
「「???!!!」」

ランスの投げやりな発言に、シュリーが何かを思い出したようだ。

「あいつよ!ジュリアよ!!
 酒場でカインズに声かけたけど、まったく相手にされてなかったジュリア!!」
「は?…ジュリアって誰だ?」
「あぁ!あの酒場のエロい店員か!!
 確かにカインズを気に入ってたみたいだけど、何でそいつなんだ?」
「だってあの女、何度もこの家に来てるもの」
「「え?」」
「カインズを訪ねてきては、ミムルに酷い事言って帰るらしいわよ。
 泣いてるミムルを慰めたり、追い返した事もあるってミカヅキが言ってたわ…」
「!!!!」

ミムルがそんな事をされているなんて知らなかったし、そんなミムルをミカヅキが慰めてる事も知らなかった……

「……二人とも、カインズに心配かけたくなかったのよ。信用してないわけじゃないわ。
 私だって直接聞いたわけじゃないもの……」
「……わかってる、だけど……」
「とにかく、今は二人を探すのが先決よ。たぶんだけど、町で”カインズに嫁ができた”って噂を耳にしたか、直接見たかしたんでしょうね……」
「うわぁ…はた迷惑な話だな。…っし、まずは情報集めに行くか!
 とりあえず俺は近隣に目撃情報や不審な奴らがいなかったか聞いてくる」
「カインズ、ミカヅキとミムルの持ち物を何か貸してもらえる?魔力を探ってみるわ」
「わかった。……俺は酒場へ(殴り込みに)行ってくる……」
「……程々にしておけよ」
「ミカヅキ達の目の前で殺っちゃダメよ。せめて見えないところでね!」




こうしてわずかばかりの手がかりを頼りに、俺達は連れ去られたミカヅキやミムルを探すための行動を開始する事にした。
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