普通を貴方へ

涼雅

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予期せぬお揃い

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雅空さんから連絡が来てから3日。

今日は彼とお昼ご飯を食べる日

結局、約束を交わしたあの日はなかなか眠ることが出来ず、就寝についたのは0時をまわってからだった

3日前でそんな状態なのだから、勿論、昨日も満足に眠れなかった

早く寝よう早く寝よう、と思うと更に目は冴えていくため、僕は眠ることを諦めた

無理に寝る必要は無い、大学の課題を進めよう

と開き直ったのであった

そう、つまり。

いま僕は寝不足。目の下にくっきりと隈ができてしまった

課題も進んで充実しつつもほぼ徹夜状態

こんな状態で雅空さんに会うのは正直気が引けたが、眠ることを諦めた選択をしたのは僕だ。自業自得。

おかしなテンションのまま迎えた約束の日は、当たり前のようにテンションが高かった

予定よりも少し早く待ち合わせ場所に行くと、黒髪の男性が姿勢よく佇んでいる

彼の姿とわかった瞬間、昨夜から今にかけてのテンションは程よく落ち着いていった

くるくるとカールされた黒髪は相変わらずで、遠目から見てもわかる、イケメン。

紺色のだぼっとした緩めのセーターに、黒のスキニー。

落ち着いた色で統一された服装は前回会った時とはまた違った印象を与えた

前回あった時はワイシャツに焦げ茶の7分裾のズボンを履いていた

かっちりした服装ながらもどこか余裕のある出で立ちがかっこよかったのを覚えている

緩めのセーターとすらっとしたズボンとのギャップに思わず魅入ってしまう

近づいていけば、黒縁の眼鏡をしていることに気がついた

「雅空さん、お待たせしました」

「あぁ、舞桜くん。

 全然待ってないから大丈夫」

スタイルの良いイケメンは言うことまでもイケメンなのか。

「…この前のスキニーもいいけど、今日の緩いズボンでもいいね。似合ってる」

不意に服装を褒められ思考が止まる

今日の僕の服装は全体的に緩め。

サルエルパンツに大きめなパーカーを羽織った

今日の雅空さんのパーフェクトな服装を見て、次会うときは全力でお洒落しようと心に決めた

「そんな…ありがとうございます

 雅空さんもすごく、似合ってます。かっこいいです」

そんな無難なことしか言えなくて語彙力が欲しくなる

小説を読もう。

「ありがと」

ふわっと笑った彼は先日と同じような微笑みをマスク越しにしてくれた

それも束の間

「あれ……」

疑問の音を発した後、雅空さんの手がこちらに近づく

「隈、できてる。遅くまで何してたの」

そっと彼の親指で撫でられたのは黒くなった目の下。

頬に手を添えるようにして優しくなぞる彼の指は少し冷たかった

「あ、いやこれは……」

少し怒っているような目にどもってしまう

雅空さんの方が少し身長が低いため必然的に上目遣いになる彼は、ムッとした顔をした

「……大学の課題?もしかして今日都合悪かった?」

微量ながらも声を荒らげる彼はその勢いでズイ、と僕の腕を引っ張った

それに踏ん張り、彼の手に自分のそれを重ね、握った

「都合悪くなんかないです!そもそも、今日行こうと言ったのは僕の方ですし…!

 まあ、大学の課題はやってたんですけど、それもまだ全然時間あるやつです」

「そう、なの…?

 じゃあなんでそんなことしてたの。早く寝ないと体調悪くするよ?」

腕はそっと離れたものの、まだ少し怒っている彼はじーっと見詰めて来ている

…これが27歳?馬鹿言うな可愛すぎるだろ

「あの、楽しみで、それで…眠れなくて…」

正直にそう言えば虚をつかれたように目を開いた

「……なんだ、そういうこと。」

「はい、心配かけちゃってすみません…」

素直に謝るとさっきとは打って変わった優しい笑み

「そういうことならしょうがないよな

 俺も、楽しみでなかなか眠れなかった」

いたずらっ子のように笑うと彼はマスクと眼鏡をずらした

真っ白な肌に黒い跡

「…隈、できちゃったんだよね」

人のこと言えないのにね、なんて困ったような顔をする雅空さん

その表情にぎゅっと胸が締め付けられる感覚。

苦しくないけど苦しい、矛盾の気持ち

それに気が付かないふりをして、彼の隈をすっとなぞった

「…お揃い、ですね」

ちゃんと寝てくださいね、と黒から手を離した

軽く頷いた彼はマスクと眼鏡を定位置に戻して

「お昼、食べよっか」

そう言って歩き出した

お店に着くまでの道中

隈を隠すために、普段はしない黒縁眼鏡をして来たのだと言い、「怒ってごめんね」と謝られた

正直、会って間もない、互いに知らないことの方が多いのになんで気にかけてくれたのかわからないけれど、それが不快ではないことは確かだ。

むしろ、嬉しかった

申し訳なさそうに形のいい眉を下げる彼に「大丈夫です、次は早く寝ますね」と返した
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