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歪
しおりを挟む事の発端は分からない
ある日突然、声が出なくなった
喉の調子は良かったし、声が出なくなるような予兆など感じられなかった
寧ろ陽気に歌を歌っていたくらいだった
それなのに、ただ唐突に言葉を発せなくなった
いつもは出来る当たり前のことが、自分の意思とは反して突然出来なくなるということは、これまでの中で1番の恐怖だった
自宅で声を出せなくなった俺は、パニック状態に陥りながら村の医者の所へと向かった
診察結果は原因不明の失声
ストレスかもしれないし、体調不良からかもしれない
あるいは、病気、とか。
しかし明確な神経の麻痺や腫瘍などは見受けられず、何故声が出ないのか検討も付かないらしい
村医者から、村から少し離れた大きな町の医者にも行ってみて欲しいと言われ町医者にも診察を受けた
しかし、結果は同じ。
村の医者も、村よりも大きい町医者もそう言っていたのだから間違いないだろう
原因不明
そう診断された俺の声帯は驚きの疑問符でさえも発してはくれない
ただひとつ言えることは、俺はこれから先、言葉を発することは出来ないということだけだった。
不幸中の幸い、完全に失声した訳ではなかった
だから「失声症」ではなく「原因不明の失声」
単語は発せないけれど、「あー」や「いー」などの単純な母音なら歪な音として発することは出来た
しかしそれも長いこと発せるわけもなく、息が詰まるように苦しくなる
喉が引き攣るように痛くなる
前とは違う、変な声に顔を歪めた
歪な声は耳障りなだけで、次第に母音でさえも発さなくなった
声が出ないというのはどれだけ不便なことか
助けを求めたいのに声が出ない
誰かと話したいのに話せない
笑いたいのに笑えない
泣きたいのに、泣けない
ぽつりぽつりと床へと落ちる涙を何処か他人事のように眺めていた
嗚咽さえも出ない喉は苦しそうにヒクヒクと痙攣するだけ
その事実に雫がまた溢れた
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