失声の歌

涼雅

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声が出せなければ人とは話せない

俺は必然的に筆談をするようになった

少し大きめなスケッチブックに鉛筆

近場に行くにも大きな荷物になってしまうが仕方がない

これが手放せなくなった

お店で注文する時も、友人と話す時も、家族に「大丈夫」だと虚勢を張る時も。

俺はひたすらに鉛を走らせる

楽しいことも嬉しいことも悲しいことも虚しいことも全部、全部全部

スケッチブックに詰まっている

誰か知らない人が話している声を聞いた時

口論をしている時

愛を囁いている時

俺は堪らなく死にたくなる

あぁ、なんで俺なんだろう

決してかっこよくて綺麗な声ではなかったけれど、それでも、ある日突然奪われれば、こんな気持ちにもなるだろ

返してくれ、俺の声

でも、そう何度願ったって俺の声は戻ってこない

当たり前だ

お医者さんに

「もう、話せることは無いでしょう」

そう言われたのだから。

声にならない叫びは全部スケッチブックに書き込んだ

鉛の黒でいっぱいになっても上書きするように思いを綴った

上書きすればするほどに紙に手が擦れて黒くなった

自分で自分のことを塗りつぶしているような感覚。

誰も見つけられない、薄暗い場所に閉じこもるように息をしていた
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