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終幕後
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3日は滞在すると観客の村人から聞いたその日、サーカスが終幕したあと、俺は人が散っていく中その場に立ち尽くしていた
手にはしっかりとスケッチブックを握りしめて。
観客席に俺一人だけになった頃、気前のいい、朗らかな笑みを浮かべた男性が近づいてきた
その人はサーカス団の司会兼団長だ
「どうしたんだい?何か用かな?」
俺がスケッチブックを持ったまま帰らなかったから、きっとサインを求めているのだと思ったのだろう
胸ポケットにはペンが差されていた
目の前で立ち止まる彼に俺はスケッチブックを反転させる
事前に書いておいた、俺の願い。
『歌姫に会わせていただけませんか』
団長の目を見ながら、彼の様子を伺う
緊張で手が震える
願いを落とさないよう、ぎゅっと手に力を込めた
彼は少し逡巡した末、にっこりと笑ってスケッチブックを握る俺の手に自分の手を重ねた
「君は、歌姫に会ってどうするんだい?」
笑みを浮かべながらも、目は笑っていなかった
明らかな、威嚇。
「会いたいのなら、自分の言葉で伝えるのが筋では無いのかな?」
自分の言葉…
ちゃんと、このスケッチブックの言葉は俺の言葉だ
誰の言葉でもない、自分の…
「…何か言ってみてはどうだい?」
…あぁ、そっか。
彼は知らないんだ
俺が失声していることを。
伝えてないのだから、当たり前だ
彼の言った『自分の言葉で伝えろ』は『自分の口で伝えろ』という意味だったのだろう
ただスケッチブックを持ち呆然と立ち尽くす俺に団長は眉をひそめていた
白い紙に黒を落とした
『俺、失声しているんです。
伝えていなくてごめんなさい』
そう書いて彼に見せる
1文目を目で追った瞬間、彼は目を見開いた後、どこか納得したような顔で頷いた
「そうかそうか、そうだったんだな…
いやはや、申し訳ない…」
威圧的な笑みはさっと消え、ばっと俺の肩を抱いた
「君が失声しているのはわかった
…だが、なぜ僕のところの歌姫に会いたいのか、理由を聞かせてくれ」
耳元で響く、低い声
失声していることは伝えられたのに、どうしてここまで会うことを拒絶されるのか…。
直接的な言葉は無いが、俺の発言を全て潰していくかのような言い回し。
失言したら最後。
きっと会わせてもらえない
直感でそう分かった
彼がここまで用心深いのが何故かは分からないが、ここはしっかり伝えなければならないだろう
スケッチブックに書き込もうと鉛筆を手にした時
「あっ、団長ここにいた!皆探してましたよ?いつもは終幕したら舞台には来ないのに……」
明るい声が舞台に響いた
はっとして顔を上げる
煌びやかな衣装を脱いだ彼がそこにいた
茶髪でまん丸垂れ目の彼
必然的に彼と目が合う
「あぁ、すまなかったな、すぐ向かうから待っていてくれ」
思わず駆け出しそうになるものの、肩に回された団長の腕がそれを許してくれるはずもなかった
グッと力が込められ
「近づくな」
という意思が伝わってくる
俺は素直にそれに従った
暗にやり取りをしている俺らを見ていた歌姫は、呆れたようにため息をついた
「団長…そんな若い子とっ捕まえてどうするつもりですか…
ほーら、離してください」
さくさくと歩を進ませ、団長の腕を掴む
俺の肩からそれを浮かせたあと、今度は彼に肩を抱かれた
「団長、ちゃんと仕事してくださいよ…皆待ってるんですからね?」
俺のことは会話の外
今はそれに助けられていた
久しぶりの彼に触れられているという事実に、否応無く、体温が上昇していたから
もし話題を振られてもきっと上手く反応できない
そんな俺を団長は訝しむように見ていたけれど、諦めたように息を吐いた
「…そうだね、わかったよ。
君の言う通り直ぐに行こう」
歌姫はパッと笑って
「先に行ってますからね」
と颯爽と舞台袖に帰っていった
また団長と二人きり。
きっと団長は俺の事を良く思っていない
それを解かねば前には進めない
団長が行ってしまう前に伝えなければ。
震える手で鉛筆を走らせると、ふっと笑う音がした
つい、手を止めると背中に衝撃が走った
バシッといい音を立てて、団長が俺の背中を叩いたのだ
「ハッハッハッ!まさか、あの子があんなことをするとはね!正直、驚いたが、まあいいだろう。
明日、今と同じ時間にここへ来なさい。」
…………意味がわからない
豪快に笑った末、何かに納得したようだ
一体何に?
硬直する俺を見て、また豪快に笑うと
「歌姫に会いたいんだろう?」
随分優しい声音でそう言った
反射的に頷くと
「それではまた明日来なさい。今日はもう遅いからね」
と俺は家へ返されたのだった
手にはしっかりとスケッチブックを握りしめて。
観客席に俺一人だけになった頃、気前のいい、朗らかな笑みを浮かべた男性が近づいてきた
その人はサーカス団の司会兼団長だ
「どうしたんだい?何か用かな?」
俺がスケッチブックを持ったまま帰らなかったから、きっとサインを求めているのだと思ったのだろう
胸ポケットにはペンが差されていた
目の前で立ち止まる彼に俺はスケッチブックを反転させる
事前に書いておいた、俺の願い。
『歌姫に会わせていただけませんか』
団長の目を見ながら、彼の様子を伺う
緊張で手が震える
願いを落とさないよう、ぎゅっと手に力を込めた
彼は少し逡巡した末、にっこりと笑ってスケッチブックを握る俺の手に自分の手を重ねた
「君は、歌姫に会ってどうするんだい?」
笑みを浮かべながらも、目は笑っていなかった
明らかな、威嚇。
「会いたいのなら、自分の言葉で伝えるのが筋では無いのかな?」
自分の言葉…
ちゃんと、このスケッチブックの言葉は俺の言葉だ
誰の言葉でもない、自分の…
「…何か言ってみてはどうだい?」
…あぁ、そっか。
彼は知らないんだ
俺が失声していることを。
伝えてないのだから、当たり前だ
彼の言った『自分の言葉で伝えろ』は『自分の口で伝えろ』という意味だったのだろう
ただスケッチブックを持ち呆然と立ち尽くす俺に団長は眉をひそめていた
白い紙に黒を落とした
『俺、失声しているんです。
伝えていなくてごめんなさい』
そう書いて彼に見せる
1文目を目で追った瞬間、彼は目を見開いた後、どこか納得したような顔で頷いた
「そうかそうか、そうだったんだな…
いやはや、申し訳ない…」
威圧的な笑みはさっと消え、ばっと俺の肩を抱いた
「君が失声しているのはわかった
…だが、なぜ僕のところの歌姫に会いたいのか、理由を聞かせてくれ」
耳元で響く、低い声
失声していることは伝えられたのに、どうしてここまで会うことを拒絶されるのか…。
直接的な言葉は無いが、俺の発言を全て潰していくかのような言い回し。
失言したら最後。
きっと会わせてもらえない
直感でそう分かった
彼がここまで用心深いのが何故かは分からないが、ここはしっかり伝えなければならないだろう
スケッチブックに書き込もうと鉛筆を手にした時
「あっ、団長ここにいた!皆探してましたよ?いつもは終幕したら舞台には来ないのに……」
明るい声が舞台に響いた
はっとして顔を上げる
煌びやかな衣装を脱いだ彼がそこにいた
茶髪でまん丸垂れ目の彼
必然的に彼と目が合う
「あぁ、すまなかったな、すぐ向かうから待っていてくれ」
思わず駆け出しそうになるものの、肩に回された団長の腕がそれを許してくれるはずもなかった
グッと力が込められ
「近づくな」
という意思が伝わってくる
俺は素直にそれに従った
暗にやり取りをしている俺らを見ていた歌姫は、呆れたようにため息をついた
「団長…そんな若い子とっ捕まえてどうするつもりですか…
ほーら、離してください」
さくさくと歩を進ませ、団長の腕を掴む
俺の肩からそれを浮かせたあと、今度は彼に肩を抱かれた
「団長、ちゃんと仕事してくださいよ…皆待ってるんですからね?」
俺のことは会話の外
今はそれに助けられていた
久しぶりの彼に触れられているという事実に、否応無く、体温が上昇していたから
もし話題を振られてもきっと上手く反応できない
そんな俺を団長は訝しむように見ていたけれど、諦めたように息を吐いた
「…そうだね、わかったよ。
君の言う通り直ぐに行こう」
歌姫はパッと笑って
「先に行ってますからね」
と颯爽と舞台袖に帰っていった
また団長と二人きり。
きっと団長は俺の事を良く思っていない
それを解かねば前には進めない
団長が行ってしまう前に伝えなければ。
震える手で鉛筆を走らせると、ふっと笑う音がした
つい、手を止めると背中に衝撃が走った
バシッといい音を立てて、団長が俺の背中を叩いたのだ
「ハッハッハッ!まさか、あの子があんなことをするとはね!正直、驚いたが、まあいいだろう。
明日、今と同じ時間にここへ来なさい。」
…………意味がわからない
豪快に笑った末、何かに納得したようだ
一体何に?
硬直する俺を見て、また豪快に笑うと
「歌姫に会いたいんだろう?」
随分優しい声音でそう言った
反射的に頷くと
「それではまた明日来なさい。今日はもう遅いからね」
と俺は家へ返されたのだった
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