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527 『大盾』を使う時
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「案外余裕だったわね」
上から一方的に攻撃できたためか、シャルウィの言う通りに各々一体を余裕で倒せた三人だ。
仕切った中の魔物を掃討できたので『傘』をゆっくりと下ろす。ゆっくりなのはザネクの『大盾』が床に衝突する可能性を懸念してのことだ。
「こっちも案外余裕だったぜ」
下がるに順って『大盾』のザネクからの相対位置を上にずらさなければならないのだが、殆ど意識せずにできたらしい。
(身動き取れないって言ってたのに……)
相対位置を変えるのは横も縦も同じ筈だ。ところが横には身動き取れず、縦には容易に動けるのは奇妙に映る。
「もしかしてザネクって『大盾』を使う時『大盾』も自分と一緒に動かそうとしてない?」
ルキアスは横と縦の違いを動かそうとするかしないかだと予想した。『大盾』の下部がほぼ地面に接している以上、縦移動の時には地面にめり込ませて動かそうとはしないに違いない。
そしてこの予想は当たりだったようだ。
「盾なんだから動かすだろ」
「盾はこんなに大きいんだから動かさなくても大丈夫じゃない?」
「……?」
ザネクは意味が判らないとばかりに小首を傾げたが、暫くしてポンと手を叩いた。
「おおっ! その手があったか!」
先入観と使用頻度の低さとで考えに及ばなかったらしい。
「ザネク、ちょっと『大盾』はこのままであちこち動いてみて」
「おう」
ザネクはまず右端へ、それから左端へとゆっくり歩く。次は前後に歩いてみて、それから駆け足でぐるっと回ってみる。
「これは『傘』に乗る時と似たような感覚だな。『傘』より感覚が掴み易いぜ」
自らを基点にする『傘』に乗る時は『傘』の相対位置をずらしながら乗らなければ『傘』が逃げてしまう。これを身体の動きに合わせて感覚的に行えばスムーズに乗れる。
これと同様にするのだが、天職なだけあって魔法の操作は『傘』よりスムーズにできる様子だ。傍から見ても『傘』に乗る時のようなへっぴり腰な感じが全く無い。
「でもまあ、これも『傘』で練習したお陰だろうな。だからルキアス、ありがとうな」
「え?」
ルキアスは予想もしていない言葉に面食らった。
「何を驚く?」
「だってお礼言われるような事をした覚えが無いから」
「『傘』のお陰って言ったろ? ルキアスの『傘』が無けりゃ俺も『傘』を特訓しようなんて思わなかった。思い返したらずっと前は『大盾』を動かさずに俺だけ動ける感覚が全く無くてな。『傘』を特訓してなかったらこうはできなかった筈だ」
「……」
「はああぁ、もう、男同士で見つめ合って嫌らしいんだから」
シャルウィが腰に手を当てて鼻白む。
「ば、ばか! 俺とルキアスで嫌らしくなる筈がないだろ!」
「そうだよ! ザネクが嫌らしくなるのはシャルウィとだよね!」
「な! 何言ってんのよ! ばっかじゃないの!」
暫く収拾が付かなかった。
上から一方的に攻撃できたためか、シャルウィの言う通りに各々一体を余裕で倒せた三人だ。
仕切った中の魔物を掃討できたので『傘』をゆっくりと下ろす。ゆっくりなのはザネクの『大盾』が床に衝突する可能性を懸念してのことだ。
「こっちも案外余裕だったぜ」
下がるに順って『大盾』のザネクからの相対位置を上にずらさなければならないのだが、殆ど意識せずにできたらしい。
(身動き取れないって言ってたのに……)
相対位置を変えるのは横も縦も同じ筈だ。ところが横には身動き取れず、縦には容易に動けるのは奇妙に映る。
「もしかしてザネクって『大盾』を使う時『大盾』も自分と一緒に動かそうとしてない?」
ルキアスは横と縦の違いを動かそうとするかしないかだと予想した。『大盾』の下部がほぼ地面に接している以上、縦移動の時には地面にめり込ませて動かそうとはしないに違いない。
そしてこの予想は当たりだったようだ。
「盾なんだから動かすだろ」
「盾はこんなに大きいんだから動かさなくても大丈夫じゃない?」
「……?」
ザネクは意味が判らないとばかりに小首を傾げたが、暫くしてポンと手を叩いた。
「おおっ! その手があったか!」
先入観と使用頻度の低さとで考えに及ばなかったらしい。
「ザネク、ちょっと『大盾』はこのままであちこち動いてみて」
「おう」
ザネクはまず右端へ、それから左端へとゆっくり歩く。次は前後に歩いてみて、それから駆け足でぐるっと回ってみる。
「これは『傘』に乗る時と似たような感覚だな。『傘』より感覚が掴み易いぜ」
自らを基点にする『傘』に乗る時は『傘』の相対位置をずらしながら乗らなければ『傘』が逃げてしまう。これを身体の動きに合わせて感覚的に行えばスムーズに乗れる。
これと同様にするのだが、天職なだけあって魔法の操作は『傘』よりスムーズにできる様子だ。傍から見ても『傘』に乗る時のようなへっぴり腰な感じが全く無い。
「でもまあ、これも『傘』で練習したお陰だろうな。だからルキアス、ありがとうな」
「え?」
ルキアスは予想もしていない言葉に面食らった。
「何を驚く?」
「だってお礼言われるような事をした覚えが無いから」
「『傘』のお陰って言ったろ? ルキアスの『傘』が無けりゃ俺も『傘』を特訓しようなんて思わなかった。思い返したらずっと前は『大盾』を動かさずに俺だけ動ける感覚が全く無くてな。『傘』を特訓してなかったらこうはできなかった筈だ」
「……」
「はああぁ、もう、男同士で見つめ合って嫌らしいんだから」
シャルウィが腰に手を当てて鼻白む。
「ば、ばか! 俺とルキアスで嫌らしくなる筈がないだろ!」
「そうだよ! ザネクが嫌らしくなるのはシャルウィとだよね!」
「な! 何言ってんのよ! ばっかじゃないの!」
暫く収拾が付かなかった。
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