天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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女神のお使い

第六話 シリングス(リドル)

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 ランク7になった翌日、あたし達は迷宮に入った。迷宮の入り口でミクーナのギルドカードを見た番人が何度もカードとミクーナを見比べていたが、それは仕方のない事だろう。
 ランドルは三ヶ月分だと言う大量の食料を背負っている。それらは途中であたしのアイテムボックスに入れて運ぶ予定にしている。
 五階までは冒険者がかなり多く、魔物と戦う事もなく通り過ぎた。それ以降はランドルを先頭に進む。何気なく歩いているように見える彼の足取りは魔物が襲って来ても毛ほども変わらない。
 一五階を過ぎた辺りから冒険者の数が少なくなり、魔物が襲って来る事も多くなった。だけどランドルは余裕である。
 一五階と言うのは、主に歩く距離の関係で入り口から一日で進む限界と言える深さで、これ以上深い場所に進むにはかなりの重装備を要する。そう言った意味で一つの区切りとなる階である。
 三〇階を超えてもランドルの歩みが滞る事はない。
「ランドルさんてお強いんですね」
「シリングスに付き合っている間に自然とそうなってしまいましてね。正直、ここまで出来るようになるとは自分でも思っていませんでした」
「迷宮で魔物の大発生が起きないようにされたとか伺ったのですが、もしかしてリドルさんよりお強いんですか?」
「まさか、それはあり得ません」
 ランドルは何度も首を横に振る。
「リドルの強さは老いて尚、綺羅星の如く輝いていました。私ではその足元にも及びません」
「でも、それだとどうやって大発生を止めたんですか?」
「それはシリングスがちょっとした、と言うと語弊の有る細工をしたからです。罠と言った方がいいですかね」
「罠で魔物を倒すんですか?」
「いえ、罠は人間向けです。死ぬようなものではありませんが」
 死にそうにはなるらしい。
「シリングスさんはどんな方なんでしょう?」
「一言で言うと酔狂な御仁ですかね」
「酔狂ですか……」
「魔法道具を作るのに命を賭けてましてね。そのための上質な魔石を手に入れるために自らを鍛えて魔物を倒し、挙げ句の果てには迷宮の奥に籠もるのですから、酔狂としか言えないですね。言い換えようとすると悪口になってしまいますから」
 ランドルが片目を瞑ってそんな事を言った。
「えーと、それじゃ、魔物の大発生を防ぐためではなかったと言う事でしょうか?」
「いえ、それはそれで強ち間違ってはいませんよ。大発生すると研究をするどころではなくなりますから、理由の一割くらいは大発生を防ぐためですね」
 何だか聞いていた話と同じような、違うような?
 ミクーナがクスッと笑う声が聞こえた。
「ミクーナさん、知ってたんですかっ?」
「嘘は言ってないわよ? 全部は言ってないだけ」
「それはそうなんですが……」
 むぅ、と少しむくれても仕方ないと思う。
 だけどそれはそれでミクーナにクスクスと笑われるだけだったので直ぐに止めた。
 六〇階を超えるとミクーナも戦闘に加わるようになった。ぶっちゃけあたしが足手纏いになっている。ランドルだけなら魔物を避けて通る所でも、あたしが居るために魔物を倒さないといけない場合が有るのだ。
 七〇階を超えるとあたしも常に周りに気を配って魔物の奇襲に備えるようにした。大抵はランドルやミクーナがあたしより先に魔物に気付いて事なきを得るのだけど、二人が戦闘中の場合は難しい。

「ぎゃっ!」
「どうした!?」
「何があったの!?」
 あたしの叫び声にミクーナやランドルが反応する。しかし、大物と対峙しているために、振り向かずに状況を問うだけだ。
「な、何でもありません!」
 二人の邪魔をしないように誤魔化したものの、何でもなくはない。魔物の牙があたしの腹を抉ったのだから。
 気を失いそうになるのを堪えて短剣に魔法を纏わせ振り回す。あたしの剣捌きは拙いが、魔物の動きも単純なので振り回していればいつかは当たる。そしてどうにか魔物は倒せたものの、何度か背中や腕などを抉られてしまっていた。
 安心したせいか、身体から力が抜けた。膝を突いて座り込む。
「パシリ!」
「パシリさん!」
 どうもここの人達は「ハシリ」と言おうとすると「パシリ」になるらしい。何度か訂正を試みたけど無理そうなので諦めた。
「何て事! 直ぐに治療を!」
 ミクーナが焦った声を出すが、そんな心配はいらない。
「大丈夫……です。これ……さえ……あれば……」
 あたしはきつね色の薩摩揚げを一つアイテムボックスから取り出しつつ言った。少し息が苦しくて途切れ途切れになったけど伝わっただろう。
 手に持って掲げて見せるつもりだったのに薩摩揚げが手から滑り落ちた。上げたつもりの腕も腰までしか上がっていない。
 おかしいな。こんな筈じゃなかったんだけど。
 そう思って薩摩揚げを拾おうとしたが、世界が傾いだ。
「パシリ!」
 傾いだのはあたしだった。途中でランドルに支えられたので完全に倒れるには至らなかった。
「食べ……させて……貰え……ますか?」
「ちょっと待ってて」
 ミクーナは薩摩揚げを拾うと、魔法で水を出して薩摩揚げを洗う。そして一口大に千切ってあたしの口に入れた。
 あたしは頑張って咀嚼して飲み込む。すると力が入らなかった手足に少し力が戻ってきた。
 それをもう二回繰り返してあたしは腕を上げられるようになり、残りの薩摩揚げは自力で食べた。念のために黒い薩摩揚げとチーカマもだ。
「もう大丈夫です。あたしには死ねない呪いが掛かっているのでこのくらいでは死にません」
 そう言うのにミクーナは嗚咽を漏らしながら「ごめんなさい。ごめんなさい」と謝り続ける。
「あなたはあの人のお使いだから、無意識にあの人みたいに身体が頑丈だと思い込んでいたの」
 ミクーナの言う「あの人」は、傷つきやすい心と傷つく事のない身体を持ち合わせていたらしい。
「しかし参りましたね。今更後戻りしてもあまり意味はありません。先程の傷は明らかに致命傷でしたから、死ねない呪いが真実だと見てそれに期待するしか無さそうです」
 ランドルは達観したように言った。
「ところで、その呪いにはこの迷宮に居る間に解ける可能性は有りますか?」
「それは無いと思います。呪いは後三人の配達を終わらせる必要がありますから」
「今はそれが有り難いですね」
 ランドルはゆっくりと頷いた。
 それからはより慎重に歩を進め、幸運にも致命傷に等しい傷を負う事なく九〇階へと辿り着いた。

「遅かったじゃないか。危うく餓死か魔物を食らうかの選択を迫られる所だったぞ」
「お客さんを案内しましたからね。それに三、四日食べなかったからって死にはしないでしょう」
 着くなりランドルに文句を言ったこの人がシリングスなのだろう。
「お客は見れば判るが、何の用だ?」
「はい。天ぷら屋さんからの贈り物の配達に伺いました」
 ぺこりと頭を下げるあたしを横目に、シリングスは説明を求める視線をランドルに送る。
「黙って受け取ってあげてください」
「判った」
 若干不満そうだが黙っておく事にしたらしい。
 あたしはお土産を取り出て手渡す。今度のは三段重ねだ。
 シリングスは蓋を開けると暫し動きを止める。そしておもむろに天ぷらを口に運んだ。
「美味い」
 余程お腹が空いていたのだろう。シリングスは次から次へと天ぷらを食べる。
「ランドルも食べな」
「ではご相伴に与りましょう」
 ランドルも加わって天ぷらはみるみる減っていった。
 そして、空になった重箱の底をシリングスが凝視する。
「なるほどね」
「どうかしましたか?」
「転送のヒントが書かれている」
「それはつまり、完成に近付くと言う事ですか?」
「そう言う事だ。最初は迷宮の中だけになりそうだがな」
 シリングスとランドルが何やら難しそうな話をしていた。
「贈り物を届けてくれてありがとうな。今日は泊まって行くといい」
 真剣な顔でシリングスに言われた。何故か少し息が苦しくなった。

 翌日に九〇階を出発し、五〇階までシリングスも送ってくれた事で危ない思いをする事は無かった。
 地上へと戻る途中、シリングスが作ろうとしている道具の事も聞いた。それは転送装置で、もし完成したら地上から迷宮の奥まで何日も掛ける必要が無くなると言うものだ。迷宮の九〇階より奥に行こうとする冒険者を排除する罠にも応用が利くのだとか。それと上層に偏りすぎている冒険者を中層に分散させる事も可能になると言う。

 迷宮を出たのは入ってから二二日後の事だった。
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