天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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女神のお使い

第八話 三園純三

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「三園純三と言う人を紹介して欲しいのだけど」
 涙腺がおかしくなっているあたしの代わりにミクーナが尋ねた。
「爺さんに何か用なのか?」
「その人にも贈り物があるのよ」
「そうか。天ぷら屋のねーちゃんからだから、俺に有るなら爺さんにも有るだろうな。案内しよう」
 リアルドの先導で下町を歩く。家の数に比べて人通りが極端に少ない気がする。
「迷宮から魔物が消えて以降、下町は寂れる一方なんだ。ファラドナ自体は内陸向けの輸送の中継点として大きくなったがな」
 リアルドがそんな説明をしてくれた。
 家には風化して今にも崩れそうなものも混じっている。何の印なのか扉に大きくバッテンの書かれた家が随分多い。
「あの、扉にバッテンが付いているのって何か意味が有るんですか?」
「あれか? あれは昔、孤独な冒険者が居たって事だ。家は残っていても住める状態じゃない」
「それって……」
「あんまり想像しない方がいいぞ」
「そうします」
 尋ねて少し後悔した。
「ここだ」
 リアルドは住んでいる人に呼び掛けもせずに中へ入る。
「爺! 客を連れてきたぞ!」
「ちょっと、リアルド」
 中に居た多分女性がリアルドを外に押し出してきた。
「もっと静かにして」
「悪いのか?」
 リアルドが声を潜めて女性に問うと、女性は口を引き結んで頷いた。
「あの……」
「ああ、悪い。爺はもうずっと起きているより寝ている時間が長い状態なもんでな。まあ、入りな」
「はい」
 中に入ると一人の老人が床に臥せったまま視線だけをこちらに向けていた。この人が三園純三なのだろう。
『あの、天ぷら屋さんからのお届け物を持って伺いました』
 彼は大きく目を見開いた後、ゆっくりと身体を起こす。先程の女性が手を貸そうとするのを断り、布団の上に正座した。
『正座はお辛くないですか?』
『今はこの方が楽でしてね。それにしても日本語とは懐かしい。ですが、日本語を殆ど忘れているのでこちらの言葉でお願いします』
「え? あ、はい!」
 無意識に日本語になっていた。
「それで、お届け物はこちらです」
 お土産セットを取り出して純三の前に置く。今度は三段重ねの重箱だ。一番下の段だけかなり深い。
 蓋を開けた純三が暫し動きを止める。そして再び動き出すと、二段目はチラッと確認するだけで脇に避けた。
 三段目に入っていたのはどんぶりに入った天ぷら蕎麦だ。純三さんは「失礼しますよ」と言ってどんぶりを手にして蕎麦を啜る。
「染み渡りますね」
 純三が蕎麦を啜る音だけが聞こえる時間が過ぎ、彼は箸を置く。そして手を突いてあたしに頭を下げてきた。
「届けてくださってありがとうございます」
「そ、そんな! 頭を上げてください!」
 そんな事をされるとあたしはあたふたとするばかりだ。おまけに涙が溢れて止まらなくなった。ついには嗚咽になってしまう。
「す、すみません。こんな筈じゃ……。お礼を言われて嬉しい筈なんですが……」
 胸が苦しい。胸に凝っていた何かが崩れていって、その衝撃が響いているかのようだ。
「リアルド、ナタラ、お連れの方、暫くこちらの方と二人だけにして貰えますか?」
 純三がそう言うと、戸惑った様子の声を漏らした後、三人が外に出て行く気配があった。
『そのままで良いので聞いてください。あなたに渡したいものが有ります。私にはもう使い切れない味噌や醤油と言ったものですが、あなたには役に立つ事もあるでしょう。だから貰っていただけますか?』
 あたしはただ頷いた。
『では始めますよ。まずは醤油です』
 純三はアイテムボックスから甕を一つ出す。あたしはそれをアイテムボックスに入れる。そして純三さんが甕をまた一つ出す。そんな手順だ。
 この日は純三に疲れが見えたため、醤油を譲り受けるだけで終わった。
 その後、三日間に渡って味噌、鰹節、布地など多くの品物を譲り受けた。

 全ての品物を譲り受け終わった次の日、あたし達はウェーバルへと出立した。
 ファラドナの西に広がるのは砂漠だ。一日ほど進んだ所に砂漠に埋もれるように廃墟となった町がある。
「ここはルーメンミよ。元は迷宮の町だった所」
「だった、ですか?」
「迷宮そのものはまだ有るのだけど、魔物が居なくなったの。だからここでは生活が成り立たなくなってしまったのよ」
「居なくなったって……、攻略されたって事ですか?」
「あら? 憶えていたのね。その通りよ。四〇年前の事ね。その頃にはここは森に囲まれていたのだけど、見る影もないわね」
「随分変わったんですね」
「一つには魔物が居なくなったからかも知れないわね。以前はこの周りに普通の植物に混じって植物の魔物とでも言うべきものが生えていたのだけど、迷宮が攻略されるとそれも消えてしまったの。他にも塩蟲って言う塩を溜め込む魔物が少し南に居たのだけど、それも消えたわ。その塩蟲が溜め込んでいた塩が風に煽られてこの辺りにも降り注いだんでしょうね」
「どうして迷宮は攻略されてしまったんでしょう?」
「直接の原因は愚かな行政官があの人の逆鱗に触れたからね」
「何だかミクーナさんは迷宮攻略の瞬間を見ていたみたいな感じですね」
「だって、見ていたもの」
「ええ!?」
「だから、私にもこの町が廃墟になった責任が有るかも知れないわね。下町のバッテンにも……」
 遠い目をするミクーナを前に、あたしはそれ以上尋ねられなくなった。

 更に西に進むと砂漠に覆われつつあるジーメンスラと言う町に着いた。以前は牧畜が盛んな土地だったらしいが今はその面影すらない。少し南には同じく牧畜が盛んだったラジアンガと言う町が昔有ったのだと言う。
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