天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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 三 酒場勤めの日々となり

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 一夜が明け、あたしは依頼の報告をするためにギルドを訪れた。
 受け取った報酬は五〇〇〇ゴールドだ。ここの通貨の単位がゴールドである。ゴールドなんて単位なもんだから、一瞬沢山の報酬が有るように感じた。だけど、物価からすると全くそんなことはない。酒場の料理の値段が五〇〇ゴールドから一〇〇〇ゴールドだった事からすれば、価値的にはほぼ円と同じだ。判りやすいのは良い。だから、こっそり円と呼んでおこう。
 単位はともかく、八時間ほど働いて五〇〇〇円では時給が七〇〇円を切っている。休む暇も無いのに、その程度の時給ってかなりブラックなんじゃないだろうか。酔っ払いに触られるとか以前に、あの酒場はキツい労働の割りに給料が安くて長続きする者が居ないような気がする。

 だから別の依頼を探したのだが、困った。碌なものが無い。
 墓穴掘り、一つ一〇〇〇円。牧草刈り、一ブロック二〇〇〇円。道路の清掃、一ブロック五〇〇〇円。薬草採取、一単位一〇〇〇円、但し三単位まで。などなど、どうにも生活できるだけの稼ぎになる気がしない。
 着た切り雀の現状では、墓穴掘りなんて汚れる仕事は避けたい。
 牧草刈りのブロックの意味が分からないので強面のおっさ……もとい、おじ様に尋ねたら、どうやら四ヘクタール程度の広さのようだ。そんな広さで二〇〇〇円っぽっちって馬鹿じゃないの?
 道路の方のブロックは縦横の大通りに囲まれた範囲だ。それ自体は良いのだが、そのブロック境界の大通りがどのブロックに属するのか曖昧な上、達成条件が監査員の胸先三寸だと言う曖昧さだ。受けるのが怖すぎる。
 簡単なのは薬草採取だが、一日に三〇〇〇円までしか稼げないのでは生活が成り立たない。単位となっているのは、薬草の種類で達成条件の数が違うからだ。ランク9の場合はゲンノコソウとか言う薬草の一種類だけだから、二〇本が一単位になる。
 ブラックだと思った酒場が一番条件が良いっぽい。前途多難だ!

「あの、牧草刈りとか道路清掃とか報酬が安過ぎませんか?」
「ああ、それは魔法を使うのが前提になっているからな」
「もしかして、牧草刈りに使う魔法って誰でも知ってるものなんですか?」
「いや、一割位だろう」
 一割か。だけど、一割も居れば魔法を使える人に合わせた報酬になってしまうのだろう。つまり、牧草刈りはそのための魔法を知っている人専用の依頼と言って良い。
「もしかして、道路清掃に使える魔法なんて言うのもあるのですか?」
「有る」
 即答だった。怖いとか関係なく、箒で掃く位しかできないあたしが道路清掃なんて受けると地獄を見るだけのような気がする。
 この分だと、墓穴掘りみたいなものも魔法前提だろう。
 そうすると、薬草採取くらいしか残っていない。
「あの、薬草採取は何故三単位までなんですか?」
「それは以前、薬草を根刮ぎ採取してきた奴が居た所為だ。薬草採取は慈善事業も兼ねていて、独り占めのようなことをされては意味が無い。だから制限を掛けるようになった」
「根刮ぎって、そんな事できるんですか!?」
 驚きである。普通に信じられない。
「普通には無理だな。そいつがどうやったかは未だに謎だ」
「本人には訊かなかったんですか?」
「他にも問題を起こしたので、そいつには制裁が加えられた。だから訊く事はできなくなった」
「ええ!?」
 話が訊けなくなる制裁って怖すぎるんですけどーっ!
「薬草採取の他にも、低ランク依頼でありながらやり過ぎると制裁が加えられるものが有るが、普通の者なら気にする必要は無い」
「そう、なんですか……」
 おじ様の目がキラリと光った気がしたが、気付かなかった事にする。もし尋ねたら怖い答えが返ってきそうだったからだ。
 そして結局、薬草採取を一単位だけこなし、また酒場で働くことにした。他に選択肢が無かったんだよ!

 薬草採取は厄介だった。薬草は他の草に紛れている上、ウマノシリアトと言うよく似た毒草も有って判別に手間取ってしまう。こんなのを根刮ぎだなんて話が有ったが、チートでも無ければ無理じゃなかろうか。いや、そのまさかと見るべきか。あたし同様にチートを与えられてこの世界に送り込まれた人が他にいても不思議は無い。まあ、居たからって何が変わる訳じゃないんだけど。
 あれでもない、これでもないと、草原を歩き回って一単位集め終わる頃には、既に昼を大きく過ぎていた。こんな調子じゃ、制限の三単位さえ無理だ!

 そうして薬草採取もこなしつつ、酒場で働いて三日目の閉店後、おかみさんに呼び止められた。
「あんたには、戦う時のナイフの使い方を教えてやるよ」
「え!? なんでいきなり?」
「あたしにとってはいきなりでもないんだけどね」
 おかみさんは腰に手を当て、口を歪めつつ言った。
 十分いきなりだよ! あたしは戦うつもりもないんだから!
「でも、なんでです?」
「あんたはどうにも危なっかしくて見てらんないのさ」
「ゼンゼン、アブナクナイデスヨ?」
 なんとなく片言になってしまった!
 そんなあたしに、おかみさんは溜め息をついた。
「あんた、力加減が判らないだろ?」
「なんで、それを!?」
 慌てて口を押さえたが、叫んでしまった後ではもう遅い。そう、拘束の魔法で軽減しているとは言え、この世界に来る前と比べると今は腕力に差が有り過ぎるのだ。そして未だに自分の力を扱い切れてない。有り体に言えば自分の力に振り回されている。それを傍目で察するとは、元ランク2冒険者侮り難し!
「もし喧嘩でもしようものなら、今のあんたじゃ素手よりナイフを振り回した方が相手の被害が少なそうだからね」
 言葉を失った。そんな危険人物に見えてたとは知らなかった。
 呆けたままのあたしにおかみさんがナイフを一本差し出してきたので、無意識に受け取ってしまった。
「じゃ、素振りから始めるよ!」
 あたしはまだ呆けていた。
「いつまで呆けてるんだい! さっさとおし!」
「は、はいっ!」
 おかみさんの迫力に負け、あたしは慌ててナイフを構えた。
「いいかい? ナイフは基本的に突きで使うからね」
「はい」
「じゃあ、構えな」
 あたしは言われるままにナイフを構えた。
「それじゃ、お手本を見せるよ。こうだ!」
 おかみさんはナイフを突き出して見せてくれた。なんだか格好良い。
「ほら、あんたもやってみな!」
「は、はい!」
 あたしはおかみさんを真似てナイフを振ってみた。自分で不格好なのが判る。ちょっと涙目だ。
「いいから、どんどん続けな!」
「はい!」
 おかみさんの迫力に押されるままにナイフを振り続け、夜は更けていった。

「はい、止め!」
 おかみさんの合図と共にあたしはナイフを振るのを止めた。若干息が上がっているが、大したことはない。チート恐るべしだ。
「少しだけ形になってきたね。いいかい? そのナイフはあんたにあげるから、毎日練習を欠かすんじゃないよ?」
「はい……」
「もっと、しゃきっと答えな!」
「はいっ!」
 思わず気を付けの姿勢になってしまった。おかみさんにだって単純な腕力では勝てるだろうけど、その他の色々な所で勝てる気がしない。
「それと、これからは何かの都合で誰かと対峙するような事が有ったら、必ずナイフを出すんだよ? そして、絶対にナイフを放すんじゃないよ」
「え? 何故?」
「何故も何も、下手に手を出せば怪我をするって、ナイフを持ってれば誰にだって判るだろ?」
「はあ、まあ」
 言わんとする事は判るのだけど、あたしは見た目にはか弱い女の子の筈だ。そう、恋人ときゃっきゃうふふした事なんて無いんだから、まだまだ女の子さ! そんなあたしがナイフを振り回したからと言って、相手が怯むものなのだろうか?
 だけど、そんなあたしの中身がチートだって見抜いてしまう、おかみさんみたいな人が冒険者を引退したのが信じられない。
「あの、おかみさん? おかみさんみたいな人が何故冒険者じゃなく、酒場の経営をしてるんですか?」
「おや? 聞きたいのかい?」
 おかみさんがニヤッと笑った。なんだか嫌な予感がする。
「は、はあ……」
「そうかい、聞きたいんだね? いいだろう。聞かせてやろうじゃないか」
 おかみさんのニヤニヤとした笑いが濃くなった。嫌な予感しかしない。
 結果、明け方まで惚気を聞かされてしまった。おかみさんのニヤニヤした笑いがトラウマになりそうである。
 端的に言うと、旦那さんに胃袋を掴まれてしまったのだそうな。逆だよ、逆!
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