天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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 二 ギルドの依頼を受けてみる

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 冒険者ギルドへの登録が済んだので、早速依頼を受ける事にする。強面のおじ様の窓口だ。
「依頼を受けたいんですが、字が判らないのでどんな依頼が有るか教えていただけますか?」
「今からか? 今からできるものはそう多くはないぞ?」
 強面だけど口調は優しげだった! 見かけで判断してごめんなさいと、心の中で謝っておく。
「はい。お金が全く無くて、今からでも働かないと今晩の食事にも困りますので」
「ふむ、無一文か。ならば酒場の接客はどうだ? 夜は遅くなるが、賄いも出るし、仕事の後に仮眠くらいはさせて貰える店だ」
「酒場って、その、えーと、何と言うか……」
 エッチな事をさせられないか気になってしまうが、何とも訊き辛い。
「ふむ、女を要求されないか気にしているのか?」
「はい……」
「その心配は無い、とは言えんな。店自体は至って健全なんだが、酔っ払いに身体を触られる事は有り得る。その所為なのか、誰も長続きしなくて、本来ならランク8の依頼がランク9になっている」
 とってもブラックっぽい。とは言っても、選択肢など端から無いのだから受けるほかあるまい。それに、店の営業としてエッチな事をさせられるんじゃなければどうにでもなるだろう。
「判りました。それを受けます」
「よし。ではここに指を置いてくれ」
 依頼票にタグとして付けられている水晶の板に、魔力紋を登録するらしい。言われるままに魔力紋をタグに登録して受注完了だ。
 その後、強面のおじ様は依頼票に書いている内容を一つ一つ指差しながら読み上げてくれ、酒場までの地図も書いてくれた。顔に似合わず親切な御仁だった。

 そして酒場である。見るからに酒場だ。何せ、樽のオブジェがひっついている。裏に回ろうかとも思ったが、建物と建物の間は塞がれていて回れる場所が無い。だから表からの訪問である。
 ゴンゴン、とノッカーを鳴らして叫ぶ。
「こんにちわーっ! ギルドの依頼でやってきましたーっ!」
「開いてるから、入って来なーっ!」
 中から中年女性らしき声で返事が来た。
 中に入ると、なんだか普通の大衆食堂みたいな光景が広がっている。そこには、女性としては少し大柄で、背筋がピンと張っていて、中年太りとは無縁そうな女性が立っていた。
「あんた、初めてだね?」
「はい」
「まだ早いんだけど来たもんはしょうがないね。まあ、メニューでも覚えといて」
 中年女性は壁を指差した。そこにはメニューらしきものが書いてあるが、やっぱり読めない。
「すいません。読めないので、一通り読んで貰って良いでしょうか?」
「まったく、しょうがないね」
 中年女性は文句を言いつつも読み上げてくれる。
 鶏肉の網焼き、豚肉の網焼き、蛇肉のシチュー、蛙肉の燻製焼き、鶏のスープなどなど。変なのも混じっている気がするが気にしたら負けだ。
 それらを聞きながらメモしていく。勿論、日本語訳だったり、カタカタだったりである。
 一通りのメニューを書き終えて気付いた。揚げ物は皆無で炒め物も殆ど無い。殆どの料理は煮るか焼くかしているだけだ。
「揚げ物とかは無いんですか?」
「油は高いから、こんな安酒場で出せるようなもんじゃないね」
「そんなに高いんですか」
「鶏肉の網焼きと揚げたのとじゃ、値段が倍も違ってくるね」
「それ程でしたか」
 それじゃ、揚げ物が無いのも道理だ。
 逆に考えると、油さえ安く手に入れられれば天ぷら屋もいけそうだ。店さえ開けられれば、後はどうとでも出来そうな予感がする。ふふふふふふ。
「なんだい!? 急に変な笑い方して」
「え!? あたし、笑ってました?」
「ああ、なんだか気持ち悪い笑い方だったね」
 中年女性は少し引き気味に気持ち悪そうな顔をした。
 あたしは暫し、頭を抱えた。

 掃除の手伝いをして賄いを食べさせて貰った後、仕事の本番だ。
 あの中年女性が店長かと思ったら、店長の配偶者だった。夫婦でこの店を切り盛りしているらしい。
 開店と同時にお客がちらほら入ってくる。まだ明るいのにいいんだろうか。いや、彼らとしてはいいんだろう。他人の心配より今は自分の心配だ。
「いらっしゃいませーっ!」
「お、新人さんか? まずはビールを持ってきてくれ」
「はい、少々お待ちください」
 そんな風に開店直後こそのんびりしたものだったが、日が沈む頃になると店が混み始めた。すると途端に手が回らなくなる。
「おーい! こっちはまだかーっ!?」
「注文頼むぞーっ!」
「はーい! 少々お待ちをーっ!」
「料理が来てねーぞ!」
「あ、はーい!」
「会計してくれ!」
「はーい」
 息つく暇も無い。接客しているのがあたしとおかみさんだけだなんて信じられない。おかみさんはこんなのを毎日やっているんだろうか? いや、二人分だからもっと忙しい筈だ。それこそ信じられない。思わずおかみさんの方を振り返った。
 だが、何かおかしい。当然おかみさんの方忙しくしているのだと思っていたのに、なんだかのんびりやっている。どう言う事だ? これは。
「きゃっ!」
 誰かにお尻を触られて思わず声が出てしまった。何か負けた気になるのは何故だろう?
 そして振り返れば、あたしを触ったらしい酔っ払いが変な顔をして手を見詰めていた。
「『きゃっ』だってよ!」
「可愛い悲鳴じゃないか!」
 あたしが振り返るだけの間に、あたしを触った酔っ払いと同席している酔っ払いからそんな野次も飛んできた。無性にムカつく。しかし、ここはグッと我慢しなければ今晩の寝床も怪しくなるのだ。こめかみが引き攣るのを感じながらも、あたしは仕事に戻ろうとした。その時である。
「姉ちゃん、硬いケツしてんな。鉄のパンツでも穿いてんのか?」
「鉄のパンツだとよ!」
「わーっはっはっはははは!」
 あたしは反射的に拳を握り締め、腕を振り上げた。
 ガン。ゴン。ガン。
 あたしが拳を振り下ろす前に連続した打撃音。
「ってーな!」
「何しやがる!」
「それは、こっちの台詞だよ! この馬鹿たれ共が!」
 おかみさんが酔っ払い達をお盆で殴りつけていた。
「なんだよ! 酔っ払いの可愛いお近づきの印じゃねーか」
「馬鹿言ってんじゃないよ! どこが可愛いもんかい! それで何人辞めたと思ってんだい!」
「知らねーよ、そんな事!」
「だったら、身体で判らせてやろうか!?」
 おかみさんが腕まくりを始めると、途端に酔っ払いが狼狽えだした。
「ちょ、ちょちょちょちょーっと待ってくれ。判った、判ったから」
「だったら、代金を置いてとっとと出て行きな! そして、当分は出入り禁止だよ!」
「わ、判ったよ」
 酔っ払いはすごすごと店から出ていった。何気におかみさんって超強いのかしらん?
「いいかい? あんた達! 命が惜しかったら、この娘にちょっかい出すんじゃないよ!」
 おかみさんが大声で客達に通達すると、そこかしこから「おー」とおっかなびっくりな様子で返事が返ってきた。それにしても、「命が惜しかったら」なんて物騒過ぎやしないだろうか。
 その脅しが利いたのか、その場に居た客達は静かに飲み食いするだけで足早に店を後にした。
 しかしそれは、一時的にお客の回転を速めただけに過ぎなかった。お客が一通り入れ替わると元の賑やかさを取り戻してしまい、あたしも暇になる事が無かった。

「ふぅ」
 閉店してやっと一息ついた。
「お疲れさん。あの連中は新しい娘が入るとなんだかんだと注文をして気を引きたがるからね。大変だったろ?」
「それはもう」
 客達はわざわざあたしに注文をしていたと言う事か。おかみさんがのんびりな訳だ。何か理不尽を感じるが、おかみさんのお陰で酔っ払いを殴らずに済んだ事にはお礼を言っておこう。
「今日は助けていただいて、ありがとうございました」
「あんたを助けた覚えは無いね」
「え? でも……」
 あたしがぽかんとおかみさんを見ると、おかみさんは頭を掻いた。
「むしろ、助けたのはあの酔っ払いの方をなんだけどね」
「え?」
「あんた、あいつを殴ろうとしただろ?」
「はい……」
「あのままあんたが殴っていたら、あの酔っ払いの首が無くなってたような気がしたからさ」
 あたしは苦笑いするしかなかった。
「まさか、そんな」
「まさか、なら良いんだけどね」
「あの、もしかして『命が惜しかったら』って脅していたのは?」
「ああ、『あんたに殴られたくなかったら』って事だね」
 冷や汗しか出ない。
「でもなぜ、そう思ったんですか?」
「あんたはどう見ても素人なのに気配がだだ漏れなんだよ。危なくてしょうがない」
 まさかのチートの気配のだだ漏れだった。
「だけど、そんなのが判るものなんですか?」
「こう見えてもあたしは元ランク2冒険者なんだ。結構有名人なんだよ」
「ああ、それで……」
 客達に脅しが利いた事も含めて、納得である。
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