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四六 のどかな日々はうたかたに
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一月八日には税金を納めに行った。十一月から十二月にかけて売り上げが伸びたことで、店を開いて三ヶ月間の利益は三〇〇万円ほどだ。その所得税に加え、下町にも間口税や人頭税が掛かり、税金の総額は六七万円だった。
そしてその翌日、あたしが税金を納めるのを待ち構えていたように彼らはやって来た。身形の整った男性と数人の兵士である。
「お前か? 違法に薬物を売っていると言う者は」
「ええ!? 薬物なんて売ってません!」
一体、どこでそんな話になったんだ?
「だが、魔力回復薬を販売してるのだろう?」
「売っているのは魔力回復薬じゃありません!」
あたしが売っているのは、あくまで薩摩揚げとチーカマだ。まあ、ちょっと魔力回復前提になってはいるけれど、それはポイッと棚の上に放り投げておく。
「あくまで白を切るつもりなのか?」
「白を切るも何も、あたしは薬物なんて扱ってません!」
「弁明は屯所で聞こう。来て貰うぞ」
「そんな勝手な!」
「逆らうのなら連行するまでだ」
身形の整った男性が兵士達に向かって顎であたしを指し示すと、その兵士達が屋台の中に入って来てあたしの腕を掴んだ。振り払いたかったが、そうしてしまうとスプラッタな未来が待ち受けている気がして躊躇ってしまった。しかし、その躊躇がいけなかったのかも知れない。
躊躇っている間に兵士の一人があたしの置いていたずだ袋を手に取ってしまった。それを取り返そうとあたしは腕を伸ばす。
「返して!」
だがその瞬間、湿った布で口を塞がれた。その布から鼻に付く臭いがしたかと思った途端、意識が朦朧としてきた。それでも必死に手を伸ばしてずだ袋を握り締めた。
そして、臭いの元が薬だと気付いた時には既に遅く、意識は闇に呑まれてしまった。
◆
頭がくらくらする。目も瞑ったままなため、周りの状況が判らない。だが、目を開けなければと思っても、どうにも瞼が重い。
耳を澄ませてみると、聞こえるのはあたしの呼吸の音と、身悶えた時に何かが擦れる音だけだ。
手足も瞼同様、思うように動かない。
それにしても迂闊だった。拘束魔法で物理的な防御がほぼ完璧だったために、過信してしまっていたのだ。今回は眠り薬の類だったようだが、もし毒薬だったら死んでいた。
毒を吸い込まなかったら良いのだけど、だからと言って呼吸をしないと死んでしまう。
考えてみれば、窒息しても死んでしまうんだ……。
毒を使われても、あるいは窒息させられそうになっても大丈夫にするにはどうするか。
むむむ……。
常に新鮮な空気さえあれば良い? でもどうすれば……。
それはそうと、喉も渇いた。水を……。
あっ! 水と同じで空気を召喚したらどうだろう? 呼吸に合わせて召喚できたら完璧だ。
早速試してみる。空気の召喚は初めてだから、まずは横たわった身体の頭の先に位置する、右手の指先に召喚してみる。召喚自体は水の召喚の応用だ。魔力の流れの違いを意識すれば大丈夫な筈である。
魔法を発動しても、成功しているのかよく判らない。そよっと、風が吹いたような気がするだけだった。
次は、顔の前に有る左手の所に召喚してみる。今度は顔に風が感じられた。成功していると思うのだけど、周りにも空気が有るのでよく判らない。
最後に、息を吸うのに合わせて、鼻の穴の中に召喚してみる。
ふがっ。
少し勢いが有りすぎて変な感じになってしまった。しかし、息を吸っていても左手に鼻からの風を感じる。間違いなく成功だ。
念には念を入れて、それを暫く練習していると、重かった瞼が持ち上げられるようになってきた。もしかすると、空気に痺れ薬を混ぜられているのかも知れない。
だけど何故、そんな念の入ったことをするのだろう?
とにもかくにも、周りの空気を吸わないようにして、召喚した空気を吸うようにしていると、段々と身体の感覚も戻ってきた。
頭を少し動かして右手を見ると、中指、薬指、小指の三本でずだ袋を握り締めていた。ずだ袋は死守できたようだ。これさえ有れば、まだ、あたしがあたしで居られる。
尤も、あたしが握り締めているものを奪うなんて、普通の人間にはできる筈がない。
頭を反対に動かして身体を見ると、着衣に乱れが有る。ボタンが外されていることから考えて、脱がされかけたっぽい。
きっと彼らは身体検査のつもりか何かで、あたしの服を脱がそうとして諦めたのだ。気を失った時からずっと今の姿勢のままだったとすれば、曲げている腕や足が邪魔をして、服を切り裂かないと脱がせなかった筈だ。切り裂こうにも、拘束魔法に歯が立たなかったに違いない。
また、拘束魔法に助けられた訳だ。
首に違和感が有ったので触ってみると、首輪を付けられている。用途は大凡予想できるが、外すのはここから出ていく時にしよう。
喉も渇いていたので、少しだけ口の中に水を召喚して喉を潤した。それから周りに目を向けた。
牢屋の中だった。
これは予想の範囲だったので特に驚きはしない。問題はこの後どうするかだ。
この町を離れなければいけなくなるのは遠くないとは思っていたが、ここまで早いとは思わなかった。
ずだ袋は手元に有るので、このままこの町から出て行っても良い。だけど、眠り薬を用意していた周到さには疑問を感じる。この町では怪力と言える程のものは見せていなかったので、兵士の行動がどうにも不自然に見える。
その理由を知りたい気がする。
どのくらいの時間が経っただろう。一時間のようにも、二時間のようにも感じる。通路側に有る薄明かりに揺らぎが無いので、日中の外の光が入っているのだろうと思われる。その点からすれば、捕まってからそんなに時間は経っていなさそうではある。
いつまで待つか、或いは待たないかを考えていると、不意に風が流れた。強風と言って良い強さの風だ。それが一分ほども続いた後、突然消えた。
ガコン。
扉が開くような音がした。
コツコツコツ。コツコツコツ。
複数の足音が聞こえる。誰かが牢屋に入ってきたのだ。
あたしは眠っている振りを続け、薄目を開けて通路の方を監視する。
コツコツコツ。コツコツコツ。
あたしの牢の前で足音は止まった。四人居る。
「まだ起きぬのか?」
「意識は戻っているかも知れませんが、痺れ薬が効いていて暫くは身動きできないでしょう」
やはり痺れ薬だった。
しかし、さっきはどのくらいの時間で動けるようになったんだっけ? 三〇分くらい痺れた振りをすれば大丈夫だろうか?
よく判らないが、そのくらいで動けるようになった振りをするとしよう。
それにしても、偉そうな感じの声には聞き覚えが有る。しかし、今の姿勢で見えるのは足下だけなので、確認ができない。
「ええい! まだか!? 早く起きぬか!」
偉そうな奴が、一〇分も待ちきれなかったようで、癇癪を起こした。
「直ぐに会っても無駄だと申しましたのに」
「そんな事は知らぬ。貴様、何とかせぬか!」
「こればかりは薬が切れるのを待つしかございません」
「ぬぬ! 使えぬ奴め!」
いやいや、短気に無理を通そうとする方がおかしいから。
コツコツコツ。
偉そうな奴が足を踏み鳴らし始めた。実に耳障りである。だが、今はまだ我慢我慢。
「ええい! 起きぬか!」
ガンガンガン。ガンガンガン。
偉そうな奴が、今度は牢屋の格子を叩き始めた。これは五月蠅くて堪らない。
時間も頃合いだと思われるので、もう少し目を開けて声を出すことにした。
「こ……こ……は……」
口が上手く動かない演技だ。空気が抜けたような声にしている。
ガンガンガン。ガンガンガン。
しかし、騒音はまだ止まらない。
「お待ちください! 何か言っているようです!」
誰かが偉そうな奴を押し止めると、やっと騒音が止まった。
「こ……こ……は……」
再度同じように声を出してみた。
「やっと起きたか。待ちかねたぞ」
「だ……れ……」
「余の声を忘れたと申すか?」
予想はできているが、知らない振りだ。
「だ……れ……」
「貴様! 余を愚弄するつもりか!」
短気な奴だ。
あたしはゆっくりと身体を回し、顔が通路の方を向くようにした。
「だ……れ……」
「王たる余を、まだ思い出さぬと言うか!」
いつから王になったつもりなのだろう? この「元」第一王子は。
「王……ち……が……う……」
「ぬぬぬ、直ぐに王に成って見せるわ! そのために、貴様が働くのだ!」
クスッと、元第一王子の横に居る男が笑った。激高している元第一王子はそれに気付いていない。
「い……や……」
「嫌だと申すか? だが、貴様はもう余のために働く運命なのだ!」
「な……ぜ……」
「何故だと問うか? 貴様の首に付いているのは、隷属の首輪と申す魔法道具だ。それが有る限り、貴様は余の命令に逆らえはせん」
予想通りの答えをありがとう。
「薬……は……誰……が……?」
「余に決まっておろう。貴様を押さえるには、搦め手でなければならぬのは先刻承知よ!」
さもありなん。
しかし、この場に居ることからしても、元第一王子はこの町のお偉いさんと繋がっているのだろうか? だとしても、この町のお偉いさんにメリットが無さそうなのだけど。
「早速、王の座へと向かうぞ」
そう言うと、元第一王子は横の男に視線だけを向ける。
「おい貴様、この者を連れ出せ!」
ぐさっ。
「ぐあっ!」
隣に居た男が元第一王子の腹部をナイフで貫いた。
元第一王子が剣を抜こうとするが、男はもう一本ナイフを取り出して元第一王子の腕を刺し貫く。
「がっ! き、貴様っ!」
「ただの反逆者に手を貸す馬鹿は居ませんよ。それに、いい加減貴方の声は耳障りだ」
「だ……騙したの……げほっ!」
元第一王子は喋り終わる前に血を吐いた。
「これはまた人聞きの悪い。最初から、この娘を捕らえるのに手を貸すだけと言う話だったじゃありませんか」
「この……裏切り……」
元第一王子は言い終わる前に崩れ落ち、そのまま息絶えた。
「国を裏切ったのは貴方でしょう」
男は、元第一王子の頭を蹴飛ばした。
そして、男はあたしの方へと向き直る。
「さて、邪魔者は居なくなりましたので、こちらの用件に入りましょう」
「用件?」
「そうです。貴女の噂は聞いていますよ。とても素晴らしい魔力回復薬を作られるとか」
「魔力回復薬なんて作ってません」
「貴女がどう言うつもりかなんてどうでも良いのです。結果の問題です」
「結果?」
「そうです。貴女のせいで冒険者ギルドは大損害です。ギルドで集めた薬草を使った魔力回復薬が売れなくなったのですから、その損害は計り知れません」
確かに、そうした魔力回復薬のことは失念していた。それを生業にしていた人に迷惑を掛けたと言われれば、その言葉自体は甘んじて聞かねばならないだろう。しかし、冒険者ギルドの損害と言う、この男の言い方はおかしい。
「損害なんて嘘でしょう?」
「おや? どうしてそう思われます?」
「損害があるなら、金額を弾いている筈でしょう? 『計り知れない』なんて大雑把はあり得ません」
「おやおや、これはしくじりましたね。しかし、薬草について損害が出ているのは本当ですよ?」
「薬草採取は元々採算が取れていないでしょう?」
「これは手厳しい。確かに薬草採取は慈善事業ですから、損害が出て当たり前ですね。はははははっ」
男は何だかポーズを取りながら喋っていて、甚だ鬱陶しい。
「それで用件って何ですか?」
「そうでした。貴女には今後、冒険者ギルドのために回復薬を作って頂こうと思っています」
「お断りです」
「それは無理ですね。既に商業ギルドからは追放になっていますし、冒険者ギルドにはランク3で登録されています。強制依頼を貴女は断れません」
「何を勝手に!?」
「くっくっくっくっくっ、逃げようとしても無駄ですよ。その首輪が付いている限りはね」
男は勝ち誇ったように言った。
「どう言うこと?」
「その首輪さえ付いていれば、貴女を気絶させることもできれば、殺すこともできます。無理に外そうとすれば死ぬだけですよ。命が惜しければ言うことを聞くのですね」
「そう。それで期限はいつまで?」
「そんなもの、迷宮が攻略されるまでに決まっているではないですか! あーっはっはっははは!」
終了条件が無い依頼は無効だ。だから、男が「終わる筈が無い」と思っている条件にしたのだろう。
「ところで、貴方は?」
「これは、申し遅れました。私は、この町の行政官のバーツオと申します。お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも」
あたしの方は自己紹介をするまでもないだろう。
それにしても、こんな狂人が行政官とは世も末だ。
「確認しますけど、迷宮が攻略されたら強制依頼はお終いなのですね?」
「その通りです。間違い有りません」
ここであたしは身体を起こし、通路の方へと向かった。
「ここを出して貰えますか?」
「良いでしょう」
バーツオが顎を振ると、兵士が牢屋の鍵を開けた。
「さあ、これが貴女のギルドカードです。お持ちください」
あたしは牢屋を出て、ギルドカードを受け取った。
「貴女の住居も用意していますから、ご案内しましょう。勿論、監視は付いていますけどね。あーっはっはっははは!」
この行政官は箸が転がっても可笑しいお年頃なのだろうか?
だけど、そんなことはどうでも良い。
「お断りです」
「は? 今、何と?」
「お断りだと言ったんです」
徐に首輪に手を掛け、引き千切る。
ドゴーン!
首輪が爆発し、爆風が吹き荒れた。バーツオと兵士達が吹き飛ばされ、壁や床に叩き付けられる。
「ぐがっ」「ぎぎっ」
二人の呻き声が上がる。兵士の一人は既に気絶しているようだ。
「お望み通り、迷宮の攻略までは付き合ってあげますよ」
「まさ……か!?」
バーツオは、未だ爆風によるダメージでのたうったままだ。
「はい。あたしが迷宮を攻略してあげます」
「そんなこと……が……許されると……思っているのか!?」
「貴方が望んだことじゃないですか」
「貴様!」
バーツオは、床に這い蹲ったまま叫んだ。
「変な欲を出さなければ良かったんです」
「待て!」
呼び止める声を無視してあたしは牢屋を後にした。その途中で駆け付けてきた兵士達は、魔法で強風を吹かせて吹き飛ばした。
ここから暫くは時間との勝負になるので走る。バーツオの横槍が入らない内に買い物を済ませなければいけない。
まずは、雑貨屋に行って袋を数枚と紙を二〇〇枚ほど買い、各市場で干し肉、干し野菜、米を買い込んだ。
そして自宅へ向かう。その途中、兵士の一団を追い越した。恐らく、バーツオが手配した者達だ。
目の前に門が迫るが、門で普通に手続きをしていたら追いつかれてしまう。そのため、強行突破して帰宅した。
自宅では、食料、調味料、鍋を二つ、食器、シーツを荷造りする。醤油などの液体の調味料、迷宮では余分になってしまう鍋、防寒着は諦める。迷宮の未踏の階層を探索するのに必要な日数が判らないため、食料を中心にせざるを得ないのだ。重量的に問題がなくても、体積の問題で背負子に載せきれないのである。
荷物を全て背負子に乗せ終わった時には、もう家の前が騒々しくなっていた。兵士達がやって来ているのだろう。
表に出ると、案の定だった。野次馬も集まっている。その中には純三さんの姿も有った。
『お世話になりました! あたしはこの町を出て行くことにします!』
純三さんの方は向かずに日本語で叫んだ。純三さんにさえ伝われば良い。リアルドさんらには、純三さんから伝わるだろう。
横目でチラッと見た純三さんの目は、大きく見開かれていた。
兵士達はあたしの声に身構えたが、何も起きないので少しだけ緊張を和らげてあたしと対峙する。
「油上千佳、お前を逮捕する。温和しく従えばよし、従わぬならこの場で処刑する」
兵士の言葉に野次馬がどよめく。
当然、そんな指示に従うつもりは無い。足下の地面を拘束魔法で保護しつつ、地面を蹴った。
「うわっ!」
「何だ!」
「高い!」
野次馬が口々に叫ぶ。そう、あたしは宙を舞っている。
ジャンプすれば、高さ一〇メートル、距離三〇メートルは軽く跳べるのだ。野次馬の後ろに着地したあたしは、迷宮に向かって走りだした。
ルーメンミに到着すると直ぐに地図を買いに行ったが、既にバーツオの手が回っていて販売を断られてしまった。そうなることを見越して紙を用意してはいたが、一階から地図を書かなければいけないのはきつい。
この分だと迷宮の入り口でも止められるだろうが、そこは強行突破だ。
だが、気が重いことに違いはないので、足取りも重い。
「代理人さんじゃない。どうしたの? こんなところで」
とぼとぼと歩いていたら声を掛けられた。あたしを代理人と呼ぶ女性は一人しかいない。
「こんにちは、ミクーナさん。今から迷宮に入ろうと思いまして」
「え? 今から? もう直ぐ夜よ?」
「はい。あまり悠長にしてもいられませんし」
「何か有ったの?」
ミクーナさんは訝しげに眉根を寄せた。
「迷宮の中に入った後なら説明しますけど、今は急ぐので勘弁して頂けますか?」
ミクーナさんがレクバさんを見ると、レクバさんが頷いた。
「いいわ。迷宮の中で聞きましょう」
「油上千佳は立ち入り禁止だ。ここで温和しくしていて貰う」
迷宮の番人には既に通達が届いていたようだ。
その番人の言葉に反応したのはミクーナさんだった。
「どう言うこと?」
「俺は知らん。油上千佳を見掛けたら捕縛するよう命令を受けただけだ」
「誰がそんな命令を?」
「それは言えん」
職務に忠実なのは良いことだが、今のあたしには邪魔でしかない。
「退いて貰えますか? 退かないなら力尽くになりますけど?」
「あっはっはっは! お前がか? やれるものならやってみろ」
番人はあたしの見た目だけで判断しているようだ。
「手加減してあげられる気分じゃないんだけど」
「ほざけ、こっちはお前を殺しても構わないと命令されている。命が惜しかったら温和しく投降することだな」
番人は剣を抜いて突き付けてきた。
番人の言葉に反応したのは、またミクーナさんだった。
「殺してもいいって、何よそれ!?」
「大方、重犯罪人なんだろうよ。お前達こそ、どうしてこんな女と一緒に居るんだ?」
「貴方には関係ないわね」
「はっ! この女の仲間ならお前達も同罪だ。お前達も命が惜しかったら温和しくしてろよ」
「え!? 貴方、私達に勝てるつもりでいるの!?」
ミクーナさんの目が驚愕に見開かれた。あたしも驚きである。
だが、今の一言で番人が挙動不審に目を彷徨わせ始めた。
「そ、それは……」
何か言おうとしているが、剣を持つ手も震え始めた。自分の失言に気付いたのだろう。
だが、いつまでも門番の相手はしていられない。
「命が惜しかったらって、こっちの台詞よ」
あたしは門番の剣の刃に手を掛けると、そのまま握り潰した。
「え?」
「え?」「な?」「は?」「え?」
門番もミクーナさん達も呆けた声を出したが、彼らの復活を待つつもりは無い。
「次は何を潰せば良い? 貴方の腕? 足? それとも頭?」
ゆっくりと右手を差し出す。
「ひいぃぃぃぃ!」
番人は腰を抜かし、股間を濡らした。その後、這い蹲るようにして迷宮の入り口から退いていった。
「代理人さん、貴女って……」
ミクーナさんのそんな呟きは無視して、あたしは迷宮に入った。
そしてその翌日、あたしが税金を納めるのを待ち構えていたように彼らはやって来た。身形の整った男性と数人の兵士である。
「お前か? 違法に薬物を売っていると言う者は」
「ええ!? 薬物なんて売ってません!」
一体、どこでそんな話になったんだ?
「だが、魔力回復薬を販売してるのだろう?」
「売っているのは魔力回復薬じゃありません!」
あたしが売っているのは、あくまで薩摩揚げとチーカマだ。まあ、ちょっと魔力回復前提になってはいるけれど、それはポイッと棚の上に放り投げておく。
「あくまで白を切るつもりなのか?」
「白を切るも何も、あたしは薬物なんて扱ってません!」
「弁明は屯所で聞こう。来て貰うぞ」
「そんな勝手な!」
「逆らうのなら連行するまでだ」
身形の整った男性が兵士達に向かって顎であたしを指し示すと、その兵士達が屋台の中に入って来てあたしの腕を掴んだ。振り払いたかったが、そうしてしまうとスプラッタな未来が待ち受けている気がして躊躇ってしまった。しかし、その躊躇がいけなかったのかも知れない。
躊躇っている間に兵士の一人があたしの置いていたずだ袋を手に取ってしまった。それを取り返そうとあたしは腕を伸ばす。
「返して!」
だがその瞬間、湿った布で口を塞がれた。その布から鼻に付く臭いがしたかと思った途端、意識が朦朧としてきた。それでも必死に手を伸ばしてずだ袋を握り締めた。
そして、臭いの元が薬だと気付いた時には既に遅く、意識は闇に呑まれてしまった。
◆
頭がくらくらする。目も瞑ったままなため、周りの状況が判らない。だが、目を開けなければと思っても、どうにも瞼が重い。
耳を澄ませてみると、聞こえるのはあたしの呼吸の音と、身悶えた時に何かが擦れる音だけだ。
手足も瞼同様、思うように動かない。
それにしても迂闊だった。拘束魔法で物理的な防御がほぼ完璧だったために、過信してしまっていたのだ。今回は眠り薬の類だったようだが、もし毒薬だったら死んでいた。
毒を吸い込まなかったら良いのだけど、だからと言って呼吸をしないと死んでしまう。
考えてみれば、窒息しても死んでしまうんだ……。
毒を使われても、あるいは窒息させられそうになっても大丈夫にするにはどうするか。
むむむ……。
常に新鮮な空気さえあれば良い? でもどうすれば……。
それはそうと、喉も渇いた。水を……。
あっ! 水と同じで空気を召喚したらどうだろう? 呼吸に合わせて召喚できたら完璧だ。
早速試してみる。空気の召喚は初めてだから、まずは横たわった身体の頭の先に位置する、右手の指先に召喚してみる。召喚自体は水の召喚の応用だ。魔力の流れの違いを意識すれば大丈夫な筈である。
魔法を発動しても、成功しているのかよく判らない。そよっと、風が吹いたような気がするだけだった。
次は、顔の前に有る左手の所に召喚してみる。今度は顔に風が感じられた。成功していると思うのだけど、周りにも空気が有るのでよく判らない。
最後に、息を吸うのに合わせて、鼻の穴の中に召喚してみる。
ふがっ。
少し勢いが有りすぎて変な感じになってしまった。しかし、息を吸っていても左手に鼻からの風を感じる。間違いなく成功だ。
念には念を入れて、それを暫く練習していると、重かった瞼が持ち上げられるようになってきた。もしかすると、空気に痺れ薬を混ぜられているのかも知れない。
だけど何故、そんな念の入ったことをするのだろう?
とにもかくにも、周りの空気を吸わないようにして、召喚した空気を吸うようにしていると、段々と身体の感覚も戻ってきた。
頭を少し動かして右手を見ると、中指、薬指、小指の三本でずだ袋を握り締めていた。ずだ袋は死守できたようだ。これさえ有れば、まだ、あたしがあたしで居られる。
尤も、あたしが握り締めているものを奪うなんて、普通の人間にはできる筈がない。
頭を反対に動かして身体を見ると、着衣に乱れが有る。ボタンが外されていることから考えて、脱がされかけたっぽい。
きっと彼らは身体検査のつもりか何かで、あたしの服を脱がそうとして諦めたのだ。気を失った時からずっと今の姿勢のままだったとすれば、曲げている腕や足が邪魔をして、服を切り裂かないと脱がせなかった筈だ。切り裂こうにも、拘束魔法に歯が立たなかったに違いない。
また、拘束魔法に助けられた訳だ。
首に違和感が有ったので触ってみると、首輪を付けられている。用途は大凡予想できるが、外すのはここから出ていく時にしよう。
喉も渇いていたので、少しだけ口の中に水を召喚して喉を潤した。それから周りに目を向けた。
牢屋の中だった。
これは予想の範囲だったので特に驚きはしない。問題はこの後どうするかだ。
この町を離れなければいけなくなるのは遠くないとは思っていたが、ここまで早いとは思わなかった。
ずだ袋は手元に有るので、このままこの町から出て行っても良い。だけど、眠り薬を用意していた周到さには疑問を感じる。この町では怪力と言える程のものは見せていなかったので、兵士の行動がどうにも不自然に見える。
その理由を知りたい気がする。
どのくらいの時間が経っただろう。一時間のようにも、二時間のようにも感じる。通路側に有る薄明かりに揺らぎが無いので、日中の外の光が入っているのだろうと思われる。その点からすれば、捕まってからそんなに時間は経っていなさそうではある。
いつまで待つか、或いは待たないかを考えていると、不意に風が流れた。強風と言って良い強さの風だ。それが一分ほども続いた後、突然消えた。
ガコン。
扉が開くような音がした。
コツコツコツ。コツコツコツ。
複数の足音が聞こえる。誰かが牢屋に入ってきたのだ。
あたしは眠っている振りを続け、薄目を開けて通路の方を監視する。
コツコツコツ。コツコツコツ。
あたしの牢の前で足音は止まった。四人居る。
「まだ起きぬのか?」
「意識は戻っているかも知れませんが、痺れ薬が効いていて暫くは身動きできないでしょう」
やはり痺れ薬だった。
しかし、さっきはどのくらいの時間で動けるようになったんだっけ? 三〇分くらい痺れた振りをすれば大丈夫だろうか?
よく判らないが、そのくらいで動けるようになった振りをするとしよう。
それにしても、偉そうな感じの声には聞き覚えが有る。しかし、今の姿勢で見えるのは足下だけなので、確認ができない。
「ええい! まだか!? 早く起きぬか!」
偉そうな奴が、一〇分も待ちきれなかったようで、癇癪を起こした。
「直ぐに会っても無駄だと申しましたのに」
「そんな事は知らぬ。貴様、何とかせぬか!」
「こればかりは薬が切れるのを待つしかございません」
「ぬぬ! 使えぬ奴め!」
いやいや、短気に無理を通そうとする方がおかしいから。
コツコツコツ。
偉そうな奴が足を踏み鳴らし始めた。実に耳障りである。だが、今はまだ我慢我慢。
「ええい! 起きぬか!」
ガンガンガン。ガンガンガン。
偉そうな奴が、今度は牢屋の格子を叩き始めた。これは五月蠅くて堪らない。
時間も頃合いだと思われるので、もう少し目を開けて声を出すことにした。
「こ……こ……は……」
口が上手く動かない演技だ。空気が抜けたような声にしている。
ガンガンガン。ガンガンガン。
しかし、騒音はまだ止まらない。
「お待ちください! 何か言っているようです!」
誰かが偉そうな奴を押し止めると、やっと騒音が止まった。
「こ……こ……は……」
再度同じように声を出してみた。
「やっと起きたか。待ちかねたぞ」
「だ……れ……」
「余の声を忘れたと申すか?」
予想はできているが、知らない振りだ。
「だ……れ……」
「貴様! 余を愚弄するつもりか!」
短気な奴だ。
あたしはゆっくりと身体を回し、顔が通路の方を向くようにした。
「だ……れ……」
「王たる余を、まだ思い出さぬと言うか!」
いつから王になったつもりなのだろう? この「元」第一王子は。
「王……ち……が……う……」
「ぬぬぬ、直ぐに王に成って見せるわ! そのために、貴様が働くのだ!」
クスッと、元第一王子の横に居る男が笑った。激高している元第一王子はそれに気付いていない。
「い……や……」
「嫌だと申すか? だが、貴様はもう余のために働く運命なのだ!」
「な……ぜ……」
「何故だと問うか? 貴様の首に付いているのは、隷属の首輪と申す魔法道具だ。それが有る限り、貴様は余の命令に逆らえはせん」
予想通りの答えをありがとう。
「薬……は……誰……が……?」
「余に決まっておろう。貴様を押さえるには、搦め手でなければならぬのは先刻承知よ!」
さもありなん。
しかし、この場に居ることからしても、元第一王子はこの町のお偉いさんと繋がっているのだろうか? だとしても、この町のお偉いさんにメリットが無さそうなのだけど。
「早速、王の座へと向かうぞ」
そう言うと、元第一王子は横の男に視線だけを向ける。
「おい貴様、この者を連れ出せ!」
ぐさっ。
「ぐあっ!」
隣に居た男が元第一王子の腹部をナイフで貫いた。
元第一王子が剣を抜こうとするが、男はもう一本ナイフを取り出して元第一王子の腕を刺し貫く。
「がっ! き、貴様っ!」
「ただの反逆者に手を貸す馬鹿は居ませんよ。それに、いい加減貴方の声は耳障りだ」
「だ……騙したの……げほっ!」
元第一王子は喋り終わる前に血を吐いた。
「これはまた人聞きの悪い。最初から、この娘を捕らえるのに手を貸すだけと言う話だったじゃありませんか」
「この……裏切り……」
元第一王子は言い終わる前に崩れ落ち、そのまま息絶えた。
「国を裏切ったのは貴方でしょう」
男は、元第一王子の頭を蹴飛ばした。
そして、男はあたしの方へと向き直る。
「さて、邪魔者は居なくなりましたので、こちらの用件に入りましょう」
「用件?」
「そうです。貴女の噂は聞いていますよ。とても素晴らしい魔力回復薬を作られるとか」
「魔力回復薬なんて作ってません」
「貴女がどう言うつもりかなんてどうでも良いのです。結果の問題です」
「結果?」
「そうです。貴女のせいで冒険者ギルドは大損害です。ギルドで集めた薬草を使った魔力回復薬が売れなくなったのですから、その損害は計り知れません」
確かに、そうした魔力回復薬のことは失念していた。それを生業にしていた人に迷惑を掛けたと言われれば、その言葉自体は甘んじて聞かねばならないだろう。しかし、冒険者ギルドの損害と言う、この男の言い方はおかしい。
「損害なんて嘘でしょう?」
「おや? どうしてそう思われます?」
「損害があるなら、金額を弾いている筈でしょう? 『計り知れない』なんて大雑把はあり得ません」
「おやおや、これはしくじりましたね。しかし、薬草について損害が出ているのは本当ですよ?」
「薬草採取は元々採算が取れていないでしょう?」
「これは手厳しい。確かに薬草採取は慈善事業ですから、損害が出て当たり前ですね。はははははっ」
男は何だかポーズを取りながら喋っていて、甚だ鬱陶しい。
「それで用件って何ですか?」
「そうでした。貴女には今後、冒険者ギルドのために回復薬を作って頂こうと思っています」
「お断りです」
「それは無理ですね。既に商業ギルドからは追放になっていますし、冒険者ギルドにはランク3で登録されています。強制依頼を貴女は断れません」
「何を勝手に!?」
「くっくっくっくっくっ、逃げようとしても無駄ですよ。その首輪が付いている限りはね」
男は勝ち誇ったように言った。
「どう言うこと?」
「その首輪さえ付いていれば、貴女を気絶させることもできれば、殺すこともできます。無理に外そうとすれば死ぬだけですよ。命が惜しければ言うことを聞くのですね」
「そう。それで期限はいつまで?」
「そんなもの、迷宮が攻略されるまでに決まっているではないですか! あーっはっはっははは!」
終了条件が無い依頼は無効だ。だから、男が「終わる筈が無い」と思っている条件にしたのだろう。
「ところで、貴方は?」
「これは、申し遅れました。私は、この町の行政官のバーツオと申します。お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも」
あたしの方は自己紹介をするまでもないだろう。
それにしても、こんな狂人が行政官とは世も末だ。
「確認しますけど、迷宮が攻略されたら強制依頼はお終いなのですね?」
「その通りです。間違い有りません」
ここであたしは身体を起こし、通路の方へと向かった。
「ここを出して貰えますか?」
「良いでしょう」
バーツオが顎を振ると、兵士が牢屋の鍵を開けた。
「さあ、これが貴女のギルドカードです。お持ちください」
あたしは牢屋を出て、ギルドカードを受け取った。
「貴女の住居も用意していますから、ご案内しましょう。勿論、監視は付いていますけどね。あーっはっはっははは!」
この行政官は箸が転がっても可笑しいお年頃なのだろうか?
だけど、そんなことはどうでも良い。
「お断りです」
「は? 今、何と?」
「お断りだと言ったんです」
徐に首輪に手を掛け、引き千切る。
ドゴーン!
首輪が爆発し、爆風が吹き荒れた。バーツオと兵士達が吹き飛ばされ、壁や床に叩き付けられる。
「ぐがっ」「ぎぎっ」
二人の呻き声が上がる。兵士の一人は既に気絶しているようだ。
「お望み通り、迷宮の攻略までは付き合ってあげますよ」
「まさ……か!?」
バーツオは、未だ爆風によるダメージでのたうったままだ。
「はい。あたしが迷宮を攻略してあげます」
「そんなこと……が……許されると……思っているのか!?」
「貴方が望んだことじゃないですか」
「貴様!」
バーツオは、床に這い蹲ったまま叫んだ。
「変な欲を出さなければ良かったんです」
「待て!」
呼び止める声を無視してあたしは牢屋を後にした。その途中で駆け付けてきた兵士達は、魔法で強風を吹かせて吹き飛ばした。
ここから暫くは時間との勝負になるので走る。バーツオの横槍が入らない内に買い物を済ませなければいけない。
まずは、雑貨屋に行って袋を数枚と紙を二〇〇枚ほど買い、各市場で干し肉、干し野菜、米を買い込んだ。
そして自宅へ向かう。その途中、兵士の一団を追い越した。恐らく、バーツオが手配した者達だ。
目の前に門が迫るが、門で普通に手続きをしていたら追いつかれてしまう。そのため、強行突破して帰宅した。
自宅では、食料、調味料、鍋を二つ、食器、シーツを荷造りする。醤油などの液体の調味料、迷宮では余分になってしまう鍋、防寒着は諦める。迷宮の未踏の階層を探索するのに必要な日数が判らないため、食料を中心にせざるを得ないのだ。重量的に問題がなくても、体積の問題で背負子に載せきれないのである。
荷物を全て背負子に乗せ終わった時には、もう家の前が騒々しくなっていた。兵士達がやって来ているのだろう。
表に出ると、案の定だった。野次馬も集まっている。その中には純三さんの姿も有った。
『お世話になりました! あたしはこの町を出て行くことにします!』
純三さんの方は向かずに日本語で叫んだ。純三さんにさえ伝われば良い。リアルドさんらには、純三さんから伝わるだろう。
横目でチラッと見た純三さんの目は、大きく見開かれていた。
兵士達はあたしの声に身構えたが、何も起きないので少しだけ緊張を和らげてあたしと対峙する。
「油上千佳、お前を逮捕する。温和しく従えばよし、従わぬならこの場で処刑する」
兵士の言葉に野次馬がどよめく。
当然、そんな指示に従うつもりは無い。足下の地面を拘束魔法で保護しつつ、地面を蹴った。
「うわっ!」
「何だ!」
「高い!」
野次馬が口々に叫ぶ。そう、あたしは宙を舞っている。
ジャンプすれば、高さ一〇メートル、距離三〇メートルは軽く跳べるのだ。野次馬の後ろに着地したあたしは、迷宮に向かって走りだした。
ルーメンミに到着すると直ぐに地図を買いに行ったが、既にバーツオの手が回っていて販売を断られてしまった。そうなることを見越して紙を用意してはいたが、一階から地図を書かなければいけないのはきつい。
この分だと迷宮の入り口でも止められるだろうが、そこは強行突破だ。
だが、気が重いことに違いはないので、足取りも重い。
「代理人さんじゃない。どうしたの? こんなところで」
とぼとぼと歩いていたら声を掛けられた。あたしを代理人と呼ぶ女性は一人しかいない。
「こんにちは、ミクーナさん。今から迷宮に入ろうと思いまして」
「え? 今から? もう直ぐ夜よ?」
「はい。あまり悠長にしてもいられませんし」
「何か有ったの?」
ミクーナさんは訝しげに眉根を寄せた。
「迷宮の中に入った後なら説明しますけど、今は急ぐので勘弁して頂けますか?」
ミクーナさんがレクバさんを見ると、レクバさんが頷いた。
「いいわ。迷宮の中で聞きましょう」
「油上千佳は立ち入り禁止だ。ここで温和しくしていて貰う」
迷宮の番人には既に通達が届いていたようだ。
その番人の言葉に反応したのはミクーナさんだった。
「どう言うこと?」
「俺は知らん。油上千佳を見掛けたら捕縛するよう命令を受けただけだ」
「誰がそんな命令を?」
「それは言えん」
職務に忠実なのは良いことだが、今のあたしには邪魔でしかない。
「退いて貰えますか? 退かないなら力尽くになりますけど?」
「あっはっはっは! お前がか? やれるものならやってみろ」
番人はあたしの見た目だけで判断しているようだ。
「手加減してあげられる気分じゃないんだけど」
「ほざけ、こっちはお前を殺しても構わないと命令されている。命が惜しかったら温和しく投降することだな」
番人は剣を抜いて突き付けてきた。
番人の言葉に反応したのは、またミクーナさんだった。
「殺してもいいって、何よそれ!?」
「大方、重犯罪人なんだろうよ。お前達こそ、どうしてこんな女と一緒に居るんだ?」
「貴方には関係ないわね」
「はっ! この女の仲間ならお前達も同罪だ。お前達も命が惜しかったら温和しくしてろよ」
「え!? 貴方、私達に勝てるつもりでいるの!?」
ミクーナさんの目が驚愕に見開かれた。あたしも驚きである。
だが、今の一言で番人が挙動不審に目を彷徨わせ始めた。
「そ、それは……」
何か言おうとしているが、剣を持つ手も震え始めた。自分の失言に気付いたのだろう。
だが、いつまでも門番の相手はしていられない。
「命が惜しかったらって、こっちの台詞よ」
あたしは門番の剣の刃に手を掛けると、そのまま握り潰した。
「え?」
「え?」「な?」「は?」「え?」
門番もミクーナさん達も呆けた声を出したが、彼らの復活を待つつもりは無い。
「次は何を潰せば良い? 貴方の腕? 足? それとも頭?」
ゆっくりと右手を差し出す。
「ひいぃぃぃぃ!」
番人は腰を抜かし、股間を濡らした。その後、這い蹲るようにして迷宮の入り口から退いていった。
「代理人さん、貴女って……」
ミクーナさんのそんな呟きは無視して、あたしは迷宮に入った。
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