天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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四九 手からミルクがこぼれ落つ

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 三日目からは地図を作成しながらとなるため、ずっと徒歩になる。
 ミクーナさんが探索魔法で通路を調べて地図を描き、フォリントスさんが床や壁を探索して罠や隠し部屋が無いかを調べるのだ。
 目的は迷宮の最奥に行くことなので、次の階への通路や階段が見つかればその階の探索は終了となる。
 それでも、一日に二階層か三階層進むのがやっとだ。時間の半分は野営する場所探しになってしまうせいも有る。
 九〇階辺りから魔物が襲ってくることも多くなり、あたしも忙しくなった。結果として大きな魔石も手に入るので、レクバさん達四人も元が取れると喜んでいる。

 そして迷宮に入って一〇日目、最奥の邪神の像を見つけるに至った。
 その邪神の像を守るようにしているのは、いつかのトカゲより更に大きなトカゲの群れだったが、あたしはブレスを吐く暇も与えなかった。
「冒険者を辞めたくなってきた」
「奇遇だな、俺もだ」
「待って! クーロンスには行くのよ!?」
「それはそれ、これはこれだ」
「ああ、本当なら一生掛かっても稼げないだけの魔石も貰っちまったからな。クーロンスに移住してのんびり暮らすのも良いんじゃないか?」
「俺、この迷宮を出たら、可愛い嫁さんを見つけるんだ」
「止めろドラムゴ、不吉すぎる」
「冗談に決まってるだろ」
 何やら盛り上がっているみたいだが、あまり悠長にしているとまたトカゲが湧き出してくるので、像の破壊に取り掛かろう。

 おおよそ二メートル四方で高さ一メートル程の台座の真ん中に、高さ五〇センチメートルほどの邪神の像が立っている。天井まで二〇メートルくらいの部屋にぽつんと有るため、とても小さく見える。
 この像がいつからここに有るかは判らないが、五〇年や一〇〇年じゃ利かないだろう。台座に相応しいほどに大きくなるのだとすれば、後何千年も掛かりそうだ。
 それにとても邪神には見えず、普通の人の像と変わらない。邪神と言うのが眉唾臭いが、迷宮が魔物を生み出していることだけは間違いない。

「また魔物が来たぞ!」
 逡巡している内にお次が来てしまったようだ。早く破壊してしまおう。
 あたしは台座に乗り、思いっきり像を殴った。
 ところが、今までに無い堅い感触がして一度では壊れない。
 一旦押し寄せてきている魔物の掃討した後で、再度像を殴る。二度三度と殴る内にひびが入ってきた。そうしている内にまた魔物がやってくる。
 そして、後一発殴ったらまた魔物の掃討だと思いながら像を殴った瞬間、像の全体が罅割れて崩れていった。
 それと共に、押し寄せてきていた魔物達は、魔石を残して崩れ、消えていった。
「本当に消えた?」
「ああ、消えた」
「目の当たりにしていても信じられん」
「何なら、殴ってあげましょうか?」
「それは遠慮しておく」
「だけど、消えて助かったわ」
「九〇階辺りから後は、ほんとにいつ殺されるかと冷や冷やしっぱなしだった」
 四人に弛緩した空気が流れる。座り込まないのは流石だ。
「さあ、魔石を回収したら戻りましょうか」
「おう」
「ええ」
 帰り道は早い。地図も有り、魔物が出てくることも無い。途中一泊しただけで、出口へと辿り着いた。

「とんでもないことをやってくれたな」
 バーツオが待ち構えていた。
「あ、居たんですか。強制依頼は完了したから確認をください」
「『居たんですか』ではない! 迷宮はおろか、周辺の魔物まで消えてしまったではないか!」
「だから、確認をですね」
「そんなものをやると思っているのか!?」
「あれ? 頂けませんか?」
「当たり前だ! 貴様! ただで済むと思うな! そいつの横に居るお前らも同罪だ!」
 身構える兵士達とレクバさん達四人。兵士達は身構える一方で口を塞いでいる。
 あたしは咄嗟に空気の召喚をレクバさん達四人を含む範囲へと広げた。
 きっと毒が仕掛けられたのだろう、数人の兵士が血を吐いた。あたしの魔法に阻まれた毒が、周囲の兵士へと向かったと思われる。
 溜め息を一つ吐いた。
「こうまでするなら仕方ありません。殺人犯にはなりたくなかったんですが……」
 ここで一旦言葉を切った。
「あんたには消し炭になって貰わなきゃいけないわね?」
 レクバさん達を拘束魔法で保護しつつ、火の玉を出す。それを上空で次第に大きくし、ついにはルーメンミの町並みを覆うほどに大きくした。
 火の玉の熱でルーメンミが焼け付くような状態になっているはずだ。「熱い、熱い」と兵士達が呻いている。
 バーツオの方は、ガクガクと震えているのが傍目にも判る。
 あたしは一旦火の玉を消して、問い掛ける。
「ねえ、どこまで消し炭にする? あんた一人? ルーメンミ全部? それともこの国全部?」
「や……や……、ひ、ひ、ひぃぃぃ! ひーひゃひゃひゃひゃ!」
 バーツオが壊れた。
「あんた達! この男を連れて帰りなさい! もし、あたし達に余計な手出しをしたら、今度は本当に消し炭にするからね!」
「は、はいぃぃ!」
 正気を保っていた兵士の一人が上ずった返事を発し、バーツオと共に兵士達は引き上げていった。
 結局、強制依頼の確認は貰えず仕舞いになったが、この国から出て行って戻ってこなければ良いだけだ。何とかなるだろう。
 兵士達を見送った後、レクバさん達を見ると、ミクーナさんが失神していた。他の三人は視線を彷徨わせている。あたしが視線を合わせるとビクンとなったりもする。
 また失敗しちゃった……。
 こんなに怯えているようでは、きっともう、この人達に会うことはできないだろう。
「あの……、ミクーナさんによ……、いえ、あたしのことは忘れるように伝えてください」
「あ、あんたは、これからどうするんだ?」
 尋ねてくるレクバさんは明らかにビクついている。
「今度はもっと南の国に行くつもりです」
「そ、そうか……」
 明らかにホッとした表情をされた。
 まあ、そうだよね……。
「ごめんなさい。これで失礼します」
 あたしは別れを告げ、返事も待たずに走り出した。
 景色がぼやけて見えるのは、きっと気のせいだ。

 荒れ地に差し掛かると、所々に小さな塩の山が点在しているのが見えた。塩蟲の姿は見えない。
 考えられるのは、あの塩の山が塩蟲の成れの果てと言うことだ。
 塩蟲が居なくなったことで、この荒れ地を経由する交易は盛んになるかも知れない。だけど、塩蟲を散々殺しておいて何だけど、塩蟲はこの世界に必要な存在だったんじゃないかと言う気がしてならない。
 もしそうだとすると、あたしは……。
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