魔☆かるちゃ~魔王はこたつで茶をすする~

浜柔

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85~93

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【85.そうだった】
「ふああっ……」

 オリエは伸びをしながら目を覚ました。
 ぼんやりする頭がはっきりし始めたところで「そうだった!」と昨夜のことを思い出す。ゲームの途中で眠ってしまった。

「んん?」

 しかし周りを見れば寝室だ。誰かに運ばれたことは疑いない。
 魔王とシェフの二者択一だから特定するまでもない。

「うわわ……」

 オリエは恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。



【86.姿見】
「これは……」

 オリエは漸く着ぐるみパジャマを着せられているのに気が付いた。
 立ち上がって両手を広げ、前を後ろを足下をと視線を巡らせる。

「これは!」

 部屋の姿見に自分の姿を映しつつ悦に入る。

「かわいい!」

 思いっきり両手を挙げて喜びを表現するオリエも、やっぱり女の子であった。



【87.ハンガーラック】
「おはよう」
「起きたカ。直ぐに朝飯にするゾ」
「あ、じゃあ、ちょっと待って」

 オリエは寝室に引き返そうとするが、シェフがそれを呼び止める。

「どこへ行ク?」
「これを汚したらいけないから脱がなきゃって」

 オリエは着ぐるみパジャマの胸元を軽く抓んで引っ張った。

「そんなもの、汚れたら魔王が代わりをくれるゾ」

 シェフは寝室のドアの傍のハンガーラックを指し示した。

「ふわっ!」

 ハンガーラックには様々な着ぐるみパジャマが吊り下げられていた。



【88.カルチャー】
「こ、こんなに!」

 オリエは着ぐるみパジャマの数に驚いた。

「好きなのを着ロ」

 種類も豊富だからその日の気分で替えられる。洗濯なんてしない。使い捨てでだ。減ったら魔王がまとめて補充する。
 そんな説明だ。

「ええっ!?」

 オリエは激しくカルチャーショックを受けた。

 魔☆~か~る~ちゃ~。

 尤も、魔王限定のカルチャーである。



【89.肌触り】
「え、遠慮しないよ!? ほんとに、ほんとに!」

 オリエは着ぐるみパジャマの使い捨てにまだ及び腰だ。

「無論ダ。遠慮などするナ」
「う、うん……」

 オリエははにかんだような笑顔を見せる。

「そのパジャマを気に入ったのか?」
「これ、パジャマって言うの? 肌触りが良くてとっても気持ちいいから好き!」
「そうカ」

 満面の笑みで答えるオリエに、シェフも嬉しそうだ。骸骨だから判らないけど。



【90.アジの開き】
 朝食はアジの開きに、豆腐とワカメとネギの味噌汁、漬け物である。豪華さからは程遠い。

「ふっふっふっ、このチープさが堪らんのだ」

 それでも魔王はご満悦である。まあ、チープなようでいて、このアジの開きは身も大きな高級品だ。
 一方、オリエは手にした箸を見詰めたまま、眉をへの字に下げた。箸が上手く使えなくて朝食に手を付けることもままならない。

「解してやるから、それを食エ」

 見かねたシェフが箸でするするとアジの開きから皮と骨を外してしまう。

「あ、ありがとう」

 若干顔を赤らめつつ、オリエはアジの身へと箸を伸ばす。

「美味しい!」

 食べた途端に、これまた満面の笑みだ。
 シェフも満足そうである。骸骨だから判らないけど。



【91.言葉】
 YOU WIN!

「ふぅ……」

 オリエはハイスコアを前に息を吐いた。

「ねぇ魔王。他に面白いゲームは無い?」

 魔王は煎餅をパリンと囓りながら考える。

「……そろそろ向こうの言葉の勉強をするか?」
「言葉?」
「ゲームをもっと楽しもうと言葉の壁にぶつかるからな」
「うみゅ~」

 オリエは口を波打たせた。



【92.辞書】
「これをやろう」

 魔王はオリエに幾冊かのノートを差し出した。

「これは?」
「辞書もどきだ」

 魔王が異世界の言語を勉強する際に手書きしたものである。異世界の辞書のように薄い紙に印刷できるならこの上ないが、二つの世界両方の文字に対応した印刷機など無いのだ。だから行き当たった言葉だけを抜き出して翻訳した。
 オリエは最初、受け取るのを躊躇うが、ノートとゲーム画面を見比べてた後、受け取った。ゲームへの欲求の方が強かったらしい。

「頑張る!」

 オリエは気合いを入れて勉強に取り組んだ。

「もう、だめ……」

 最初の挫折は一時間後に来た。



【93.RPG】
 幾度か挫折しつつもオリエは頑張った。
 3ヶ月もすると、ある程度は異世界の文字を読めるようになった。ロール・プレイング・ゲームをしながら判らない言葉を学習するようにしたためだ。
 だから話すことはできないが、異世界の人と話す機会も無いので問題にならないだろう。
 そしてゲームもまだまだ序盤だ。先は長い。

 ズズズ……。

「はあ、美味い」

 魔王はお茶をすすり、こたつの上の鉢に入った煎餅を手に取り、囓る。

 ポリッポリポリ……。

 平穏な日常である。
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