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278~285 パジャマじゃまだ
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【278.パジャマ姿の魔物はと言うと】
「え? 今の魔物は強いの?」
オリエは剣士から着ぐるみパジャマを着た魔物に関する一通りの説明を聞いて驚いた。いきなり逃げ出られたので、強さを計る暇も無かった。むしろ逃げるくらいだから弱そうに思えたくらいだ。
「パジャマを着てないのの3倍くらいは強いぞ」
「そんなに!」
「賢いようで、慎重だし、パジャマがまた頑丈だからな」
「そうなんだ……」
オリエは暫し考える。3倍強いなら鍛練も短い時間で済みそうだ。
「それじゃ、今度からあたしはパジャマを着たのを狙うね!」
「お、おう……」
簡単に言ってくれると思いつつ、剣士は酸っぱそうな顔をした。
【279.パジャマを狙う】
オリエは魔物に逃げられないようにこそこそと歩く。こうすると、経験則的に魔物に気取られにくいのだ。
尤も、同行の5人パーティーは微妙な面持ちだ。チラチラと幾度となく横目で視線を送る。
「見付けた」
オリエは小さく呟いた途端にその場から消えた。消えたように見えただけであるが。
そして次の瞬間には床を踏み込む音と共に少し離れた場所に現れた。その目前では着ぐるみパジャマの魔物が慄いている。
「〃「速っ!」〃」
5人パーティーも慄いた。
【280.オリエはパジャマに対峙した】
眼前に顕れたオリエに対し、魔物は硬直した。しかしそれは一瞬のことで、即座に逃げに転じた。しかし数歩も走らない間にオリエに回り込まれてしまう。再度向きを変えても同じだ。だからか、覚悟を決めたように、オリエへの攻撃に転じた。
プギッ! プギッ! プギッ!
偶蹄目の手で、どこで拾ったか判らない刃こぼれした剣を裂帛の気合と共に振り回す。
ところがオリエには当たらない。するすると躱される。それも離れてのことではない。剣の間合いの中でなのだ。
プギーッ!
魔物は悲痛なまでの鳴き声を上げた。
【281.魔物は必死】
プギ……。プギ……。プギ……。
刃こぼれした剣を振るい続ける魔物の息が上がる。
「うわ……」
「俺ら、勘違いしたっつっても、あんなのに仕掛けたのか」
5人パーティーが見守る中で、オリエと魔物の戦闘は続く。オリエがただひたすら避けているだけであるが。
「いや、あんなのだからこそ逆に見逃して貰えたのだろう」
「……違いない」
槍士の意見に剣士は深く頷いた。
そんな彼らの視線の向こうでは、疲れ果て、立つこともできずに這って逃げようとする魔物の姿があった。
オリエはそんな魔物を見逃すと、振り返って5人パーティーに笑顔で手を振った。
【282.オリエは魔物を見逃した】
剣士は魔物を見逃したオリエに疑問を投げかける。
「仕留めないのか?」
「うん。お肉はもう十分拾ってるから」
剣士は今日の戦利品をチラッと見やる。確かに十分な量がある。
ただ、思ったのは肉のことではない。着ぐるみパジャマを着た魔物を見逃せば、他の誰かが被害を被るかも知れないことに引っ掛かりを覚えるのだ。
「それで、強さはどう感じたんだ?」
「うん。ちょっとだけ強かったね!」
剣士とその仲間は唇を波打たせた。
【283.ダンジョン庁】
日が変わり、ダンジョン庁の長官が、報告書を前にまた頭を抱える。
「50階層にまで皮被りが顕れただと?」
皮被りとは着ぐるみパジャマを着た魔物のことだ。
「早すぎる!」
長官は報告書を叩き付けた。
長官は与り知らぬことだが、オリエが下から狩っているため、それに追い立てられるように上の階へと上がっているのだ。
「不味いな……」
魔王も着ぐるみパジャマの魔物の動向には注目していた。
ズズズ……。
お茶を啜りつつ考える。
「転移陣でも用意するか」
魔王はあっさり決めた。ダンジョンで狩りをする人の動きを把握済みなのだ。
【284.転移陣も出来】
ブヒヒ……。
ブモ……。
転移陣で移動したダンジョンの51階層。オリエは豚の魔物と牛の魔物を同時に翻弄していた。手にした武器を振り回し続ける魔物達であったが、表情には焦燥が浮かぶ。
瞬間、魔物は2方向に分かれて逃げ出した。しかしオリエは即座に豚の魔物を引っ掴むと、取って返して牛の魔物の前に立ちはだかった。
ブモッ!
プギィ……。
いよいよ絶望的な声を出す魔物達。武器も手放し、膝を突く。
オリエは小さく溜め息を吐いた。しかし表情を引き締めると、魔物達に止めを刺した。
【285.ダンジョン庁】
ダンジョン庁の長官は、とある冒険者のパーティーと面会していた。魔王の居室に住み着いているオリエと5人パーティーを除けば、最も信頼の置けるパーティーだ。
「皮被りが皮被りを嬲り殺しにしていた?」
「そりゃもう、えげつなかったですぜ」
「それで、その皮被りはその後は?」
「下の階に降りて行きましたね」
「倒せそうか?」
「いやいやいや、どう見たって無理ですぜ。あのオリエ並みですからね」
「何てことだ……」
長官は頭を抱えた。
その皮被りの正体がオリエで、オリエが着ぐるみパジャマを着た魔物を狩っているなど彼らが知る由もない。
へくちっ。
オリエが小さくくしゃみをして、宙を睨みながら目を瞬かせた。
「え? 今の魔物は強いの?」
オリエは剣士から着ぐるみパジャマを着た魔物に関する一通りの説明を聞いて驚いた。いきなり逃げ出られたので、強さを計る暇も無かった。むしろ逃げるくらいだから弱そうに思えたくらいだ。
「パジャマを着てないのの3倍くらいは強いぞ」
「そんなに!」
「賢いようで、慎重だし、パジャマがまた頑丈だからな」
「そうなんだ……」
オリエは暫し考える。3倍強いなら鍛練も短い時間で済みそうだ。
「それじゃ、今度からあたしはパジャマを着たのを狙うね!」
「お、おう……」
簡単に言ってくれると思いつつ、剣士は酸っぱそうな顔をした。
【279.パジャマを狙う】
オリエは魔物に逃げられないようにこそこそと歩く。こうすると、経験則的に魔物に気取られにくいのだ。
尤も、同行の5人パーティーは微妙な面持ちだ。チラチラと幾度となく横目で視線を送る。
「見付けた」
オリエは小さく呟いた途端にその場から消えた。消えたように見えただけであるが。
そして次の瞬間には床を踏み込む音と共に少し離れた場所に現れた。その目前では着ぐるみパジャマの魔物が慄いている。
「〃「速っ!」〃」
5人パーティーも慄いた。
【280.オリエはパジャマに対峙した】
眼前に顕れたオリエに対し、魔物は硬直した。しかしそれは一瞬のことで、即座に逃げに転じた。しかし数歩も走らない間にオリエに回り込まれてしまう。再度向きを変えても同じだ。だからか、覚悟を決めたように、オリエへの攻撃に転じた。
プギッ! プギッ! プギッ!
偶蹄目の手で、どこで拾ったか判らない刃こぼれした剣を裂帛の気合と共に振り回す。
ところがオリエには当たらない。するすると躱される。それも離れてのことではない。剣の間合いの中でなのだ。
プギーッ!
魔物は悲痛なまでの鳴き声を上げた。
【281.魔物は必死】
プギ……。プギ……。プギ……。
刃こぼれした剣を振るい続ける魔物の息が上がる。
「うわ……」
「俺ら、勘違いしたっつっても、あんなのに仕掛けたのか」
5人パーティーが見守る中で、オリエと魔物の戦闘は続く。オリエがただひたすら避けているだけであるが。
「いや、あんなのだからこそ逆に見逃して貰えたのだろう」
「……違いない」
槍士の意見に剣士は深く頷いた。
そんな彼らの視線の向こうでは、疲れ果て、立つこともできずに這って逃げようとする魔物の姿があった。
オリエはそんな魔物を見逃すと、振り返って5人パーティーに笑顔で手を振った。
【282.オリエは魔物を見逃した】
剣士は魔物を見逃したオリエに疑問を投げかける。
「仕留めないのか?」
「うん。お肉はもう十分拾ってるから」
剣士は今日の戦利品をチラッと見やる。確かに十分な量がある。
ただ、思ったのは肉のことではない。着ぐるみパジャマを着た魔物を見逃せば、他の誰かが被害を被るかも知れないことに引っ掛かりを覚えるのだ。
「それで、強さはどう感じたんだ?」
「うん。ちょっとだけ強かったね!」
剣士とその仲間は唇を波打たせた。
【283.ダンジョン庁】
日が変わり、ダンジョン庁の長官が、報告書を前にまた頭を抱える。
「50階層にまで皮被りが顕れただと?」
皮被りとは着ぐるみパジャマを着た魔物のことだ。
「早すぎる!」
長官は報告書を叩き付けた。
長官は与り知らぬことだが、オリエが下から狩っているため、それに追い立てられるように上の階へと上がっているのだ。
「不味いな……」
魔王も着ぐるみパジャマの魔物の動向には注目していた。
ズズズ……。
お茶を啜りつつ考える。
「転移陣でも用意するか」
魔王はあっさり決めた。ダンジョンで狩りをする人の動きを把握済みなのだ。
【284.転移陣も出来】
ブヒヒ……。
ブモ……。
転移陣で移動したダンジョンの51階層。オリエは豚の魔物と牛の魔物を同時に翻弄していた。手にした武器を振り回し続ける魔物達であったが、表情には焦燥が浮かぶ。
瞬間、魔物は2方向に分かれて逃げ出した。しかしオリエは即座に豚の魔物を引っ掴むと、取って返して牛の魔物の前に立ちはだかった。
ブモッ!
プギィ……。
いよいよ絶望的な声を出す魔物達。武器も手放し、膝を突く。
オリエは小さく溜め息を吐いた。しかし表情を引き締めると、魔物達に止めを刺した。
【285.ダンジョン庁】
ダンジョン庁の長官は、とある冒険者のパーティーと面会していた。魔王の居室に住み着いているオリエと5人パーティーを除けば、最も信頼の置けるパーティーだ。
「皮被りが皮被りを嬲り殺しにしていた?」
「そりゃもう、えげつなかったですぜ」
「それで、その皮被りはその後は?」
「下の階に降りて行きましたね」
「倒せそうか?」
「いやいやいや、どう見たって無理ですぜ。あのオリエ並みですからね」
「何てことだ……」
長官は頭を抱えた。
その皮被りの正体がオリエで、オリエが着ぐるみパジャマを着た魔物を狩っているなど彼らが知る由もない。
へくちっ。
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