魔法道具はじめました

浜柔

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第四六話 冷蔵庫の改良

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「おはようございます」
「あ、累造君、おはようございます」
 挨拶を返したチーナの目の下には隈ができている。定休日前だからと夜更かししてしまったのだ。それを見て取った累造は何とも言えない気分になった。この調子では一足飛びに現代病になりかねない。
「あの、チーナさん? 俺が言うのも何ですが、夜更かしは健康を害しますよ」
「大丈夫ですよ、おねーさんはまだ若いんですから」
 そう言って拳を掲げてみせるチーナの目は心なしか虚ろだ。しかし、夜更かしが不健康なのを理解するには、本人の自覚が必要なため、これ以上言っても詮無き事である。
「そうですか」
 軽い溜め息と共に立ち去った。後ろからチーナの「ぐふふ」と言う笑い声が聞こえる。
「これはもう駄目かも判らんね」
 やれやれとばかりにかぶりを振った。

 朝食に現れたニナーレにも目の下に隈ができていた。
「チーナもニナーレも顔色が悪いぞ?」
 ルゼが訝しげに尋ねる。
「大丈夫です」
「そうです、少しだけ寝不足なだけですの」
 口々に答えた後、チーナとニナーレは互いに視線を重ね、「ぐふふ」と笑い合った。
「そ、そうか?」
 二人の悪い笑顔に、ルゼが若干顔を引き攣らせた。
「どうしてこうなった」
 累造はまた溜め息を漏らした。

「小僧、居るかーっ!?」
 累造はすっかりお馴染みになった気分だが、まだ数度目のテンダーの呼び声だ。
「おはようございます。これが今日の予定の三〇枚です」
「おー、ありがとよ。昨日は早速ゴッツイ商会に行ったんだってな」
「はい、正直驚きました」
「まあ、おめえはそれだけの事をしてるって事だ」
 テンダーが不敵に笑った。
「は、はあ……」
 煽てられるもぞ痒さで曖昧に答えてしまった。
 テンダーは「しょうがねぇなぁ」と肩を竦めると、話を切り上げて足早に帰っていった。随分と忙しいらしい。

 テンダーを見送った累造は冷蔵庫の改良に取り掛かった。ここ暫くの間に水蒸気に対する定数も求まったので、魔法陣に問題は無い。
 その累造の部屋には雑貨店の住人全員が集まっている。ニナーレはその目的上、いつも累造の作業を観察している。チーナはそのニナーレとの会話が主な目的だ。
 そしてルゼは、ここ二、三日、累造との会話が少なかった気がしたために、なんとなく一緒に居たかった。

「今度は何を作るんだ?」
「作ると言うより改良です。見ての通りに冷蔵庫は結露で濡れてしまって、直ぐに木箱が腐ってしまいそうなんです」
 累造が冷蔵庫の試作品を指し示した。
「これは何をするものなんだ?」
「食べ物や飲み物を冷やすんです。食べ物は冷やすと日持ちしますから、便利ですよ」
「へぇ」
 冷蔵庫の蓋を開けてみると、そこに入っていたのは水の入った器だけだった。器に触れてみる。
「冷たっ!」
 思いの外冷たかった。
「むむむっ」
 直ぐにも使いたくなって唸ってしまう。しかし、累造の言う通りに木箱はしっとりと濡れている。これでは確かに不安が有る。しかし、累造を手助けしたくてもできないため、ただ見守るしかなかった。

 冷蔵庫の問題は断熱である。魔法で断熱するにしても、どこをどのようにするかが問題だった。冷蔵庫の試作から時間が経ってしまったのも、それを考えるのに時間が掛かった部分が大きい。庫内の冷蔵空間を断熱するのでは、手を入れてみなければ冷えているのかどうか判らないので危険だ。
 結論として、木箱の板の中で断熱するように木箱の各面に魔法陣を描く事にした。断熱面は事故を避けるために外にははみ出さないようにする。しかし板には厚みが有り、板からはみ出さないと言うのでは隙間ができる。そのため蓋以外の板と板との接続部分に関しては、箱からははみ出さない程度に板からははみ出させて隙間を作らないようにする。そうできない蓋の部分だけは若干の隙間ができるが、そこは諦める。
 そして、新しい木箱に魔法陣を描いた。冷蔵の魔法陣と断熱の魔法陣六つの計七つである。
 描き終わる頃には、チーナとニナーレは累造のベッドで熟睡していた。夜更かしの影響だった。
「チーナ、おい、チーナ」
 ルゼがチーナを起こす。
「ん、あ?」
 口元によだれを垂らしつつチーナが目を開けた。
「チーナ、もうお昼だぞ」
「いけない!」
 チーナは慌てて起き上がり、昼食の支度に向かった。ニナーレは、未だ「ぐへへ」と夢の中でも何かを満喫している様子である。

「冷蔵庫と言うのは、累造の居た世界には普通にあるのか?」
 昼食後、寛ぎつつルゼは尋ねた。
「はい。冷蔵庫は有って当たり前なものです。魔法は使いませんが」
「魔法を使わずにそんな事ができるのかい?」
「はい。この世界でもその内に誰かが開発するんじゃないでしょうか」
「そう言うもんなのかねぇ」
 見た事のない世界に半信半疑であった。

 午後からは冷凍庫の断熱の魔法陣だ。側面と底はコルク板の中を断熱面が通るように位置を調整して魔法陣を描く。蓋については断熱面が表面ギリギリになるように調節する。
「こっちはなんだ?」
「冷凍庫です。氷も作れますし、凍らせると食べ物が長持ちします。少し味は落ちますけど、生肉でも半年は大丈夫になりますよ」
「半年!?」
 ルゼがぽかんとなった。
 出来上がった試作品は台所に移し、実際に使ってみる事にした。

  ◆

 ケメンは一つの報告書を読んでいた。ワルノメ商会が火打ち石の魔法陣のコピー品を他の町で売り始めたとある。
 ワルノメ商会は悪辣なやり方で業績を伸ばしている新興の商会である。
「あっさり尻尾を出したものだね」
 独りごちた。
 火打ち石の魔法陣は幸か不幸か売れたのは一つ切りだった。製造工程での漏洩が無いように管理をし、鋳型も破棄済みだ。虹の橋雑貨店からの盗難も無い。そうなれば、その売れた一つがコピーされた以外に考えられない。
 魔法陣を買ったのが裏稼業を生業とする一味のノイチ・ブカソである事は、イナ・チョコザの報告から判っていた。ワルノメ商会とブカソ兄妹が所属する一味と繋がっている疑念は前から有ったが、あくまでも疑念止まりだった。それがこの件で関係している事がはっきりしたのである。
「しかし、少し考えれば、売れる筈がない事は判りそうなものなのだけどね」
 ルゼから相談された時、即座に売れない事を見て取った。普通であれば思い止まらせるところだったが、累造周辺を嗅ぎ回っている者の餌として黙認したのだ。投資費用はそれ程大きくなく、照明の発売に漕ぎ着ければ即座に穴埋め可能だった事も大きい。
 警戒するべき相手がはっきりした事で今後の対応が取りやすくなった事にケメンは満足した。

 報告書には予想通りに魔法陣の売り上げが芳しくない事も記されてあった。
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