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閑話 彷徨うもの
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「『ここは、どこーーっ!』」
「きゃーーっ!」
「いっ! いきなり大きな声を出さないでください!」
「そうです! 心臓に悪いのです!」
元来、怪談とは心臓に悪いものである。
事の起こりは最近流れている噂だ。夜の町を女の幽霊が彷徨っていると言う。時には幻想的な絶世の美女の姿で、時には血塗れの姿で、時には首無しの姿で現れ、その姿を見た者に災いを振りまくのだ。その災いは業の深さに応じて重くなるのだとも言われる。
その幽霊をショウが数日前に見てしまったと言ったことからこの怪談は始まった。
「最初の一言からそんなにビビるんでやしたら、話さない方が良いんじゃないでやすか?」
そう、のっけからチーナとニナーレが悲鳴を上げ、次いでショウに抗議したのだ。
三人がそんな話をしている間、ルゼは沈黙していて、累造はおつまみの豆をポリポリと食べ続けているだけだった。
「ここで、止められた方が怖いじゃないですかっ!」
「そうですの!」
「仕方ないでやすね。続けるでやす」
ショウはやれやれと首を横に振った。
「で、そんな声を聞いたからって、もう暗くなるのに脇道に入ったのがいけなかったんでやすね。黒服の男達三人に囲まれたんでやす」
チーナとニナーレは息を呑んで聞き入っている。
「そして『一緒に来て貰おうか』なんて言いながら、黒服達はあっしを拉致しようとしたんでやす」
チーナとニナーレ、ついでに累造も驚愕に目を見開いた。
「そ、それで、ショウさんは無事なんですか!?」
「まあ、無事だったからこうして話してるんでやすけどね」
あっ、とチーナは自分のおかしな発言に気付いて口を押さえた。
「そこに現れたんでやす。一人の女の人が。とても綺麗な人でやした」
ショウは遠い目をした。
「『見られたからには逃げられると思うなよ』とか言いながら、黒服はその女の人を捕まえようとしたんでやす。ところが……」
「ところが?」
ニナーレが合いの手を入れた。
「ところが、黒服の手が女の人を擦り抜けたでやす」
「ひぃぃぃぃっ!」
チーナが軽く悲鳴を上げた。
「『あら、貴方達は悪い人ですのね』そんな事を言いながら、女の人はどこから取り出したのか判らないナイフで黒服の一人の腕をぶっすりと刺したんでやす」
ショウはその仕草を真似して見せる。
ごくんと、チーナとニナーレが生唾を飲み込んだ。
「あっしは元より、黒服達も歯の根が合わなくなってたんでやすが、それでも黒服達はその女性に挑み掛かろうとしたんでやす」
「そ、それで!?」
「次の瞬間、女の人が血塗れになって、首がころんと落ちたんでやす」
「ひゃぁぁぁっ!」
チーナとニナーレが悲鳴を上げた。ルゼと累造は相変わらずだ。
「黒服達は三々五々逃げ出しやしたね。まあ、あっしは腰が抜けて動けなかったんでやすが」
「じゃ、じゃあ!?」
「そして、女の人は突然這い蹲って『頭、頭』と転がった頭を探すと、拾って頭に乗っけたんでやす。すると、その瞬間に元の綺麗な顔に戻ったでやす」
「はい?」
「あっしも呆気にとられやした。呆然と見ていたら、女の人は『やっぱり、首を落としてみせるのは効果的ですわね』とか言いながら、こう両手で握り拳を作って小さく振ったんでやす」
ショウはガッツポーズをして胸の前で小さく振って見せた。
「そして、スキップしてどこかに行ってしまったでやす」
「なんですか!? それは!」
「まあ、結局、あっしは幽霊に助けられたって事でやすね」
「おかしな話ですの」
「ま、まあ、無事だったんだから良かったですね」
あまりの肩透かしな内容でチーナもニナーレも怖さも吹き飛んだ様子である。
「まったくでやす」
話が終わり、みんなが立ち上がっても、何故かルゼは座ったままだった。
「ルゼさん、終わりましたよ」
累造がルゼの肩を揺らすと、ルゼの頭は力なく傾いだ。顔を覗き込めば、白目を剥いている。
「ルゼさん! しっかりしてください!」
累造が必死に呼び掛けると、ルゼがハッと目を覚ました。そしてキョロキョロと辺りを見回す。
「あ、怪談は?」
「もう終わりましたよ」
ルゼは最初の一言で気絶していたのだった。
心配して見ていた一同は脱力した。そんな一同の耳にどこからともなく声が聞こえた。
「ここは、どこーーっ!」
ルゼはまた白目になった。
不思議なことに、数日後には幽霊を見た、あるいは声を聞いたと言う者は現れなくなった。
そして噂もあっさりと消えていった。
「きゃーーっ!」
「いっ! いきなり大きな声を出さないでください!」
「そうです! 心臓に悪いのです!」
元来、怪談とは心臓に悪いものである。
事の起こりは最近流れている噂だ。夜の町を女の幽霊が彷徨っていると言う。時には幻想的な絶世の美女の姿で、時には血塗れの姿で、時には首無しの姿で現れ、その姿を見た者に災いを振りまくのだ。その災いは業の深さに応じて重くなるのだとも言われる。
その幽霊をショウが数日前に見てしまったと言ったことからこの怪談は始まった。
「最初の一言からそんなにビビるんでやしたら、話さない方が良いんじゃないでやすか?」
そう、のっけからチーナとニナーレが悲鳴を上げ、次いでショウに抗議したのだ。
三人がそんな話をしている間、ルゼは沈黙していて、累造はおつまみの豆をポリポリと食べ続けているだけだった。
「ここで、止められた方が怖いじゃないですかっ!」
「そうですの!」
「仕方ないでやすね。続けるでやす」
ショウはやれやれと首を横に振った。
「で、そんな声を聞いたからって、もう暗くなるのに脇道に入ったのがいけなかったんでやすね。黒服の男達三人に囲まれたんでやす」
チーナとニナーレは息を呑んで聞き入っている。
「そして『一緒に来て貰おうか』なんて言いながら、黒服達はあっしを拉致しようとしたんでやす」
チーナとニナーレ、ついでに累造も驚愕に目を見開いた。
「そ、それで、ショウさんは無事なんですか!?」
「まあ、無事だったからこうして話してるんでやすけどね」
あっ、とチーナは自分のおかしな発言に気付いて口を押さえた。
「そこに現れたんでやす。一人の女の人が。とても綺麗な人でやした」
ショウは遠い目をした。
「『見られたからには逃げられると思うなよ』とか言いながら、黒服はその女の人を捕まえようとしたんでやす。ところが……」
「ところが?」
ニナーレが合いの手を入れた。
「ところが、黒服の手が女の人を擦り抜けたでやす」
「ひぃぃぃぃっ!」
チーナが軽く悲鳴を上げた。
「『あら、貴方達は悪い人ですのね』そんな事を言いながら、女の人はどこから取り出したのか判らないナイフで黒服の一人の腕をぶっすりと刺したんでやす」
ショウはその仕草を真似して見せる。
ごくんと、チーナとニナーレが生唾を飲み込んだ。
「あっしは元より、黒服達も歯の根が合わなくなってたんでやすが、それでも黒服達はその女性に挑み掛かろうとしたんでやす」
「そ、それで!?」
「次の瞬間、女の人が血塗れになって、首がころんと落ちたんでやす」
「ひゃぁぁぁっ!」
チーナとニナーレが悲鳴を上げた。ルゼと累造は相変わらずだ。
「黒服達は三々五々逃げ出しやしたね。まあ、あっしは腰が抜けて動けなかったんでやすが」
「じゃ、じゃあ!?」
「そして、女の人は突然這い蹲って『頭、頭』と転がった頭を探すと、拾って頭に乗っけたんでやす。すると、その瞬間に元の綺麗な顔に戻ったでやす」
「はい?」
「あっしも呆気にとられやした。呆然と見ていたら、女の人は『やっぱり、首を落としてみせるのは効果的ですわね』とか言いながら、こう両手で握り拳を作って小さく振ったんでやす」
ショウはガッツポーズをして胸の前で小さく振って見せた。
「そして、スキップしてどこかに行ってしまったでやす」
「なんですか!? それは!」
「まあ、結局、あっしは幽霊に助けられたって事でやすね」
「おかしな話ですの」
「ま、まあ、無事だったんだから良かったですね」
あまりの肩透かしな内容でチーナもニナーレも怖さも吹き飛んだ様子である。
「まったくでやす」
話が終わり、みんなが立ち上がっても、何故かルゼは座ったままだった。
「ルゼさん、終わりましたよ」
累造がルゼの肩を揺らすと、ルゼの頭は力なく傾いだ。顔を覗き込めば、白目を剥いている。
「ルゼさん! しっかりしてください!」
累造が必死に呼び掛けると、ルゼがハッと目を覚ました。そしてキョロキョロと辺りを見回す。
「あ、怪談は?」
「もう終わりましたよ」
ルゼは最初の一言で気絶していたのだった。
心配して見ていた一同は脱力した。そんな一同の耳にどこからともなく声が聞こえた。
「ここは、どこーーっ!」
ルゼはまた白目になった。
不思議なことに、数日後には幽霊を見た、あるいは声を聞いたと言う者は現れなくなった。
そして噂もあっさりと消えていった。
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