魔法道具はじめました

浜柔

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第六〇話 嵐の如く

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 彼女が訪れたのは昼下がりの事である。客足が途絶えたのを見計らったように現れた。
「ここにニナーレって子が居る筈だから、取り次いで貰えるかしらん?」
 マントを着てフードを目深に被っており、厚ぼったい唇だけが見えている。その風情はニナーレに初めて会った時を思い起こさせる。
「貴女は?」
「デージよ。ニナーレの同郷だと言えば判るかしらん?」
 ルゼはショウと顔を見合わせる。
「聞いてるよ、ちょっと待ってな」
 そしてニナーレを呼びに向かった。
 デージは軽く首を傾げた後、口元に笑みを浮かべてマントを脱ぎ去った。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ」
 ショウが壊れた。それもその筈、ボンキュッボンでバインバインの肉感的な肢体の肝心な部分だけを紐かと思うほどに細い布地で覆っている。その他は全て目の粗い網でできていて、服かどうかも怪しい。つまりは肌の殆どを露出していて色々とはみ出している。むしろ裸よりいやらしいほどである。
「あらん? 可愛い反応ね。そう言うの好きよ」
 そう言って、デージは投げキッスをする。ショウは真っ赤になって言葉を無くした。
「デージ様!」
 ニナーレが駆け込んでくる。そして驚愕に両頬を手で押さえた。
「ああ! やっぱり!」
 予想はしていたものの、デージの姿は見ている方が恥ずかしい。
「あらん、ニナーレちゃん、元気?」
「はい、元気ですの。元気ですけど、デージ様、その格好はその……」
 しどろもどろだ。
「もう、相変わらずニナーレちゃんは可愛いわね」
 デージはニナーレを抱き寄せて頭を撫でた。
「あ、あの、あんまり子供扱いしないでください!」
「キャー、もう、ませちゃってぇん」
 デージはキャッキャと笑いながらニナーレを弄り回す。
「こ、これは……」
 歩いて戻ってきたルゼがデージを見て言葉を失った。
「駄目っ! 累造君には目の毒です!」
 チーナが累造の目を両手で塞いだ。
「そんな、殺生な!」
 その手を振り解こうと累造は必死だ。
 そんな一同を見回してデージが微笑んだ。
「改めまして、デージ・ボンです。ニナーレがお世話になっているようでありがとうございます」
 デージは深くお辞儀をした。たゆんたゆんと揺れる乳房がどうにかチーナの手から逃れた累造の視線を釘付けにする。
 生唾を飲み込む音がする。チーナが累造を睨むが累造は首を横に振る。ならばと一同がショウを振り返ると、ショウは口を押さえて目を泳がせていた。男の子である。
「ここじゃ何だから上がってくれ」
 ショウを残して一同は食堂へと上がっていく。ふと、累造がショウを振り返ると、恨みがましい見詰める目があった。

「色々魔法が使われてるようね」
 デージは周りを見回しながら呟いた。
「はい、累造さんの魔法は凄いのです」
「あらん? ニナーレちゃんはお熱なのね」
「そうなのです! 私は今、使命に燃えているのです!」
 ニナーレは力を込めて宣言した。
「あらん? 見込み違いだったかしら……」
 ニナーレが滞在し続ける理由が恋なのかと思ったら、違ったらしい。
 累造の方もその気が無さそうである。さっきから痛いほどの視線を感じるのだ。
 チラッと見やると目が合って累造が視線を彷徨わせた。
 それを見咎めた女性に腕を抓られたりもしている。
 本当にニナーレは魔法の研究のために滞在しているらしい。

「神官長、今、宜しいですの?」
 累造の部屋へと場所を移し、遠見の魔法陣で神官長へと繋いでいる。
「構いませんよ」
「神官長、着きましたわ」
 デージが顔を覘かせた。
「あらまあ、無事に会えたのですね」
「ええ、ニナーレは楽しい日々を過ごしているようですわ」
「ふふふ、貴女がそう言うなら間違いなさそうですね」
 神官長は優しげに笑った。
「ええ!? 神官長、私の言葉を疑ってらしたんですの?」
「ニナーレちゃんが脅されてないとは限らないのだから、当然よ」
 デージが代わりに答えた。そして、ニナーレの頭を撫でる。
「遠く離れていると、一抹の不安は覚えるものなの」

  ◆

「あたくしが来るのを知っていた風なのが不思議だったのだけど、彼のお陰だったのね」
「はい。そして私は累造さんの魔法をきっと覚えますの」
「そう」
 デージに撫でられ、ニナーレはそのくすぐったさに眼を細めた。
 デージは就寝時、当然のように全裸である。その羞恥心の欠片も無さそうにしている姿を見ると、パジャマを着ている自分の方が羞恥を覚える理不尽を感じる。
 それでも話したい事は沢山有るのだ。これまでの事を一生懸命話す。だがその途中で眠りへと落ちてしまった。

 そんなニナーレの寝顔をデージは暫く見ていたが、何かに気付いたようにある方向を振り向いた。そして表情を真剣なものに変えると、ニナーレを起こさないように部屋を抜け出す。窓から屋外へと抜け、するりと屋根の上へと登る。そして正面の縁まで移動し、その下で蠢く影を睥睨した。
「おいたをする子には、お仕置きが必要ね」
 突然の声に驚いた影が見上げた先にあるものは、星明かりに浮かび上がる全裸の女のシルエットだ。その異様な光景に狼狽しながらも、影は即座に逃げに入る。しかし、次の瞬間には取り押さえられていた。何をされたかも判らないままであった。

「あ、貴女は!?」
 その場に駆け付けたイナが目の前の光景に動揺した。女が侵入者らしき者を取り押さえている。それ自体は良いのだが、その女がけしからん肢体を一糸纏わず全てを晒している。見ているだけで恥ずかしいのだ。
「それは、こっちの台詞よん?」
 デージが少しだけ凄みを利かせると、途端に圧迫感がイナを襲う。
 イナは冷や汗が止まらない。感じるのは得体の知れない化け物を前にした恐怖だけだ。それで恐怖から逃れるのであれば土下座をして足の裏を舐める事だって厭いはしないほどである。
「あ、あたしは、依頼されて、ここの人達の護衛をしているのよ」
 雑貨店を指差しつつ、漸くそれだけは言えた。
 途端、空気が弛緩する。
「そう、良かった。貴女相手だと少し本気を出さないといけない所だったわん」
「こ、怖い事言わないで」
 本気で怯えた。そう、目の前の女と戦おうものなら一瞬で塵になる未来しか想像できないのだ。
「あらん? それが判る貴女が守っているなら安心ね。これからもよろしくね?」
 コクコクと壊れたように頷いた。
「じゃ、後の事は頼むわねん」
 そう言い残し、デージは雑貨店の中へと入っていった。
 残されたイナはへたり込んだ。心臓がバクバク言っている。少し漏らしてしまっているのを気にする余裕など無かった。

  ◆

 翌日、デージの希望でまた神官長へと累造が遠見の魔法陣を繋いだ。
「神官長、あたくしだけ今から帰りますわん」
「そうですか」
 神官長は一言だけである。
 そしてデージが指を振りながら呪文を唱えた。一瞬だけ光ったが、それだけだった。
「じゃあ、ニナーレちゃん、また来るわねん」
「え!? また!?」
 デージはそれに答えることもなく、また呪文を唱えた。また一瞬だけ光ったが、今度はデージの着ていたものだけがその場に残されていた。
 ニナーレは慌てた。デージの姿がどこにもない。
「デージ様!?」
「なーに? ニナーレちゃん?」
 声に驚いて辺りを見回すが、やはり居ない。
「デージ様!? どこですの!?」
「ここよ、ここ」
 声のする方を見れば、遠見の魔法陣。魔法陣のその先、神官長の隣に全裸のデージが手を振っていた。
「デージ様!? 転移の魔法を使えるのですか!?」
「そうよ。印を付けた所に身体だけしか飛べないけど、飛んだ先を消し飛ばすような事もない便利な魔法よん」
「じゃ、デージ様のいつもの格好って!?」
「そ。帰る時に使うと使い捨てになりかねないから、布地を節約してるのよ。それに、その方が喜ぶボウヤ達も居るからねん」
 その言葉に、ニナーレは累造の方を振り向く。
 案の定、累造は前のめりにデージを凝視していた。
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