魔法道具はじめました

浜柔

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第二三話 筋肉痛

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 累造は筋肉痛である。全身隈無く筋肉痛であるが、特に腕と肩が酷い。肩に至っては、「五十肩か!」と言うセルフ突っ込みが脳内に響き渡る。腕が肩より上に痛くて上げられないのだ。
 原因は勿論、昨日の粘土探しである。インドア派の累造にとっては大変ハードな一日だった。そのハードな一日の影響が翌日に筋肉痛として現れている分だけ、若い証拠である。

 昨日ばかりは「ゲームのアイテムボックスが有れば」と何度思ったことか判らない。そんな事を思いながら、荷物を楽に運ぶ魔法陣の作成を思案する。
 アイテムボックスそのものは実現不可能だが、代わりになる物は考案済みだ。それは魔法陣同士の空間を繋ぐもので、異なる場所を繋ぐ扉を作るようなものである。アイテムボックスとは全く異なるが、人も物も通り抜けられるので応用範囲は広い。しかしそれは、紙にボールペンで描いたとしても最小で五〇センチメートル近い大きさになる代物である。描くのにも時間が掛かる。この世界の紙を貼り合わせてペンで描くと、ボールペンで描いた場合より大きくなるのに加え、インクを落としてしまって描く途中で魔法陣を台無しにしてしまう可能性も高い。完成までどれほどの時間が掛かるかは未知数である。
 また、この魔法は重力の影響をもろに受けるため、場所と向きを選ばなければ大怪我しかねない。例えば、天井に魔法陣を張り付け、その直下の床に対になる魔法陣を敷いて魔法陣に飛び込めば、永久に落ち続ける事になる。
 更には、魔法が停止した時に境界上に存在するものはスッパリと切断されてしまう。もし、魔法陣に首を突っ込んだままで停止すれば命が無い。大変危険である。
 累造は自分で想像していながら身震いした。そして、品物の出し入れは鉤の付いた棒を使うべきだと考えた。

「累造君、動きがなんか変ですよ」
 朝食を摂りに食堂へ行くと、チーナが開口一番そんな事を言った。少し猫背になって身体を捻らないように身体全体を左右に回しながらヨチヨチと歩く姿は、誰が見ても変な動きだ。
「やっぱり、そう見えますか。筋肉痛が酷くて……」
 累造は頭を掻こうとして右手を持ち上げたが、途中までしか上がらず、一瞬右手に視線をやって諦めた。
「だらしないねぇ」
「面目ありません」
 ルゼの呆れ声に答える言葉にも力は無い。どこかに力を入れると途端に筋肉痛が襲ってくるものだから、殆ど無意識に全身の力を抜いているのだ。
 食事の最中、背を丸めてパンを囓る累造の姿は小動物のようである。その様子を最初は呆けたように見詰めていたルゼとチーナだったが、次第に可笑しげに頬と口角が吊り上がっていった。そしてどちらが先か、プッと吹き出した所で堰を切ったようにクスクスと笑い出して止まらなくなった。
 訳が判らない累造はただパチクリと眼を瞬かせて二人を見るだけだった。

 筋肉痛で殆ど動けない累造は、後回しにしていた光の魔法陣を描くことにした。スイッチ付きは三人の寝室の分だけしか描いていなかったのだ。今の状態で彫刻刀を使うのは無理でも、鉛筆ならどうにかなる。
 だが、描き上がった魔法陣を昼食時に受け取ったチーナは少し首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いえ、食堂や台所は別に消す必要も無さそうなので、どうしたものかと」
 言われてみればそうだと、累造も首を傾げた。
「これは、倉庫で捜し物をする時や、空き部屋に入る時に使う事にしましょう」
 チーナがそう結論づけて、累造も頷いた。

 午後になって幾分か筋肉痛に慣れた累造は、休日の計画のための買い出しに出掛けた。元は休日の午前中に買い出しするつもりだったが、他にできる事が無さそうな今が最適だと考えたのだ。
 背負い袋を背負ってゆっくりと歩く。別に余裕がある訳ではなく、ゆっくりとしか歩けない。
 雑貨店を出て市場へ向けて歩き始めたところで視線を感じた。そちらに振り返れば建物の影で一人の少女がサッと視線を逸らした。累造と同じ位の歳に見える少女はスカート丈の短いメイド服のようなものを着ている。「この世界にもメイドが居るのかな?」などと思いつつ暫し少女に視線を送っていると、少女の方もチラチラと視線を送ってくる。その居心地の悪さに市場への道を急いだ。
 ヒーコラ言いながら背負い袋に満載の米を担いで帰ってくれば、先程の少女はまだ同じ場所に居た。そしてやはりチラチラと視線を送ってくる。なんだか怪しいと思いはしても、背負っている荷物の方が重要だ。少女の事は気にしないようにして自室へと戻った。背負い袋から米の入った麻袋を取り出してから、やっと一息ついた。

 新しい麻袋を背負い袋に入れ、累造はまた市場へと向かう。三往復して三種類の米を買う予定なのである。計画の一つである糠床も、以前に買った米と合わせて四種類の米で作ってみるつもりでいる。
 雑貨店を出ると、歩いていく先に先程の少女が気が抜けたようにして佇んでいるのが見えた。誰かを待っているのだろうかと考えを巡らせていると、少女が累造に気付いた。
「ひゃっ! なんでまた」
 変な悲鳴を上げて少女は路地へと逃げ出そうとする。だが、転けた。何もない所で転けてしまった。おまけに短めのスカートが捲れ上がって下着が丸見えである。
「あ、あの……」
 累造はなんとなく声を掛けてしまった。別に下着に誘われた訳ではない。ドロワーズと思われる色気の欠片も無い下着だったので、下着には何にも感じなかった。少女の余りに痛々しい風情に、同情を禁じ得なかったのだ。
「み、見ました?」
 少女は上体を起こし、座り込んだままスカートを押さえて涙眼で尋ねてきた。
「はあ……」
 つい正直に答えてしまうと、少女はボロボロと涙を零し始めた。
「ふええええええ!」
「ええ!?」
 号泣を始める少女を前にどう対処したものか判らず、累造はあたふたするだけだ。近くを通り過ぎる人の視線の痛さが、それに追い打ちを掛ける。
 右往左往してもどうやって宥めればいいのか判る筈もなく、途方に暮れた。
「ルミエ! 何やってるの、あんたは!?」
「イナちゃあああん!」
 いつの間にか路地の奥から現れたお嬢様風の女性が少女を叱りつけた。
「その呼び方は止めなさい。折角の設定が台無しじゃないの!」
「ごめんなさあいぃぃ」
「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません」
 女性は累造にそう詫びると、まだ泣いている少女を引き起こして引き摺るように去っていった。
 残された累造はその後ろ姿を呆然と見送った。ただ、二人の言動が少々怪しいのには気が付いた。

 その後、市場まで二往復した累造はもう足がガクガクである。

  ◆

「よう、頼んでいた品はできたかい?」
「出来はしたが何に使うんだ?」
 鍛冶屋デイ・テヤンはテンダーから受けていた注文の品を渡しながら、疑問を口にした。
 注文の品は鉄製で表面が磨かれた半球状のものだ。内側には平行に二本の棒が取り付けられている。
「今はまだ内緒だ」
 テンダーは品物を検分して、満足そうに頷いた。

 テンダーは照明の反射板の問題に気付いていた。白い布では光の多くが反射せずに無駄になってしまう。そこで、懇意にしているデイに照明の反射板を発注していたのだ。
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