魔法道具はじめました

浜柔

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第二九話 動力試験

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「見た所、問題はありません」
 それが、焼き鏝で光の魔法陣を焼き付けているコルク板と革張りの板への累造の見立てだった。
 累造はテンダーの木工所に朝から訪れている。
「じゃあ、試してみてくれ」
「はい」
 累造が魔法陣本体とスイッチそれぞれに起動の言葉を唱える。
『アラホラサ。アラホラサ』
 そして本体にスイッチを付けると、魔法陣から光が溢れた。
 テンダーの思いは複雑である。魔法陣を累造しか使えないのは一面で強みになるが、その一方で脆弱でもある。今のままだと、累造に万一が有れば累造の魔法は全て失われてしまう。それが勿体ない。だが、それ以上に自分でも魔法陣を動かしてみたい。
「今おめぇがやった様に俺っちがやっても、うんともすんともならねぇんだが、何でだか判るか?」
「それは、推測でしかないのですが、魔法陣を理解して、その内容をイメージできるかどうかじゃないかと思います」
「理解とイメージねぇ、これが光を出すってだけじゃ駄目なのか?」
「はい、描いている図形の意味を理解しないといけないんじゃないかと思います。例えば、ここの『コンセント』みたいな図形が動力源で、ここから魔力が魔法陣全体に流れる感じです」
「『コンセント』?」
「電気の取り出し口? でしょうか」
「さっぱり判らねーや」
 テンダーには電気の知識が皆無で、累造の方もどう説明したものかが判らないらしい。二人してただただ首を傾げるだけだった。
「後、確実に言えるのは、魔法を発動させたり停止させたりする時に魔力を魔法陣に吸われる事です」
「魔力が吸われる? ああ、魔法なんだからそれも当然か」
 自分で試した時には魔力を込めてはいなかったのを思い出して納得した。
「どうやら、おめぇはこの魔法陣とやらの魔法を動かす魔法を使ってんだな」
「魔法を動かす魔法ですか?」
 そんな魔法を使った覚えが無いとばかりに累造がキョトンとする。
「そうともよ。そう考えれば、おめぇの言う理解とイメージってのも合点がいく」
 うんうんと頷いた。
「例えばだな、火口ほくちに火を点ける魔法は火打ち石を強くイメージするもんなんだ。火打ち石が判ってねーとイメージもへったくれもねぇ。知らなきゃ魔力も流れず、魔法にもならねぇ」
 慣れると火花を散らすイメージだけでやるんだけどな、と付け加えた。
 すると、累造が納得したように頷いた。
「なるほど、感覚的には魔法陣と同じですね。それなら誰でも魔法陣を動かせるようになるかも知れません」
「おうともよ。この図形の意味が判りゃいいって事なら、俺っちにも動かせる可能性があらぁな」
 そう期待に胸躍らせたまでは良かった。
「だがな、この図形を理解するってのが難しそうだな」
 自分には憶えられそうにないので渋い顔になってしまう。
「それはまあ。だけど、テンダーさんが理解しやすい図形にできる可能性は有ります」
「本当か?」
「はい、ただ、俺の方が理解できてないと図形にできません」
「それもそうだな。だったら火打ち石を描いてみてくれねーか?」
「あ、あの、火打ち石がちょっと……」
「火打ち石を知らねーのか?」
 唖然とした。
「はい、残念ながら」
「一体、どんなお坊ちゃん育ちなんだよ?」
「それは、なんと言うか……」
 累造の答えは曖昧だ。
「なんだか煮え切れねーな。まあ、言いにくい事の一つや二つ、誰にも有るか」
 そう言ってテンダーはこの話は切り上げた。

「そんで、もう一つ頼まれてたのがこれだ」
 テンダーが指し示した先には、幾つもの歯車の先に石臼が接続されている装置が有った。
「石臼を動かしてぇって事だったんでな、石臼も付けてみた」
「よくこんなのを短期間で作れましたね」
 累造は感心するが、テンダーは首を横に振る。
「なあに、歯車はやっつけだからな、見かけ倒しなだけだ」
 見れば、歯車の歯の数が一六個や三二個だ。それでも試す程度には問題は無い。
 累造は納得して魔法陣の作成に取り掛かった。直径一〇センチメートル程の穴を空けた板に、穴を中心として魔法陣を描いていく。鉛筆書きのため、それほど時間は掛からない。
 魔法が作用する範囲は板の穴の部分だけになっていて、穴に通された軸を魔法で回転させて動力を得る。石臼を一分間に四回転程度させる事を念頭に、歯車の数から逆算して毎分六〇回転させる設定だ。安全のため、スイッチも付けている。出力は魔法陣の大きさに依存するが、動かしてみなければそれがどの程度なのかは判らない。
 三〇センチメートル程の魔法陣を描き上げて装置に取り付け、魔法陣を発動させた。そして、二人で顔を見合わせて頷き合ったところでスイッチを入れる。
 装置は鈍い音を立てつつ動き出し、石臼も回った。軸さえ回れば石臼も回るようにテンダーが作っていたのだから当然の結果だ。
 そして、二人で食い入るように石臼を見詰めた。
「なんだか臭くねーか?」
 テンダーがくんくんと臭いを嗅ぐ。
 それに倣って嗅いでみると、確かに焦げ臭い。嫌な予感がして装置の軸受けの部分を見ると、煙が燻っていた。
「焦げてます!」
 そう言うが早いか軸受けに火が点いた。
「どわっ」
「水だ! 水を持って来い!」
 累造の変な悲鳴と、テンダーの怒声が響く。慌ててスイッチを切り、テンダーの弟子達が持ってきた水を掛けて鎮火した時には、軸受けは焼け焦げてボロボロになっていた。
「迂闊でした」
「お、おう」
 単なる不注意と言える失敗に、二人で少なからず落ち込んだのだった。

  ◆

「また、累造はおっちゃんの所なのか」
 雑貨店では、昼食時にルゼが面白くなさそうに口を尖らせていた。
「この間と言い、累造君がテンダー親方の所に行った時に限って不平を言うなんて、まさか店長はテンダー親方に妬いてるんですか?」
 チーナは呆れたようにルゼに問うた。累造が昨日草原に行った時には、ルゼは不満げな顔すらしていなかった。ところが、今日になって午前中から累造がテンダーの所へ出掛けると、その殆ど直後から不満げな顔をし、ついには不平まで漏らし始める始末なのだ。
「おっちゃんに妬くわけないだろ。だけど、累造がおっちゃんの所に行ったらそのまま帰ってこないような気がしてだな……」
 ルゼは最後はもごもごと言い淀んだ。
「累造君とテンダー親方はかなり気が合っているみたいですからね」
「だろ?」
 ルゼが更に口を尖らせる。
 その様子には苦笑するしかなかった。
「店長、累造君がここを出て行ってしまわないか不安なのは判りましたけど、そんな事はあり得ませんよ」
「そんな事がどうして言えるんだい?」
「累造君はああ見えて店長の事が一番の筈ですよ。いつも店長ばかり見てますし」
 無意識に自分の両胸を押さえた。胸はルゼほど立派ではないが、小さい訳でもない。形は自慢したい程である。だが、累造はいつもルゼの胸を見ているのだ。別に見られたい訳ではないが、殆ど見向きもされないのにはもやもやとしてしまう。累造がルゼの胸を凝視するのを見ると、敗北感すら覚える。故に、言及するのも無意識に避けてしまったのだ。
 累造がルゼに好意を抱いているのは見れば判るので、間違ったことは言ってない筈だ。しかし、ルゼに比べるとピッチピチの筈の自分が差し置かれているのを意識すると、自分の言葉が若干痛かった。
「そ、そうかな?」
 そんなチーナの内心を知ることもないルゼが、ショートの髪を指先で弄りながらニヘラと笑った。
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