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第三一話 暑い一日
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夏至は、兵士など一部の職業を除いて全国的に休日である。
町の広場では水掛け祭りが催されている。この祭りは元来雨乞いの意味を持っていたが、全国的に水道が敷設されるようになって以降、その意味は失われる傾向にある。ここレザンタでも既に雨乞いの意味は失われ、単なるお祭りとなっている。
その水掛け祭りでは、羽目を外した男女が服を全て脱ぎ捨てて水を掛け合う姿も垣間見える。これは風物詩の一つにもなっているが、父親の判らない四月生まれの者が多い事や、一部の事件の原因にもなっている。そのため、取り締まりも行われるようになり、年々祭りそのものが縮小傾向にある。
端から祭りに参加しない者も多く、ルゼとチーナもその中に含まれる。二人とも過去に一回参加したっきりである。
「その一回で何があったんですか?」
朝食の折、水掛け祭りの話を聞いた累造が尋ねた。
「ほら、ここの水道の水には泥が混じってるだろ? それをそのまま掛け合うから、終わった時には泥だらけなんだよ」
「耳の中にまで泥が残るし、身体に付いた泥を洗い流すためには余分に水を運ばなければいけないしで、楽しさなんてどっかに行っちゃいましたね」
うんうんと、ルゼとチーナは頷き合う。
累造も「なるほど」と納得する。
「まあ、かなりスケベな累造君には嬉しい光景かも知れませんから、遠目に見てみるのもいいかも知れませんね」
チーナは、いつの間にかある一点に累造の視線が集中しているのに気が付いて、半眼で睨みつつ言った。
「え?」
累造がびっくりしたように一瞬チーナを振り返ったが、直ぐにまた視線を元の場所へと戻してしまう。
チーナは軽く溜め息を吐く。累造は呆れ果てる程にルゼの胸ばかり見過ぎだ。傍で見ている方が恥ずかしくなる。しかし、ルゼを見ればそうしてもしょうがないのかもと思いもする。
今日は朝から少々暑い。暑いのは夏至だからではなくたまたまなのだが、休日なのも相まって、普段よりルゼの衣裳は露出も多く生地も薄い。ノースリーブのシャツの広く空いた袖ぐりを横から覗けば胸の膨らみが垣間見え、正面からは胸の中程までボタンを外している襟元から胸の谷間が覗いている。加えて、胸の先端がうっすらと生地を透かして見えてしまってもいる。
これで見るなと言う方が無体だろうとさえ思わなくもないが、累造があまりにあからさまなのもどうかと思うのだ。ルゼもルゼで累造の視線に気付いているのか、胸を突き出すように背を反らしている。すると累造が徐々に前のめりになり、それにつれてルゼも更に胸を突き出すのだ。これではまるで痴女と痴漢ではないかと、また嘆息する。
「もう、累造君はちょっと来なさい!」
朝食の後片付けを手早く済ませ、チーナは累造を引き摺って累造の部屋へと向かった。
「累造君は店長の胸ばかり見過ぎです!」
チーナの口調は自分で思っていたよりきつくなっていた。だがこれは、累造がスケベなのに立腹しているのであって、累造がルゼばかりを見るために疎外感を覚えてしまったからではない、筈だ。
「ええ!? なんでバレてるんですか!?」
こっそり見ているつもりでいたのか……。
「あんなに凝視していて判らない方がどうかしています。店長だってしっかり気付いてますよ?」
ひょっとこのような顔で固まってしまう累造。
「変な顔しても駄目です。だけど、累造君? 累造君が女性の胸に並々ならぬ関心が有るのは判りますが、その調子だと前に住んでいた場所で、生活に支障が有ったのではないですか?」
「胸、ですか……」
累造が考え込むが、目がチーナの胸を凝視している。チーナの服からもうっすらと胸の先端が浮き出ているのだ。
その視線に気付いて両腕で胸を隠す。
「もう、私の胸は見なくていいんです!」
「あ、ブラジャーだ」
累造が思い出したように言った。
そう、日本に住んでいた頃は、女性の胸は下着に包まれていて肝心な部分は見えず、その下着が形作る曲線も煩悩を打ち消す方向に働いてしまっているため、凝視してしまうような事にはならなかったのだ。
しかし、チーナには疑問しか浮かばない。
「ぶらじゃあ?」
「はい、昔は乳バンドとも言ったらしいです。女性の胸用の下着です」
「乳バンド……下着ですか。それってどんな物なんですか?」
ブラジャー。それは人目から乳房を隠すのに加え、形を整える効果や垂れるのを防ぐ効果、使い方次第で豊乳の効果も有る。
チーナはその付随する効果に思いっきり食い付かずにいられない。勢い、鼻息も荒くなる。
「凄いじゃないですか! 是非、作りましょう!」
その勢いに累造が若干引いた。
「でも、着ける人の大きさに合わせて、ぴったりとしたものじゃないと駄目ですよ?」
「んー、それもそうですね。大きさはどうやって決めるんですか?」
累造は説明する。妹のりいなが一生懸命解説していた内容を思い出しながらだ。りいなが前屈みになってもならなくても変わらない筈なのに、必死に前屈みで計るんだと力説していたのも思い出し、自然と口元が緩んだ。
しかし、その笑みは傍目には少々怪しい。
「累造君、なんだか良からぬ事を考えてませんか?」
その怪しさに半眼で睨めば、累造があたふたと弁明する。
「いや、その、妹を思い出していただけですっ」
妹と言う言葉が気に掛かった。
「妹さんですか……。累造君は会いたいですか?」
「え?」
突然の問いで、思考に空白が生まれたかのように累造が一瞬だけ止まる。
「どうでしょう? 連絡を取れるようにはしたいんですが、今はそれどころじゃない感じですね」
「今は? もしかして連絡を取る方法が有るんですか?」
「それは、試してみない事には何とも」
「試してって……。もしかして、元居た場所に帰る方法も有るんですか?」
「それも、試してみない事には何とも」
「ええ!?」
累造のあっさりした答えには呆然とするばかりだった。そして、何故か涙が零れてしまう。
「なっ! チーナさん!?」
またあたふたとする累造。
「あらら、ごめんなさい。累造君が居なくなるのかもと思ったら……」
改めて思い返すと、累造が雑貨店に来てから楽しかったのだ。累造はスケベな所を除けば結構可愛くもあるし、何よりルゼが朗らかになって店が明るくなった。おまけに雑貨店は物理的にも明るくなった。
「帰ると言っても、今すぐどうこうにはならないです。それだけに掛かりっきりでも準備に一ヶ月は掛かるし、それも成功するとも限りませんから」
「そうなんですか?」
キョトンと首を傾げる。
「はい。この世界に来る切っ掛けになった魔法陣は一ヶ月掛かりで描いたものです。それもこの世界に有るものより描きやすいペンで描いての事ですから、この世界で再現しようとしてもどれ位掛かるか判りません。だから、今は生活を安定させる方が重要です」
「なるほど、判りました」
柔らかく微笑むと、累造も胸を撫で下ろしたように微笑んだ。
「なんだか二人で楽しそうだな」
ずっと一人で放っておかれていたルゼが累造の部屋に現れて口を尖らせた。その姿は、日が昇るにつれ上がっている気温のために汗ばんでおり、シャツが肌に貼り付いて胸の形がはっきりと浮き出している。更に、その先端もより透けて見えてしまっている。下もいつものズボンではなく、この町では普通には穿く人を見る事のない、太股まで剥き出しのスカートだ。
「店長! なんて格好を!」
叫んでみたものの、ルゼが一転してニヤニヤしている。何事かと思い累造の方を見れば、累造がこれでもかと言う程身を乗り出してルゼを凝視していた。
この二人はもう、と軽く頭痛を覚えながらも、なんとなく累造に向けて胸を突き出すチーナだった。
午後、累造が一人で水掛け祭りの見学に広場へ向かうのを見送ると、チーナは累造に付いて行こうとするルゼを捕まえてブラジャーの為の採寸を行った。
最初は渋々付き合っている風情だったルゼも、話をするにつれてブラジャーに興味を示し始めるのだが、若干雲行きが怪しい。
「ふぅん、累造とそんな話をしていたのか」
そこではたと気が付いた。最初は累造に説教するつもりだったのが、いつの間にかブラジャーの話になっていたのだ。
思わぬところでルゼがまた少しむくれてしまった。
◆
水掛け祭りの参加者は想像したより多く、累造のように見物だけの人も含めればかなりの人出である。参加者の中には全裸の女性も混じっているが、その多くは目の保養とは程遠い体型である。
累造は早々に引き上げる事にした。元々後学のためのつもりだったので、その程度で十分なのだ。一人で居てもあまり楽しくはない。それに、見物だけのつもりであっても、いつ水を浴びせられるか判ったものではない。
そうして広場から出ようと振り返った時だった。
ばしゃん。
後ろから水を浴びせられた。
一体誰がと振り向けば、空の桶を持ってニタッと笑うルゼ。服は作業着みたいなものに着替えている。
「ルゼさん!? 参加しない筈だったんじゃ?」
「考えてみたら、後の事なんて気にしなくてもいいからね」
水の魔法陣によって、泥だらけになっても洗うのが大変ではなくなっていたのだ。
「さ、累造君もどうぞ」
チーナから水の入った桶を渡された。
「チーナさんも?」
「ええ、まあ」
チーナは若干目を逸らした。参加はルゼを宥めようとしたチーナの提案だったのだ。
累造は渡された桶をどうしたものかと悩んだが、ルゼが踏ん反り返って「さあ、来なさい」とばかりに人差し指をくいくいっと曲げるので、意を決して振りかぶった。
しかし、水の入った桶は少々重い。
よろめいた。
ばしゃん。
「何で私に来るんですかね?」
チーナが濡れた髪を抓みながら睨む。
「あっはっはっは!」
ルゼが愉快そうに笑う。
「何が可笑しいんですか!」
ばしゃん。
水を浴びせられたルゼがびっくりしたように目を見開いた。
三人して笑いが込み上げる。
そうして、三人で水掛け祭りを存分に楽しんだ。
雨乞いの祭りの効果かどうかは定かではないが、その夜から激しい雨が降り始めた。
町の広場では水掛け祭りが催されている。この祭りは元来雨乞いの意味を持っていたが、全国的に水道が敷設されるようになって以降、その意味は失われる傾向にある。ここレザンタでも既に雨乞いの意味は失われ、単なるお祭りとなっている。
その水掛け祭りでは、羽目を外した男女が服を全て脱ぎ捨てて水を掛け合う姿も垣間見える。これは風物詩の一つにもなっているが、父親の判らない四月生まれの者が多い事や、一部の事件の原因にもなっている。そのため、取り締まりも行われるようになり、年々祭りそのものが縮小傾向にある。
端から祭りに参加しない者も多く、ルゼとチーナもその中に含まれる。二人とも過去に一回参加したっきりである。
「その一回で何があったんですか?」
朝食の折、水掛け祭りの話を聞いた累造が尋ねた。
「ほら、ここの水道の水には泥が混じってるだろ? それをそのまま掛け合うから、終わった時には泥だらけなんだよ」
「耳の中にまで泥が残るし、身体に付いた泥を洗い流すためには余分に水を運ばなければいけないしで、楽しさなんてどっかに行っちゃいましたね」
うんうんと、ルゼとチーナは頷き合う。
累造も「なるほど」と納得する。
「まあ、かなりスケベな累造君には嬉しい光景かも知れませんから、遠目に見てみるのもいいかも知れませんね」
チーナは、いつの間にかある一点に累造の視線が集中しているのに気が付いて、半眼で睨みつつ言った。
「え?」
累造がびっくりしたように一瞬チーナを振り返ったが、直ぐにまた視線を元の場所へと戻してしまう。
チーナは軽く溜め息を吐く。累造は呆れ果てる程にルゼの胸ばかり見過ぎだ。傍で見ている方が恥ずかしくなる。しかし、ルゼを見ればそうしてもしょうがないのかもと思いもする。
今日は朝から少々暑い。暑いのは夏至だからではなくたまたまなのだが、休日なのも相まって、普段よりルゼの衣裳は露出も多く生地も薄い。ノースリーブのシャツの広く空いた袖ぐりを横から覗けば胸の膨らみが垣間見え、正面からは胸の中程までボタンを外している襟元から胸の谷間が覗いている。加えて、胸の先端がうっすらと生地を透かして見えてしまってもいる。
これで見るなと言う方が無体だろうとさえ思わなくもないが、累造があまりにあからさまなのもどうかと思うのだ。ルゼもルゼで累造の視線に気付いているのか、胸を突き出すように背を反らしている。すると累造が徐々に前のめりになり、それにつれてルゼも更に胸を突き出すのだ。これではまるで痴女と痴漢ではないかと、また嘆息する。
「もう、累造君はちょっと来なさい!」
朝食の後片付けを手早く済ませ、チーナは累造を引き摺って累造の部屋へと向かった。
「累造君は店長の胸ばかり見過ぎです!」
チーナの口調は自分で思っていたよりきつくなっていた。だがこれは、累造がスケベなのに立腹しているのであって、累造がルゼばかりを見るために疎外感を覚えてしまったからではない、筈だ。
「ええ!? なんでバレてるんですか!?」
こっそり見ているつもりでいたのか……。
「あんなに凝視していて判らない方がどうかしています。店長だってしっかり気付いてますよ?」
ひょっとこのような顔で固まってしまう累造。
「変な顔しても駄目です。だけど、累造君? 累造君が女性の胸に並々ならぬ関心が有るのは判りますが、その調子だと前に住んでいた場所で、生活に支障が有ったのではないですか?」
「胸、ですか……」
累造が考え込むが、目がチーナの胸を凝視している。チーナの服からもうっすらと胸の先端が浮き出ているのだ。
その視線に気付いて両腕で胸を隠す。
「もう、私の胸は見なくていいんです!」
「あ、ブラジャーだ」
累造が思い出したように言った。
そう、日本に住んでいた頃は、女性の胸は下着に包まれていて肝心な部分は見えず、その下着が形作る曲線も煩悩を打ち消す方向に働いてしまっているため、凝視してしまうような事にはならなかったのだ。
しかし、チーナには疑問しか浮かばない。
「ぶらじゃあ?」
「はい、昔は乳バンドとも言ったらしいです。女性の胸用の下着です」
「乳バンド……下着ですか。それってどんな物なんですか?」
ブラジャー。それは人目から乳房を隠すのに加え、形を整える効果や垂れるのを防ぐ効果、使い方次第で豊乳の効果も有る。
チーナはその付随する効果に思いっきり食い付かずにいられない。勢い、鼻息も荒くなる。
「凄いじゃないですか! 是非、作りましょう!」
その勢いに累造が若干引いた。
「でも、着ける人の大きさに合わせて、ぴったりとしたものじゃないと駄目ですよ?」
「んー、それもそうですね。大きさはどうやって決めるんですか?」
累造は説明する。妹のりいなが一生懸命解説していた内容を思い出しながらだ。りいなが前屈みになってもならなくても変わらない筈なのに、必死に前屈みで計るんだと力説していたのも思い出し、自然と口元が緩んだ。
しかし、その笑みは傍目には少々怪しい。
「累造君、なんだか良からぬ事を考えてませんか?」
その怪しさに半眼で睨めば、累造があたふたと弁明する。
「いや、その、妹を思い出していただけですっ」
妹と言う言葉が気に掛かった。
「妹さんですか……。累造君は会いたいですか?」
「え?」
突然の問いで、思考に空白が生まれたかのように累造が一瞬だけ止まる。
「どうでしょう? 連絡を取れるようにはしたいんですが、今はそれどころじゃない感じですね」
「今は? もしかして連絡を取る方法が有るんですか?」
「それは、試してみない事には何とも」
「試してって……。もしかして、元居た場所に帰る方法も有るんですか?」
「それも、試してみない事には何とも」
「ええ!?」
累造のあっさりした答えには呆然とするばかりだった。そして、何故か涙が零れてしまう。
「なっ! チーナさん!?」
またあたふたとする累造。
「あらら、ごめんなさい。累造君が居なくなるのかもと思ったら……」
改めて思い返すと、累造が雑貨店に来てから楽しかったのだ。累造はスケベな所を除けば結構可愛くもあるし、何よりルゼが朗らかになって店が明るくなった。おまけに雑貨店は物理的にも明るくなった。
「帰ると言っても、今すぐどうこうにはならないです。それだけに掛かりっきりでも準備に一ヶ月は掛かるし、それも成功するとも限りませんから」
「そうなんですか?」
キョトンと首を傾げる。
「はい。この世界に来る切っ掛けになった魔法陣は一ヶ月掛かりで描いたものです。それもこの世界に有るものより描きやすいペンで描いての事ですから、この世界で再現しようとしてもどれ位掛かるか判りません。だから、今は生活を安定させる方が重要です」
「なるほど、判りました」
柔らかく微笑むと、累造も胸を撫で下ろしたように微笑んだ。
「なんだか二人で楽しそうだな」
ずっと一人で放っておかれていたルゼが累造の部屋に現れて口を尖らせた。その姿は、日が昇るにつれ上がっている気温のために汗ばんでおり、シャツが肌に貼り付いて胸の形がはっきりと浮き出している。更に、その先端もより透けて見えてしまっている。下もいつものズボンではなく、この町では普通には穿く人を見る事のない、太股まで剥き出しのスカートだ。
「店長! なんて格好を!」
叫んでみたものの、ルゼが一転してニヤニヤしている。何事かと思い累造の方を見れば、累造がこれでもかと言う程身を乗り出してルゼを凝視していた。
この二人はもう、と軽く頭痛を覚えながらも、なんとなく累造に向けて胸を突き出すチーナだった。
午後、累造が一人で水掛け祭りの見学に広場へ向かうのを見送ると、チーナは累造に付いて行こうとするルゼを捕まえてブラジャーの為の採寸を行った。
最初は渋々付き合っている風情だったルゼも、話をするにつれてブラジャーに興味を示し始めるのだが、若干雲行きが怪しい。
「ふぅん、累造とそんな話をしていたのか」
そこではたと気が付いた。最初は累造に説教するつもりだったのが、いつの間にかブラジャーの話になっていたのだ。
思わぬところでルゼがまた少しむくれてしまった。
◆
水掛け祭りの参加者は想像したより多く、累造のように見物だけの人も含めればかなりの人出である。参加者の中には全裸の女性も混じっているが、その多くは目の保養とは程遠い体型である。
累造は早々に引き上げる事にした。元々後学のためのつもりだったので、その程度で十分なのだ。一人で居てもあまり楽しくはない。それに、見物だけのつもりであっても、いつ水を浴びせられるか判ったものではない。
そうして広場から出ようと振り返った時だった。
ばしゃん。
後ろから水を浴びせられた。
一体誰がと振り向けば、空の桶を持ってニタッと笑うルゼ。服は作業着みたいなものに着替えている。
「ルゼさん!? 参加しない筈だったんじゃ?」
「考えてみたら、後の事なんて気にしなくてもいいからね」
水の魔法陣によって、泥だらけになっても洗うのが大変ではなくなっていたのだ。
「さ、累造君もどうぞ」
チーナから水の入った桶を渡された。
「チーナさんも?」
「ええ、まあ」
チーナは若干目を逸らした。参加はルゼを宥めようとしたチーナの提案だったのだ。
累造は渡された桶をどうしたものかと悩んだが、ルゼが踏ん反り返って「さあ、来なさい」とばかりに人差し指をくいくいっと曲げるので、意を決して振りかぶった。
しかし、水の入った桶は少々重い。
よろめいた。
ばしゃん。
「何で私に来るんですかね?」
チーナが濡れた髪を抓みながら睨む。
「あっはっはっは!」
ルゼが愉快そうに笑う。
「何が可笑しいんですか!」
ばしゃん。
水を浴びせられたルゼがびっくりしたように目を見開いた。
三人して笑いが込み上げる。
そうして、三人で水掛け祭りを存分に楽しんだ。
雨乞いの祭りの効果かどうかは定かではないが、その夜から激しい雨が降り始めた。
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