天ぷらで行く!

浜柔

文字の大きさ
4 / 71

03 初めての依頼受注

 冒険者ギルドへの登録が済んだので、早速依頼を受けることにする。そうしないと、今日はともかく明日も野宿になりかねない。だから強面のおじ様の窓口へ。
「依頼を受けたいんですが、字が判らないのでどんな依頼が有るか教えていただけますか?」
 日払いして貰える依頼で、と付け加える。
「今からか? 今からできるものはそう多くはないぞ?」
 強面だけど口調は優しげだった! 見かけで判断してごめんなさいと、心の中で謝っておこう。
「はい。お金が全く無くて、今からでも働かないと今晩の食事にも困りますので」
「ふむ、無一文か。ならば酒場の接客はどうだ? 夜は遅くなるが、賄いも出る。仕事の後に仮眠くらいはさせて貰える店だ」
「酒場って、その、えーと、何と言うか……」
 夜の酒場って、エッチなことをさせられたりしないのかな? 気になるけど、何とも尋ね辛いし……。
「ふむ、女を要求されないか気にしているのか?」
 あれ? 何で判ったんだろう? 察してくれるのは助かるけど。
「はい……」
「その心配は無い、とは言えんな。店自体は至って健全なんだが、酔っ払いに身体からだを触られることは有り得る。その所為なのか、誰も長続きしなくて、本来ならランク8の依頼がランク9になっている」
 とってもブラックっぽい。とは言っても、選択肢なんて端から無いのだから受けるより無い。店の営業でエッチなことをさせられるんじゃなければどうにかなると思いたいじゃない?
「判りました。それを受けます」
「よし。ではここに指を置いてくれ」
 依頼票にタグとして付けられている水晶の板に、魔力紋を登録するらしい。言われるままに魔力紋をタグに登録したら受注完了。
 その後、強面のおじ様は依頼票に書いている内容を一つ一つ指差しながら読み上げてくれて、酒場までの地図も書いてくれた。顔に似合わず親切な御仁だった。

 酒場。見るからに酒場だ。何せ、樽のオブジェがひっついている。木造としてはかなり大きな二階建てで、間口が10メートルくらいは有る。
 店員として来たんだから裏に回るべきかな?
 そんなことを思ってみたけれど、建物と建物の間は塞がれていて回れる場所が無い。これじゃ、表から行くしかない。
 ゴンゴン、とノッカーを鳴らして叫ぶ。
「こんにちわーっ! ギルドの依頼でやって来ましたーっ!」
「開いてるから、入って来なーっ!」
 中から中年女性らしき声の返事。
 扉を開けて、首だけ突っ込むようにして見回してみる。何だか大衆食堂みたいな雰囲気で少しホッとする。
 その中に佇むのは、女性としては少し大柄で、背筋がピンと張っていて、中年太りとは無縁そうな女性。見るからに格好良くて、少し憧れる。あたしじゃ、もさっと立ってるようにしかならないもの。
「覗き込んでないで、さっさと入って来な!」
「は、はい!」
 ピクッとなった。その後ドタバタしてしまったのもしょうがないわよね。
 覗き込むのは失礼だったと、反省しながらと中に入る。でも、初めての場所ってちょっと怖くない?
「あんた、初めてだね?」
「はい!」
 芯が通ったような声に何だか背筋がピンと伸びてしまう。
「まだ早いんだけど、来たもんはしょうがないね。まあ、メニューでも覚えといて」
 中年女性が指差す壁にはメニューらしきものが貼られているけど、読めないのよね……。
「すいません。読めないので、一通り読んで貰って宜しいでしょうか?」
「まったく、しょうがないね」
 中年女性は文句を言いつつも読み上げてくれる。
 あたしはそれらを聞きながらメモする。勿論、日本語訳だったり、カタカタだったりさ。
 鶏肉の網焼き、豚肉の網焼き、蛇肉のシチュー、蛙肉の燻製焼き、鶏のスープなどなど。変なのも混じっている気がするが気にしたら負け。国や地域で食材が変わるから。日本にだって他の地域の人が引いてしまうような食材が有るじゃない?
 そうして一通りのメニューを聞き終えたのだけど……。
 揚げ物が全く無い。炒め物も殆ど無い。殆どの料理は煮るか焼くかしているだけ。
「揚げ物とかは無いんですか?」
「油は高いから、こんな安酒場で出せるようなもんじゃないね」
「そんなに高いんですか」
「鶏肉の網焼きと揚げたのとじゃ、値段が倍も違ってくるね」
「それ程でしたか」
 それじゃ、揚げ物が無いのも道理だ。
 逆に考えると、油さえ安く手に入れられれば天ぷら屋もいけそうだ。店さえ開けられれば、後はどうとでもできそうな予感がする。ふふふふふふ。
「なんだい!? 急に変な笑い方して」
「え!? あたし、笑ってました?」
「ああ、なんだか気持ち悪い笑い方だったね」
 中年女性は少し引き気味に気持ち悪そうな顔をした。
 表情に出てたなんて……。
 あたしは頭を抱えた。

 掃除の手伝いをして、賄いを食べさせて貰った。この後がいよいよ開店で、仕事の本番。
 あの中年女性が店長なのかと思ったら、店長の配偶者だった。夫婦でこの店を切り盛りしているらしい。
 開店と同時にお客がちらほら入ってくる。
 まだ明るいのに良いの? いや、彼らとしては良いんだろうな。他人の心配より今は自分の心配だ。
「いらっしゃいませーっ!」
「お、新人さんか? まずはビールを持って来てくれ」
「はい、少々お待ちください」
 開店直後だからなのか、お客さんもちらほらだからのんびりだ。
 だけどそれも日が明るい内だけだった。
 日が沈む頃になって、次から次にお客さんが来る。途端に店が混んで、手が回らない。
「おーい! こっちはまだかーっ!?」
「注文頼むぞーっ!」
「はーい! 少々お待ちをーっ!」
「料理が来てねーぞ!」
「あ、はーい!」
「会計してくれ!」
「はーい」
 息つく暇も無い。接客しているのがあたしとおかみさんだけだなんて信じられない。おかみさんはこんなのを毎日やっているのかな? いや、昨日までは1人だったんだろうから、もっと忙しい筈だ。それこそ信じられない。
 チラッとおかみさんの方を見てみる。
 あれ? 何かおかしい。当然おかみさんも忙しくしているのだと思っていたのに、なんだかのんびりしているように見える。どう言うことだ?。
「きゃっ!」
 誰かにお尻を触られた! 声が出てしまったのが悔しい。何か負けた気になるのは何故だろう?
 後ろを見てみれば、あたしを触ったらしい酔っ払いが変な顔をして手を見詰めている。
 断りも無く触っておいて、その顔は何だ!
「『きゃっ』だってよ!」
「可愛い悲鳴じゃないか!」
 あたしを触った酔っ払いと同席している酔っ払いの台詞だ。
 無性にムカつく。しかし、ここはグッと我慢しなければ今晩の寝床も怪しくなる。あー、もー、こめかみが引き攣る!
 腹立たしいけど、酔っ払いは放っておいて、仕事に戻ろう。だけど……。
「姉ちゃん、硬いケツしてんな。鉄のパンツでも穿いてんのか?」
「鉄のパンツだとよ!」
「わーっはっはっはははは!」
 ええ、もう、反射的に拳を握り締めて、腕を振り上げたね!
 ガン。ゴン。ガン。
 連続した打撃音はあたしが腕を振り下ろす前だ。そう、あたしが立てた音じゃない。
「ってーな!」
「何しやがる!」
「それは、こっちの台詞だよ! この馬鹿たれ共が!」
 おかみさんが酔っ払い達をお盆で殴りつけていた。
「なんだよ! 酔っ払いの可愛いお近づきの印じゃねーか」
「馬鹿言ってんじゃないよ! どこが可愛いもんかい! それで何人辞めたと思ってんだい!」
「知らねーよ、そんなこと!」
「だったら、身体からだで判らせてやろうか!?」
 おかみさんが腕まくりを始めると、途端に酔っ払いが狼狽えだした。
「ちょ、ちょちょちょちょーっと待ってくれ。判った、判ったから」
「だったら、代金を置いてとっとと出て行きな! そして、当分は出入り禁止だよ!」
「わ、判ったよ……」
 酔っ払いはすごすごと店から出て行った。何気におかみさんって強いのかしら?
「いいかい? あんた達! 命が惜しかったら、この娘にちょっかい出すんじゃないよ!」
 おかみさんが大声でお客さん達に通達すると、そこかしこから「おー」とおっかなびっくりな様子の返事。それにしても、「命が惜しかったら」なんて物騒過ぎやしない?
 その脅しが利いたのか、その場に居たお客さん達は静かに飲み食いするだけで足早に店から出て行った。
 まあ、一時的なんだけどね。お客さんが入れ替わったらまた元の賑やかさになって、あたしも休む暇が無くなった。

「ふぅ」
 閉店してやっと一息だ。
「お疲れさん。あの連中は新しい娘が入るとなんだかんだと注文をして気を引きたがるからね。大変だったろ?」
「それはもう」
 お客さん達はわざわざあたしに注文をしていたと言うことなのか。おかみさんがのんびりな訳だ。何か理不尽を感じるが、おかみさんのお陰で酔っ払いを殴らずに済んだことにはお礼を言っておこう。
「今日は助けていただいて、ありがとうございました」
「あんたを助けた覚えは無いよ」
「え? でも……」
 あたしがぽかんとおかみさんを見ていたら、おかみさんは頭を掻いた。
「むしろ、助けたのはあの酔っ払いの方をなんだけどね」
「え?」
「あんた、あいつを殴ろうとしただろ?」
「はい……」
 多分、日本の居酒屋なんかで働いていたのだったら殴ろうとはしなかったと思う。日本にだってあんな奴は居るもの。だけど理不尽にこの世界に連れて来られて、それなのに直ぐにでも働かなきゃいけなくて、自分でも気付かない内に神経がささくれ立っていたんだ。
「あのままあんたが殴っていたら、あの酔っ払いの首が無くなってたような気がしたからさ」
 あたしは苦笑いする。
「まさか、そんな」
「まさか、なら良いんだけどね」
「あの、もしかして『命が惜しかったら』って脅していたのは?」
「ああ、『あんたに殴られたくなかったら』ってことだね」
 冷や汗しか出ない。
「でも何故、そう思ったんですか?」
「あんたはどう見ても素人なのに気配がだだ漏れなんだよ。危なくてしょうがない」
 まさかのチートの気配のだだ漏れだった。どうやったら漏らさずに済むのかしら……。
「だけど、そんなのが判るものなんですか?」
「こう見えてもあたしは元ランク2冒険者なんだ。結構有名人なんだよ」
「ああ、それで……」
 客達に脅しが利いたことも含めて、納得した。

あなたにおすすめの小説

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 通学途中に突然異世界へと飛ばされた、ごく普通の女子高生・武久佳奈。  何の力も持たない彼女が願うのは、ただ一つ――両親と友人の待つ元の世界へ帰ること。  右も左も分からない異世界で、佳奈は生きるために魔法や剣術を一から学び、少しずつ自分の力を積み重ねていく。  旅の中で出会う仲間たちとの絆、別れ、そして幾度も立ちはだかる試練の数々……。  それでも彼女は歩みを止めない。帰りたいという願いだけを胸に、前へ進み続ける。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、“ごく普通の少女”が努力だけを武器に異世界を生き抜く、成長の物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
【毎日12:10更新!】 松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

異世界転移したら旅することになりました

松石 愛弓
ファンタジー
ある日、目覚めたらそこは異世界で。長老に頼まれエマさんを探す旅に出ることに。 ゆる~い感じののんびりほんわかなんでやねん路線の地味系主人公です。 よろしくお願いします。