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47 廃屋の撤去
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依頼を出してから宿屋に籠もりっきり。受注者がいつ来るか判らないからね。チーズの買い出しにも行きたいけど、ベッドでごろごろするしかない。募集期間はあまり待ちたくなかったから、最小の1週間だ。
受注者が来なかったらどうしよう……。
あー、悪い方に考えが転がってる。ちょっと切ない。
それで丸2日。
「応募者が来ませんね」
「この町を敬遠する奴らも多いからな」
「敬遠?」
「ああ。西に迷宮の町が有るのを知っているか?」
「聞いてはいます」
純三さんの話に有った。
「この町から行く奴も多いんだが、西門を通らずに南門から出て大回りする奴まで居る」
「それは、また……」
そこまでして避けたいものなのかな? 迷宮がクーロンスの近くに在ったのと同じようなものなら、迷宮の中の方がこの下町より環境は劣悪なんだから。
「逆に、この町を敬遠しない冒険者はこの町に住み着くんだがな」
ここからの方が迷宮に近いからかな? でも、距離からしたら誤差みたいなものだよね。
単にここの見た目が嫌なんだろうなぁ。少し苦い感じがする。
「極端ですね」
「まったくだ」
ボリバルグさんはガハハと笑って、大して気にしてないみたい。
3日目も受注者は来なかった。
依頼を出してから4日目の昼過ぎ。
「お嬢さん、来てくれ」
ボリバルグさんに呼ばれて食堂に降りたら、4人組の冒険者が待っていた。戦士らしき男性二人に、魔法使いらしき男性と女性で、一歩前に出ている戦士の男性がリーダーの様子。
「お待ちかねの受注者だ」
「ほんとですか!? よろしくお願いします!」
「お、おう」
ちょっと前のめりになってしまったせいか、若干引かれた。
でも仕方ないじゃないか。気が気じゃなかったんだから。
ただ、4人組は建築に携わるようにも見えないので、少し意外。
「代理人はこの娘だ。現場への案内も含めてこの娘に聞いてくれ」
本当はあたしが依頼人で、ボルバルグさんが代理人だけど、表向きはその逆じゃないといけない決まり事があるのだ。
「判った。よろしく頼む」
「それでは、現場に案内しますね」
挨拶もそこそこに、現場のバッテンの家に案内する。足取りだって軽いものさ。
だってついに受注者が来たんだ!
案内の途中。
「道がかなり狭いな」
誰かがそう呟いた。
道幅が3メートルも無いくらいだから、確かに狭い。
「道を通すのは無理よね」
「すると、上か?」
「そうなるけど、それだと途中で休めないから距離次第ね」
不思議な会話。と言うか、省略が多くて何をしようとしているのかが、あたしには判らない。
だけど見れば判るでしょう! もう現場だ。
あたしが立ち止まったら、4人組も立ち止まった。
「この家です」
「判った。じゃあ、依頼を確認するぞ」
「はい」
「依頼は、周りに被害を出さずにこの家を根刮ぎ町の外に持って行って処分する。これでいいんだな?」
「はい」
「そして、撤去や処分の方法はお任せでいいんだな?」
「はい」
「判った」
リーダーらしき冒険者は軽く頷いた。
「そんじゃ、一応中を確認するぞ」
「私は距離を確かめて来るわね」
「おう、頼むぜ」
女性魔法使いは町の外に向かった。残った男性達はバッテンの家へと入って行く。
あたしが住む予定の家はバッテンの家に向かって右側だけど、向かって左の家も拘束魔法で保護しておく。解体作業で何が起きるか判らないから、念のため。
「くっさ!」
「これは、あれか!?」
「間違いねぇ、あれだ!」
戸を開いた途端に冒険者達が叫んだ。
そんなに酷いのか……。
「全部調べるのか!?」
「仕方ねぇだろ!」
「手早く行くぞ!」
家の中に入った冒険者達の怒鳴り声が聞こえる。臭さを大声で誤魔化してるんだと思う。何だか申し訳ない。
彼らはほんの2、3分で出て来た。
「ひぃ、臭いが染みつきそうだぜ」
「こんなこったろうとは思ったけどよ」
「この臭いには馴れないなー」
一瞬だけど、彼らにジト目で睨まれた。あたしはちょっと目が泳いだ。
彼らが深呼吸をしている間に、女性魔法使いも戻って来た。
「どうだった?」
「家の重さ次第ね」
「そうか、じゃあ、1回浮かせてみてからだな」
「そうね」
「じゃ、早速取り掛かるぞ」
「おー」「おー」「ええ」
掛け声に合わせて冒険者達は散らばった。女性魔法使いはその場に残って、男性魔法使いは家の前にしゃがんで、後の2人は左右の家との間を覗き込む位置だ。
あれ? 解体する感じじゃないよね?
疑問に思っていたら、家の前にしゃがんだ冒険者が呪文を唱え始めた。
何をするのか判らない呪文って、少し不安になるもんだね……。
男性冒険者が魔法を発動させる。家の基礎に当たる束石の周りの土がもりもりっと盛り上がった。それと一緒に家全体が持ち上がる。
「こっちは大丈夫だ!」
「こっちもだ!」
家と家の間を見ていた2人が叫んだ。隣の家とぶつからないように監視しているみたい。
持ち上がった家の床はもう、あたしの首くらいの高さになっている。その代わりに家の敷地が凹んでしまっている。凹んだ分の土で盛り上げたんだな、きっと。凹んだ敷地に降りたら、真っ直ぐに立っても家の床が頭の上になりそう。
戦士2人が凹んだ敷地に降りて剣を抜いた。そして、束石に繋がっている束柱を切って行く。柱1本に剣を振るのは1回だけ。
あれで切れるんだから、ちょっとびっくりだ。でも何か、カッコいい。
切らなきゃいけなかったのは、束石と束柱がセメントみたいなもので接着されているからみたい。接着に使われているものをどうにかするより、束柱を切った方が早かった訳だ。
柱を切り終わった2人はが表に出て来たら、女性魔法使いが呪文を唱え始める。
ちょっとワクワクする。今度は何を見せてくれるのか!
彼女が魔法を発動させたら、家が宙に浮き上がった。するすると他の家の屋根より高く上がって行く。
「このまま行くわ!」
彼女が叫ぶと同時に、家がゆっくりと町の外へと向かって動き始める。他の3人はそれを追う。
あたしも付いて行く。何か落ちたら危ないので、宙に浮いた家の真下の家を拘束魔法で保護しながらね。
案の定と言うか、少し移動した所で家の屋根の一部が剥がれ落ちた。
「あっ!」
声を出してしまったあたしと違って、冒険者達は慌てない。男性魔法使いがすかさず魔法を発動させて、落ちたものを道の方へと誘導して降ろす。それを戦士2人が回収する。
拘束魔法はいらなかったみたい……。
それから暫くは何事も無く、順調だった。野次馬が道を塞ぐまではね。
家が宙に浮いてるんだから、どうしても目立つからなぁ。気にするなって方が無理だよね。だけど今道を塞がれたら……。
「そこ、退いてくれ!」
冒険者が叫んでも、野次馬は退かない。
「おい! 危ないだろ! あんなもの、早く降ろせ!」
「今降ろしたら、下の家が潰れるだろうが!」
多分、浮いている家の下に在る家の住人だけど、もうちょっと冷静になって欲しい。ここで余計な時間を取る方が危ないじゃない?
怒鳴り返されてそれに気付いたらしく、その人は顔を青くした。
そんなやりとりをしている間にも野次馬が増えて、いよいよ道が通れなくなってしまっている。
「仕方ないわね」
女性魔法使いはそう呟きながら、家を道の上へと移動させた。途端に、野次馬が蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
何て現金な。
「最初からこうするべきだったわ」
苦々しげに女性魔法使いが呟いた。野次馬ももう、遠巻きに見るだけだ。
他にはもうトラブルらしきものも起きず起きず、宙に浮かぶ家は町並みの外に出た。そして一旦そこに家を降ろす。
「お疲れさん。少し回復してくれ」
「そうさせて貰うわ」
女性魔法使いはピンポン球くらいの大きさの丸薬のようなものを取り出した。
見るからに不味そう。彼女が囓りながら顔を顰めるのも、きっと不味いからだと思う。
「いつになっても、この味は馴れないわね」
やっぱり不味いんだ。
「これが珍しい?」
あたしの視線に気付いたのか、囓りかけを掲げて尋ねる彼女。
「はい。初めて見ます」
「そうね。冒険者じゃなければ縁が無いものね。これは、回復薬よ」
「回復薬ですか? 回復薬って飲み薬じゃないんですか?」
ゲームの影響だけど、飲み薬のイメージがどうしてもね……。
「何? それ。確かに即効性のものには飲み薬も有るけど、殆どこんな丸薬よ?」
「そうなんですか?」
「当たり前じゃない。飲み薬なんて扱いに困るわ。特に入れ物ね」
「入れ物ですか……」
「例えば、ガラス瓶なんて抱えて戦闘なんてしてごらんなさい。瓶が割れて身体に突き刺さりかねないわ」
「確かにそうです!」
目から鱗だ。この世界に来て1年も経つのに、魔法の有る異世界と言うだけでゲームじみた印象を持っていた。
「代理人さんよ、束石も始末するのか?」
女性魔法使いが休憩する間に、男性3人は切り落とした束柱を回収して来たらしい。驚くべき手際の良さだ。
それはともかく、暫し考える。
束石には臭いなんて付いてないよね? 空き地に誰かが家を建てるのなら、再利用するかも知れない。だけど更地の方がいいってこともあり得るし……。
あ、でも、やっぱり……。
「やっぱり、石も撤去してください。町の外に捨ててくれれば、それで良いです」
「判った」
直ぐに男性魔法使いが向かった。
石が積み上がってるのを想像しちゃったんだよね……。何だか、墓標のように見えなくない? 一度そう思っちゃったら、横に住むあたしは毎日見るんだから、精神的なダメージが計り知れないもの。
暫く待っていたら、ゴロゴロと奇妙な音が近付いて来た。石が団子になって転がって来る。
これはまた……。
思わず見入ってしまった。
「そろそろ行けるわ」
「おう。じゃあ、とっとと終わらせようぜ」
回復したらしい女性魔法使いがまた呪文を唱えて、魔法を発動させた。家が勢いよく飛んで行く。500メートルくらいかな?
そして飛んだ先に行く。家は瓦礫になっていた。冒険者達は少し散らばった破片を一箇所に集めて、火を着けた。
ここでの作業はもう、瓦礫が燃え尽きるのを待つだけだ。
瓦礫が燃え尽きて、魔法で水を掛けて熾り火を消した後は、家を撤去した現場に戻る。
空き地になった現場の凹んでいた部分も均されていて、綺麗になっている。冒険者達に手抜かりは無さそうだ。
つまり依頼は完了。あたしはそれを確認した証拠の割り符を渡す。
「ありがとうございました」
「なーに、小遣い稼ぎには丁度良かったぜ」
軽く挨拶をするだけで、直ぐに彼らは帰って行った。
野次馬に少し邪魔された分を含めても作業はすこぶる早かったんだけど、何だかんだで時間もそれなりに掛かって、それなりに疲れたんじゃないかな? 多分、気疲れの方で。何故って、一番時間が掛かったのが瓦礫が燃え尽きるのを待つ時間だから。
撤去は終わったけど、時は既に夕刻なんだよね……。さすがに今日から寝泊まりできるように準備するのは難しい。
まあ、掃除だけはしておこうかな。
受注者が来なかったらどうしよう……。
あー、悪い方に考えが転がってる。ちょっと切ない。
それで丸2日。
「応募者が来ませんね」
「この町を敬遠する奴らも多いからな」
「敬遠?」
「ああ。西に迷宮の町が有るのを知っているか?」
「聞いてはいます」
純三さんの話に有った。
「この町から行く奴も多いんだが、西門を通らずに南門から出て大回りする奴まで居る」
「それは、また……」
そこまでして避けたいものなのかな? 迷宮がクーロンスの近くに在ったのと同じようなものなら、迷宮の中の方がこの下町より環境は劣悪なんだから。
「逆に、この町を敬遠しない冒険者はこの町に住み着くんだがな」
ここからの方が迷宮に近いからかな? でも、距離からしたら誤差みたいなものだよね。
単にここの見た目が嫌なんだろうなぁ。少し苦い感じがする。
「極端ですね」
「まったくだ」
ボリバルグさんはガハハと笑って、大して気にしてないみたい。
3日目も受注者は来なかった。
依頼を出してから4日目の昼過ぎ。
「お嬢さん、来てくれ」
ボリバルグさんに呼ばれて食堂に降りたら、4人組の冒険者が待っていた。戦士らしき男性二人に、魔法使いらしき男性と女性で、一歩前に出ている戦士の男性がリーダーの様子。
「お待ちかねの受注者だ」
「ほんとですか!? よろしくお願いします!」
「お、おう」
ちょっと前のめりになってしまったせいか、若干引かれた。
でも仕方ないじゃないか。気が気じゃなかったんだから。
ただ、4人組は建築に携わるようにも見えないので、少し意外。
「代理人はこの娘だ。現場への案内も含めてこの娘に聞いてくれ」
本当はあたしが依頼人で、ボルバルグさんが代理人だけど、表向きはその逆じゃないといけない決まり事があるのだ。
「判った。よろしく頼む」
「それでは、現場に案内しますね」
挨拶もそこそこに、現場のバッテンの家に案内する。足取りだって軽いものさ。
だってついに受注者が来たんだ!
案内の途中。
「道がかなり狭いな」
誰かがそう呟いた。
道幅が3メートルも無いくらいだから、確かに狭い。
「道を通すのは無理よね」
「すると、上か?」
「そうなるけど、それだと途中で休めないから距離次第ね」
不思議な会話。と言うか、省略が多くて何をしようとしているのかが、あたしには判らない。
だけど見れば判るでしょう! もう現場だ。
あたしが立ち止まったら、4人組も立ち止まった。
「この家です」
「判った。じゃあ、依頼を確認するぞ」
「はい」
「依頼は、周りに被害を出さずにこの家を根刮ぎ町の外に持って行って処分する。これでいいんだな?」
「はい」
「そして、撤去や処分の方法はお任せでいいんだな?」
「はい」
「判った」
リーダーらしき冒険者は軽く頷いた。
「そんじゃ、一応中を確認するぞ」
「私は距離を確かめて来るわね」
「おう、頼むぜ」
女性魔法使いは町の外に向かった。残った男性達はバッテンの家へと入って行く。
あたしが住む予定の家はバッテンの家に向かって右側だけど、向かって左の家も拘束魔法で保護しておく。解体作業で何が起きるか判らないから、念のため。
「くっさ!」
「これは、あれか!?」
「間違いねぇ、あれだ!」
戸を開いた途端に冒険者達が叫んだ。
そんなに酷いのか……。
「全部調べるのか!?」
「仕方ねぇだろ!」
「手早く行くぞ!」
家の中に入った冒険者達の怒鳴り声が聞こえる。臭さを大声で誤魔化してるんだと思う。何だか申し訳ない。
彼らはほんの2、3分で出て来た。
「ひぃ、臭いが染みつきそうだぜ」
「こんなこったろうとは思ったけどよ」
「この臭いには馴れないなー」
一瞬だけど、彼らにジト目で睨まれた。あたしはちょっと目が泳いだ。
彼らが深呼吸をしている間に、女性魔法使いも戻って来た。
「どうだった?」
「家の重さ次第ね」
「そうか、じゃあ、1回浮かせてみてからだな」
「そうね」
「じゃ、早速取り掛かるぞ」
「おー」「おー」「ええ」
掛け声に合わせて冒険者達は散らばった。女性魔法使いはその場に残って、男性魔法使いは家の前にしゃがんで、後の2人は左右の家との間を覗き込む位置だ。
あれ? 解体する感じじゃないよね?
疑問に思っていたら、家の前にしゃがんだ冒険者が呪文を唱え始めた。
何をするのか判らない呪文って、少し不安になるもんだね……。
男性冒険者が魔法を発動させる。家の基礎に当たる束石の周りの土がもりもりっと盛り上がった。それと一緒に家全体が持ち上がる。
「こっちは大丈夫だ!」
「こっちもだ!」
家と家の間を見ていた2人が叫んだ。隣の家とぶつからないように監視しているみたい。
持ち上がった家の床はもう、あたしの首くらいの高さになっている。その代わりに家の敷地が凹んでしまっている。凹んだ分の土で盛り上げたんだな、きっと。凹んだ敷地に降りたら、真っ直ぐに立っても家の床が頭の上になりそう。
戦士2人が凹んだ敷地に降りて剣を抜いた。そして、束石に繋がっている束柱を切って行く。柱1本に剣を振るのは1回だけ。
あれで切れるんだから、ちょっとびっくりだ。でも何か、カッコいい。
切らなきゃいけなかったのは、束石と束柱がセメントみたいなもので接着されているからみたい。接着に使われているものをどうにかするより、束柱を切った方が早かった訳だ。
柱を切り終わった2人はが表に出て来たら、女性魔法使いが呪文を唱え始める。
ちょっとワクワクする。今度は何を見せてくれるのか!
彼女が魔法を発動させたら、家が宙に浮き上がった。するすると他の家の屋根より高く上がって行く。
「このまま行くわ!」
彼女が叫ぶと同時に、家がゆっくりと町の外へと向かって動き始める。他の3人はそれを追う。
あたしも付いて行く。何か落ちたら危ないので、宙に浮いた家の真下の家を拘束魔法で保護しながらね。
案の定と言うか、少し移動した所で家の屋根の一部が剥がれ落ちた。
「あっ!」
声を出してしまったあたしと違って、冒険者達は慌てない。男性魔法使いがすかさず魔法を発動させて、落ちたものを道の方へと誘導して降ろす。それを戦士2人が回収する。
拘束魔法はいらなかったみたい……。
それから暫くは何事も無く、順調だった。野次馬が道を塞ぐまではね。
家が宙に浮いてるんだから、どうしても目立つからなぁ。気にするなって方が無理だよね。だけど今道を塞がれたら……。
「そこ、退いてくれ!」
冒険者が叫んでも、野次馬は退かない。
「おい! 危ないだろ! あんなもの、早く降ろせ!」
「今降ろしたら、下の家が潰れるだろうが!」
多分、浮いている家の下に在る家の住人だけど、もうちょっと冷静になって欲しい。ここで余計な時間を取る方が危ないじゃない?
怒鳴り返されてそれに気付いたらしく、その人は顔を青くした。
そんなやりとりをしている間にも野次馬が増えて、いよいよ道が通れなくなってしまっている。
「仕方ないわね」
女性魔法使いはそう呟きながら、家を道の上へと移動させた。途端に、野次馬が蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
何て現金な。
「最初からこうするべきだったわ」
苦々しげに女性魔法使いが呟いた。野次馬ももう、遠巻きに見るだけだ。
他にはもうトラブルらしきものも起きず起きず、宙に浮かぶ家は町並みの外に出た。そして一旦そこに家を降ろす。
「お疲れさん。少し回復してくれ」
「そうさせて貰うわ」
女性魔法使いはピンポン球くらいの大きさの丸薬のようなものを取り出した。
見るからに不味そう。彼女が囓りながら顔を顰めるのも、きっと不味いからだと思う。
「いつになっても、この味は馴れないわね」
やっぱり不味いんだ。
「これが珍しい?」
あたしの視線に気付いたのか、囓りかけを掲げて尋ねる彼女。
「はい。初めて見ます」
「そうね。冒険者じゃなければ縁が無いものね。これは、回復薬よ」
「回復薬ですか? 回復薬って飲み薬じゃないんですか?」
ゲームの影響だけど、飲み薬のイメージがどうしてもね……。
「何? それ。確かに即効性のものには飲み薬も有るけど、殆どこんな丸薬よ?」
「そうなんですか?」
「当たり前じゃない。飲み薬なんて扱いに困るわ。特に入れ物ね」
「入れ物ですか……」
「例えば、ガラス瓶なんて抱えて戦闘なんてしてごらんなさい。瓶が割れて身体に突き刺さりかねないわ」
「確かにそうです!」
目から鱗だ。この世界に来て1年も経つのに、魔法の有る異世界と言うだけでゲームじみた印象を持っていた。
「代理人さんよ、束石も始末するのか?」
女性魔法使いが休憩する間に、男性3人は切り落とした束柱を回収して来たらしい。驚くべき手際の良さだ。
それはともかく、暫し考える。
束石には臭いなんて付いてないよね? 空き地に誰かが家を建てるのなら、再利用するかも知れない。だけど更地の方がいいってこともあり得るし……。
あ、でも、やっぱり……。
「やっぱり、石も撤去してください。町の外に捨ててくれれば、それで良いです」
「判った」
直ぐに男性魔法使いが向かった。
石が積み上がってるのを想像しちゃったんだよね……。何だか、墓標のように見えなくない? 一度そう思っちゃったら、横に住むあたしは毎日見るんだから、精神的なダメージが計り知れないもの。
暫く待っていたら、ゴロゴロと奇妙な音が近付いて来た。石が団子になって転がって来る。
これはまた……。
思わず見入ってしまった。
「そろそろ行けるわ」
「おう。じゃあ、とっとと終わらせようぜ」
回復したらしい女性魔法使いがまた呪文を唱えて、魔法を発動させた。家が勢いよく飛んで行く。500メートルくらいかな?
そして飛んだ先に行く。家は瓦礫になっていた。冒険者達は少し散らばった破片を一箇所に集めて、火を着けた。
ここでの作業はもう、瓦礫が燃え尽きるのを待つだけだ。
瓦礫が燃え尽きて、魔法で水を掛けて熾り火を消した後は、家を撤去した現場に戻る。
空き地になった現場の凹んでいた部分も均されていて、綺麗になっている。冒険者達に手抜かりは無さそうだ。
つまり依頼は完了。あたしはそれを確認した証拠の割り符を渡す。
「ありがとうございました」
「なーに、小遣い稼ぎには丁度良かったぜ」
軽く挨拶をするだけで、直ぐに彼らは帰って行った。
野次馬に少し邪魔された分を含めても作業はすこぶる早かったんだけど、何だかんだで時間もそれなりに掛かって、それなりに疲れたんじゃないかな? 多分、気疲れの方で。何故って、一番時間が掛かったのが瓦礫が燃え尽きるのを待つ時間だから。
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