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かみにんぎょう
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「おとしはいくつ」
そうたずねられると、なっちゃんは指を三本、はずかしそうにそろえます。くるっとした目をちょっとふせて、ふっくらほっぺがピンクにそまります。
それから、ママを見上げてぴょんぴょんはねます。すると、色ゴムでとめられた髪もぴょんぴょんはねます。
なっちゃんは、おどりが大好きです。日本舞踊だから着物を着ておどります。ママのおけいこについていくうちに、しぜんとまねをしておどるようになりました。小さなぶたいで、ママといっしょにおきゃくさまの前でおどったこともあります。
おけいこをしているへやはとても広くて、かべが全部かがみになっています。そこで、大きなお姉さんたちとおどります。
なっちゃんは、アンパンマンが大好きで、おでかけのときには、いつもひとさしゆびくらいの人形をにぎって行きます。だから、おけいこもアンパンマンといっしょです。
八月のはじめのおけいこは、黄色の地に赤いきんぎょのもようのゆかたを着せてもらいました。それに、赤いおび、かみどめは黄色のゴムです。ママが扇を持てば、なっちゃんも持ちます。それをじょうずに開きます。ママがかさを持てば、なっちゃんも持って、くるくるまわします。いつもずっとママと同じようにします。
一つ、曲がおわりました。さあ、お休みのじかんです。なっちゃんは、アンパンマンのすいとうから、ゴックンゴックンお茶をのみます。ひとりのお姉さんが、おやつにワッフルを持ってきてくれました。
「わあ、おいしそう。なっちゃん、どれにする」
箱のふたを開けたママがたずねます。なっちゃんは、ちょっとしんぱいそうにママの顔を見つめます。
「だいじょうぶよ。これは中には何も入ってないのよ」
にっこりしているママを見て、安心したなっちゃんは、バターのついたワッフルをほおばりました。アンパンマンは、大好きだけれど、アンパンは大きらいなのです。それにはこういうわけがあるのです。
二才のとき、初もうでに行って、おいしそうなにおいのするたいやきを買ってもらいました。うれしくて、おしっぽをガブッとかじりました。
そのとたん、なみだがあふれました。
「うわーん、うんちがでてきたあ」
びっくりしたママが、
「これはあんこなのよ。おいしいの」
いくらなだめてもなきやみませんでした。それから、アンパンだけでなく、パンでもクッキーでも、中からクリームやジャムなどが出てくるとないてしまいます。このごろは、こわごわちょっぴり食べるようになりましたが。
さて、ワッフルをきげんよく食べ終えたなっちゃんはかけだしました。
ステーン
「うわーん」
大きな声がひびきます。なっちゃんは、ゆかにおでこをくっつけて、手と足をバタバタさせて、おもいっきりなきます。おけいこのとき、一度はかならずなくのです。
十月になりました。なっちゃんはあたらしい着物をぬってもらいました。紺色の地に赤青のかすりもよう、おそでもずいぶん長くなりました。なっちゃんは、四才になったのです。
しゃみせんの音に続いてゆったりとした歌が流れてきました。今、おけいこしているのは、『紙人形』というおどりです。外であそんでいた紙人形がぬれてこまっていますという、みじかい曲です。
手をそでに入れて人形のようにすり足で歩きます。いやいやして首をふります。腕をかざして、きらきらした目で指先を見ます。
ずっとママとおどっていましたが、今日はひとりです。今までは途中でやめていましたが、うんとがんばって、おしまいまでおどれました。三回も、おけいこしました。来月には、ひとりで舞台にあがるのです。
先生が やさしくなっちゃんのあたまをなでてくれました。
「がんばりましたねえ。とってもじょうずにおどれましたよ。ではまた来週ね」
先生とお姉さんたちに、きちんとせいざしておじぎをしました。
「ありがとうございました」
あっ、今日のおけいこでは、一度もなきませんでした。
なっちゃんは、春には、おねえちゃんになるのです。ママのおなかにいる赤ちゃんとあえるのがたのしみです。そうしたら、アンパンマンのお人形を赤ちゃんにあげようと思っています。
おしまい
そうたずねられると、なっちゃんは指を三本、はずかしそうにそろえます。くるっとした目をちょっとふせて、ふっくらほっぺがピンクにそまります。
それから、ママを見上げてぴょんぴょんはねます。すると、色ゴムでとめられた髪もぴょんぴょんはねます。
なっちゃんは、おどりが大好きです。日本舞踊だから着物を着ておどります。ママのおけいこについていくうちに、しぜんとまねをしておどるようになりました。小さなぶたいで、ママといっしょにおきゃくさまの前でおどったこともあります。
おけいこをしているへやはとても広くて、かべが全部かがみになっています。そこで、大きなお姉さんたちとおどります。
なっちゃんは、アンパンマンが大好きで、おでかけのときには、いつもひとさしゆびくらいの人形をにぎって行きます。だから、おけいこもアンパンマンといっしょです。
八月のはじめのおけいこは、黄色の地に赤いきんぎょのもようのゆかたを着せてもらいました。それに、赤いおび、かみどめは黄色のゴムです。ママが扇を持てば、なっちゃんも持ちます。それをじょうずに開きます。ママがかさを持てば、なっちゃんも持って、くるくるまわします。いつもずっとママと同じようにします。
一つ、曲がおわりました。さあ、お休みのじかんです。なっちゃんは、アンパンマンのすいとうから、ゴックンゴックンお茶をのみます。ひとりのお姉さんが、おやつにワッフルを持ってきてくれました。
「わあ、おいしそう。なっちゃん、どれにする」
箱のふたを開けたママがたずねます。なっちゃんは、ちょっとしんぱいそうにママの顔を見つめます。
「だいじょうぶよ。これは中には何も入ってないのよ」
にっこりしているママを見て、安心したなっちゃんは、バターのついたワッフルをほおばりました。アンパンマンは、大好きだけれど、アンパンは大きらいなのです。それにはこういうわけがあるのです。
二才のとき、初もうでに行って、おいしそうなにおいのするたいやきを買ってもらいました。うれしくて、おしっぽをガブッとかじりました。
そのとたん、なみだがあふれました。
「うわーん、うんちがでてきたあ」
びっくりしたママが、
「これはあんこなのよ。おいしいの」
いくらなだめてもなきやみませんでした。それから、アンパンだけでなく、パンでもクッキーでも、中からクリームやジャムなどが出てくるとないてしまいます。このごろは、こわごわちょっぴり食べるようになりましたが。
さて、ワッフルをきげんよく食べ終えたなっちゃんはかけだしました。
ステーン
「うわーん」
大きな声がひびきます。なっちゃんは、ゆかにおでこをくっつけて、手と足をバタバタさせて、おもいっきりなきます。おけいこのとき、一度はかならずなくのです。
十月になりました。なっちゃんはあたらしい着物をぬってもらいました。紺色の地に赤青のかすりもよう、おそでもずいぶん長くなりました。なっちゃんは、四才になったのです。
しゃみせんの音に続いてゆったりとした歌が流れてきました。今、おけいこしているのは、『紙人形』というおどりです。外であそんでいた紙人形がぬれてこまっていますという、みじかい曲です。
手をそでに入れて人形のようにすり足で歩きます。いやいやして首をふります。腕をかざして、きらきらした目で指先を見ます。
ずっとママとおどっていましたが、今日はひとりです。今までは途中でやめていましたが、うんとがんばって、おしまいまでおどれました。三回も、おけいこしました。来月には、ひとりで舞台にあがるのです。
先生が やさしくなっちゃんのあたまをなでてくれました。
「がんばりましたねえ。とってもじょうずにおどれましたよ。ではまた来週ね」
先生とお姉さんたちに、きちんとせいざしておじぎをしました。
「ありがとうございました」
あっ、今日のおけいこでは、一度もなきませんでした。
なっちゃんは、春には、おねえちゃんになるのです。ママのおなかにいる赤ちゃんとあえるのがたのしみです。そうしたら、アンパンマンのお人形を赤ちゃんにあげようと思っています。
おしまい
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