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カーサンへ
しおりを挟むカーサンへ なつきより
あー、また泣いてる。毎朝洗濯物干す度に泣いてどないするん。確かにね、いつもベランダでいっしょだったね。カーサンが干してる間、日向ぼっこしてるのは気持ちよかったよ。
アタシはキジトラ猫のなつき、享年十五才。人間で言えば七十五才だから、カーサンと同い年。まあ当たり前だけどアタシのお母さんではない。だけど、小さい時からそう呼んでた。
ほら、また! 足元見つめて涙目で何やらブツブツ言ってる。あかんやん。アタシはもうそこにはいないんよ。
今『虹の橋のたもと』にいるの。知ってる? ここのこと。
亡くなったペットたちが集まるところ。平和で申し分なく気持ちのいいとこ。愛されたペットたちが愛してくれた飼い主を待つの。そして、一緒に『虹の橋』を渡るんよ。
カーサン、大丈夫よ。先に来てたフーちゃんにもジュンちゃんにも出会えたからね。
フーちゃんは、シベリアンハスキーのボーイフレンドとごきげんよ。
ジュンちゃんは、いっぱいの友だちと遊びまわってる。あらら、向こうでウサギとかけっこしてるわ。
アタシも、ここでのんびり『生と死』について哲学しながら、カーサンを待ってるね。
たくさん思い出があるよね。
十五年前、ひもでグルグル巻きにされた発泡スチロール箱に入れられ、ゴミ集積場に捨てられたアタシ。まだほんの赤ちゃんだったけど必死で泣き叫んだ。
なんとかボランティアさんを通して、カーサンの家に来た時も怖くて怖くて震えてた。
こわいおじさんにいじめられていたから、カーサンを噛んでばかりでごめんなさい。腕を血だらけにしてしまったね。
でも、カーサンはアタシをなでてごはんをくれた。ここの家は心配しなくていいんだって思ったわ。
でもね、びくびくしながらごはんを食べてたでしょ。いつも背中に手をそっと当ててずっと傍にいてくれたよね。
そうしたら、心がふわっとして、ごはんを食べられたんよ。
十月、ながつきに家族になったから『なつき』。この名前気に入ってたんよ。「なっちゃん」て呼ばれる響きも好きだった。
二年ごとに家族になった子たち。かなり厄介だったけど、にぎやかで楽しかったね。
フーちゃんは「家出しようよ」っていつも誘ってきた。アタシは外に興味はなかったわ。この家が一番安全で気持ちよかったんやもん。
あのジュンちゃんは大変だったねえ。あちこちでおもらし。やんちゃばっかしてた。ホントは気が弱いくせにね。まあアホな男の子だよね。憎めない子。ウフフ。
カーサン、これだけは言っておきたいの。
この夏、体が弱ってきたアタシを病院に連れて行こうかずいぶん迷ってたでしょ。結局、静かに見守ってくれて本当にありがとう。
あのね、ジュンちゃんが去年ずっと泣いてたんよ。「病院に行きたくない」って。
「毎日みたいに痛い検査して、点滴するんイヤや」って。
かわいそうだったけど、どうしようもなかった。カーサンだって辛そうだったもんね。
だから、アタシをそっとしておいてくれてありがとう。そんなに悔やまんとってね。これでよかったんよ。
年一回のワクチンさえ、イヤでたまらなかったもんね。
アタシ幸せだったよ。ありがとう。
それともう一つ、言いたいこと。
カーサンと呼んでるけど、あなたはまあ、ホント成長のない人よねえ。
いつの間にか『カーサン』が入れ替わってたよね。
『親の心子知らず』ってとこやね。白髪でシワだらけになってるのに、中身は、まるで子ども。ほんま厄介な人! ため息が出てたわ。
カーサンのいろんな話を聞いたねえ。愚痴っぽいことも多かったけど、カーサンは『怒』と『憎』のない、立ち直りが早いというか、能天気な人だったから、聞く方も気楽だったよ。
興味のままに動きまわるのは、それはそれでしゃーないとは思うけど、もうちょっと自分の体のこと考えてよね。いつも帰って来たカーサンを、アタシが玄関でフンフンにおいを嗅いでたでしょ。
カーサンは『浮気チェック』って笑ってたけど、そんなわけないやない。(体、大丈夫かな)と心配してただけ。
それにしても、カーサンは何べんもよう高い熱出して寝込んだよねえ。アタシはそのたびに枕の横でずっと見守ってたんよ。
「ありがと」って熱い手でなでてくれたから、まあええんやけどね。もうちょっと自分の体いたわってほしいんよ。
いっぱいごはんを買ってきてくれたニーサン、トイレをきれいにしてくれたトーさんよろしくね。
それじゃね、『虹の橋のたもと』で待ってるね。
あっ、大事なこと言い忘れるとこやった!
こっちはね、時間が止まってるの。だから、慌てずそっちでゆっくりしてから来てね。
なんか心配やなあ。その時が来たら、方向音痴で迷うのん間違いなしやから、みんなで迎えに行くからね。安心して。
にぎやかに『虹の橋』渡ろうね。
またね! 楽しく生きるんよ。笑って、笑って!
や・く・そ・く・
(あなたのカーサン)なつきより
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