痛い瞳が好きな人

wannai

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 タライの前に一人しゃがみこんで、手錠を眺めながらぼうっとして時間を過ごす。五分を過ぎた頃にカナメが戻ってきて、俺の粗相を片付けてからもう何回かお湯で浣腸かな。
 算段をつけているうち、段々と腹が痛くなってきた。浣腸剤は子供の頃から通常の用途で何度か使った事があるから、伴う急激な腹痛にもそれほどの恐怖は無い。
 タイマーが残す時間はあと三分程で、おそらくギリギリ我慢出来そうだと思っていたのだが。残り一分を切ったあたりから、我慢の限度がきて額に汗が滲みだした。ゴロゴロと鳴る下した腹の状況より、再三のオナニーで尻穴が緩んでいたせいか、我慢していてもプッ、プッ、と聞くに耐えない音と共に少しずつ漏れ出すのに焦る。
 もうあと少しだし、いいかな。
 そんな気の緩みを読んだかのように、浴室のドアが開いてカナメが戻ってきて、慌てて尻穴を締めた。上着を脱いで半袖Tシャツ姿に着替えてきた彼が、俺とタライを見て眉を顰める。

「もう漏らしてんのか」

 排泄物を見られたショックに、視界が震えた。羞恥に耐えきれず俯くとボールギャグから唾液が垂れたが、それすら『その程度』にすら感じなかった。想いを寄せる相手に汚物を見られた事に比べれば、涎程度だ。
 これ以上見ないで欲しいのに、カナメは俺の前に座って胡座をかく。

「ううう、う」

 首を振って、拒否を示す。ちゃんと時間まで我慢するから、する所は見ないで欲しい。腹と尻に力を込めて我慢を続けるのに、カナメは悠長に俺の頭を撫でてくる。

「あと三十秒だからな、頑張れ」
「うぅ」

 腹痛を我慢するのこそを苦痛だと思っているのか、カナメはあくまで優しげで。涎を垂らして呻く俺の前髪を撫でながら、まるで労わるように優しく声をかけてくる。

「十、九、八、……、二、一。よく我慢したな。出していい」

 タイマーの鳴る音と共に額あたりに口付けられて、そうじゃねえ! と叫んでやりたかった。
 出す所も、出す物も見られたくないのに、カナメはあくまで目の前から動かない。呻きながらカナメの胸を手錠されたままの両手で少し押すと、彼はとても面白いものを見るように目を細めた。

「どうした? 出せよ。もう時間は過ぎたから。キツいんだろ?」

 楽しそうな声に、ボールをギリ、と噛み締めた。
 見たくないって言っていたくせに。どう見ても楽しんでいる様子のカナメに、やっと気付いた。辱めて我慢させて、その上で俺が苦しむ顔を見るのが、彼にとって楽しみなのだと。

「うー、う」

 見ないでくれ、と懇願の意味で手錠された両手で彼の目元を覆うと、「どけろ」と低い声で叱責された。

「仕置なんだから、嫌なのは当然だろ。もっと嫌がれ」

 にやついた顔を隠そうともせず、カナメは俺の手を掴んでちゅう、と手の平に吸い付く。くすぐったさに気が逸れた瞬間、ぶぴ、と汚い音と共に少し漏らしてしまい、歯を食いしばってそれ以上が出ないように我慢した。

「なんだ、一端に恥ずかしがってんのか?」

 耳元で囁かれ、当たり前だ、と言ったつもりが、口枷のせいで意味の分からない呻きに変わる。

「そうだよなぁ。ウンコしてる所なんか、好きな奴に見られたくないよな?」

 脂下がった、というのはきっとこういう表情を云うのだろう。顎を上げ、俺を見下す顔すら美しいのが頭にくるが。

「う、う」

 その通りだと、頷きながら彼に縋り付いた。
 何度か手で彼の目を隠す素振りをしながら、首を横に振ってみせると、彼はすぐにその意味する事に気付き、

「見ないでほしいのか」

 と、少し考える素振りを見せた。
 おそらくこれ以上の譲歩はしてくれまい。下手に交渉しようとしているととられれば、気分を害してもっと虐められてしまう恐れがある。
 少しだけ、ほんの少しの甘えくらいなら、と思ったのだが。

「……だめだ」

 俺の手をやわやわと握り、指先を軽く噛みながら、カナメは笑みを消して俺の目を見つめる。

「今まで、ずっとあんたに合わせてきた。だから今度は、あんたが俺に合わせて」

 がぶ、がぶ、と甘噛みされる指が、じんじんと痛む。それなのに、だから、それだけで俺の鼓動が速くなった。

「義久。あんたが、泣きながらうんこ漏らすの、見せて。見ないで、聞かないで、って嫌がりながら、逃げずに俺の言う事聞いてくれるとこ、早くみせて」

 カナメへの服従を、愛を、行動で示せと。ここまではっきり言葉にして乞われて、これ以上抵抗出来る筈がない。
 彼に握られた手を、遠慮がちに握り返すと、カナメは嬉しそうに目を細めて眉尻を下げた。
 怖い。
 見られたくない。
 そういう性癖がある訳でもない彼の前で糞尿をひりだして、もし正気に返ってドン引きされてしまったらと考えると冷や汗が止まらない。
 それでも、この場でこれ以上我慢も出来ず。

「……っ、」

 身体を弛緩させると、耳を塞ぎたくなるような汚い音がバスルームに響いた。落ちる糞便の音がタライを揺らし、鼻につく臭いに歯を食いしばる。
 どうか、どうか、と。願うしかない。引かないで、嫌わないでと。

「きったねぇな」

 囁かれた冷たい声音に、目の奥が熱くなって、涙が滲んできた。この後どうすれば挽回できるだろう。彼の言う全てに従えば、忘れてまた好きだと言ってくれるだろうか。

「全部出したか?」

 頷くと、握っていた俺の指を離し、カナメが立ち上がる。恐る恐る彼を視線で追えば、タライに出した中身をトイレに流し、置いたままだったバケツに手を入れて温度を確認していた。レジャーシートに置いてあった注射器型の浣腸器にバケツの湯を入れ、

「ケツ出せ」

 と言われ、また辱めが繰り返される事を知る。
 抵抗する気もなく、後孔から体温よりやや温い湯で腹を満たされ、またすぐ排泄させられた。それをまたトイレに流し、お湯浣腸をもう二度。四度目ともなれば、もう無心だった。タライに排泄した湯がほとんど色のつかなくなったのを見て、ようやく「あっちでシャワー浴びてろ」と解放された。
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