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神は絶対に手放さない
24、それが特効薬というなら、ただひたすらに埋めていく
しおりを挟む浄霊会の終了日。
俺はすっかり日焼けしていた。
それもこれも、もう仕事が無いのに施設に残った構成員たちに、昼間遊びに連れ回された所為である。
海で泳ぎ、浜でナンパし、夜には花火。神無神子だからと敬遠されてきたのが嘘みたいに、皆良くしてくれた。いつもはお目付役の蛍吾までもが俺とはしゃぎ回るので、染井川さんが保護者みたいに叱って回っていたのが面白かった。
染井川さんは仕事中が真面目過ぎるだけでそれ以外は割と話せるタイプで、口は悪いが根は面倒見の良い人のようだ。「才能あるから神子じゃなくなったら俺の班に来い」と言ってくれたのが少し嬉しかった。
「なぁ、志摩宮から連絡あった?」
「いや」
帰りの車の中で、いつまで経っても一通の新着も知らせてくれないスマホを睨みながら、蛍吾に聞く。
膝の上のノートPCで何か報告書を書いていた蛍吾は、スマホを開きもせずにすげなく答えた。
「急ぎの用なら電話すれば?」
「いや、特に用は無いんだけど」
「なら返事くるまで待てよ」
忙しいんじゃね、と答える蛍吾は、しかし少し間を空けてから、
「『箱』の話ってしたっけ?」
と首を傾げた。
「箱?」
「あー、そうか。してねぇか。じゃあ話すか」
蛍吾は作業を止めずに話をし始めた。
志摩宮を連れての二度目の仕事中にあった事。
箱形の強力な呪物から、神が顕現する寸前だった事。
自分たちの認識の甘さのせいで人死を出すところだった事。
箱は志摩宮が破壊したおかげで神は完成しなかったが、箱の残骸は組織の誰も壊すことが出来ていない事。
箱は他の場所でも回収されており、作成者はおそらく同一人物で、近年作られた物だろう事。
そして、それを何か目的を持ってバラ撒いている人間、もしくは組織がある事。
「神が顕現する箱、って……。怖過ぎだろ」
「怖いなんてもんじゃなかったぞ」
お前、記憶が消えて良かったな、と言われて笑えなかった。何度か夢に見て飛び起きてる、という蛍吾を揶揄うほど無神経ではない。というか、そこまでの経験なら忘れない方が良かったと思う。
記憶が無くてもあまりに不便が無いのでそれ自体を忘れていたが、俺が忘れたとしても、あった事は無かった事にはならないのだと気付いた。
「で、その箱の仕事でお前の加護が全部割れて、一月くらい加護が戻らなかったんだ」
「ああ、で、戻る寸前に紋で呪い掛けられて、記憶を消さなきゃ呪いが消えなかったんだっけ」
蛍吾に説明された事と、志摩宮に聞いた事と。それらを断片的に組み合わせた情報と差異はないなと安心して、しかし蛍吾は続けて不穏なことを言う。
「……俺の考えとしては、お前の神様は『お前に呪いが掛かるのを待ってた』ような気がするんだよな」
待ってた?
どうして、と聞く前に、蛍吾が続ける。
「今回、染井川からお前の神様が執着心と束縛が強いって聞いて確信した。お前に呪いを掛ける誰かがいるのを分かってて、お前の神様は加護を張り直さずに待ってたんだ。お前を傷付けずに、自分の仕業だとバレて嫌われないように仕組んだ上で、お前と志摩宮を引き離す為に」
「俺と志摩宮を引き離す」
蛍吾の台詞を繰り返し、その語感に微妙な気分になる。もしかして俺、記憶の無い間も志摩宮に惚れてたのか? だから神様が志摩宮から引き離そうとした?
「引き離すったって、神様ならそんな小細工しなくても縁切りとか出来るんじゃねーの?」
蛍吾は俺の疑問は当然、みたいにウンウンと頷いて、けれどタイピングする手を止めてこちらを見た。
「出来るだろうな。相手が志摩宮じゃなければ」
「あ、そうか、志摩宮には加護が効かないんだっけ。って事は、神様の力も効かない……のか?」
「お前の加護割れるくらい力の強い神様寸前の存在も寄せ付けないからな。可能性はある。縁切りさせようにも志摩宮に干渉は出来ない。愛する静汰に無理強いはしたくない。だから『誰か』の所為にして、お前らをどうにかしたかった。……と考えれば、呪いの直後に加護が戻った理由も辻褄が合う」
蛍吾の説明を聞きながら、内心で神様に謝った。
色々考えて小細工したみたいなのに、二回目も好きになっちゃってごめんね神様。
「あのさ、蛍吾から見て、俺らって……記憶無い間の俺と志摩宮って仲良かったの?」
おそるおそる聞いてみる。いや、志摩宮の態度を見れば、仲が良かったのは確定してるんだけど。志摩宮には彼氏が居るのに、神様が嫉妬するくらい志摩宮に絡んでいたのだろうか。
「仲良いってか、……割と、ヤバめの意味で良過ぎっていうか」
「マジで」
まさかの間男だったのか俺よ。そんな奴だと思わなかった。
……いや。ここは俺を信頼しよう。志摩宮が教えていなかっただけ、という説を推したい。いやそれだと志摩宮が割と最低な奴になるな。
「あ、でも最後まではヤッてないって言ってたぞ。現に、神様に見放されてはないし、挿れては……」
「いや、いい! いい! 言うな! 分かった!」
蛍吾は言い方に気を遣ってくれたようだが、『最後まではしてない』というのでもう確定した。
俺、間男でしたね。挿れてないだけで相当なところまでしてたんですね。そしてそれを蛍吾に把握されてる程度に頭がお花畑になってたんですね。
胃が痛い。恋人の居る人間に片想いしてたどころか、手を出していたなんて。
そりゃ神様だって怒るよ。縁切らせようとするよ。
ぐおお……と唸りながら頭を抱えた俺を、蛍吾は可哀想なものを見る目で見ていた。
俺がそれからどうしたかと言えば、ただ一つ。
志摩宮の連絡先を消した。ただそれだけ。
そして考えないことにした。志摩宮とやっていたゲームのアプリを消して、知らない番号からの着信には出ない。
残りの夏休みは半日もあれば終わる小さい仕事がいくつか入って、それをこなしつつ映画に行ったりプールに行ったり忙しく遊んでいたら、気が付けば 夏休み終了まであと一週間。
それくらいになると半数以上の寮生は戻ってきていて、寮の食堂も賑やかになってきていた。
朝から山盛りの肉野菜炒めを中心にした朝ご飯を食べ、そろそろ宿題やるかー、なんて考えていたら、目の前の席に人が座った。
「よう静汰。焼けたな」
「後藤先輩もいつも通り黒いっすね」
ご飯から目線を上げれば、通常量に盛られた朝食トレイを持った後藤だった。
「実家の方のテニスサークルで練習してたからな。大人に混じってやるのも練習んなるわ」
後藤はひょいひょいと肉野菜炒めの肉を俺の皿に移していく。見た目に反して、彼は朝から食べられないタイプなのだ。以前は「朝から食えればいいのは分かってるんだが……」と言いながら無理して食べていた彼だが、食べられないタイプの奴らが俺の皿に無言で入れていくのを見続けて、今では遠慮なく入れるようになった。
同じ食費でたくさん食べられるなら俺にとっても良い話なので、名前も知らない後輩が勝手に入れていっても気にもしない。好き嫌いの無い大食らいの特権だ。
「実家の方でもテニスとか、物好きですね」
「一日一回はラケット振らんと、すぐ下手になりそうで不安でなぁ」
「そんなもんすか」
「そうなんだ」
後藤が喋るのを適当に相槌を打っていたら、後から来たのに後藤の方が先に食べ終わっていた。俺が食べるのを見ながら、彼はまだ話したいようだ。
「後藤先輩、なんか俺に用ですか」
「ああ。実はな、文化祭の実行委員が足りなくて、暇そうなやつを探してる」
水を向ければ、素直に話し始めた。
文化祭か。出店をしたり出し物をするのは一年と二年と決まっていて、三年生は受験を考慮してただ楽しむお客様役のはずなのだが。足りな過ぎて三年生までもが駆り出されているなら、暇そうな俺でも何かしら役には立てるかもしれない。
「いいよ」
俺が即答すると、後藤は了承されると思っていなかったのか驚愕の表情をしてからすぐに相好を崩した。
「本当かっ」
「単発のバイト入ったりするんで、そういう日は抜けさせてもらえれば」
「十分だ! よし、これで俺の練習時間が確保出来る!」
「身代わりかい」
後藤は「じゃあ実行委員長やるやつに話通してくるわ!」と言ってすぐに席を立った。
俺の自由時間はあと一年と半年も無い。楽しむぞ、と覚悟を決めて、脳裏に浮かぶ緑の瞳を消し去った。
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