神は絶対に手放さない

wannai

文字の大きさ
25 / 86
神は絶対に手放さない

24、それが特効薬というなら、ただひたすらに埋めていく

しおりを挟む

 浄霊会の終了日。
 俺はすっかり日焼けしていた。
 それもこれも、もう仕事が無いのに施設に残った構成員たちに、昼間遊びに連れ回された所為である。
 海で泳ぎ、浜でナンパし、夜には花火。神無神子だからと敬遠されてきたのが嘘みたいに、皆良くしてくれた。いつもはお目付役の蛍吾までもが俺とはしゃぎ回るので、染井川さんが保護者みたいに叱って回っていたのが面白かった。
 染井川さんは仕事中が真面目過ぎるだけでそれ以外は割と話せるタイプで、口は悪いが根は面倒見の良い人のようだ。「才能あるから神子じゃなくなったら俺の班に来い」と言ってくれたのが少し嬉しかった。

「なぁ、志摩宮から連絡あった?」
「いや」

 帰りの車の中で、いつまで経っても一通の新着も知らせてくれないスマホを睨みながら、蛍吾に聞く。
 膝の上のノートPCで何か報告書を書いていた蛍吾は、スマホを開きもせずにすげなく答えた。

「急ぎの用なら電話すれば?」
「いや、特に用は無いんだけど」
「なら返事くるまで待てよ」

 忙しいんじゃね、と答える蛍吾は、しかし少し間を空けてから、

「『箱』の話ってしたっけ?」

 と首を傾げた。

「箱?」
「あー、そうか。してねぇか。じゃあ話すか」

 蛍吾は作業を止めずに話をし始めた。
 志摩宮を連れての二度目の仕事中にあった事。
 箱形の強力な呪物から、神が顕現する寸前だった事。
 自分たちの認識の甘さのせいで人死を出すところだった事。
 箱は志摩宮が破壊したおかげで神は完成しなかったが、箱の残骸は組織の誰も壊すことが出来ていない事。
 箱は他の場所でも回収されており、作成者はおそらく同一人物で、近年作られた物だろう事。
 そして、それを何か目的を持ってバラ撒いている人間、もしくは組織がある事。

「神が顕現する箱、って……。怖過ぎだろ」
「怖いなんてもんじゃなかったぞ」

 お前、記憶が消えて良かったな、と言われて笑えなかった。何度か夢に見て飛び起きてる、という蛍吾を揶揄うほど無神経ではない。というか、そこまでの経験なら忘れない方が良かったと思う。
 記憶が無くてもあまりに不便が無いのでそれ自体を忘れていたが、俺が忘れたとしても、あった事は無かった事にはならないのだと気付いた。

「で、その箱の仕事でお前の加護が全部割れて、一月くらい加護が戻らなかったんだ」
「ああ、で、戻る寸前に紋で呪い掛けられて、記憶を消さなきゃ呪いが消えなかったんだっけ」

 蛍吾に説明された事と、志摩宮に聞いた事と。それらを断片的に組み合わせた情報と差異はないなと安心して、しかし蛍吾は続けて不穏なことを言う。

「……俺の考えとしては、お前の神様は『お前に呪いが掛かるのを待ってた』ような気がするんだよな」

 待ってた?
 どうして、と聞く前に、蛍吾が続ける。

「今回、染井川からお前の神様が執着心と束縛が強いって聞いて確信した。お前に呪いを掛ける誰かがいるのを分かってて、お前の神様は加護を張り直さずに待ってたんだ。お前を傷付けずに、自分の仕業だとバレて嫌われないように仕組んだ上で、お前と志摩宮を引き離す為に」
「俺と志摩宮を引き離す」

 蛍吾の台詞を繰り返し、その語感に微妙な気分になる。もしかして俺、記憶の無い間も志摩宮に惚れてたのか? だから神様が志摩宮から引き離そうとした?

「引き離すったって、神様ならそんな小細工しなくても縁切りとか出来るんじゃねーの?」

 蛍吾は俺の疑問は当然、みたいにウンウンと頷いて、けれどタイピングする手を止めてこちらを見た。

「出来るだろうな。相手が志摩宮じゃなければ」
「あ、そうか、志摩宮には加護が効かないんだっけ。って事は、神様の力も効かない……のか?」
「お前の加護割れるくらい力の強い神様寸前の存在も寄せ付けないからな。可能性はある。縁切りさせようにも志摩宮に干渉は出来ない。愛する静汰に無理強いはしたくない。だから『誰か』の所為にして、お前らをどうにかしたかった。……と考えれば、呪いの直後に加護が戻った理由も辻褄が合う」

 蛍吾の説明を聞きながら、内心で神様に謝った。
 色々考えて小細工したみたいなのに、二回目も好きになっちゃってごめんね神様。

「あのさ、蛍吾から見て、俺らって……記憶無い間の俺と志摩宮って仲良かったの?」

 おそるおそる聞いてみる。いや、志摩宮の態度を見れば、仲が良かったのは確定してるんだけど。志摩宮には彼氏が居るのに、神様が嫉妬するくらい志摩宮に絡んでいたのだろうか。

「仲良いってか、……割と、ヤバめの意味で良過ぎっていうか」
「マジで」

 まさかの間男だったのか俺よ。そんな奴だと思わなかった。
 ……いや。ここは俺を信頼しよう。志摩宮が教えていなかっただけ、という説を推したい。いやそれだと志摩宮が割と最低な奴になるな。

「あ、でも最後まではヤッてないって言ってたぞ。現に、神様に見放されてはないし、挿れては……」
「いや、いい! いい! 言うな! 分かった!」

 蛍吾は言い方に気を遣ってくれたようだが、『最後まではしてない』というのでもう確定した。
 俺、間男でしたね。挿れてないだけで相当なところまでしてたんですね。そしてそれを蛍吾に把握されてる程度に頭がお花畑になってたんですね。
 胃が痛い。恋人の居る人間に片想いしてたどころか、手を出していたなんて。
 そりゃ神様だって怒るよ。縁切らせようとするよ。
 ぐおお……と唸りながら頭を抱えた俺を、蛍吾は可哀想なものを見る目で見ていた。











 俺がそれからどうしたかと言えば、ただ一つ。
 志摩宮の連絡先を消した。ただそれだけ。
 そして考えないことにした。志摩宮とやっていたゲームのアプリを消して、知らない番号からの着信には出ない。
 残りの夏休みは半日もあれば終わる小さい仕事がいくつか入って、それをこなしつつ映画に行ったりプールに行ったり忙しく遊んでいたら、気が付けば 夏休み終了まであと一週間。
 それくらいになると半数以上の寮生は戻ってきていて、寮の食堂も賑やかになってきていた。
 朝から山盛りの肉野菜炒めを中心にした朝ご飯を食べ、そろそろ宿題やるかー、なんて考えていたら、目の前の席に人が座った。

「よう静汰。焼けたな」
「後藤先輩もいつも通り黒いっすね」

 ご飯から目線を上げれば、通常量に盛られた朝食トレイを持った後藤だった。

「実家の方のテニスサークルで練習してたからな。大人に混じってやるのも練習んなるわ」

 後藤はひょいひょいと肉野菜炒めの肉を俺の皿に移していく。見た目に反して、彼は朝から食べられないタイプなのだ。以前は「朝から食えればいいのは分かってるんだが……」と言いながら無理して食べていた彼だが、食べられないタイプの奴らが俺の皿に無言で入れていくのを見続けて、今では遠慮なく入れるようになった。
 同じ食費でたくさん食べられるなら俺にとっても良い話なので、名前も知らない後輩が勝手に入れていっても気にもしない。好き嫌いの無い大食らいの特権だ。

「実家の方でもテニスとか、物好きですね」
「一日一回はラケット振らんと、すぐ下手になりそうで不安でなぁ」
「そんなもんすか」
「そうなんだ」

 後藤が喋るのを適当に相槌を打っていたら、後から来たのに後藤の方が先に食べ終わっていた。俺が食べるのを見ながら、彼はまだ話したいようだ。

「後藤先輩、なんか俺に用ですか」
「ああ。実はな、文化祭の実行委員が足りなくて、暇そうなやつを探してる」

 水を向ければ、素直に話し始めた。
 文化祭か。出店をしたり出し物をするのは一年と二年と決まっていて、三年生は受験を考慮してただ楽しむお客様役のはずなのだが。足りな過ぎて三年生までもが駆り出されているなら、暇そうな俺でも何かしら役には立てるかもしれない。

「いいよ」

 俺が即答すると、後藤は了承されると思っていなかったのか驚愕の表情をしてからすぐに相好を崩した。

「本当かっ」
「単発のバイト入ったりするんで、そういう日は抜けさせてもらえれば」
「十分だ! よし、これで俺の練習時間が確保出来る!」
「身代わりかい」

 後藤は「じゃあ実行委員長やるやつに話通してくるわ!」と言ってすぐに席を立った。
 俺の自由時間はあと一年と半年も無い。楽しむぞ、と覚悟を決めて、脳裏に浮かぶ緑の瞳を消し去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...