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神は絶対に手放さない
23、選択肢B
しおりを挟む何度も鳴り続ける電話を、結局俺は無視した。
ふて寝ならぬ、ふて風呂だ。食前に入ったばかりだというのに、また露天風呂へ入り、夕陽が水平線に落ちてくるまで、ただひたすらにぼうっとしていた。
日が暮れると腹が減ったので、着替えて食事処で夕飯を食べた。一人で食べる夕飯の味気無さに、せっかくの新鮮な海鮮が勿体無い気持ちになった。
深夜十一時、ようやく迎えが来た。
施設に着くと、染井川はおらず、蛍吾だけが待っていた。
「あれ、染井川さんは?」
「街の方に昼間から物の怪が出たらしくて、山に戻るように説得中だって。染井川から連絡いかなかった?」
「……もしかして、昼間の電話、あれ染井川さんだったのか。知らない番号だったから出なかったんだけど」
「だろうな。俺もたぶん出ないぞって言ったんだけど、出なけりゃそれで良いって言ってたし」
さほど危険な物の怪ではないのか、蛍吾から電話するほどでも無かったようだ。染井川がいないという事は、今日は普通に浄霊していていいのだろうか。
「ああ、昨日お前がやった浄霊で弱いのはほとんど一掃出来てるから、残りの一週間と五日は沖の方からデカいの呼び出して浄霊かな。この辺、浄化されてて近付いてくれないから、よっぽど美味しそうな餌が無いと来ないだろうけど」
つまり、残りの日数は実質仕事無しだ。
浜辺のブルーシートの上では、ほとんどが酒盛りをしている様子が見えた。一応数人が呼霊している様子もあるが、それも酒と食事の合間に、だ。
施設の方を見上げた構成員の一人が俺を見つけて、「こっち来いよ」と手招きする。
「行った方がいいのかな」
「いや、あれは呑まされるぞ。やめとけ」
蛍吾が構成員の方へ「駄目だ」と言いながら手を振り返し、俺は蛍吾と浜辺へ降りる階段に腰を下ろした。
「それより、志摩宮からは聞いたか?」
「……何を?」
急に志摩宮の名前を出されて、忘れておいた胸の苦しさが戻ってきた。
素知らぬ風を装ったつもりだが、蛍吾には俺はどう見えているだろう。
「帰った理由、聞いてないのか?」
「急用が出来たから、ってだけ」
「あいつ……」
蛍吾は呆れたようにため息を吐き、何か言おうとして考え込んだ。
「あいつなりに、なんか理由でもあんのかな」
蛍吾は小さくそう呟くと、「他の雑用があるから」と施設の中へ戻っていってしまった。
俺はといえば、やることもないしサボっていても誰も咎め無さそうなので、頬杖をついて海を眺めていた。
暇潰しに神様への愛を唱えたら、ブルーシートの方から「いいぞいいぞ!」「染井川さんは仕事が終わったら休暇にしていいって言ってたからな! 残り日数休みだー!!」「神子様万歳!!」と歓声があがった。
俺がどうして延々と神様へ愛を伝えているのか、気にする人など居なかった。
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