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神を裏切り貴方と繋ぐ
Sー26、霧雨
しおりを挟むほよほよと揺れていた。
ぽよんと揺れて、でも柔らかい何かに受け止められる。断続的な揺れは、しかしむしろ心地いい。
伸ばした足の先が冷房の風で冷えて寒く、掛け布団の中に曲げた。ふんわり軽い掛け布団からは、防虫剤の臭いがした。
布団?
自分の身体に掛かるそれは、どうやら薄い羽毛布団の感触だ。伸ばした手の先には、敷き布団とは違うザリザリした布の感触もある。普段から触れる感触じゃない。なんだろう。
それに、布団に寝ている筈なのに、なんで揺れているんだろう。
やっと瞼を開けると、視界が白で埋めつくされていた。頭を柔らかく受けとめてくれていたのは、大量の枕だ。四つもあるそれらが、俺の頭の周りに隙間無く詰められて衝撃を吸収していたのだ。
見上げた天井にフロアライトを見つけて、自分が車の後部座席に寝ているのだと認識した。
「…………うごいてる……?」
という事は、運転しているのは。
関節の軋む身体を起こすと、運転席の染井川さんとバックミラー越しに目が合った。
「起きたか」
窓ガラスから外を見ると、田んぼの多い田舎道を走っているようだった。
「これから山に入る。道ガタガタで揺れるから横になっとけ」
染井川さんが言って程なくして、車は山を登りだした。最初は舗装路だったのが、途中から未舗装の山道に入ったので轍だらけの道でガタンゴトンとかなり揺れるようになった。
一見すると獣道にしか見えない、雑草の間にギリギリタイヤ跡が見える程度の酷道。たまに折れて横倒しになった細い木なんかも平気で登っているらしく、車の下でバキバキと凄い音がする。
「あイタッ」
「だから横になってろって」
穴にタイヤを取られて大きく揺れた拍子に窓ガラスに額をぶつけた俺に、染井川さんが呆れてもう一度声を掛けてくる。
──俺にあんな事をしておいて。
平然としている染井川さんを睨みつけるが、彼は砂利道に夢中でもうこちらに視線を向けてこない。
意味無く睨んでいるのも疲れるので、後ろに倒れ、再び枕に身体を預けた。柔らかい。車は激しく揺れているが、布団に守られた俺はもうどこにも体をぶつけることはない。
瞼を閉じると、昨夜の事が次々と思い出された。
俺、したんだよな……染井川さんと。
そぅっと昨日虐められ続けた胸に触れると、ズキッと痛みが走った。そうして意識してみると、そこは熱を持っているようでまだじんじんと火照っていた。身体のあちこちが軋んで痛いのに、肝心の尻の方にあまり痛みを感じないのが逆に不気味だ。男のアレを挿れられたのに……と考えて、慌てて頭を振った。やっぱりあまり、思い出したくない。
けれど。全て、夢じゃない。
目を開けて、天井を見つめた。
まず一言目に、謝ってくれると思っていた。あれだけの事をされても、気を失う寸前まで、そう信じていたのに。
彼氏が居ても俺に手を出すクズの次は、優しい常識人に見せかけた強姦魔に騙されるとは。
人を見る目が無いにも程があるなぁ、と自嘲していると、車が砂利に乗る音がして、停車した。
「着いたぞ」
声を掛けられたが、返事をする気は無い。
ゆっくり体を起こすと、外はいつのまにか霧雨が降っていた。粒子が細かすぎて、霧なのかと思うほどだ。車の周囲は雨のせいでほとんど視界がない。
目を凝らしてなんとか、車の停まったすぐ前に家の玄関らしき横開きの戸が見えた。
「どこだよここ……」
山に入った時点で、疑問に思うべきだったのだ。宿も、学校も、トナリグミの本部も。俺に関するどの場所も、山の中には無いのだと。
だとすれば、ここは染井川さんに関連するどこか、という事になる。
「さっさと降りろ」
外を見つめて動かない俺に焦れたらしい染井川さんが、運転席を降りて後部座席のドアを外から開けた。冷たい霧雨が入ってきて、思わずぶるりと体を震わせた。
「寒いのか? ……ああ、服着てねぇからか。そりゃ降りられねぇよな」
染井川さんは勝手に納得して、俺を掛け布団で雑に包んで外に運び出した。
玄関には鍵なんてものが無いのか、足でぐいっと開けていた。ガラガラガラ、と建てつけの悪い音がする。
家の中は、ひっそりと静まりかえっていた。人の気配は無い。換気されていないようで、もったりとして空気が生暖かかった。
土間からやたら広い上がり框に上がって、襖を開けた先は六畳ほどの薄暗い畳の部屋だった。透かしになっている欄間から微かに光がきている。四方を襖に囲まれたそこは、畳だけで何も置いていない。
そこに俺を布団ごと降ろして、染井川さんは歩き回って二方の襖を外し始めた。外した襖を玄関を挟んだ反対の部屋の方へ持っていくと、そこは六畳間が四つ繋がった大広間になった。奥の部屋に現れた窓と雨戸が開くと、急に眩しく感じた。
「風呂沸かしてくるからそのまま待ってろ」
染井川さんは俺に向けて何かの紋を飛ばしてから、そう言ってまた玄関を挟んだ向こうへ行ってしまった。彼の足音が消えると、広い部屋にはサラサラという霧雨が屋根に当たる音だけが満ちていく。
ここは何処だ。
誰も居ないし、人の気配も無い。埃っぽくは無いし、風呂を沸かせるというなら電気やガスはきているのだろう。染井川さんの自宅だろうか。やけに不便な場所に住んでいるものだ。
……というか。何故、自宅に連れてこられたのだろう。
山奥の、誰もいない家。
ゾクリと寒気がした。まさか、そんな。だって……だって、染井川さんがそんな事する筈ない。
布団から這い出て、窓へ寄った。鍵を下ろし、窓を開ける。霧雨が肌に降り注いできた。手を伸ばす。外に──。
「そのまま、待ってろ、って、言ったよな?」
背後から、襖の開く音の後に、ため息と共に染井川さんが戻ってきた。
伸ばした俺の手は、見えない壁に当たった。
「染井川さん……、これ、なんで、外に出れないの」
「お前はもうここから出られない。絶対に出さない」
何かの間違いだと言ってほしかった。強姦されたとしても、まだ俺は染井川さんを信じたかったのに。
染井川さんは俺の腕を掴むと、窓を閉めた。足元の畳はもうしっとりと湿っていた。雨は入ってくるのに、俺は外へ出られない。
「そ」
「俺が死ぬまで、お前はここで俺だけのもんだ」
染井川さんの声は静かだった。
俺を脅そうとか、怖がらせようとか、そういう意図じゃない。ただ事実を教えているだけ、みたいな言い方に戦慄した。
「そ、んな」
「言ったろ。俺は執念深い。お前を奪うかもしれない奴が一人でも居る場所に晒してなんておけねぇ。誰にも渡さない。お前は俺だけの物だ」
「俺は、……俺の、意思は……」
「俺しか居ねぇ環境で、俺を拒絶できるんならしてみろ」
俺の機嫌を損ねたらどうなるか、よく考えろ。染井川さんは俺の耳元でそう囁いて、部屋を出て行った。
襖の閉まる音に、膝の力が抜けてその場に崩れ落ちる。
これ、監禁じゃん。
強姦されて、誘拐されて、んで監禁。わお。どこのエロ漫画だよ。エロ漫画だったら、この後待ってるのは調教か? ……笑えない。
一縷の望みを賭けて視界のチャンネルを変えてみたが、やはり俺にはもう加護は掛かっていなかった。
万事休す。
俺はここで、染井川さんにエロ調教されて生きていくしかないらしい。
茫然と見つめる窓の外は、ただ霧雨で白く煙っていた。
俺は生来、打算的な人間だ。
急に神子だとか言われて親に売られても、受け入れて大人しく従った。だってその方が母さんが楽になるから。
蛍吾を信頼しておけば俺の身の安全は守って貰えるし、高校卒業まで外に居られるっていうならそれまでを全力で楽しむだけ。
何をするにも、どう行動すれば楽に事が進むか考えて、楽な方楽な方を選んで生きてきた。
だから、俺が染井川さんを受け入れる覚悟をしたのも、そりゃもうスムーズだった。だってそうすれば少なくとも怖い目には遭わなそうだったし。
なのに、染井川さんは何もしてこない。
いや、してる。エロい事はしてくる。けどそれは、染井川さんの欲望をぶつけられるような、あの初夜みたいなああいうのじゃなくて──ただ、俺を触ってイかせるだけ、というか。
それも、数日おきに一度、俺を風呂に入れる時に、身体を洗うついでみたいに。キスもしてこないし、染井川さんが触れるのは俺の股間だけ。手で扱かれて一度出したらそれで終わり。まるで動物の生理現象みたいな扱いだ。
みたい、じゃないかもしれない。染井川さんにとっての俺は、もしかしたらペットなんじゃないかと思い始めていた。
窓の外を見つめる。
この家の外は、いつでも霧雨が降っている。ここへ来てから何週間か経ったが一度も止んでいない。どうやらこれも染井川さんの紋での術か何かなのだろう。
「飯だぞ」
染井川さんがお盆に料理の皿を乗せて戻ってきた。
三日前くらいに染井川さんが新しく買ってきた大きめのちゃぶ台にお盆を置くのを見て、俺も立ち上がった。
「まだ持ってくる皿ある?」
「飯はこれで全部だが、箸とコップを忘れた」
「分かった」
俺は台所まで行って、流し台の側の食器干しの中から箸とコップを二つずつ掴んだ。
家の中は、基本的にどこへ行くのも自由だ。生木と畳ばかりの日本家屋は玄関を中心に横長に伸びた構造で、入って左を俺が、右は染井川さんが主に使っている。
右奥の方に台所があるから、本当なら食事は染井川さんの居る方の部屋が近くて良いんだけど、食事を作る染井川さんが毎回俺の部屋の方に持ってくる。二階もあるみたいだけど、階段がバカみたいに急だし、常にカリカリと何かを引っ掻くような音がしていて気味が悪いからまだ上がっていない。
俺が部屋に戻ってくると、染井川さんは部屋の隅に置かれたワンドア冷蔵庫からお茶のペットボトルを出してきて、俺からコップを受け取ると中身を注いだ。
「いただきます」
「いただきます」
朝食以外では気恥ずかしかった、手を合わせて挨拶を言うのにも慣れた。染井川さんが恥ずかしげもなく当然のようにそうするからだ。
今日の夕食は、厚揚げとインゲンの煮染め、ハムカツ、ほうれん草のお浸し。あとご飯と味噌汁。特別美味しい訳でもないけど、安心安定の家庭の味。これを作っているのが染井川さんっていうのが少し違和感あるけど。
ここへ連れて来られた翌日から、染井川さんは毎日三食欠かさず俺に飯を作ってくれている。最初はスーパーの惣菜か、もしくは仕出しかなにかを買ってきているのかと思っていた。昼前にじゅうじゅうと焼ける音と肉の匂いに釣られて部屋から出たところ、染井川さんが作っているのを目撃してしまったのだ。
「残り、お前食っていいぞ」
大皿にキャベツと共に盛られたハムカツの山をさして、染井川さんが言う。
俺が割と大食らいだったのを考慮してか、染井川さんはいつもかなり多目に作っては俺に食えという。
「動いてもないのにこんなに食ってたら太りそう」
俺が心配している事を呟くと、染井川さんが片眉を上げてこちらを見た。
「じゃあ食わねぇのか?」
「食べるけど」
だろ、と彼は笑う。
ポロシャツの胸ポケットから煙草の箱を取り出して、染井川さんは「ご馳走さん。片付け頼んだぞ」と部屋を出ていってしまった。
一人、静かな部屋で食事を進める。動かなくてもお腹は減るし、働いてなくてもご飯は美味しい。
染井川さんがこの部屋に来るのは、食事と風呂の時だけだ。
それ以外の時間は、向こうの部屋で何か書類を書いていたり、外出したりしている。もしかしたら、俺の事なんて知らない振りをして、組織でまだ仕事をしているのかもしれない。
完食して、皿を片付けて台所で洗い、ちゃぶ台を拭いた。
それらが終わると、もうやる事がないので部屋の隅に積んである本を読む。
組織の紋が纏められた古い書物とか、他の組織で使われている呪札の本とか。染井川さんが過去に扱った呪物や、妖怪や自縛霊の報告書を纏めたものだとか。染井川さんの部屋から借りてきたそれらを読んで時間を潰すくらいしか、やる事がないのだ。
「……これ、描けるかな」
紋の本に描かれた、割に単純な紋を指で空中に描いてみる。
指の先に光を灯すだけの簡単な紋だが、描いてみると自分の中からずぞぞぞ、と霊力が持っていかれるのを感じた。腹の辺りから蠢く何かが指先に向かって引っ張られていく感覚に、気持ち悪くて集中が切れた。
神様の加護が無くなって、自分の霊力だけを使って紋を描く感覚にはまだ慣れない。でも、そのうち俺に掛かっている紋を解く紋が見つかるかもしれない。その時になって紋が使えなくなっていたら困るから、毎日少しずつ練習している。
染井川さんは気付いている筈だが、俺を舐めているのか、それとも自分の掛けた紋に自信があるのか、俺に紋の練習をやめさせようとはしてこない。
少し暑くて浴衣の襟元を緩めると、袖で首の下の汗を拭った。
下着類は新しい物を染井川さんが買ってきてくれたが、服は染井川さんの子供の頃のお古を渡された。といっても、全て同じ色柄の浴衣だ。薄い灰色の浴衣に濃紺の帯。それを五枚ばかり渡されて、やはり部屋の隅に積んである。毎日風呂の時に着替えて洗濯されて、またいつのまにか積み直してあった。
クーラーのような空調の無いこの家では、少し力を使うとすぐ体温が上がって暑苦しい。雨ばかり降っているからいつでも湿度がすごくて、とにかく蒸す。なのに、家具や家自体はカビないのが不思議だ。
「風呂沸いたぞ」
呼びに来た染井川さんが、襖を開けて顔を覗かせた。
俺の膝の上にあるのが紋の本だと知るとこちらへ入ってきて、それを摘み上げて開かれたページに目を落とす。
「描けたか?」
「……まだ。指の方に力が移動するのが気持ち悪くて」
「ああ、最初は気持ち悪ぃな。でも霊力を身体の中で移動させんのを意識して出来るようになりゃあ、身体強化の紋も使えるようになるから便利だぞ」
「身体強化の紋? そんなのもあんの?」
パラパラとページを捲った染井川さんは、後ろの方で指を止めて俺に見せてくる。
「これだ。緊急時に逃げる時とか、足の早い妖怪追い掛ける時に足に掛けるのが割とメジャーな使い方だな」
渡された本のページを覗き込んで、解説を読み込もうとする俺に、染井川さんは紙製の栞を渡してきた。
「勉強熱心なのは良いが、先に風呂入れ」
「はーい」
栞を挟んで本を閉じると、立ち上がって染井川さんと風呂場に向かう。
水場は最近リフォームしたとかで、台所と風呂トイレは日本家屋に似つかわしくなく、かなり綺麗だ。
自動給湯なので一度沸かせばスイッチを切らない限り湯船はずっと温かいままなのだが、二人しかいないのに別々に入るのも勿体ないとか染井川さんがぶつぶつ言うので二人で入っている。
勿論、それが言い訳に過ぎないのくらいは気付いてるけど。
二人で湯船に入ると、染井川さんはいつも通り俺を後ろから抱えるようにしてくる。俺の頭を自分の肩に凭れさせ、それ以上何をするでもなく、十五分くらい浸かっている。
長湯で眠くなってぼんやりしてしまう俺を抱き抱えて洗い場へ移動して、勝手に身体を洗ってくれるのもいつもの事だ。染井川さんの胡座の上に座らされて、ボディソープを掌で泡立てた染井川さんの手で全身を撫でられる。
泡だらけにされた俺の股間をそのまま扱かれて、ああ今日は抜いてくれる日かと息を詰めた。抵抗するつもりは無い。無いけれど、背中に当たる染井川さんの硬いアレには毎度緊張してしまうし、俺ばかりがしてもらうのも申し訳ないような気もする。
「……あの」
俺が声を出すと、染井川さんの手が大袈裟なくらい跳ねた。けれど、返ってきた声はいつも通り冷静なものだ。
「どうした。痛かったか」
「いつも俺ばっかりだけど、染井川さんはいいの?」
「……」
染井川さんは大きく溜め息を吐いて、それから「お前バカだろ」と吐き捨てた。そして、乱暴に俺の股間の肉を握って上下に擦る。
「んッ、ぅ」
「……変な声出すな」
いつも優しくしてくれるから我慢してられるんだけど、急に強くされて声が出てしまった。それを咎めるみたいに耳元で囁かれて、ぞくぞくと腰の方に震えがきた。
「そ、いがわさんがぁ」
「だから……気が散るから黙っとけって」
さっさと出しちまえ、と染井川さんは性急に俺を追い立ててきて、ぐっと握られた拍子に走った痛みにあの晩の事を思い出してしまった。
「あ、……や、ぁ」
ぶわ、と蘇る記憶。痛いのと気持ちいいのが交互にきて、気を失うくらい気持ち良かった。奥まで暴かれて、揺すぶられて、……染井川さんの体温を感じて。
背中に感じる染井川さんの鼓動が速くなった。
数週間優しくされたくらいで忘れられるほど、あの夜は静かじゃなかった。
無かった事に出来るほど、俺の体は貞淑でもなかった。
「染井、川、さん……っ」
俺の肉を扱く染井川さんの手を掴んで、俺の胸の方へ引き上げる。
あれ以来弄られていない乳首は平たいままで、しかし期待に先端だけがツンと尖った。
「やめろ、静汰」
触れて欲しくて誘った手は、しかしソコを放置して逃げようとする。
「触ってぇ」
「……駄目だ」
半泣きの俺に、染井川さんが生唾を飲み込む音がした。俺の背中に当たる染井川さんの剛直はガチガチに勃起しているのに、染井川さんは頑なに俺の股間以外をそういう意図で触れようとはしてくれない。
「なんでっ」
「もうしねぇ。俺は、お前がここに居るだけで十分だ」
「う~……」
もうしない? ずっと? 一生、無し?
あの夜の交合を思い出してしまった俺は、もう身体が熱をもってしまって収まりそうにない。
染井川さんがそのつもりなら、俺だって考えがある。
彼の手を離して、自分で胸の突起に爪を立てた。
「いっ」
痛い。そりゃ痛い。爪だし。
けど、その後にそこを指の腹で撫でると背筋が反り返るくらい気持ち良かった。
「ぁ、や、あ」
「お前、何して」
自分で爪を立てて乳首を虐め始めた俺に、染井川さんはぎょっとして俺の手を止めようとする。けれど、くりくりと突起を捏ね回す俺の指に視線を釘付けにして、言葉だけで「やめろ」と言う。
「ここが気持ちいいって教えたの、染井川さんでしょ……?」
両手で弄りながら俺が身体を震わせると、染井川さんは俺の茎の根元を掴んで肩に噛み付いてきた。
「う、あ」
甘噛みされるのも気持ちいい。噛まれた後は強く吸われる。
肩の柔らかいところを舐めたり噛んだりしながら、染井川は俺の根元を優しく扱きながら囁きかけてきた。
「ガキが、無理すんな。そんな事しなくても身の安全は保証してやる。何年経とうがお前に危害は加えねぇし、俺が死んだらここから出られるようにしてある」
じゅっ、じゅっ、と染井川は俺の肩や首にキツく吸い付いてきて、でも俺を安心させるように腹を撫でた。
「ただ居るだけでいい。俺が死ぬまで……つっても、せいぜいあと数年だ。数年だけ、俺にくれ」
「数年……?」
なんだそれ。染井川さんはまだ三十半ばくらいに見えるのに、何故そんな、死期が近いみたいに言うのか。
俺が胸を弄るのをやめたのを、染井川さんは俺が安心したからだと思ったらしい。肩を噛むのをやめて、優しく優しく俺の肉を擦ってくる。
「ほら、早くイけ。そろそろ泡落とさないと肌が荒れちまう」
やだ、と緩く首を振ると、今度は扱くのすら止めてしまった。
「なら流すぞ」
温かいシャワーを掛けられ、泡が洗い流されていく。俺の熱はまだ冷めていないのに、染井川さんは俺の行動が自己防衛の為のものだと疑わないみたいで、萎えない俺のそれも丁寧に皮を剥いて洗ってくれる。
「や、だぁ」
染井川さんの手を振り払うと、彼は苦笑してあっさりそれを止めた。違う。触られるのを嫌がってるんじゃない。そうじゃなくて。
どうすれば、俺の中のぐつぐつに煮えたものを分かってくれるだろう。
頭の中はもう湯気が立つほど煮えたぎっていて、染井川さんが納得してくれる言葉を探すだけの余裕はない。挑発に乗ってくれない染井川さんは、やはりあのお香の効果が無ければ理性が強いのだと思う。そんな彼に、どうやってこの間みたいな事をさせたらいいのか。
考えても考えつかなくて、背中にあるモノを思い出した。
──ここにあるんだから、挿れちゃえばいいじゃん。少し腰を上げて、下ろすだけ。霞のかかる頭には、それがとても名案に思えた。
「……ん」
「どうした。自分でやるか?」
染井川さんの膝の中から腰を上げた俺に、彼は俺が離れようとしたのだと思ったらしい。シャワーを止めてくれた彼の前で四つん這いになって、後ろ手に彼の股間を掴んだら「んん?」と驚かれた。
尻の窄まりに、染井川さんの肉を当ててみた。……これ、このまま入るの? この間って、どうやって挿れられたんだっけ?
尻をぐっと押し付けてみたが、入りそうな気配はない。なんとなく窄まりが開かれている感覚はある気がするが、それは尻たぶを左右に拡げているからだろう。出るものがあるのだからそこが開閉するのは当たり前なのだが、入る物の為に開こうとする気配はなかった。
「……?」
全然、これっぽっちも、入らない。
ぐ、ぐ、と何度も押し付けてみるが、染井川さんのソレが更に膨張してしまって、もっと事態は悪くなった。
「お前は……何をしてるんだ」
染井川さんが混乱を極めたような声色で聞いてくる。四つん這いのまま無理して後ろを振り向くと、彼は困り果てた表情をしていた。
「何してるように見える?」
聞き返してやると、更に染井川さんが膨らんで上を向いた。
「あ、バカ染井川さん、おっきくしたらもっと入らなくなるだろ」
「馬鹿は……お前だろ…………」
染井川さんは真顔だ。呻くみたいに言って、俺の尻の窄まりに指を伸ばしてきた。水に濡れた指は、しかし中には入らない。
「なぁ、これ、どうやったら入る?」
この前はあんなに簡単に入ったのに、と訝しむ俺に、染井川さんが何度目か分からない溜め息を吐いた。
「……こないだは、俺が舐めて緩めてやっただろうが……」
「あーそっか。やっぱ緩めなきゃだめか」
そういえばと思い返して、何で緩めようか思案する視界にボディソープのボトルが入る。ああ、あれならぬるぬるしてるしイケるかも。
手を伸ばしてボディソープを指に塗りたくって、それを自ら窄まりに押し宛てた。ずぷ、と指は難なく飲み込まれ、あまりの呆気なさに自分でも驚いた。
「う、わぁ。あ、やば、指っ……こんな簡単に」
ぬるぬるの人差し指を出し入れすると、微かに覚えのある感覚が中の方の記憶を呼び覚ます。粘膜を擦られると、鳥肌が止まらない。気持ち悪いのに、気持ちいい。怖いのに、もっとしたい。
もっと奥。もっと太いので。物足りなくて指を増やそうとしたのを、急に手を掴まれて止められた。
「んん」
ずぶずぶと、俺のじゃない指が埋め込まれて背中が弓なりに反った。
俺のより長くてごつい指が、俺の指の隣から、俺の中を広げていく。
「あぁ……っ、は、ぁ」
「指だけでイきそうか?」
染井川さんの声に、熱を感じた。ぞくりと震えると、臀にちゅっと唇が落ちてきた。
「挿れて貰えるまでイくなよ」
勝った。染井川さんの理性に勝ったぞ。
内心ガッツポーズした俺は、──しかし数分後には後悔した。
「ぅうあああ……っ、そいがわさ、も、や、むり、むりぃ、おねが、ぃ」
染井川さんは俺を洗い場にあお向けでM字開脚させて、その状態で俺の股間を口に含んだ。根元をガッチリ掴んでイけなくして、その上で尻に指がもう三本挿入っている。じゅぽっじゅぽっとわざと酷い音をさせながら抜き差しされて、もうとっくに染井川さんのが入る筈なのにそれは聞き遂げられない。
染井川さんの口の中は温かくてぬるぬるで、ざらついた舌で裏を舐められると失神しそうなのに、根元を絞られていてイくのも許されない。前も後ろも責められて、気持ち良いのが臨界点を超えて頭が弾けて苦しいばかりだ。
「染井川さ……、染井川さん、おねが、もぅ、挿れてぇ」
強請る俺を睨みあげ、染井川はじゅうううと俺の股間に吸い付いた。
「はっ……ぁ、あ、あ、あ」
そんな風に吸われたら、イくに決まってる。なのに、イけない。出せない。限界の頂点で苦しめられ、発狂しそうで頭を振った。
尻に、四本目の指が入ってくる。あ、無理、そんなに拡げられたら。
ほわ、と頭がホワイトアウトした。
直後に身体が痙攣して、窄まりが締まる。中の染井川さんの指をきゅうきゅうに締め付けて、そのゴツゴツした感触が粘膜を擦るのに喘いだ。
「はー……っ、はー……っ」
数秒気を失ったみたいになって、視界が戻ってきた頃には染井川さんがフェラをやめて俺の上に覆い被さっていた。
「だ、だ……め」
染井川さんの勃起した先端が俺の窄まりに宛てられて、彼が何を待っていたのか身を以て知らされた。
「やぁ、あ、っ、まだっ、まって、まだ、ナカがぁっ」
「あー、締め付けてきてやらしーわ」
尻の中だけでイッたソコに、今度は待ち焦がれた染井川さんの陰茎がぶち込まれて、指で届かなかった奥まで擦られて続けて二度も精を吐いた。ごりごりと奥を擦るようにされて、三度目。痙攣しっぱなしの俺の中で染井川さんに中出しされて、四度目。
ひぃひぃと泣く俺の腰を掴んで、染井川さんは抜かないまま揺すぶって再度勃起させる。
「何泣いてんだ、お前が挑発したんだろうが」
「あぁ……、い、たい、いたいよぉ……」
乳首が千切れそうなくらい引っ張られて涙を溢す俺を見て、染井川さんは俺の中でまた出した。
中がぐずぐずに崩れて、溶けて垂れてきてる気がする。染井川さんの入ったソコは熱くて、蕩けているかと思えば染井川さんが動くときゅうっと締め付けて俺をまた高めていく。
「ここにも、チンポにも穴開けて……俺のにしてやるからな」
乳首を噛んだり舐めたりしながら言われて、怖さにまた泣いた。
なんだよ穴って。もう穴開いてるよ。そこに今突っ込んでるじゃん。
「こわい……っ、あ、あっ」
「お前の身体見て勃起すんのが俺だけになるくらい、醜く改造してやるからな」
俺は全力で祈った。神様、助けて。
結局また最中に気絶した俺が目を覚ましたのは、翌朝だった。敷かれた一組の布団の中に染井川さんも寝ていた。二人とも全裸で。
「……」
ああ、マズった。そうとうマズいことになった。選択肢を完全に間違えた。
俺はただ、気持ち良くなりたかっただけなのに。
染井川さん、少しサドっ気がある程度かと思ったら想像以上だった。気を失う前に言われた台詞が蘇って身震いする。
健全な男子高校生だ。スマホで色んなエロ画像を見たことがある。興味本位で自分の性癖以外の画像だって沢山見てる。だから知っている。『身体改造』っていう性癖があることを。
ピアスで穴を開けられまくって腕が通る乳房。切り開かれて伸ばされた女性器。大量の刺青。興味も無かった性癖の画像たちを思い出し、今まさに俺があの画像のようにされると思うと恐怖しかない。
──逃げよう。今逃げよう。絶対逃げよう。あれは無理、絶対無理。
布団から起き上がろうとした俺を、しかし染井川さんの手が動いて掴んできた。
「……っ」
「起きたのか……?」
染井川さんは俺の頭を抱き締めるみたいに寄ってきて腕を回してきた。そしてゆっくりと髪を撫で、額にキスしてくる。
「体は平気か? 無茶して悪かったな」
「え……」
開口一番に俺を労わり謝ってきた染井川さんに毒気を抜かれ、逃げる気が削がれてしまった。
「しかしなぁお前、あれは無ぇわ。自分で指入れてみせるとか、あれで我慢出来る奴いねぇぞ」
我慢されたくないからしたんだけども。一応黙っておく。
「あのな、俺は嘘は言ってねぇぞ。本当に、お前が居るだけで良かったんだ。なのにお前が……」
あ、雲行き悪い。
「お前が嫌がらねぇってんなら、全部俺の物にして」
「ちょっと待って」
染井川さんの口に掌を当てて止めた。怖いのでそれ以上は聞きたくない。
「あの、ごめん。悪いけど俺、これっぽっちも染井川さんの物になりたいとか無いから!」
ハッキリ言った。流石にこれは言わなきゃいけない。身体改造とかされたくないし。
染井川さんは一瞬目が淀んだ気がしたけど、すぐに視線を逸らして、そしてもう一度俺を見た。
「なら、なんで……」
「染井川さんとのエッチは気持ち良かったから」
「……」
「エッチすんのはアリ。めっちゃアリ。昨日のも頭おかしくなるほど気持ち良かった。けど、染井川さんを好きだからとかではないよ。それは無いよ。だって染井川さん、俺を強姦して誘拐して監禁してんだよ? 無いよ」
俺が言葉を次ぐ度、染井川さんが目を白黒させてる。
理解出来ないみたいに瞼を閉じて、唸った。
「好きじゃないが……セックスは出来る、と……?」
「うん。だってほら俺、志摩宮が好」
「そいつの名前を出すな」
「……あーうん。そうする」
急に殺意の篭った目で睨まれて玉がヒュンとした。
とにかく、と仕切り直して、俺は染井川さんの腕の中から脱出した。
「エッチはアリです。むしろしたいです。けど改造は無し。ピアスとか無し。怖いし」
染井川さんは黙って頷いて、少し考えて腕を伸ばしてきた。
「キスとか、抱き締めるのは?」
「……まあ、したいならしてもいいよ。嫌ではないし」
それより、と思う。染井川さんに聞かなければならない事がある。
布団から出て正座して染井川さんに向き直った俺に、彼は不思議そうに同じように体を起こしてくれた。
「染井川さんが数年以内に死ぬってなに。どういうこと?」
聞かれた内容が意外だったのか、染井川さんの眉がピクリと揺れた。
「俺はさぁ、まだ十七なんだよ。あんたに変な性癖つけられて、なのに数年以内に死ぬ? じゃあその後俺はどうすんの? 誰とヤんの?」
「お前なぁ。それこそあのボウズとヤればいいだろうが」
「志、あいつは彼氏いるし、居なくても染井川さんみたいな変態性癖じゃない可能性の方が高いだろ!」
「……お前は、なんでそう」
心底呆れたみたいに染井川さんは項垂れて、でも少し笑った。
「まぁ、俺に惚れてる訳じゃねぇしな」
それが理由みたいに呟いて、染井川さんは彼の生い立ちから話し始めた。
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橘スミレ
BL
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アルファポリス限定で連載中
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幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
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社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
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